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日常

作者: 癸咒 北斗

 今日は危なかった。駆け込み乗車をするなと言われても、終電に乗り遅れては一大事。

 仕事があるのはいいことなんだろうけど、せめてもう1人くらい事務がいてもと思わずにはいられない。とはいえ、事務職は金を生まない、って理由で、営業の責任者からは嫌な顔をされる。遊んでいるわけでは決してないのに。

 腹が立つったらありゃしない。

「はあ・・・」

 溜息をつくと幸せが逃げていく、なんて、子どもの頃に言われたことがあったけど、どこの誰がそんなことを言いだしたんだか。

 コンビニの脇にある灰皿のところで一服してから帰ろうと角を曲がった途端、勢いよく人にぶつかってしまった。反射的に謝りつつも、尻もちをつく恰好で倒れた相手に手を貸す気にはなれなかった。それどころか、3歩ほど下がって距離をとっていた。相手は文句を言うでもなく低く唸りながら、緩慢な動作でなかなか立ちあがれずにもがいている。酔っ払いだろうか。

 車同士の衝突事故では罰則があるが、歩行者同士の衝突事故には何か罰則があるのだろうか、などと考えながらも、どうしても動けずにいた。突き飛ばしてしまったのはこちらなのだから手を貸すべきだとわかっているのに、どうにもならない嫌悪感で近づくことさえできない。できることなら今すぐに走ってこの場から離れたい。

 なぜこんな気持ちになるのか。

 引きずるような足音に気付いて顔をあげると、5mくらい離れた街灯の明かりの隅に人影があった。ゆっくりと近づいてくる引きずるような足音と、低い唸り声。背後からも聞こえてきて振り向くと、車道を横切って近づいてくる人影。この時間なら車は少ないからと車道を渡ってコンビニに来る人はよく見かける。けれどこれは、何かがおかしい。

 よく見てみると、車道を歩いているのは1人ではなかった。どの人影も動きがぎこちない。それに・・・そうだ。いくら車の少ない時間といっても1台も走っていないなんて。それどころか自転車さえ。

 突然腕を強く掴まれ振り返ると、ようやく立ちあがった先ほどの男が詰め寄ってきていた。低い唸り声をだしながら顔をあげた瞬間、相手の顔面を渾身の力で殴り倒していた。掴まれていた腕を振り解くとマンション目指して全力で走る。

 自動ドアが開ききる前に体を捻じ込み壁に埋め込まれているキーパッドに飛びつく。エラー音が鳴る。手が震えて押すキーを間違えた。

 早く! 早く!

 2度目のエラー音の後でようやくドアが開き、開きかけているドアガラスに体をぶつけながら入り込んだ。早く閉まってくれと焦る自分には無関心に、ドアはいつものようにゆっくりと開ききると、数秒置いてゆっくりと閉まった。

 ドアが閉まりきったのを見届けると、大量の息を吐きだしながら壁に体を叩きつけるようにして寄りかかった。全身から一気に力が抜けてしまい、自力で立っていることができない。

 何だったんだ、あれは?

 いつもと何が違った? 前日に処理しきれなかった仕事を片付けるために少し早めに家をでたが、それだって別に珍しいことじゃない。忙しかったが営業との衝突がなかっただけ平和だった。気づいたら終電ぎりぎりになっていて、慌てて会社をでてきた。電車の中でも駅でも、取りたてておかしなことは何もなかった。

 走りだした自分に合わせるよう車道にあった人影が向きを変えたように感じたのは、ただの気のせいだろう。そうだ、そうに決まっている。自分はいつからこんなに自意識過剰になったのか。

 鼓動はまだうるさかったが、どうにか気持ちは落ちついてきた。それでも殴り倒した相手の様子を見に戻る気にはなれず、エレベーターホールへ歩きだした。

 さっさと寝よう。

 さっきの出来事のすべてを疲れに責任転嫁してエレベーターが降りてくるのを待っていると、エレベーターホールの脇にある駐輪場へ抜ける通路から聞き覚えのある足音がいくつかした。背後の階段からは低い唸り声がし人影が見えた。血の気が引くというのは、きっとこういうことを言うのだろう。全身が、これ以上はないというほどに緊張している。降りてきたエレベーターの音に視線を移すと、中には3つの顔があった。脇の通路からも、階段からも、さっきの男と同じような顔をした連中が近づいてきていた。エレベーターのドアが開き、唸り声が漏れでてくる。

「・・・ゾンビ映画じゃないっつの」

 掴みかかってきた相手を片っ端から殴り倒す。動きが遅いなら走って逃げることもできそうだ。それとも何とかして部屋まで行ったほうがいいのか。でもエレベーターも階段も使えないなら外へでるしか――。

 自動ドアが開き、いくつもの人影が入ってきた。オートロックのドアに阻まれて立ち往生している。

 ダメだ! 動きを止めるな!

 わかっているのに、足が竦んで動けない。全身が石になったように凍りついて、指先さえ微動だにしない。喉を締めつけられているかのようで、声も出せない。

 信じられないほどの強い力で後ろから掴まれた。けたたましい音がエントランスに反響した。映画なんかでよく聞く絶叫。オートロックのドアガラスが破られる直前にそこに映った自分の姿を見て、それが自分の声なのだと気づいた。首筋に噛みついてきていた奴を振り払おうにもいくつもの手に掴まれて身動きがとれない。腕や足の肉が喰い千切られていく。

 正面から近づいてきた奴の手に頭を押さえつけられ――。

 ホラーを書きたかったのです。どうしてもホラーを書きたかったのです。

 しかし自分がホラーを怖いと思わないからか、どうすればホラーになるのかわかっておりません。

 それにしても、ゾンビというのはどうやって動いているのでしょうか。死体が動いている、というのは目を瞑るとしても、腐っていれば筋肉もボロボロですから体を動かすことはできないと思うのです。そうでなくても腐敗臭は強烈なはずですから、近くにいれば判るはず。出来立てほやほやのゾンビは別としても。

 そうなると スケルトン はどうなっているのでしょうか。頭蓋骨の様子を鑑みるに軟骨もないようなので、関節部分も動かせないのでは・w・?

 ホラーはツッコミどころと疑問だらけです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゾンビとエレベーターって最高の相だなと思いました。 [気になる点] ゾンビの鳴き声が無かったのでゾンビの鳴き声って作者はどう思っているのか気になりました
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