2.街に現れた少年
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「僕は、正しかった」
魔物に襲われた故郷から、幼い妹を抱きかかえ、川の水で喉を潤し、ポケットに詰めたパンを齧り二日歩き通した。街を囲む堀には川からひいた水が満たされ、更に丸太で組まれた高い城壁がその行く手を阻む。逃避行の果てに、たどり着いた街の堅牢さに僕は心から安堵した。
堀に渡してある橋には、多くの人が集まり列をなしている。皆一様に薄汚れており、旅人と言うには荷物が少ない。察するに、僕の故郷に起きた悲劇はそう珍しいものではないらしい。橋を抜けた先の開かれた門前には、全身鎧を着た兵士が物々しい雰囲気で並んでいる。だがその剣吞さの割に、僕達はすんなり街へ入ることができた。
きれいに整った石畳の大通り、そして道沿いに並ぶ色鮮やかなテント張りの商店。目に映るどんな光景も、辺境の片田舎で見ることの無かったものだ。こんな時でもなければ、僕は浮かれて石畳を駆けまわったかもしれない。
それよりも、目につくのは戦支度に勤しむ大勢の人々だ。多くの男たちが皮鎧を身に着け、腰に剣を差し殺気立っている。しかし、慣れない剣や鎧のせいかどこか動きがぎこちない。この街の人々は僕と同じなのだ。僕は、腰に差した剣の鞘に手を触れる。僕の体つきに見合わないこの重い剣は、父の形見だ。
生まれてこの方、剣を振るう機会に見舞われず、これまで平和な市井に暮らしてきた。そんな人々がどうして剣を持たなければいけない。答えを、僕は知っている。
故郷を襲った魔物の軍勢。あの恐ろしく容赦のない怪物達が、今度はこの街を襲うのだ。
街に到着した際に得た安堵はすでに消え、不安が臓腑から沸き立ってくる。僕は、僕の背中で静かに眠り続ける妹が恨めしく思えてきた。