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【書籍化】推し騎士に握手会で魔力とハートを捧げるセカイ(連載版)  作者: 緑名紺
第6章 推しエール訓練発表会

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44 イベント当選のお知らせ



 持てる力を尽くし、時間の使い方に後悔しつつも、「もうどうにでもなぁれ」という気持ちになっていたところに、容赦なく学年末試験の答案が返ってきました。


「あ、危なかった……」


 全ての教科で合格判定をもらい、必要な単位を修得。私はなんとか進級を許されました。

 途中、いくつか諦めかけた単位もあったのですが、ネロくんを心配させないために必死に頑張りました。

 来年も学生でいられて良かった。これも全て推し騎士様のおかげです。


 ヘロヘロになって家に帰ると、私宛に全く予期せぬ郵便物が届いていました。


 ○月×日 星灯騎士団訓練発表会~遠距離攻撃部隊の部~ 当選のお報せ


「えっ!」


 三回読んでも信じられず、最終的にお手伝いさんに「夢ではありませんよ、お嬢様。確かに当選しています!」と断言してもらって、ようやく事実を受け入れられました。


「奇跡! 奇跡以外の何物でもありませんっ……ありがとう神様!」


 月に数回行われている訓練見学会とは違い、訓練発表会は兵種ごとに数か月に一度しか開催されません。

 その名の通り、訓練の成果を国民に披露して下さるイベントです。

 見学会では普段の訓練風景をのんびりと眺めさせていただくのみですが、発表会は観客を意識した催し……すなわちファンサが期待できるんです!


 今回は遠距離攻撃部隊――射手や魔術系の騎士様が主役の発表会。

 当然ネロくんも参加するでしょう。


 正直に申し上げて、射手のみの発表会ならば、さほど倍率は高くありませんでした。

 しかし魔術系の騎士様と合同の発表会となったことで、一気に応募者が殺到しました。応募用紙の回収箱が大変なことになっていましたから……。


 多くの平民にとって魔術は憧れ。

 本来使い魔や魔物に向けて放つ高度な攻撃魔術を、仮想敵に見立てたゴーレムにぶつけるところを間近で観覧できるとなれば、それはもう迫力満点……だと思います!

 私もこれまで参加したことがないので先輩姫君の話を伝え聞くのみでした。


 ただでさえ人気兵種の発表会なのに、今回はトップ騎士のジュリアン様とミューマ様が揃って参加されます。その活躍を目に焼き付けるべく、さらに多くの姫君が観覧を希望しているようですね。


 そんなとてつもない倍率をかいくぐってチケットを手に入れてしまいました。

 今回のイベントは応募者によるクジ引き方式ではなく、騎士団側が任意で当選者を決めました。

 もしかして、なんらかの忖度があったのでは?

 思わずそう疑ってしまいました。


 自分で言うのは烏滸がましいのですが、魔女たちとの一件があってから騎士団とはただならぬ関係になっています。

 ……いえ、これは言い方が悪いですね。

 実は父と一緒に、定期的に国の研究施設に出向いて、検査や聴き取り調査に協力しているんです。


 この十六年、全く気付きませんでしたが、私の体には特殊な血が流れているようです。

 自分があの性悪魔女の相方の悪魔と近しい存在だと思うと、複雑な気持ちになりますね……。

 しかし! 

 この身に宿る何かしらが、国や騎士団、そしてネロくんのお役に立てるのであれば喜んで協力いたしましょう。

 魔女や悪魔の脅威は身を以て体験しましたもの。もう誰にも犠牲になってほしくありませんし、悪魔の風評被害を減らすためにも私が頑張らないと!

 楽しい推し活を続けるためにも、「悪い悪魔ばかりではないんですよ!」と身を削ってでも証明する覚悟です。


 ……とはいえ、非合法な人体実験をされているわけではありません。今のところ普通の健康診断とカウンセリングを受けているだけですね。毎回採血されるのが憂鬱なくらいです。


 そんなわけで、騎士団への諸々の協力への見返りとして、この訓練発表会の当選チケットが送られてきたのではないかと勘繰ってしまいました。

 もしそうなら、これは不正……?


「くっ……!」


 正直に言えばめちゃくちゃ嬉しいですし、優越感を覚えてしまいそうですが、同時に途方もない後ろめたさも感じます。他の姫君に顔向けできません。


『ご協力に感謝いたします。ですが、我々は良い意味でも悪い意味でも、騎士団ファンとしてのあなたを特別扱いいたしません。それがエストレーヤ王家、延いてはアステル様のご意思でございますので』


 脳裏をよぎった声にはっとしました。

 それは、騎士団本部で守秘義務の誓約書にサインした時に副団長のジュリアン様に言われた言葉です。


 特別扱いはしない。

 ということは、不正はなかったということで良いですよね!?


 ……一安心です。

 この言葉を聞いた時には、「ファンとして領分を弁えろ」という注意喚起だと思っていたのですが、もしや私が後々悩むことを見越していたのでは?

 なんという深慮でしょう。ファン心理に精通しすぎています。

 ジュリアン様、やはりこちら側の人間?






 翌日、私は純粋にイベントの当選を喜び、浮かれながら登校しました。

 何を隠そう、ペアチケットだったんです。そうなればすることは一つですよね。


「エナちゃん! 聞いて下さい――」


 授業前、早速教室でエナちゃんを訓練発表会に誘いました。

 アステル殿下が発表会に参加する予定はありませんが、もしかしたら応援と称してお姿をお見せになる可能性も、微魔素レベルで存在します。なんといっても団長閣下ですから!

 当然喜んで同行してくださると思っていたのですが……。


「う、うううう……」


 エナちゃんは顔を両手で覆ってしまいました。

 そして、私を廊下に連れ出し、掲示板を黙って指さしたのです。


 補習、追試、補填課題……。


 それは、学年末試験の結果が芳しくなかった生徒のための、最後の救済措置のお知らせでした。進級できるか否かがこれで決まります。


「ま、まさかエナちゃん……」


 よくよく見れば、数学の追試の日程が訓練発表会と丸かぶりでした。


「不合格だったんですか? 数学はあんなに一緒に対策したのに!」

「最初の問題に意外と手こずって時間が無くなってしまったのよ……!」

「もうっ、負けず嫌いなんですから! 解けそうな問題だけ頑張ろうって決めていたじゃないですか!」


 エナちゃんは言語学や地理などの文系科目は学年で五本の指に入る好成績だったのに、理系科目は壊滅的に苦手なご様子。

 私も単純な計算なら慣れていますが、理数系がものすごく得意というわけではないので、試験前にエナちゃんと念入りに勉強しました。


 どうやらお役に立てなかったようです。無念……。

 自分のことのように悔しいですが、これから一番大変なのはエナちゃんです。

 励まさなくては……!


「で、でも、よく考えたら追試が数学だけなんてすごいですよね。エストレーヤの公用語で回答しなきゃいけないのに……逆にどうして大陸共通の数字記号で解答できる数学だけ追試なのか謎ですけども」

「わたしもおかしいと思っているわ。自分が恐ろしいっ。留年したらどうしましょう! 実家になんて報告すれば……」


 わなわなと震えるエナちゃんの背にそっと手を添えました。


「一教科だけなら、追試までに集中して勉強すればなんとかなりますよ。おそらく同じ問題が出題されますから、まず今回のテストを見直しましょう!」


 今度こそ力になって見せます。

 来年度も絶対にエナちゃんと一緒に学校生活を送りたい。成績不振を理由に帰国してしまったら悲しすぎます。


「うぅ、アリガトウ。イベント、ゴメンナサイネ。ワタシノ分モ楽シンデキテ。レポ待ッテル……」


 エナちゃんの心のこもっていない言葉から、どれだけイベントに行けないことが悔しいか伝わってきました。


「っ!」


 私は迷いました。追試に挑む親友を置いて、自分だけ楽しい想いをしてきて良いのでしょうか。

 親友と推し騎士様を天秤にかけることになるなんて……。


 葛藤で震える私の肩を、今度はエナちゃんが優しく叩きました。


「気にせず行ってきて。全てはわたしの不徳の致すところ。生きていれば間の悪い瞬間もあるわ……レポ期待シテル」

「う、ごめんなさいエナちゃん……! また同じような機会があったら、今度は絶対一緒に行きましょうね! そして追試も突破して、楽しい夏季休暇にしましょう!」


 断腸の想いで私はイベントに行く決意をしました。

 私がエナちゃんの立場でも、同じく背中を押していたでしょう。その思いを無下にはできません。






 エナちゃんと一緒に行けないのなら、と私は夕食の席で両親に予定を聞いてみました。お二人ともネロくんの活躍が見られるなら、喜んでついてきてくれると高をくくっていたのですが――。


「あら、残念。その日は新演目の初日で、チケットも購入済みなのよ」

「僕も仕事の商談が二つ入ってるな。行けそうにない」


 タイミングが悪く、母も父も一緒に行けないようです。推し事とお仕事の邪魔はできません。

 縋る思いでお手伝いさんたちを振り返りましたが、二人とも都合が悪いそうです。


「ど、同行者を探さないと……!」


 推し騎士様のイベントで空席を作るわけにはいきません。

 だ、大丈夫。訓練発表会に行きたい人は山ほどいます。声をかければすぐに同行者が見つかるはずです。


 問題は、誰に声をかけるか。


 平民街の箱推しファンクラブの先輩姫君たちは……ダメですね。

 チケットは一枚しかないんです。誰か一人を選んで誘って、後でバレたらギスギスします。全員に声をかけてくじ引きをするのも現実的ではないですね。下手をしたらチケットを巡る戦争が起こりますし、大きな禍根を残しそうです。


 では、もっとライトなファン層を狙って、同級生に声をかけてみるというのはどうでしょう。

 ……くっ、私にはエナちゃん以外に遊びに誘える仲の友人がいません!

 それに、騎士団に興味を持っている方が見つかったとしても、当日に気を遣いまくって肝心のイベント観覧が疎かになる可能性大。

 やはり姫君を自称するくらいのファンの方をお誘いしたいところ。


 こうなったら最後の砦、学校のファンクラブに顔を出し、クラリス様に相談してみましょう!






「あら、それはお困りでしょうね」


 今日も今日とてクラリス様は優雅で可憐なご令嬢でした。

 自ら針を取って縫製したという白い子犬のぬいぐるみを膝に乗せながらも、真剣に私の相談に乗って下さりました。


「残念ながら、そのイベントにはわたくしも同行できそうにありません」

「そ、そうですよね。お忙しいですよね」

「いえ、単純にジュリアン従兄様が姫君に笑顔を振りまく姿が直視に耐えず……ごめんなさいね。わたくしが目に入ると従兄様もやりにくいでしょうし」


 どうやらクラリス様は、ジュリアン様が前面に立つイベントは避けているようです。身内に騎士様がいると、いろいろ心理的な制限がありそうですね。


「そうですわね、わたくしが間を取り成し、他のファンクラブ会員から一人選んで声をかけても良いのですが……ここは一つ、違う観点から同行者を推薦しても?」

「え?」

「きっとメリィさんにとっても悪くない相手だと思いますわ。もちろん、お嫌でしたら断ってくださって構いませんので」


 全てを見透かすように目を細めたクラリス様は、大変申し上げづらかったのですが、ジュリアン様にとてもよく似ていらっしゃいました。


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