6.目の鋭い男
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空腹のあまり、街についてからのことはよく覚えていない。案内されるがままに、丘を登り、席につき、飯を喰らっていた。
ふと我に返ると、いつのまにか隣の席にガキが座っていた。まるで強行軍でもしてきたかのようなボロボロの服を纏っているが、背筋は糸を張ったかのようにピンと伸び育ちの良さが見て取れる。ここいらではあまり見ない金色の髪に、澄んだ青い瞳。背の丈の程から見て齢は12か13といったところか。
腰には、ガキには見合わない立派な剣が差さっている。館の正式な客人であろうか、どこか周りの連中とは違って見える。しかし、断りもなく勝手に隣に座るようなガキだ。礼儀がなっちゃいねえ。
一発小突いてやろうかと、ガキに体を向ける。しかし、ガキは俺のことなど気にも留めず、その手に握られた銅貨に目を輝かせていた。握った拳を緩め、俺の前に並べられた皿を動かしてみる。すると、なるほど。確かに俺の席にも、一枚の銅貨が据え置かれていた。
ご馳走に気を取られて、今の今まで気づかなかった。この土地の慣習かであろうか。なんにせよ、置いてあるのだから貰っても構わないだろう。俺は、躊躇なくその銅貨を懐に納めた。
「その金は、お館様からだ」
目の前のデブが、銅貨の扱いに困惑しているガキに話しかけた。
「坊主は、一人でこの街に来たのかい?」
ガキが、頭を横に振る。
「そうか……苦労をしたんだね。ほら遠慮せずいっぱいお食べ」
二人のやり取りから、その関係を察する。領主のことを「お館さま」と呼び、食事を勧めるホストのような振る舞いから、デブがこの館の人間であること。そして、ガキは俺と同じく魔物に追われ街に流れ着いた類であろうこと。
しかし、ここに一つの疑問が生じる。どうして館の人間であるデブが俺達のような流れ者と席を同じくしているのだ。周りを見渡しても、どいつもこいつも薄汚れて生気のない顔で飯を貪っている。これは、ただの炊き出しではないのか。