8.清算
「じゃあ、今晩は戦になるのですか?」
「私も飯がまだなのだ」
ガキの物怖じしない問いかけを無視して、領主は手を前後に振った。その所作に、デブが肩を縮こませ机の端に寄る。領主は、頬を緩ませデブの隣に座った。
「さて、そこのお前」
領主の青みがかった目が、俺の濁ったそれと交錯する。
「飯を喰らい、金を受け取ったな。ならばお前は、既に我が軍門だ」
思わず息をのむ。ああ、結局そういうことなのだ。このご馳走と、一枚の銅貨は前払い金。
俺の―――流れ者たちの命を、格安で買いたたいたわけだ。飢えと疲労の中で、誰がこの報酬を断れよう。たとえ、その代償に魔物を前に無惨にも命を散らすことになったとしても。
「悪いが、剣や槍は既に枯れた。だが、代わりになるものを用意した」
領主が、テーブルナイフを握り俺の眉間に向ける。思わずギョッとするが、向けられているのは俺の頭の先だ。
振り返り、テーブルナイフの先に視線を送ると、無造作に置かれた樽から長柄が幾本も伸びていた。 槍―――ではない。
長柄の先についているのは、スコップでありフォークであり鍬の刃だ。領主の言葉通り、剣や槍の代用品。そこにあるのは、古びた農具ばかりであった。