3.食卓への誘い
「坊主、大丈夫か?」
特に、行くあてもなく呆けていた僕に声をかけてきたのは、使い込まれた武具を身に着けた二人組の男であった。問いかけてきたのは、髭を生やした壮年の男で、隣に佇む若い男は訝し気に僕を見つめている。
「どこから来たんだ。そっちの娘は大丈夫か」
男の声は低く少ししわがれているものの、威圧感の無い柔らかい物腰のものであった。これは、質問というより、尋問なのだろう。どうやら、この男達は街の衛兵らしい。
「南の集落から。妹は眠ってるだけ」
僕は、なるべく簡潔に答えた。
「―――何でまたこんな時に、街に来たんだ」
「二日前、村が魔物に襲われて」
「南からも魔物が来ているのか」
男は、少し焦った表情を浮かべると隣の若い男に何事かを耳打ちをした。若い男は、顔を青ざめると踵を返し大通りを街の中心へと駆け抜けていった。その背中を見送り振り返った男の顔には、無理に繕ったような笑顔が張り付いていた。
「坊主、腹は減ってないか?」
男達のやり取りとそしてその後の表情に、僕の不安が一層かきたてられたが、二日間歩きどおしの空腹には抗えない。返事をする間もなく、僕の腹がグゥと鳴ってみせた。