〜銀ランククエスト・擬態避役討伐〜
〜銀ランククエスト・擬態避役討伐〜
冒険者協会隣にある病院に大怪我を負った冒険者が複数運ばれた。
時刻は冒険者協会の営業が終了した後、夜の二十時前。
病院に運ばれた冒険者の中には腕を切断され、今後冒険者を続けるのが困難という大怪我人までいる。 毎年とあるモンスターの被害報告と共にこういった重症人が出てしまうのだ。
擬態避役【シャンジェオン】、森林エリアに生息する中級モンスターだ。
中級モンスターとは言っても、毎年多くの重症人や死者を出す超危険モンスター。 全モンスターの中でも重症人や死者を出した数はかなり上位になるだろう。
中級に分類されたのは、戦闘になった時の討伐難易度自体はそう難しくないからだ。
姿さえ確認できればの話だが………
擬態避役は、その名の通り避役………カメレオンのようなモンスターで、全長は百五十〜百八十程度。 このモンスターの恐ろしいところは姿が確認しずらいこと。
周囲の景色に応じて体の色を変え、景色と同化してしまうのだ。
擬態避役がいることに気がつかず、至近距離に近づいてきた無防備な獲物を鋭い爪でサクリと切り裂く。
森林エリアに入場規制があるのもこのモンスターが原因だ。
銅ランク以下の冒険者は鋼ランク以上の冒険者が同伴しないと入れない、それに急所はがっちり防具で堅めなければ非常に危険だ。
同化した擬態避役を発見するのは困難。
発見の報告があるのは、いつも冒険者が犠牲になってからだ。
被害に遭った冒険者たちの話では、森林エリアで休憩しようとして鎧を脱ぎ、岩に立てかけたらその岩が擬態避役だったというケース。
討伐する予定のモンスターと戦っている最中に、姿を隠した木陰が擬態避役だったというケースなど。
聞いただけでも恐ろしく感じてしまうケースが多い。
現在、営業時間が終了したにもかかわらず、緊急で擬態避役の討伐クエストが出された冒険者協会はてんやわんやしている。
私もこのモンスターの討伐クエストは初めてなので、どうしたものかと悩み続けている。
食堂で夕食をつまみつつ、頭を抱えている私の背後から聞き慣れた楽器の音色が響く。
「お隣、座っても構わないかい?♪」
「ただいま満員です」
もちろん隣には誰も座っていない。
「セリナはいっつも釣れないねぇ?♫ 擬態避役の件で相談があるんだよ?♪」
擬態避役と聞いて渋々隣の椅子をひこうとしたのだが、すでに堂々と正面に座られていた。
私はため息をつきながら食事の手を止める。
「レイトさん、お隣座っていいかって聞いておきながら………いつの間にか正面に堂々と座ってるじゃないですか」
「ああ♩ 隣がダメだと言われたから正面に座ったんだよ?♫ これはまさに発想の化学反応!♬」
うん、意味がわからない。
でもなぜか言いたいことはわかるので華麗にスルーする。
「レイトさんは擬態避役の対策、何か考えているんですか?」
「もちろんさ!♪ でも攻撃の手が足りないんだ♫ そこで、君のところの冒険者に力を借りにきたのさ!♩」
いちいちピューピューとオカリナを吹くのが非常にウザいが、擬態避役をいち早く討伐するためなら、是非とも力を貸したいところだ。
「ちなみに、どうやって探すつもりです?」
「私の担当冒険者に優秀な子がいてね、その子にかかれば擬態避役捜索なんてお茶の子さいさいさ!♪ まさに擬態避役の天敵とも言える冒険者だ!♬」
レイトの担当冒険者は優秀な中衛冒険者が非常に多い。
特に巨大モンスターの討伐や蹂躙戦などで大活躍するような能力を使う冒険者が豊富なのだ。
そして彼女の一言で火山龍討伐戦で出会った冒険者を思い出す。
「なるほど、確かに索敵なら最強クラスの人がいますね。 はは〜ん、力を借りたい冒険者っていうのは超優秀な狙撃手ですね?」
「ご名答! 初歩的なことだろう? セリナ君?♩」
なぜだろう、非常にイラッと来たが、レイトの言っていることは理にかなっているため、私は握った右拳をそっと左手で押さえた。
☆
擬態避役討伐のため、即席パーティーはすぐに結成された。 メンバーは五人。
「久しぶりだなレミス。 またお前と森林エリアに行くことになるとはな、今度は上級モンスターが出ないといいな」
「フラグになりそうなこと言わないでよギャラクシー! 上級モンスターが出ない確率がゼロなわけないんだから! そもそも、怪獣は世界中にいるのよ! ………あの、そんな目で私を見ないで?」
早速感動の再会? をして会話を交わすレミスと銀河。
「ふむ、レミス。 お前はとてもいいヤツだ! そのままのお前でいてくれよ!」
「………は?」
急に満面の笑みで大きく頷きだす銀河に、レミスはキョトンとした顔を向けて首を傾げた。
すると、微妙な空気を放つ二人に一人の男性が近づいていく。
「お二人とも! この私をお忘れか? みなさん知っての通り、私が不可能を可能に変える………」
「おお、韻星巫流か、相変わらず話が長いな」
月光熊戦で共に戦ったことのある三人の冒険者が、久々の再会に仲良さげに話こむ。 レイトから支援要請があったのはレミスだけだったが、韻星巫流は目的の都合上ついでという形で同席させてもらったらしい。
三人が親しげに会話を交わす最中、銀河の元に一人の女性冒険者が駆け寄っていく。
「ぎんがさん! 誰よその女! 浮気ですか?」
「おい、意味のわからないことを言うなぷぷるん。 貴様は私の彼女でもなんでもない。 変な勘違いされたらどうするつもりだ」
レミスと仲良さそうに話す銀河に、半にやけ顔で声をかけたのは銀ランク冒険者のぷぷるん。
風魔法を操り空気を高速振動させる超音波使いだ。
この超音波は索敵から敵の弱点看破まで幅広い用途があり、直接触れれば相手の内部破壊までできる超優秀な能力だ。
「やや! みなさん仲がいいんだべか? うちだけのけもんにされちゃうと、ちょっといじやけっちゃーなぁ! うちも仲間に入れて欲しいんだけども!」
少し離れた位置から、かなりなまりが強い女性がニコニコしながら話し込んでいる四人に声をかけた。
「あなた誰よ? あまり見ない顔ね? 初対面の人の正体、面食らっちゃう! ………あ、今のはナシで〜」
「あんさん! エルフの女の子だべか? めんこいつらしてんなぁ! うちはこめっとめんこ! レイトさんを担当にしでで、第五世代の中衛だべ!」
光を放ちそうな満面の笑みを輝かせるこめっとめんこ。 しかし四人はキョトンとした顔でコソコソと耳打ちをし始めた。
「おい、めんこいってなんだ?」
「ぎんがさん知らないんですか?」
ぷぷるんの返事を聞いて顔をむっとさせる銀河。
「私はぎんがじゃない、ギャラクシーだと何回言ったら………」
「ははは! 相変わらずですなギャラクシー殿! しかしめんこいとはどう言った意味合いなのでしょうか? 不可能を可能にする私でも予想がつかない、レミスさんに向けて放たれた言葉ですよね?」
あごをさすり始める韻星巫流は、すぐに何か思いついたようでポンと手を打った。
「レミスさんに向ける言葉ならあれしかありません! ギャグがつまらなすぎると言う意味ではないでしょうか!」
「韻星巫流? あんたいい度胸してるわね」
レミスがものすごい目つきで韻星巫流を睨むが、銀河は鼻で笑いながら腕を組んでコクコクと頷き始める。
「さすが韻星巫流だ、おそらくお前の予想で間違えないぞ」
レミスは一瞬鬼の形相をしたが、すぐに満面の笑みを作り、こめっとめんこに歩み寄っていった。
「第五世代のこめっとめんこちゃん! あなたはセリナさんが名付け担当ね? 挨拶がわりに私の神業を披露するわ! 瞬きしないでよーく見ててね!」
レミスは満面の笑みを作ったまま弓を取った。
それを見た銀河と韻星巫流は慌てて身構える。
「まずい! 逃げるぞ韻星巫流!」
「ギャラクシー殿! 流石に不可能を可能に変える私でも、凄腕狙撃手からの逃走はとてもむずか………うわぁァァぁぁ!」
レミスが乱射した弓矢が、二人の急所スレスレを飛んでいく。
その光景を見て顔を青ざめさせるこめっとめんこ。
「レッ、レレレレレレミスさん! やめてやっぺよ! 見てるこっちがヒヤヒヤするべ〜!」
「ふふ! 私は凄腕狙撃手なのよ? 私のご機嫌次第では、いつでも急所を射抜けるわ! それとあなた、顔がこんなに可愛いのにその喋り方は残念すぎるわ! 残念すぎて話の内容が頭に入らないよー!」
恐怖の光景を目の当たりにしているこめっとめんこは、無理矢理大爆笑してるふりをした。
☆
挨拶を済ませた五人は、夜中のうちに馬車で王都を出発した。
夜中の行軍は大変危険だが、擬態避役を放置する方がもっと危険であるための苦肉の策。 しかしこのメンバーは五人中四人が銀ランク。
こめっとめんこは現在銅ランクで、レイトが大変気に入っている冒険者のため出発前にレイトからこう言われていたのだ。
『このメンバーの戦いは、今後君が活躍するための大きな石杖になるだろう♫ まるでアルゴー船員のようなメンバーだ! この機会にしっかりと学んできたまえ!♫』
この世界とは別の世界が題材になった神話を好むレイト。
彼女がよく使う言葉の意味は全く理解していないのだが、こめっとめんこはとりあえず元気に返事をしてよく笑う。
そのためレイトだけではなく、先輩冒険者やクエストで立ち寄った村の住人からも大変好かれるのだ。
彼女は出発前に自ら御者をやりたいと言った。
他の冒険者たちは、夜中の行軍になるため交代で御者を務めると行ったのだが、こめっとめんこは『うちはこれから先輩たちから学ばせてもらうんだがら! うちが御者をすんのは恩返しにもなるし、当然のことなんだべ!』と言って譲らなかった。
それを聞き、他の四人はしぶしぶ見張りと睡眠を二人ずつ交代で行うことになった。
しばらく馬車を進めたあたりで、突然御者台にひょっこり顔を出してくるぷぷるん。
驚いたこめっとめんこは肩をピクリと震わせた。
「あっぶなかったべぇ! びっくりして手綱ひっぱちまうところだったべさ〜!」
「ふふ、ごめんなさいね! こめっとめんこさん、疲れたらいつでも変わるから言って下さい! もし疲れてうたた寝とかしちゃって、馬を暴れさせたのが原因で事故にでもあい、クエストが失敗したらって思うと………怖くて眠れないです!」
普段、銀河をおちょくるとき以外は非常にネガティブなぷぷるんだ。 一人で勝手に最悪の事態を想像し、自分の体を抱きしめながらプルプルと震えだす。
しかしそんな彼女を見てにっこりと笑うこめっとめんこ。
「うちは尊敬する先輩たちを危険な目に合わせたりはしねぇってぇ! そんなことより見張りもうちがしておくから、ぷぷるんさんもゆっくり休んだ方がいいべさ! 朝には森林エリアに着ぐし、そうなったらすぐ討伐開始だっぺ? 特にぷぷるんさんの能力が頼りなんだがら、今のうちにゆっくり休んでくれっどうちは嬉しいんだぁ!」
ぷぷるんは心配そうな顔をするこめっとめんこの顔を見て頬を緩めた。
「見張りなんてこのメンバーには必要ないですよ? と言いたいですが、もしかしたら私の超音波レーダーを無効化できる新種モンスターがいるかもしれないので、油断なく周囲を警戒していないと怖くて眠れません! まぁとりあえず、こめっとめんこちゃんはそんなに気を張らないで、もっと楽しく冒険しましょう!」
そう言って半ば無理矢理手綱をひったくるぷぷるん。
こめっとめんこは困った顔で抵抗したが、ぷぷるんはニコリと笑いながら「先輩のお願いを聞いてくれないんですか?」と言って半ば無理矢理御者を変わった。
こめっとめんこは申し訳なさそうな顔をしながらも、少しの間休憩をとることにした。
☆
日が登り始めた頃森林エリアに到着する。
森林エリアの拠点は擬態避役の発見が報告されてからずっと気を張りっぱなしだったのだろう。
中にいた冒険者たちはかなり疲れ切った顔をしていた。
一刻も早く討伐が望まれていると察した五人は早速森林エリアに入る。
すると入ってしばらく歩いたあたりでぷぷるんが森の奥を指刺した。
「あ、私のレーダーに引っかかりました。 レミスさん、あそこ!」
ぷぷるんが指を刺すと、レミスがすぐに弓を引き絞る。
「距離はどのくらい?」
「二・三キロ先で、Y字になってる木の左下です!」
かなり遠くの方を指差していることを知り、驚いた顔をするこめっとめんこ。
「二・三キロって、遠すぎだっぺよ〜?」
「私の射程範囲、三千メートルだから。 余裕に決まってるよ!優雅に撃ち抜くわ!」
『無理矢理すぎるだろ!』と思ったのだろう、絶句する冒険者たち。 しかしつまらないなどと馬鹿にすれば、また急所スレスレを射撃される恐れがあるので全員がワンテンポ遅れて無理矢理笑い出した。
引き絞った弓矢を放ちながら頬を真っ赤に染めて振り返るレミス。
「なんか、今のは今ので恥ずかしかったんですけど!」
「す、すまん」
気まずそうな顔で謝る銀河。 しかしそんなことをしている最中にぷぷるんが目つきを変える。
「今の射撃で擬態避役は倒せましたけど、近くにいた両断蟷螂に見つかりましたね。 数は三です! 対応お願いします!」
ぷぷるんの指示を聞いた韻星巫流が縦琴を弾いた。
するとかまいたちが飛んでいき、こちらに向かってくる両断蟷螂の首を跳ね飛ばす。
「フハハ! 前衛冒険者がいなくても、不可能を可能にするこの私がいれば、モンスター共は近づくこともできません! ましてや………」
「次が来るぞ! 私が対処しよう。 お前は喋り始めるとやかましいから大人しくしていろ韻星巫流!」
銀河が指を刺すと、彼の周りを浮遊していた七つの球が勢いよく飛んでいき、近づいてきていた二体の両断蟷螂の顔を吹き飛ばした。
「す、すんげえ! 対応が早すぎるべぇ!」
唖然とするこめっとめんこ。
「次は貴様がやって見るか? フォローはしてやるから安心しろ」
銀河が鼻を鳴らしながらこめっとめんこに視線を送る。
「いいんだべか? うちの能力はかなり派手だから、他のモンスターに気づかれちゃうかもしんねぇべ?」
「ほう、どんな能力か気になるわね! あなたは魔法を使うんだったかしら? どんな攻撃するとしても、まー方法は任せるけど! あ、ごめんなさい………」
銀河はため息をつきながら歩き始めた。
☆
擬態避役はすでに三体討伐された。 しかし奴らは姿を見つけるだけでも困難なため、今の時点で何体出現しているかわからない。
何体いるかがわからない以上、森林エリア全体を捜索しなければならない。
捜索開始からかれこれ二時間が経過した頃、ぷぷるんが嬉しそうに声を上げた。
「こめっとめんこさん! 久々に敵が近くにいますよ! 鱗粉蛾三体います!」
鱗粉蛾【プドゥルニューイ】その名の通り神経毒や睡眠効果のある鱗粉を放つ巨大な蛾だ。
下級モンスターで、大きさは八十〜百二十程度。 近寄ると強アルカリ性の液体を吐いてくる。
そして最も厄介なのが、鱗粉蛾が放つ鱗粉は周囲のモンスターを凶暴化させる事だ。 放置するのは自然破壊の危険があるため、発見したらすぐさま討伐する必要がある。
ぷぷるんの掛け声を聞き、嬉しそうに鼻を鳴らすこめっとめんこ。
「うちの出番がようやくきたんだべか! 先輩方、うちの派手でキレイな魔法を披露するべさ! 是非とも感想と、アドバイスをお願いするべ!」
こめっとめんこは、腰につけたポーチから球体を取り出す。
その球体の先には中途半端な長さの紐がついていて、こめっとめんこが紐に手を添えるとチリチリと紐が燃え始めた。
「お、おい。 こめっとめんこ。 その球体は、爆弾とかじゃないよな?」
ヒヤリと汗を流す銀河。 しかしにっこり笑ったこめっとめんこは、勢いよく首を振る。
「これは爆弾みたいな形してっけど、爆弾じゃないべさ! うちが障壁魔法で作ったもんだべ! そしてここは森林エリアだから、空で能力を発動しねぇと森に引火しちゃうべさ!」
そう言いながら手に持っていた球体を勢いよく空に投げるこめっとめんこ。
全員、嫌な予感を感じたのだろう、すぐに武器を構えてこめっとめんこの動きを見守る。
だが、空を見上げているこめっとめんこは両手メガホンのようにして口元に添えた。
「た〜〜〜まや〜〜〜〜〜!」
空中でキレイな炎の花が咲いた。
あまりのキレイさに言葉を失う冒険者たち。
「これは花火って言うんだべ! この花火が爆発して、霧散した火の玉は不規則な軌道を描きながら、うちが狙ったモンスターに当たるまでずっと追いかけ続ける追尾式なんだっぺ〜! つまり、爆発させんのはただの演出だべさ!」
ドヤ顔で腰に手を添えるこめっとめんこ。
花火から分岐した火の玉はそれぞれが不規則な軌道を描きながら鱗粉蛾に襲いかかった。
火の玉に追われていた鱗粉蛾たちはあっけなく討伐される。 しかしこめっとめんこが危なげもなく余裕で鱗粉蛾を討伐したにもかかわらず、ぷぷるんは顔を真っ青にする。
「あの〜、今の花火で、モンスターがたくさん集まってきています〜。 数は〜十八」
こめっとめんこはその場でぴよぴよぷりんつしながら「こんなつもりじゃなかったんだべ!」と言って泣き崩れた。
☆
途中色々あったりしたが、無事に森林エリア内にいた擬態避役六体を討伐した銀河たちは、王都へと戻っていた。
未だにシュンとしているこめっとめんこ。
なんせこめっとめんこがド派手な花火を上げたせいでモンスターたちが大量に押し寄せてしまい、韻星巫流と銀河が全力でモンスターの群れを討伐するハメになった。
こめっとめんこも、花火を上げずに火の玉で手伝いはしたが、元々はこめっとめんこの花火が原因のため、あの後ずっと謝り続けていたのだ。
流石に自分でフォローするから好きにしろと言った銀河は強く叱ることができずに、気を遣ったのだがそれがさらに彼女を追い込んでしまったらしい。
「ギャラクシーさんは優しいから、ミスしたうちを強く叱れないだけなんだべさ〜!」と言いながらずっと泣いてしまっているのだ。
そんな彼女の頭を撫でながらにっこりと微笑むレミス。
「みんな本当に怒ってないからもう気にしないで! ちょっとびっくりしたけど、なんだかんだで擬態避役の討伐自体はあっけなく終わったでしょ? むしろ途中は擬態避役討伐ってこと忘れるほどあっけなかったわよ」
鼻を啜りながら真っ赤な瞳でレミスの顔を凝視するこめっとめんこ。
「それにあの花火?だったかしら? モンスターの目も引けるし、味方同士の合図にもなる。 何よりすっごくキレイだったわ! 能力も敵を追尾する火の玉なんて強すぎるわよ! もっと自信持ちましょう!」
レミスが優しく語りかけていると、こめっとめんこは少しずつ落ち着いていった。
「うち、これからどうすればみなさんのお役にたてるんだべか?」
「次からはあらかじめみんなに能力の詳細を伝えておいた方がいいわ! 今日みたいな思いはしたくないでしょう? クエストに行く前に、初めて会う人に自分の能力は詳細に伝えなさい? そうすれば今日みたいな失敗もなくなるし、一緒にクエストに行く人たちもあなたの能力を心強く感じるはずよ!」
レミスの言葉を真剣な顔で聞いているこめっとめんこ。
そんな彼女を見て銀河は鼻を鳴らしながら馬車の外を見た。
「蹂躙戦なんかでお前がいたら、それはもう楽で仕方なくなるだろうな。 心強い知り合いができて嬉しいぞ? それと堅苦しい話し方はもうしなくていい。 一緒に戦った仲なんだからな」
ぼそりとつぶやく銀河を見て、ぷぷるんがニヤリと笑う。
「全く〜! ぎんがさんは素直じゃないですね〜?」
そんな二人を見ていたこめっとめんこは、ようやく満面の笑みを作った。
「ありがとうございます! ぎんがさんはやっぱり優しい人だべ!」
「貴様! 俺はぎんがじゃなくてギャラクシーだ! あれほど間違えるなと言ったのに! おい、笑うな韻星巫流! レミス! 貴様まで笑いおって! 今日という今日は我慢ならん! こめっとめんこ! そこに座れ!」
最後の最後、こめっとめんこはぷぷるんにつられて銀河の呼び方を間違え、結局お説教をされてしまったのだった。




