4.最後の晩餐
「領主様が、人々に食事を振舞われてるんだ。館に行ってみると良い」
男が指し示したのは、先ほど若い男が走り去っていった方角であった。僕は、男に感謝を伝え館へと向かう。
しばらく歩き、広場を抜けると、丘の上に一際立派な館が見えた。なるほど。この街で一番見晴らしの良いところに領主さまは住んでいるらしい。整えられた石畳は、緩やかな坂を作り館まで続いている。
妹を背負って、長い上り坂を進む。空腹と疲労のせいか、両足が石のように重く感じられる。
不意に背中に感じた熱に、僕は息を整え登って来た坂道を振り返った。街が、燃えるように赤い夕焼けに照らされていた。その光景は、言葉に尽くせぬ美しいものであったが、不意に火に巻かれ滅んだ故郷が重なる。僕は、辛い記憶を振り払うために頭を振った。
坂道は何度も折り返し、また道の所々に家具で組まれた堰が設けられていたおかげで、館にたどり着くのにかなりの時間を要した。館の前に広がる庭では、大きな机がいくつも並べられ大勢の人が食事をとっていた。
僕は、その料理の豪勢さに目を見張った。村では祭りの時でしか口にしたことの無い豚や羊が、ここでは惜しげもなく使われている。そこら中に香ばしい匂いが満ち溢れ、ピカピカに光るソースは、夕焼けを映し出しまるで巨大な宝石のようだ。
そして、その量の多さの何たることか。足りない皿を街中から集めたと言わんばかりに、銀食器と木の食器が不揃いに入り混じり所狭しと並べられ、その全てに山盛りの料理が載っている。
机につく人々は、食事の作法もままならず、その目を爛爛と輝かせ料理を貪っていた。その中には、街に入る行列で見た顔もあった。豪勢な料理と、それに見合わない姿のゲスト。このチグハグさはこの場所の特異さを如実に物語っている。
戦の前にもかかわらず、こんなにも素晴らしい料理を流民にまで分け隔てなく振るまうなんて。どう考えても尋常ではない。そう、この街の領主さまは、料理に違わぬ尋常ならざる素晴らしいお方に違いあるまい。