11話 朝から告白
「おはようございます」
「おはようございます。まあまあエーヴァさん、早いのね」
朝食はもう少し待ってくれる? とクリスティーナ侍女長に言われ、手伝いますと返したら驚かれた。
「お客様にそんなことお願いできません!」
「ですが、お世話になってる身ですし」
「いけません!」
あ、私ご厚意に甘えて泊まったはいいけど、お金の話をすっかり忘れていたわ。今後のことも踏まえて先に話しておいた方がいいだろう。
「それなら、ティルボーロン様はどちらにいらっしゃいますか?」
「旦那様なら朝はいつもお庭にいらっしゃいますよ」
「ありがとうございます」
屋敷の使用人の数は少ない。おそらく昨日見た執事、侍女長、侍従の三人のはずだ。
庭に出て少し歩くと洗濯場に出た。先客がいる。
「おはようございます」
「おはようございます」
昨日の侍従が洗濯をしていた。
「もしよければお手伝いしたいのだけど」
「えっ! いや、いいです!」
お客様ですし、な常套句で返される。こちらもだめか。やっぱりティルボーロン様と話さないとだめね。
「そしたらやっぱり宿賃を支払う方が妥当かしら」
「え?」
「いいえ。折角だから少しでもやらしてもらえないかしらって」
「いいえいいえだめです! あ! 旦那様……旦那さまあ! もちろんエーヴァ嬢に下働きの仕事させるなんて論外ですよねー!」
私を超えた先に声をかける姿を見て視線を辿った。
爽やかな朝にぴったりな領主、ティルボーロン様がこちらに気づいて近づいてくる。
「どうしたんだ? ……エーヴァ嬢?」
「洗濯してたら手伝うって言われまして」
「一泊させて頂いたので何かできないかと……それか宿賃を払うべきでしょうか」
いらないとはっきり言われた。
客人に気遣いは不要だと。宿賃も手伝いも不要。
「……そうですか」
「はい。それに銀細工を作るのだから日常で怪我をされても困ります」
確かに。銀細工は指先を使う。これからティルボーロン様に銀細工を習う身なのに指を痛めていたら話にならない。
「お優しいのですね、ティルボーロン様!」
「え?」
「え?」
初心者の私に指の大切さを伝えると同時に客人としてもてなしてくれている!
そもそも賓客として迎え入れた心の広さが素晴らしい。
加えて銀細工を深く理解し愛しているからこそ出てくる言葉。
銀細工を作るのに大切なのは自身の身体、とりわけ銀に触る指であると丁寧に説明してくれた。
しかも優雅に優しく伝えてくれるなんて大人の男性としても完璧と言える。
「……素敵。好きです」
「え?」
「全部声に出てますね」
「エリック」
「すみません」
小さく息を吐いたティルボーロン様も素敵だ。元々知的で静かな男性が私の好み。ティルボーロン様の姿を見てるだけでも幸せね。どこかの誰かとは大違い。本当、あの男は見た目も中身も色々伴ってなかったわ。
「旦那様」
「クリスティーナ」
朝食ができたと声をかけられる。ティルボーロン様と揃って食堂へ向かった。
「……」
食事をするのは私とティルボーロン様だけ。ティルボーロン様はとても綺麗な姿勢と所作で食事をしている。
「午前中、少し時間をください」
領主としての仕事があるらしい。
「そんなに時間はかかりません。クリスティーナを遣わしてお呼びします」
「はい」
お茶はトレイにのせてもらって自室に自分で運んだ。たった一人の侍女クリスティーナの仕事も多いだろうし、一人でゆっくり飲めるならその方がいい。
ひとまず手紙を書こう。妹シャーラと同僚アリス。完全な自由になったから、わざわざ連絡しなくてもいい気がしたけど。
「エーヴァ様、旦那様がお呼びです」
「はい」
書き終えた手紙をお願いして階下へ進むとティルボーロン様が出迎えてくれた。
「ティルボーロン様、お待たせしました」
「いいえ。ではこちらへ」
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。
朝からなかなか元気ですねエーヴァ(笑)。色々抑圧された環境から解放されたのでハイになっているのと、オタク的に推しを目の前にしているのでハイにもなります、ということです。




