〜岩石魔神討伐戦・新たなおとぎ話〜
〜岩石魔神討伐戦・新たなおとぎ話〜
岩石魔神は突進してくる冒険者に攻撃を仕掛けることはなかった。 あくまで攻撃を受けてからの反撃。
鋼鉄兵器のように自身に記録した行動しかとれないのであろう。 しかし、今突進して行った冒険者たちにその対応は愚策としか言えない行動だ。
突っ立っている巨大な岩石魔神に、我先にと突進していく冒険者たち。 最も機動力に優れる夢時雨さんが、最初の一撃をお見舞いする。
「ぶっ飛べクソハリボテやろぉぉぉ!」
夢時雨さんは現在、ふらすこさんにもらった月光熊の毛皮でできた籠手を装備している。
月光熊の毛皮で作られた籠手は非常に硬く、柔軟性にも優れていた。 夢時雨さんとは相性抜群だ。
そんな彼が大きく振りかぶった右腕で岩石魔神の左足を殴り飛ばす。 すると岩石魔神の左足が吹き飛んだ。
再生しようと周囲の岩を取り込もうとするが、全身モンスターの素材で武装したふらすこさんが周囲の岩ごと爆破する。
「百足武者の素材はよく燃えマァス! すり潰した粉で爆薬の威力大幅アップデェス!」
隣でベイルさんが何かを撒いている、おそらくあれが百足武者の素材をすり潰した粉なのだろう。 左足の膝から先を失い、バランスを崩す岩石魔神。
たまらず巨大な岩を雪崩のように浴びせようとした岩石魔神は、体を傾けながら自身の周囲に直径五十メーターを超える大岩を作り出し、足元の冒険者に向けて突き落とそうとする。
おそらくあの岩は岩石魔神自身が魔法か何かで作り出した岩なのだろう、ふらすこさんが周囲の岩を破壊したというのにどこからともなく作り出した。 しかしその岩は数十個に分岐したオレンジの光が薙ぎ払う。
鋼鉄兵器の核、角雷馬の角を借り受けたみるくっくんさんのレーザー攻撃。
彼は前衛も中衛もできる冒険者だ、今回は中衛になりレーザーで降り注ぐ岩を破壊する役割が多くなるだろう。
水魔法と障壁魔法を応用した水鏡を使い、鋼鉄兵器のレーザーを数十等分して、岩石が降り注ぐ前に両断していく。
レーザー攻撃で分割され、勢いを失った岩石は重力に負けてゆっくりと落ちていく。
岩石が両断されたと同時に高く跳躍したパイナポやパイシュさんの攻撃によって、降り注いでいた岩石の残骸は粉々に砕け散った。
「くっそ切れ味良すぎじゃねえかこの大剣!」
「あっちのヌンチャクなんか〜、間違って自分に当てたらガチでやばいほど硬いよ〜!」
完全に左足の先を失った岩石魔神が、バランスを取るため左腕を大地についた。 それを見計らい、右足の膝から先が凍りつく。
氷帝鯱の宝石を借り受けた香芳美若さんの槍による一突きで、凍ってしまった左足は呆気なく粉々になった。
「この香芳美若! 借り受けた槍で存分に暴れて見せましょう!」
両足が破壊された岩石魔神は、支えを失い轟音を立てながら落下していく。
一瞬にして両膝から先が破壊されたが、すかさず周囲の岩を取り込もうとする。 しかしその岩はぺんぺんさんの磁力操作によって阻害される。
「今回ばかりはそう簡単に治させんぞ? キャステリーゼ二世と俺の絶妙なコンビネーションの前にのたれ狂うがいい!」
今回ばかりはぺんぺんさんの決めポーズがかっこよく見えてしまう。
隣ではふらすこさんからもらった武器の山を広げるリックさん。 攻撃に移る際、ぺんぺんさんの磁力でその武器の山を使うのだろう。
再生のために取り込もうとした岩は磁力で阻害され、ゆっくりと引き寄せられていく岩をすかさずふらすこさんが爆破して再生を防ぐ。
——————まさに圧巻。
両足を失った岩石魔神は体が地面に落ちると同時に、大地についていた左腕をゆっくりと持ち上げる。
両腕を高く上げ足元の冒険者たちを両手で作り出したハンマーで叩き潰そうとしたが、動きが遅すぎる。
いつの間にか岩石魔神の体を駆け上がっていたパイナポとパイシュさんは、それぞれ岩石魔神の両肩を破壊した。 肩を破壊された岩石魔神の両腕が、接合部が折れたプラモデルのようにガタンと落ちていく。
パイナポが切り落とした右腕は高台の上に落下し、パイシュさんが破壊した左腕は足元で動き回っていた香芳美若さんの背後に落ちていく。
すかさず周囲から岩を引き寄せようとするが、ぺんぺんさんが武器の山を飛ばして岩を砕く。
同時にみるくっくんさんのレーザーも飛んでいき、引き寄せられた岩は粉々にされていく。
その隙に香芳美若さんも岩石魔神の体を駆け上がり、切断された両肩部分を凍りつかせる。
肩が凍りつかされ、岩を引き寄せても肩に接着できなくなる岩石魔神。
「切断部を凍らせれば、再生できなかったんですね。 香芳美若さんファインプレーです!」
私はすかさずメモを取った。
そんな私を横目に見ながら鼻を鳴らすクルルちゃん。
「こんな時でも勉強熱心なんだな? いつもふざけてるくせに、こう言う時はまじめになりやがって。 このままじゃあんたはまた成績上げちまうだろうな?」
腕を組んで戦場を見下ろすクルルちゃんの横顔に視線を向ける私。
「あの、クルルちゃん………どうして昔のこと黙ってたんですか?」
私はクルルちゃんがなんで昔のこと話してくれなかったのかを思わず聞いてしまった。
「あぁ? 黙ってた訳じゃねぇけど? そもそもおめぇ、一回も聞いてこなかったじゃねぇか!」
なるほど、クルルちゃんはベテランとか歴が長いとか言われると怒り出すから、それが怖くて聞いていなかっただけだった。
私は苦笑いしながら再度戦場に目を向けると、岩石魔神はあっという間に胴体だけになって大地に転がっていた。
切断面は香芳美若さんの槍で凍らされている。
岩石魔神の弱点は水系統の魔法だったようだ。
ここに華嘉亜天火さんがいたら、こうも難しく考える必要もなかったのだろう。
デカさにビビりすぎて私は臆病になっていただけかもしれない、そう思った瞬間。
岩石魔神の胴体がなんの前置きもなく砕けた。
前線で暴れ回っていた冒険者たちは流石に驚いた表情を見せる。
「今何が起きたんですか!」
突然バラバラになった岩石魔神を見て、動揺の声をあげるベイルさん。 砕けた胴体の中に小さな人型の岩の塊が現れる。
「アレは? 本体ご登場って事デェスカネェ?」
「どんなクソ野郎だろうと、俺がぶっ壊す。 テメェらは邪魔だから引っ込んでろ」
夢時雨さんは首をコキリと鳴らしながら周囲の冒険者を睨みつけた。
「引っ込むのはテメェだ時雨! 俺様がかたぁつけてやる」
一対の大剣を構え、突進していくパイナポ。 しかしそんなパイナポを無数の岩の槍が取り囲んだ。
「ほぉ、動きがとろすぎて俺たちのスピードに追いつけないから、小さくなってスピードアップときたか。 愚策だな。 キャステリーゼちゃんも大爆笑だ、間抜けめ!」
ぺんぺんさんはリックさんが用意していた無数の武器を縦横無尽に振り回し、パイナポを襲おうとしていた無数の岩の槍を即座に破壊する。
「助かるぜぺんぺん!」
「勘違いするなパイナポ、お前を助けたんじゃない。 あいつをぶち抜くのに邪魔だった槍を壊しただけだ」
そう言いながらぺんぺんさんが手を勢いよく伸ばすと、パイナポの真横をものすごい速さで大剣が横切った。
ものすごい勢いで飛んでいく大剣が人型の岩を突き刺そうとした瞬間、ひらりと身を翻してかわす。 しかしニヤリと口角を上げるぺんぺんさん。
「残念、本命はこっちだ」
次の瞬間、体制を崩した人型の岩の足元から砂鉄でできた槍が伸びていく。
砂鉄の槍は人型の岩を貫き、一瞬動きがとまる。
「お膳立てありがとうぺんぺんくん! あっちがトドメいただくよ〜!」
動きが止まった隙に、頭をヌンチャクで吹き飛ばすパイシュさん。
頭を吹き飛ばされた人型の岩は、パイシュさんの一撃で崩壊した。 しかしトドメを刺したはずのパイシュさんは顔を曇らせる。
「あっちゃ〜。 こいつはダミーだわ〜!」
その一言と同時に、数百を超える人型の岩が周囲に大量に出現する。
「ものすごい数だ! 一体どれが本物なんでしょう?」
リックさんがごくりと喉を鳴らす。 しかしニヤリと口角を上げた香芳美若さんが、勢いよく槍を掲げた。
「岩を操るモンスターですか。 言うなれば念力猿の下位互換。 この私の槍で一人残らず凍てつかせましょう!」
無数に現れた人型の岩に香芳美若さんが槍を振るうと、辺り一体が氷結する。
それと同時に無数のレーザーが人型の岩を次々と貫いていく。
みるくっくんさんは手をくいくいと動かしながら、ものすごい勢いで人型の岩を破壊していく。 破壊されて行く人型の岩を見て、満足げに鼻を鳴らすみるくっくんさん。
ぺんぺんさんの操る大量の武器もものすごい勢いで人型の岩を貫いていく。
だが二人が怒涛の勢いで放っているであろうレーザーや大量の武器も、前衛で戦う冒険者たちに一切かすりもしない。
そしてふらすこさんがキャリーケースを寄越すようベイルさんに指示すると、前線で戦っていた冒険者は何も言わずにその場からすぐに離れた。
まさに阿吽の呼吸。
側から見れば、『岩石魔神の核を壊す』その目標に向け全員が我先にと自分勝手に戦っているように見える。
だが、全員が同じ目標を持っているからこそ、互いの意図が手に取るようにわかっているのだ。
互いの動きを邪魔せず、逆に他の冒険者の動きを利用して自分が優位に立ち回るよう全員が計算して動く。
あくまで岩石魔神の核を、自分が最初に壊すのだと信じながら。
ふらすこさんが起こした大爆発が、無数の人型の岩を粉砕する。 しかしそんなふらすこさんの周囲に岩の槍が無数に浮き上がる。
だがニヤリと笑うふらすこさんは、キャリーケースから大きな盾を取り出し、あらぬ方向に突進し始めた。
それを見た冒険者たちもすぐにふらすこさんの後を追う。
「皆さん! 一体どこへ向かうんですか?」
出遅れていたリックさんが走って行く冒険者たちに声をかけた。
同じく、ふらすこさんが投げ捨てたキャリーケースを拾っていたベイルさんも不思議そうな顔をしている
二人の疑問をはらすべく、私は拡声器を口元に寄せる。
「あそこですよ」
私が指差す先にあったのは、先ほどパイナポが切り落とした右腕。 私の刺した指先を目で追っていたリックさんは、不思議そうに首を傾げた。
「岩石魔神の核は、体の中を自由自在に動き回れるみたいです。 だからあいつはあらかじめ右の拳に逃げてたんです。 ほら、あの位置ならさっきまで戦っていた冒険者たちが見えるでしょ?」
驚いた顔で私に視線を向けるリックさんとベイルさん。
私の指摘通り、パイナポが切り落とした右腕は高台の上に落下していた。
「あの一瞬で気づいたのですか?」
「さすがセリナさんです!」
感心したように私に視線を向けてきているが、私なんかより戦っている最中にそれに気づいたふらすこさんの方が圧倒的にすごい。
モンスターの素材を使いこなすスペシャリスト、そんな彼だからこそモンスターの思考や狙いが手に取るようにわかるのだろう。
「悪いですネェ! ワタァシが勇者にふさわシィようデスヨ? ムキになって追いかけてないデ、指咥えて見てるといいデェス!」
狂気の笑みを浮かべながら、大楯を構えて降り注ぐ岩の槍に迷いなく突っ込んでいくふらすこさん。
岩の槍は大楯に触れた瞬間粉々に砕けていく、そして今のふらすこさんの脚力は、暗殺豹の素材で作られたブーツによってものすごい強化をされている。
岩の雨をくらいながらも、勢いは一切弱まらない。 しかし無数の武器や、大量に分岐したレーザーがふらすこさんの周りで蠢き始める。
ぺんぺんさんとみるくっくんさんが岩の槍を薙ぎ払いながらふらすこさんの隣に追いついた。
「抜け駆けか? ネジ抜け如きがシャシャリ出るな! 真の勇者は俺だ、そしてそのヒロインがキャステリーゼ二世となる! 愛の力こそ真の力なのだ!」
「だからなんだ凡愚め、我の邪魔をするな。 貴様らのような凡愚どもに過ぎた称号は似合わん。 即刻下がるが良い!」
みるくっくんさんは見事にしりとりで会話をする技術を得たらしい。
血走った目で並走する三人に、岩石魔神は咄嗟に作り出した岩石を転がして対応しようとする。
流石に岩石が大きい、五メーター大の岩石が勢いよく転がってくる。 しかし、転がってくる岩石は両サイドから飛び出してきた四人の冒険者に次々と破壊されていった。
「そんなとろい足で、俺をぶっちぎれるとでも思ったのかよ!」
「私の槍が、あいつの息の根を止めるのにふさわしい!」
夢時雨さんと香芳美若さんが三人と並ぶ。
「勇者は剣を使うんだぜ? そんなら俺様以外にいねぇだろ!」
「いやいや〜。 あっちはヌンチャクを振り回す勇者って少し変わってて面白いと思うよ〜! 剣なんて王道すぎてつまんないじゃ〜ん!」
いつの間にか、七人が並走して岩石魔神の右腕に突っ込んでいく。
おそらく岩石魔神も切羽詰まっているのだろう、砕かれると分かっていても岩石を転がすことしかできていない。
そして右腕の形になっていた岩が、人型に変形する。 しかし最初ほどの大きさはなく、せいぜい全長五メーター程度。
もはやなすすべないのだろう、全速力で向かってくる冒険者たちから走って逃げようとしている。
思わず力みながら見守る私の隣で、並走する七人にクルルちゃんは拡声器で激励を飛ばした。
「オラァ! 敵さんビビってんぞぉ! そのまま突っ込めェぇぇ!」
クルルちゃんまで血走った目で七人を見守る。
とうとう無様に背中を見せた岩石魔神に追いつき、冒険者たちが渾身の一撃を入れる。
粉々になる岩の残骸が舞い散る中、全員が同じ方向を向いていた。
キラキラと光るボーリング玉のような大きさの玉が宙に浮き、近くの岩に飛び込もうとしている。
その瞬間、今日最大の闘気が七人から溢れ出す。
「あいつの核は——————俺様が!」「俺が!」「キャステリーゼと共に」「私が!」「あっちが!」「我が!」「ワタァシガ!」
「「「「「「「ぶっ壊す!」」」」」」」
七人それぞれの武器が、宙を舞う岩石魔神の核に伸びていく。
そして私は、新たなおとぎ話に名前を連ねる勇者を目に焼き付けた。
最初に核を破壊したのは………
☆
岩石魔神の討伐が無事に完了し、私たちは拠点に戻ってきた。 しかし冒険者たちは今だに大騒ぎしている。
「最初に触ったのは俺様だ。 お前らのへなちょこ攻撃で核が壊せると思うか?」とか
「砕いたのは私です。 どっからどう見ても槍が一番長いですからな!」とか
「何を言っている、あきらかに我が貫いた。 光は世界最速なのだぞ!」とか
「おいおい落ち着けお前たち、キャステリーゼ二世との愛の力が俺を勇者にしたんだ。 そもそも俺の砂鉄はどんな角度からでも攻撃できるのだ。 俺以外にあり得ない!」とか
「普通にあっちのヌンチャクが当たってたでしょ? ここに跡ついてるし!」とか
「何言ってるんですか? 僕の籠手にしっかりと感触があったんです!」とか
「あなたたちの武器はワタァシがあげたものデェス、つまり私の武器が破壊した。 最終的に壊したのはワタァシってことなのデェス!」などと言いながら大騒ぎだ。
誰一人として譲るつもりはないらしい。
クルルちゃんは喧嘩している冒険者たちを嬉しそうな顔で眺めながら、解いていた髪を括り直していた。
あの髪を解くとレディースの総長みたいになるのか………
などと思いながら、取っ組み合いになりそうな冒険者たちを必死に宥めるリックさんとベイルさんを眺めていた。
しばらくすると冒険者たちは喧嘩をやめ、ものすごい剣幕で私の元に駆け寄ってくる。
——————え? 何? 超怖いんですけど!
「おいセリ嬢、お前ちゃんと見てたんだろ? 俺様だよな!」
「アナタガはっきさせて下サァイ! ワタァシの武器が破壊したと言うことは、ワタァシが岩石魔神を討伐したという事実に他なりまセェン! 真の勇者はワタァシデェス!」
なぜ、私に聞くのだろう?
そう思いながら後退り、ちらりとクルルちゃんに視線を送ったが、クルルちゃんは私に口パクで何か伝えようとしている。
口の動きからなんと言っているか予想しようとして目を凝らすが、夢時雨さんが割り込んできて見えなくなってしまった。
「セリナさん、あなたならきっと見えていたはずですよ? 僕ですよね! ちゃんとこの籠手に感触ありました!」
「たわけが! 我のレーザーの方が早かった! 何度も言うが、光はこの世界で最速なのだぞ!」
やばい、みるくっくんさんのしりとり会話は達人の域に達している!
「こらこら、セリナ殿が困っているではないか。 私が貫いたのだからもう喧嘩はやめたまえ。 リーチの差だ、仕方がないものは仕方がないのだ」
「寝言を言うな香芳美若! 愛の力こそ正義! つまり俺とキャステリーゼ二世がトドメを刺したということだ!」
「愛の力とかばっかじゃ〜ん? 何度も言うけどあっちのヌンチャクが当たったから! ほら! ここに当たった跡ついてんじゃ〜ん!」
私ににじり寄りながら言い争いをする冒険者たち。
ちなみにパイシュさんがヌンチャクに傷がついていると主張しているが、全くわからない。 というか傷がついてるようには見えない。
マジで迷惑だ、と思いながらそそくさと逃げようとしたのだが………
すかさず逃げようとする私の前に七人が同時に立ち塞がった。
「「「「「「「誰が最初に壊してた?」」」」」」」
私は額から汗を垂らしながら、仕方なく嘘をついた。
「残念ながら、見えませんでした〜」




