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【書籍化】推し騎士に握手会で魔力とハートを捧げるセカイ(連載版)  作者: 緑名紺
第2章 招集!トップ騎士会議

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9 トップ騎士会議

※少しシリアスです


 

 ようやくトップ騎士会議が始まった。

 既に俺は疲れ切っていたが、ここからが肝心だ。絶対に失言しないように気を付けるんだ。もうこれ以上心に負荷を与えたくない。お腹いっぱいだ。


「定例報告の前に、改めてみんなに紹介する。と言っても、もう挨拶は済ませたみたいだな。……ネロ、こちらへ」


 アステル団長に声をかけられ、俺は再び円卓に近づく。


「うん? 顔色悪いけど、大丈夫か? ……ごめんな。俺が遅れてきたせいで、気疲れさせてしまったな」

「いえ、そんな、大丈夫です。き、緊張しているだけで……」


 恐縮する俺に、団長はにっこり笑う。


「肩の力抜けって言っても難しいか? 大丈夫。騎士は堅苦しくて仰々しいイメージがあるけど、俺はそこまで生まれた身分や礼儀作法にこだわりたくないんだ。戦いでもファンへの対応でも気を抜けないんだから、せめて仲間内でいるときくらい楽にしてくれ」


 優しい言葉が胸に沁みた。嬉しくて泣きそうになったのは、この会議室に入ってから初めてだ。

 アステル団長が絶対的な人気を誇る理由がよく分かる。こんなに輝いている人は見たことがない。


 アステル・エストレーヤ様。

 言わずと知れた星灯騎士団団長にして、この国の第二王子。年齢は二十歳。

 光を蓄えたような透明感のある金髪に、赤みがかったブラウンの瞳。彼の笑顔一つで周囲の者全てが幸せになってしまうような、強烈な魅力を放っている。

 エンカラは赤。国民の期待を一身に背負い、団長でありながら最前線で使い魔と戦い、常に勝利を齎してきた。

 星灯騎士団の絶対的象徴にして、精神的支柱である。


『不動のNo.1にして絶対的エース! エストレーヤの奇跡の綺羅星! 至高の騎士! 圧倒的光属性! 仲良しロイヤルファミリー! 会いに行ける伝説! 最強で最高の王子様! ナイトオブスター!』


 メリィちゃんのノートでも、アステル団長の情報量は多かった。これはエナちゃんの影響かもしれない。


「ねぇ、どうして今回は彼を会議に呼んだの?」


 ミューマさんの問いに、アステル団長は笑みを深めた。


「ネロ、訓練記録は持ってきてくれたか?」

「あ、はい。どうぞ」


 俺は、入団してから個人で書き留めている射撃訓練の記録を渡した。定期的に行われている試験の結果は上層部も知っているだろうが、普段の訓練記録は提出していなかったので、何を言われるのかドキドキした。

 アステル団長は一目見て頷いてから、ジュリアン様に手渡した。


「これはこれは……ざっと計算しますと、直射命中率九十九パーセント、曲射命中率九十七パーセント。連射時、走りながら、夜間暗所、雨天強風時、対魔物での実戦形式……いずれも九十二パーセント以上。射程距離が伸びても、ほとんど外していませんね。顔だけではなく、弓の腕も大変素晴らしいようで」


 半年間の記録を流し見て集計するジュリアン様の方がすごい。

 リナルドさんたちが、おお、と感心してくれるのが面映ゆかった。狩りの技術は俺にとって唯一無二の特技だ。生まれてからずっとこれしかやってこなかった。だからできるのは当然で、むしろ百発百中にならないことが悔しい。いつも一撃で獲物を仕留めていた亡き父と比べたら未熟だと思う。


「それで? こいつの弓の腕とこの会議にどういう関係があるんだよ」


 苛立ったようにトーラさんが言った。


「もう分かるだろ? このトップ騎士の面々……射手がいない。この前のカラスの使い魔戦は紙一重だった。ネロが頑張ってくれなかったら、戦死者が出ていたかもしれない。遠距離攻撃をミューマたち魔術部隊に任せきりじゃダメだと思ってさ。射手の存在が大切だって改めて分かったんだ。トップクラスまで、とはいかなくとも主戦力の一人としてネロを育てたい」


 俺は息をのんだ。

 先日の使い魔戦の反省会として呼び出されたのだと思ったが、団長は既に先のことを考えている。


「反対だ!」


 すかさずトーラさんが声を上げるが、予想済みであったかのようにアステル団長は顔色一つ変えない。


「理由は?」

「……どんなに腕が良くても、最前線に射手は要らない。邪魔だ」

「理由になってない。まぁ、トーラの気持ちは分かる。また背後から射られるのが心配ってことだな?」


 悪く思わないでくれ、と団長は俺に微笑みかけた。


「俺たちは国民に託してもらった魔力で強化して戦ってる。力も速さも人間離れしていて動きを予測しづらいと思う。俺たちも、使い魔の相手をしているときは背後を気にする余裕も、防具に魔力を集中させる余力もない。いくらネロが気を付けてくれても、その矢で仲間が傷つく可能性はどうしても出てくるってことだ」


 俺は静かに頷く。それは訓練の度に上官から説明されている。

 遠距離攻撃は、獲物の動きを予測してワンテンポ早く攻撃動作に移らなければならない。狙った場所に向かって射る能力だけではなく、獲物や仲間の動きを先読みする能力がなければ当てられない。でも、魔力で強化された近接戦士の動きを正確に予測できる人間なんて、ほとんどいないだろう。だからかなりの慎重さが必要になる。

 それは魔術でも同じなのだが、腕のいい魔術師ならば攻撃魔術の発動後も多少は威力や方角を調整できる。弓矢よりは仲間を傷つける可能性は低かった。


「ネロも知っているだろうが、実際過去にもそういう事故があった。すごく腕のいい射手が準トップ騎士として前線にいたが、使い魔戦で味方に誤射をした。何を隠そう、このトーラが肩を射抜かれたんだけど」

「お前を庇ってやったんだろうが!」

「……ああ、あの時はありがとうな」


 アステル団長は力なく頷き、トーラさんは忌々しげに息を吐いた。


 この事故は一般には公表されていないが、入団時の研修で教わった。

 団長であり王子でもあるアステル団長が、もしかしたら仲間の放った矢で傷ついていたかもしれない。代わりに負傷したトーラさんだって人気の騎士だ。

 国民が、二人のファンの姫君が、誤射をした射手を責め立てるのは目に見えていたので、公にできなかったのだろう。デリケートな問題だ。

 でも結局、この事故は後の大きな悲劇へと繋がってしまったのだけど……。


「星灯騎士団の創設以来、騎士団内での死者は三名。内二人は規則を破って隠れて恋人を作り、使い魔に狙い撃ちをされた。これは正直どうしようもなかった。……もう一人の死者がその射手だ。こっちは防げたはずの戦死だ」


 その射手は事故を起こしたことを気にして集団から離れ、名誉挽回のために一人で使い魔を狙い、返り討ちに遭ってしまった。そんなことがあったから、騎士団の中で射手という兵種は不人気で、担い手が少なくなってしまったのだという。


「俺たちがもっと声をかけてやれば、もっと連携を取っていれば、あいつは死なずに済んだかもしれない。こんな話を俺たちから聞かされたらネロも嫌だろうけど、あいつの二の舞にさせないためにも、今後はここにいるみんなと一緒に訓練をしたり、魔物討伐任務に同行したりして、連携を密にしてくれ。今日はその顔合わせのために呼び出した」


 ようやく全てが腑に落ちた。

 俺がトップ騎士会議に呼ばれたのは、改めて射手を使い魔討伐の戦略に組み入れるため。

 過去の事故と同じことが起こらないよう、トップ騎士たちの動きに慣れろということだ。


 ……そして、トーラさんがやたらと俺に当たりが強い理由も、なんとなく分かった。俺が射手だから、過去の事故を思い出してしまうから、自然と前線から遠ざけようとするのだろう。当然の反応だと思う。

 先日も、上空にいる使い魔を狙うまでは良くても、地上に堕ちた使い魔に対しても牽制の矢を放った。トーラさんは気が気ではなかったのではないだろうか。俺のせいで集中を欠いて怪我をしたのではないかと、今更ながら冷や汗が出た。


「だから! 射手なんて要らねぇよ!」

「いーや、絶対に必要だ。空を飛ぶ使い魔はきっとこれからも出てくる。射手なしで勝てると思うか? 例えばドラゴンとか」

「それは、やってみねぇことには……じゃあ空中戦専用の運用にすればいいだろ」

「そんなことを言ってたら、もしもの時に動けない。今からみんなでネロを育てる。トーラ以外のみんなは? 反対か?」


 他のトップ騎士たちは揃って首を横に振った。


「僕は構わないよ」

「オレはどちらでもいい」

「私はアステル様のご判断に従います」

「俺は歓迎。ネロは一度も俺を蔑んだ目で見なかったからな。良い奴だ!」


 部屋中の視線を受けて、俺は言葉を詰まらせた。

 俺の腕を買ってくれるのは嬉しい。退団後に確かな地位を手に入れるために、これからも使い魔討伐に参加して活躍できるよう頑張ろうと思っていたところでもある。こうしてトップ騎士たちに引き立ててもらえるなら好都合だ。


 ……だけど。

 このまま黙っているわけにはいかない、と俺は勇気を奮い立たせた。


「すみません。その、俺は、二年契約で、それ以上騎士を続けるつもりはありません。だから育ててもらっても――」


 アステル団長が少し驚いたように目を瞬かせた。

 ああ、彼に期待されて裏切るような真似はしたくなかった。自分を嫌いになりそうだ。あと、ジュリアン様の冷たい視線が怖い。


「一応聞くけど、契約を延長しない理由は?」

「元々母の手術代を稼ぐために入団しました。母を一人にしないためにも、命の危険のある仕事は長く続けられません……それに」

「それに?」


 脳裏に浮かぶメリィちゃんの笑顔と俺を呼ぶ声。

 あと一年半頑張ったら、求婚すると心に決めたのだ。俺自身のためにも、彼女の献身に報いるためにも。


 とはいえ、彼女とはっきり約束をしたわけではない。約束していたら恋人判定になってしまうかもしれないから無理だし、メリィちゃんがそれまで俺を推していてくれるかは分からない。

 そんな希望的観測、恥ずかしくてトップ騎士たちに聞かせられない。特に、生涯独身を貫くと公言しているアステル団長には言いづらかった。


「なるほど、好きな女がいるのか」

「! なんで」

「いや、顔に出すぎ。騎士を辞めようとする奴は、たいてい恋愛絡みだしな」


 アステル団長はちらりとリナルドさんを見てから、強く頷いた。


「分かった。じゃああと一年半だな。それでもいい。前線に来てくれ。絶対にお前を死なせないから」


 負の感情ひとつない澄んだ瞳に見つめられ、俺は小さく震えた。


「ど、どうして、俺をそこまで……」

「見込みがあって、成果を出した奴は引き上げる。当然だろ。さっきも言ったけど、俺たちはみんなに託してもらった魔力で力や速さを強化して戦ってる。でも、技術的な部分は魔力ではどうにもならない。お前の弓の腕は何ものにも代えがたい素晴らしいものだ。俺はそれが欲しい。どうしても」

「…………」


 心臓が激しく脈打って、壊れてしまいそうだった。

 厳しく狩人の技術を教え込んでくれた亡き父を想う。この国の第二王子殿下が、その技術を認めて称賛してくれている。こんなに嬉しいことはなかった。


「俺の夢は、存命中に使い魔を全て倒し、魔女の呪いを解いて国を救うことだ。そのためにも、優れた射手が必要なんだ。ネロが前線にきて活躍してくれたら、きっと憧れて後に続く奴も出てくる。契約期間中だけでもいい。俺の夢に付き合ってくれ」


 俺みたいな平民出の下っ端の騎士に、団長がここまで言ってくれているんだ。

 胸がいっぱいで、今度の今度こそ泣いてしまいそうだった。


「…………はいっ! 騎士でいる間、国と仲間のために全力を尽くします!」


 情けない涙声で返事をすると、アステル団長は心底嬉しそうに「ありがとう!」と俺の肩を叩いた。


 騎士になったのは成り行きだ。でも、こんな俺でも必要とされるのなら誰かの役に立ちたい。

 功績授与の時、壇上から見たこの国の民の誇らしげな顔が目に焼き付いて離れない。ものすごいエネルギーを感じた。

 あの期待に応え続けることがどれほど大変なことか分からないけど、最初から諦めて裏切るような真似はしたくない。


 これは本当の本当に頑張らないといけない。俺はかつてなく燃えていた。団長の夢の熱を分けてもらったみたいで無限の勇気が湧いてくる気がした。


「まぁ、実際問題、手術が無事に終わっても当面の通院費は必要でしょうし、結婚するにも何かと入用ですよ。トップ騎士の魔物討伐任務の危険手当は高額です。せいぜい貯蓄しておきなさい」


 目の覚めるような現実的な指摘をジュリアン様からいただき、俺はおずおずと頷いた。母にもメリィちゃんにも苦労はさせたくない。金は稼げるときに稼がないと……。

 他の騎士たちも歓迎してくれる中、トーラさんだけが面白くなさそうにそっぽを向いた。


「もし俺と組むことがあっても、足を引っ張るんじゃねぇぞ」

「は、はい。すみません、気を付けます」


 絶対に誤射だけはしない。父から受け継いだ狩人の技術に誓って、不必要な命は刈り取らない。

 いつかトーラさんにも信頼してもらえるよう、今まで以上に射撃精度を上げる努力をしよう。


「ところで坊主は平民だろ? オレたちの任務はなかなかハードだが、魔力は大丈夫か? どれくらい応援してくれるファンを持ってる?」


 バルタさんの問いに、俺は言葉を詰まらせる。

 今まで特に気にしたことはなかったけど、国民的人気のトップ騎士の面々に言うのは少し躊躇われた。


「……えっと、固定のファンは一人です」

「一人?」

「はい。あとは通りすがりの善意の民とか、非番の同僚とか……」


 アステル団長以下、全員が目を点にした。


「それ、本当か? だって使い魔の翼を撃ち抜いてただろ? あの威力は……」

「そのたった一人のファンの子が、ものすごく強く俺を推してくれているんです。やっぱり貴族のご令嬢なのかな? と、とにかく、その子の応援のおかげでなんとか」


 それからトップ騎士たちの間で物議を醸しだしてしまった。

 メリィちゃんの魔力が多いのか、それとも彼女の愛が尋常ではないのか。いろいろな意味で羞恥心を煽られて落ち着かない。ついでに言えば、リナルドさんが「羨ましい」を連呼して話が進んでいない。


「そっか、ネロはその姫君に怖いくらい愛されてるんだな」

「……そうなんでしょうか。俺にとって初めての使い魔討伐だったから、きっといつもより気持ちが強かったんだと思います」

「照れて謙遜するなよ。好きな女ってその子なんだろ? じゃあ良いことだ」


 微笑ましいものを見るような団長の視線に、俺は緩みそうになる頬に力を入れた。おかげで顔の熱がどんどん上がっていく。

 誇らしい。メリィちゃんの存在は俺にとって自慢なのだ。彼女の献身があるからこそ俺は騎士を続けられる。団長に引き立ててもらえたのも、元はと言えば全部彼女のおかげだ。


「でも、気が進まないかもしれないが、できればファンを増やす努力もしてもらいたいな。その子頼りじゃ、万が一握手会に来てくれなかったときに戦えなくなる」

「…………はい」

「別に姫君じゃなくてもいいんだ。子どもやお年寄り、親世代の大人たちにでも、顔と名前を覚えてもらえればいい。ネロの人の好さが伝われば、絶対に握手しに来てくれる。功績授与の影響が出てくるのもこれからだろうし」


 団長はそう言ってくれたが、ジュリアン様からにこやかに「やっぱり髪を切りましょうか」という意味だろうハンドサインを出された。背筋が凍る。体温が上がったり下がったり、健康に悪かった。


 くれぐれも騎士団在籍中は告白するな、我慢してくれ、両想いになってしまったら隠さず報告しろ、とやんわり注意される。

 それはそう。これで契約満了前に騎士団を退団するようなことになったら、あまりにも申し訳ない。


 顔合わせは済んだので、俺は退室を許された。このまま会議は続く。


「…………」


 トップ騎士たちと一緒に魔物討伐任務に出向くことになった。不安な気持ちも少しはあるけれど、それ以上にやる気がみなぎっていた。

 彼らは想像以上に個性が強かったが、その分、人々を魅了してやまない力を持っている。


 ミューマさんの物怖じしないところも、リナルドさんの人懐っこいところも、バルタさんの頼もしいところも、トーラさんの自分に厳しいところも、ジュリアン様の頭の回転が速いところも、アステル団長の真っ直ぐで熱いところも、大いに見習おう。


 そうすればきっと、メリィちゃんにふさわしい立派な男に近づけるだろうから。



トップ騎士会議編・完


申し訳ありませんが、次回更新まで少々お時間ください。

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[一言] さす王子!トップは気持ちの在り方からしてトッププレイヤーですね。これは応援したくなる。
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