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わたしたちはまだ、言祝ぎの鐘を鳴らさずにいる  作者: 赤羽 倫果
第  二  幕   因果の糸は、未来にも続くのか、それとも……
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突如、決められた婚約に、未来の女帝は戸惑う

 フランツの表舞台復帰に、居並ぶ紳士淑女たちが顔を見合わせている。公爵は咳払い一つで、ギャラリーをおおうどよめきを打ち消した。



「この者の紹介が、まだであったな」



 フランツに促されて、マクシミリアンが一歩前に出る。

 

「第一騎士団団長の任を預かりました。マクシミリアン=ザーリアにございます」


 彼の口から、本当の身分が明かされた。


 

 ――サンダース卿が、ザーリアの家名を……。



 紋章院が改めた家系図にて、養家の家族構成欄の変更部分を思い出す。養父の実母の家名が『サンダース子爵』であると。



 去り際のヴァルブルカがもたらした、養父の『隠し子』とはマクシミリアンのことだった。



 ――今まで、わたしを騙していたの?



 知らぬばかりは、などとよくぞ言ったもの。確かに、マクシミリアンの美貌は、ダヴィッドとリサデルからもたらされたもの。衝撃的な事実に、ウルスラは目まいを覚えた。




「では、この場を借りて、不届き者を成敗したい」



 祖父の一言が、ギャラリーに集う人々を凍りつかせる。マクシミリアンの号令を受けて、衛兵たちがブルーノ辺境伯を取り囲んだ。



「お待ち下さい」



 捕らえられても尚、辺境伯は祖父に向けて不服を訴え出る。力自慢の衛兵に取り押さえられるとは、武門の名折れでとしか言いようがない。


 踵を返した祖父が、ゆったりとした足取りで辺境伯の元へにじり寄る。


「そなたは、義弟をそそのかして、テンペランス伯爵家の所領乗っ取りを企てた」

「……」


 沈黙を貫く相手に対して、

「義弟殺しの件も加えて、じっくりと聞かせてもらおう」

 軽蔑の声色を強めて、祖父は引導を渡した。


「さっさと立て!」

「無礼だぞ」


 衛兵たちに前後左右をはさまれて、辺境伯はギャラリーを追い立てられる。あっという間の出来事に、ウルスラは裾裳を握りしめた。



「次に、テンペランス伯爵」

「あの……わたしは」



 伯爵はうろたえながらも、すがるような眼差しを横に向ける。青ざめた伯爵の視線の先にいる相手が、助け船を出す筈がないと、思いもせずに。


「愛人に騙されて、所領すら守れないとは情けない」


 テンペランス伯爵家の領地も、長く続いた天候不順のため、収益が極端に悪化している。初めて傍聴した帝国議会でも、領民からの陳情にどう対応するか。議論が真っ二つに別れていた。



「伯爵領は、本日をもって帝国預かりとしよう。尚、そなたの出仕停止も同様にな」

「そ……そんな」



 後妻との離縁が成立し、その子供たちとも義絶した彼は、リサデルとの和解を望んでいたが、貴族として『欠格者』の烙印を押された以上、即座に帝都を出て行かなければならない。


 出仕停止の沙汰を受けた貴族は、寿命がつきるまで、修道院での『潔斎』が義務づけられている。皇帝自ら『恩赦』を与えられない限り、彼が汚名をそそぐ日は永遠に来ないだろう。



 罪人ではないものの、テンペランス伯爵も衛兵に促されて、ギャラリーから出て行かざるを得なかった。



 不届き者への制裁が終わり、ギャラリーでは紳士淑女たちが歓談に花を咲かせる。こうして、ウルスラの最初の公務は幕を降ろした。

 



 ギャラリーから謁見の間に移動して、ウルスラは次の職務に臨む。女官時代とは違う忙しさに、彼女の疲労は募るばかり。



 ――座って笑うだけの責務が、疲れるなんて聞いてないわよ。



 弱音を吐きそうになる寸前、ウルスラは己の目的を思い出す。両親と祖父母、罪のない母子の無念を、晴らすためであると。幼子から玉座を取り上げた意味を、彼女は噛みしめる。



「ご尊顔を拝謁し、恐悦至極に存じます」



 耳になじんだ声が、なんとももどかしい。目の前で膝をつくマクシミリアンを、ウルスラはまともに見ることが出来なかった。



「ウルスラよ」

「……お祖父様」



 『クロタール』と、喉まで出かかった名を、ウルスラはすんでのところで堪える。フランツ・クロタール=アランデル公爵を前に、彼女は『皇太女』の自覚を顕にした。


「ふむ……そなたたちも、帝位継承にまつわる規約を知っておるな」


 女帝践祚が可能なれども、細やかな制約は少なくない。


「女帝陛下の帝配は、帝室の男系から候補を選定し、議会の承認を得なければなりません」

「その通りだ」


 マクシミリアンの指摘した条件だが、今日、これを満たす帝室男系の貴族はほとんどいなかった。



 ――従兄妹同士の婚姻は可能だけど、跡継ぎが生まれなければ、いついつまでに離縁を推奨とか、色々あったわよね。


 

 ふと、目の前の美貌の騎士と己の等親を、ウルスラは指折り数える。年齢と等親関係を考慮した結果、最も条件に合う者の正体を知り、彼女は祖父に視線を移した。



「そこにおる、ダヴィッドの倅こそ、そなたの婚約者だ」

「え」 

「閣下?」



 祖父の唐突な発言に、ウルスラはマクシミリアンを見つめる。普段のすまし顔と違い、彼は頬を真っ赤に染めている。



 ――どうしてかしら、こちらの頬も……。



 ウルスラも相手と同じ箇所に、これまでにない火照りを覚えてしまう。


「坊主連中は最後までごねたが、やっとマクシミリアンの二親の婚姻を認めてな。聞いておるのか? 二人とも」

「左様で」

「まあ……」


 しどろもどろに答える。顔の赤い二人を交互に見比べながら、フランツの豪快な笑いが木霊する。



「さすが、ワシの見立てに間違いはないわ」



 尚も続く高笑いに、ウルスラは黙り込んだ

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