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1.決戦直前
「ははは、こりゃあ籠城も意味ねえわな」
男が、眼下に見下ろすは数多の魔物の群れ。浅黒い肌の小鬼に、武具を纏い直立する大狼、そして櫓と肩を並べるかというほどの巨人。高い城壁を吹き上がってくる風には、秋節のそれとは程遠い熱気と獣臭さが宿っている。
化け物の軍勢を相手に、この城壁がどれだけ保つものか。かと言って、化け物の包囲網を抜けて逃げ出すなんて、到底かなわぬであろう。つまるところ、この街に残された者達は潔く戦って死ぬしかないのだ。
まあ、それもいいかもしれないと、男は思った。
満たされた腹と、男の素性からすれば分相応に上等な剣が、いつになく男の心体に気力を充たしていた。
「さあかかって来い化け物共。この辺境の勇者様がお相手してやるぜ」
男の精一杯の名乗りを端緒として、肩を並べた戦士達の喊声が高い空へと駆け上っていった。