7.湧く疑念、募る不安
いや、そもそも、このご馳走は何なんだ。お貴族様が食べてそうな豪華な料理を、どうして流れ者の炊き出しとして振舞える。こんな良い飯を食ってしまった翌日に、どうして粗末なスープで満足できる。
くそったれ。こうなってくると、机に無造作に置かれていた銅貨にも疑念が湧いてくる。
空腹のせいで回らなかった頭が、満たされた途端に不安を煽り、疑念を噴出してくる。合点がいかないことだらけで、これが現実なのか夢なのかすらわからなくなってきた。喉が、やたらと渇く。酒が欲しい。酒はないのか。
机に置かれた水差しからジョッキに勢いよく注ぐ。一気に飲み干すが、中身は水であった。
「おいデブ! 酒はないのか?」
デブは、目を細めこちらを睨みつけてきたが、悲しいかな少しも恐ろしくない。
「お館様のご指示だ。今宵の晩餐に、酒は供されない」
その気取った言いぶりに、苛立ちが増す。俺は、席を立ち拳を握りなおした。
「物見から早馬が来た」
その声が、背後からかけられていなければ、俺はデブの鼻面に拳を叩きこんでいたことだろう。静かながらも、有無を言わさぬ力のこもった声だった。
振り返ると、やたらと居丈高な男が立っていた。青く染められた上等なチュニックに、やたらと太い剣鞘を腰に下げ、能面を張り付けたような表情でこちらを睨みつけている。
「月が出る頃には、魔物の軍勢が街を囲うだろう」
「お館様……」
デブが、震えた声で男の正体を明かした。震えの原因は、お館様自身か、それとも魔物の軍勢か。いや、考えるまでもなく後者であろう。あの筆舌尽くしがたい恐ろしさは、戦士を幼く怯える少女に変えてもおかしくない。俺には、どうしてもデブを嘲る気分にはなれなかった。
仲間を蹂躙され尽くした、あの夜のことを思い起こす。