さけないふつうのちーず(仮)没小説2
汽笛が聞こえた。そのすぐ後、揺れを感じ、ボーという音と共に、出発した。
心地の良い揺れと、それに合わないガタンガタンという音。窓から見える水色の海を見ていると、太陽を反射する大海に目を潰されそうになった。
1回、2回、まばたきをして周りを見渡す。私以外に何人かの人が座っている。私は何となくその人たちを観察していた。ある人は新聞を読み、またある人は居眠りをしていた。丸い瓶底メガネをかけた男性と目が合う。その男は私に気がつくと少し微笑む。
私は少し気まずくなり目をそらす。黒いパナマハットを被り、古ぼけたジャケットをきた男性。今は真夏だと言うのに、なぜあんな格好をするのか。そんなことをぼーっと考えていると、音が遠くなり、心地の良い揺れだけを感じるようになった。いつしかそのまま私は眠りについてしまったのだと思う。
――――
心地の良い揺れを感じなくなり、ふと目を開けると、太陽の光を反射し、さんさんと光る池のほとりに立っていた。
私はなぜこんなところにいるのだろう、そう思いつつも、とても夏とは思えない涼しい風がとても気持ちよく、そのまま、生い茂る草に身を任せて、寝転がった。草たちは私のことを拒むことなく受け入れてくれた。木々から照らす、暖かい木漏れ日が気持ち良い。
しばらくの間、何も考えず、風で揺れる草の音を聞きいていた私は、こんなことをしている場合でないことを思い出した。今私は何をしているのか。先程まで私は汽車の車内にいたはずだ。なにか行動を起こそうとも思ったが如何せん心地が良い。それにわざわざ動く必要も無いだろう。
私は考えることはやめてこの快楽に身を任せた。
そこから何時間経ったであろうか。相当な時間経った気がする。
私は違和感を感じた。太陽の位置が変わっていない。木漏れ日は何時間も前と同じ位置、同じ光で私の目に届いている。この違和感には流石の私も耐え兼ねて、一度ここらを歩き回ることにした。私はこの森の出口を見つけるため歩き出した。
久しぶりに安らげる空間で休憩したからか、足は軽かった。
道のような場所を歩いて数分。すぐに出口は見えてきた。
「あぁ...」私はその景色に息を飲んだ。
そこには、先程まで私が窓から見ていた海が広がっていた。この森の出口のすぐ側に線路があり、そのまま崖のようになっている。
またも太陽の反射に身構えるが、先程ので慣れたのか、そこまできにならなかった。
その海をじっと眺めていると、私は唐突に郷愁に駆られた。
思えば、私の故郷にも太陽をよく反射する美しい海があった。時期になれば、海にはいくつかの漁船が浮かんでいた。昼間の明るい光に反射し、陰ができる船を見るのが私は大好きであった。
故郷への思いにふけていたら、何やら音が聞こえてきた。
ガタンガタン―――汽車だ。そう思った私は、線路から離れて、森の入口の方へ戻ろうと歩き出した。しかし、私は線路に足を取られ、転んでしまった。さらに、ズボンの裾がなにかに引っかかっり動けなくなる。そんな状況の中、視界はどういう訳か赤くなる。夕焼けのようだ。何も知らぬ汽車の音は、無情にも、私に近づいてくる。
ガタンガタン
しまった。そう思った時には、もう遅かった。私の体に鈍い感触が走った。
――――
ガタンッ
私はハッと目を覚ました。夢を見ていたようだ。この私の状況はつゆしらず、汽車は進み続ける。ふと客席に目を向けると、何人かの人がいた。ある人は新聞を読み、ある人は居眠りをしていた。先程の瓶底メガネの男性はいなかった。窓の外に目をやると、太陽を反射する大海があった。しかし、その太陽は、もう既に沈み始めている。車内から見る夕焼けは、普段のものとは違って見えた。
「あぁ...」
美しいものを見た時、人は自然と声が出てしまうのだろう。またも、こんな声がもれだした。
ガタンガタン――――
よく聞くと、この音も心地よく感じてきた。私は目を閉じその音に耳を傾けた。その刹那
キ―――――――――
甲高い音の鑓に鼓膜が突き刺された。
見ると、汽車は停止していた。