〜調査要請クエスト・火山エリアの巨影〜
いつもご拝読ありがとうございます! 直哉酒虎です!
ここからは新章開幕です。 今回は仲良しこよしの二人組が火山エリアでの戦いに挑んでいく話です!
冒険者たちや受付嬢の過去が明らかになったり、それぞれが抱えるコンプレックスを乗り越えたりと、熱い展開を繰り広げていきます!
楽しんでいただければ幸いですm(_ _)m
〜調査要請クエスト・火山エリアの巨影〜
火山龍との激闘から数日が経った頃、王城から特別クエストが出た。
なんでも今後このような危険モンスター出現に備え、王城と果ての荒野の中間地点に大規模な拠点を作るとのことだ。
拠点を作るのは王都から東西南北に四ヶ所。
受付嬢が四人それぞれ別エリアを担当し、拠点作成予定の場所で蹂躙戦を行うことになったのだ。 蹂躙戦を担当するのは私とキャリーム先輩、レイトとメル先輩の四人。
クルルちゃんはベテランだし色々な手続き等の知識が豊富なため今はお留守番。
しかし、拠点建設に伴う蹂躙戦は群れの撃破よりも簡単だ。 なんせ特定エリア内にいるモンスターを討伐すればいいだけなのだから。
そんなわけで、積雪月はナンバーワンほぼ確定のこの私、ナンバーワン(予定)のセリナさんは南の沼地を担当している。
連れてきたのはぺんぺんさんのパーティー三人と、ぺろぺろめろんさんのパーティー三人の計六人。 しかしまあ、指定エリア内には大したモンスターもいなかったため、今はみんなほぼお遊び状態だ。
「おいピンク髮! テメェちったぁ真面目にやりやがれ!」
「お! イケイケゆめぴーの俺様モードが出ました! ワイルドでかっこいいよぉ!」
ぺろぺろめろんさんたちが何をしているかというと、なんと! 中級モンスターのはずの双頭蛇で綱引きだ。
ほんと、何やってんのあの人ら………
「パイナポ、お前までムキになるな。 というか蛇さんかわいそうだってキャステリーーゼ二世が悲しい顔をしているぞ」
「ぬをぉぉぉぉ! あいつマジでバカ力すぎんだろ!」
ぺろぺろめろんさんとパイナポは双頭蛇の頭を鷲掴みして互いに引っ張り合っているが、パイナポがさっきっからずるずると引っ張り回されている。
パイナポが踏ん張って抉れた地面はかれこれ三メーター近く伸びている。
「おいおい! 男のくせにぺろりんに負けて悔しくないのかぁ〜!」
すいかくろみどさんがかなり煽っているが、パイナポは顔を真っ赤にしながら腕の筋肉を盛り上がらせる。
「コンチクショォォォ!」
もう一度行っておくが、現在は蹂躙戦の真っ只中。 真面目にモンスターと戦ってるのは夢時雨さんただ一人。
私? 指揮する必要もなさそうだから櫓の上で座って頬杖ついています。
「あっ! ちょっと待てし! 双頭蛇の頭の割れ目が今ミシミシって………」
べりっちょべりーさんの静止も虚しく、双頭蛇さんとうとうお亡くなりになられました。
マジでモンスター虐待はやめた方がいいと思います。 これが異世界じゃなかったら炎上ものだ。
「あーあ! パイナピーのボロ負けだね〜! 次何する〜?」
「何する〜? じゃねえよピンク髮! 今蹂躙戦の最中だって言ってんだろうが!」
近くにいた一口蛙を拳でペシャンコにしながら憤る夢時雨さん。 完璧八つ当たりだ。
ちなみに一口蛙【ジガンシュヌイユ】は下級モンスターの大きな蛙だ。 全長は三メーター近くあるが、動きもトロいし体も柔らかい。
ぼーっとしてたら長い舌に捕まって丸呑みにされるが、消化が遅いし歯もついていないからすぐに脱出はできる。
是非とも飲み込まれた後、口の中から出てくるなら自分の手に噛みつきながらこの一言を言おう!
『駆逐してや………』以下略。
「そうだゆめぴー! みんなの討伐数の合計で勝負ってのはどうよ!」
またお遊び感覚のぺろぺろめろんさん、強すぎるが故に戦いに楽しさを求めてしまうのは悪い癖だ、後で注意しなければ………
きっと夢時雨さんも遊んでる場合じゃねえと言って怒り出すに決まって——————
「吠えずらかくんじゃねえぞ? ちなみに俺は今のクソ蛙で十三体目だ」
意外と乗り気の夢時雨さんに驚いていたが、次の瞬間お遊びモードだったぺろぺろめろんさんとすいかくろみどさんは、鬼の形相で辺りを駆け回り始めた。
切り替え早すぎて怖い、っていうか意外とぺんぺんさんまで超ガチな顔で駆け回ってるのが驚いた。
☆
———五分後
「ちっくしょう! 後二体だったのにぃぃぃ!」
パイナポの悔しそうな声が沼地に響く。
「へっへーんだ! うちらが本気出したらこんなもんよ!」
満面の笑みでピースサインを作るぺろぺろめろんさん。 ちなみに彼女は現在、返り血まみれになっている。
オォーウ、サディスティック!
「ちょっとぺろり〜ん! 一番討伐したのはあたしなんですけど〜! MMPはすいかくろみどちゃんなんですけど〜!」
うん、MVPな? そこ間違えちゃダメだよ?
「それにしてもとんでもない機動力だったなすいかくろみど、キャステリーゼ二世も驚いていたぞ?」
「あ? まじ? ありがと〜キャスティーちゃ〜ん!」
ぺんぺんさんが腰につけている笑顔のぬいぐるみに、中腰で顔を寄せながら手を振るすいかくろみどさん。 子供をあやすお母さんみたいな笑顔でほっこりする。
しかし、一番悔しそうに下唇を噛んでいる夢時雨さんが地団駄を踏み始める。
「くっそがぁ! もう一回だ、もう一回やらせやがれ!」
子供かお前は! もうここら一体のモンスターすでに一体もいねえよ!
黙々と建設作業の準備に取り掛かってる土木のお兄さんたちも苦笑いしとるがな! とりあえず駄々をこね始めた夢時雨さんを慌てて止めに入った。
結局蹂躙戦は二時間しないで終わってしまい、予定より大幅に早い時間に私達は王都の冒険者協会に帰宅することになった。
☆
土木のお兄さんたちがささっと防壁をつくったので、拠点建設中の見回りは銅ランクでも容易になっただろう。
そもそもあの辺りはぺろぺろめろんさんたちのせいで血の海になっている。 よほど強いモンスター以外は怯えて近づかないだろう。
帰りの馬車の中、負けたぺんぺんさんチームはずっと外の見張りを担当しているため、馬車の中は私含めて女の子四人になっている。
「ねね! ベリちょん! 最近はびわみんとどうなのよ?」
早速すいかくろみどさんからガールズトークの代名詞である恋話炸裂!
私はすんごく、いずらい空気になったぞ?
「ちょ! っはぁぁぁ? 何言ってんだしくろみっち! うちは別に香芳美若さんに気があるわけじゃないし!」
「あれあれ〜? じゃあなんで顔赤くなってんの〜? くふふ〜! べりちょんまじかわピーナツ!」
私は知らんぷりして窓の外を眺めることにした。
王都まで約二時間、この話が続くのは嫌だなぁ。
「おやおや〜? くろみっち大変だ! セリナちゃんがたそがれてる! きっとこれは恋煩いだよ!」
「キャァぁぁァァァァ!」
ぺろぺろめろんさんに絡まれて、すいかくろみどさんはべりっちょべりーさんそっちのけで私に顔をずずいと近づけてくる。
これは、非常にまずい展開だ。
「いやいや! 私はそんな色恋沙汰これっぽっちも………」
「おやおや〜? やけに必死ではありませんかセリナちゃん! 匂う、匂いますぞ〜! ここはほら、ぶっちゃけちゃった方が楽になるよ〜?」
口をニマニマさせながらにじり寄ってくるぺろぺろめろんさん。
まじでめんどくさいぞこの展開。
「セリナちゃんモテるからねぇ〜! この前もナンパされてたじゃない? あたしとべりちょん、遠くから見てたんだかんね!」
「あれは、びっくりだったし! ナンパなんて初めて見たし!」
ゴクリと息をのむべりっちょべりーさん。
ぶっちゃけいうと、この二人が見ていないところでもしょっちゅうされるのだが、これは受付嬢なら日常茶飯事だ。
いや、正確に言うとレイト以外の受付嬢は日常茶飯事だ。
私よりメル先輩はかなりナンパされまくってる、いつも苦笑いしていてかわいい。 そんな事はさておき、今はこの状況をどうにかしなければ………
「そんなこと言ってますがぺろぺろめろんさん! あなたもかなりモテるみたいですが! ズバリ! 気になる男性はいるのですか!」
私の必殺、おうむ返し!
この必殺技を使われた女の子はもれなく困り顔に………
「え? いるに決まってんじゃん」
「「「っえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」
ヤッベェ、恋話おもしれぇ!
「ちょっとぺろりん! うち聞いてないんですけど!」
「うちも初耳だし! は? 意味わかんないし! なんで言わないんだし!」
すいかくろみどさんとべりっちょべりーさんが鼻息を荒げながらぺろぺろめろんさんににじり寄る。
私も思わず席を立ってずかずかと近づいて行くが、そんなタイミングで馬車の扉が開かれた。
「なんだ? すごい叫び声が聞こえたが、なんかあったのか? キャステリーゼ二世も心配して………」
「「「男子は入ってくるなぁぁぁぁぁ!」」」
ぺろぺろめろんさん以外の三人に怒鳴られたぺんぺんさんは、涙目でキャステリーゼ二世にぶつぶつ愚痴を言いながら馬車から離れていった。
その後二時間に渡りみんなでぺろぺろめろんさんを尋問したが、彼女は口を割る事はなかった。
——————マジで気になって寝れなくなりそう!
☆
王都の冒険者協会につくと、ただならぬ雰囲気を感じ取った。 受付でクルルちゃんが忙しそうに駆け回っている。
一人しかいないから忙しいのは当たり前だが、一年も受付嬢をやっていれば分かる。 おそらく厄介なモンスターが出てきてしまったと言う事を………
私は慌てて受付に駆け込んだ。
「クルルちゃん! 何かあったんですよね!」
私の顔を見た瞬間、張り詰めていた顔を緩めるクルルちゃん。
「セリナ! 早かったわね! 蹂躙戦はもう終わったの?」
「ええ! 何も問題なく終わりました。 問題なさすぎて逆に問題があった気もしましたが………」
私はぺろぺろめろんさんたちのふざけっぷりを思い出して語尾を徐々に濁らせてしまうが、クルルちゃんはそんな事お構いなしに私の肩をがっしりと掴んだ。
「東の火山エリアに巨影が見えたって報告があったわ! 発見した岩ランクの報告によると『まるで山が動き出したようだ、岩石の魔神だ!』とのことよ?」
………山が、動いた?
聞いたこともない現象、しかも場所が悪すぎる!
火山エリアで山が動いた、この一言で嫌でも思い出されるあのモンスター。
「———まさか、また火山龍?」
「安心して! その巨影を発見した岩ランクは一度火山龍を目撃している。 それにもかかわらず火山龍と名指ししなかったの。 そしてこうも言っているの『岩石の魔神だ!』ってね! だからおそらく別のモンスターよ!」
顎をさすりながら大型モンスターを思い浮かべる私。 しかし私の知識には火山エリアに出現する巨大モンスターなど聞いたことがない。
だがクルルちゃんは何かを知っているかのような顔でゆっくりと息を吐いた。
「落ち着いて聞いてね、昔のおとぎ話にこんなお話があるの。 火山に現れた岩石の魔神を倒しに行く勇者のお話よ。 その岩石の魔神は胸の中心に核を持っていて、どんなに体を壊しても周りにある岩を体の一部にして再生する。 おとぎ話の勇者は、聖剣エクスデュランダーの一振りでその核を一刀両断したわ!」
………エクスデュランダーのくだりで吹き出しそうになり、話の内容がまったく入ってこなかった。
どっちかにしろよ、と思いながら必死に真剣な顔をキープできたと思うが、クルルちゃんは真面目な顔で私をじっと見ている。
ここは笑っちゃだめ! 笑っちゃだめだ!
「セリナ? なんで変な顔してるの? もしかして私がおとぎ話を信じちゃう夢系女子だと思って馬鹿にしてるでしょ!」
クルルちゃん、お説教モード入りました! これは非常にまずいです!
「違うんですクルルちゃん! 聞いてください! 今、後ろでパイナポが変顔を!」
たまたま私たちの周りをうろついているパイナポが目に入ったので、ここは遠慮なく巻き込む。
そもそもあいつ、さっきから私たちをチラチラ見てたから何かしらふざけようとしていたに違いない!
「え? 俺様? まだ何もしてないっすよ! まだしてないっすよ変顔なんて! ちょ! クルル嬢! 顔怖い顔怖い! ぎゃあぁぁぁぁぁ!」
すまんパイナポ、後でご飯奢ります。
私は両手を祈るように合わせながら、追いかけ回されるパイナポを見守った。
☆
その後、パイナポの濡れ衣は晴れたが、なぜか私とパイナポは正座させられている。
「セリ嬢………恨むぜまじで!」
「いやまじごめんって、たまたま目に入ったし………ぶっちゃけ変顔とかして笑わせようとしてたっしょ? 私そう言うの敏感だからね? 正直に言ったら晩御飯奢るよ?」
正座させられながら、小声で話す私とパイナポ。
こう言う時はどうしても休日の時みたいに話してしまう。
「まあ、ぶっちゃけ後ろでモノボケかましてやろうとしてた」
「ほぉーらやっぱり! 言わんこっちゃない!」
私の勘が当たり、ドヤ顔でパイナポを指差した瞬間、クルルちゃんのハリセンが脳天に降ってくる。
「ぜんっぜん反省してないわね! こんの悪ガキどもめ! いっつもあんたらは二人揃うと悪ふざけばっかりして!」
私がパイナポを初めて担当した時から、よく二人でクルルちゃんに怒られていた。
ある時はパイナポをそそのかし、勝手に中級モンスターを狩らせたり………
ある時は二人で抜け出して勝手にクエスト行ってしまったり………
ある時は新技開発だ! とか言って訓練場の壁をぶち破ってしまったりと、毎回やらかして二人で正座させられていた。
って言うか未だに正座させられています。 とほほ。
「今回発見された巨影は、十中八九おとぎ話に出てくる岩石の魔神よ! でもおとぎ話になるくらいだから以前発見されたのは冒険者協会ができる前だと思うの。 多分冒険者のモンスターリストにも載ってないわ! 仮で名称を付けるとしたら岩石魔神ね。 まんまおとぎ話の題名だけど……… そもそも! 火山エリアの上級モンスターは割と大きいものも多いけど、山のように大きいのはこれくらいしか想像がつかない!」
自信満々の表情で握りこぶしを作るクルルちゃん、まだ実際に見たわけじゃないのにそんな簡単に特定していいものなのか? とは思ったが、私もこの仮説は正しいと思っている。
なぜなら見たことのあるモンスターならちゃんと名前で報告するはずだ、なのに報告に上がったのは曖昧な文言。
おそらく実際は見たことないのだが、その存在を知っていると言いたげな報告だったのだ。
オグルロッシュというおとぎ話は私も本屋で名前だけ見たことがある。 王都でもかなり人気の話なのだろう。
読んだことなかったから聖剣エクスデュランダーといきなり言われて笑いそうになってしまったが、討伐に行くならおとぎ話を参考資料として購入したほうがいいだろう。
「そういうわけだから! 準備しなさいセリナ! 私の担当冒険者たちはいつでも出発できるわよ!」
「………え? 私も行くんですか? でも、私とクルルちゃんが討伐に行ったら協会の中に誰もいなくなっちゃうんじゃ?」
流石に協会を留守にするのはまずいと思い、恐る恐る聞いてみたが、ふんと鼻を鳴らしてドヤ顔で立ち尽くすクルルちゃん。
「安心なさい! 書き置きはしたわ! もうすぐレイトさんあたりが帰ってくるはずだから、それにこのクエストはおそらく宝石………金ランクは確実よ! 二人で行った方が絶対に確実だから!」
クルルちゃんが張り切っていたのはおとぎ話の怪物退治を本当にできるからではなく、まさか私と一緒にクエストに行くためだったのだろうか?
「クルルちゃん、もしかしてですけど〜。 一人で行くの、ちょびっと怖がってます?」
「うるっさいわね! あんたこの前メルさんと一緒にクエスト行ってたじゃない! 別にいいでしょ! 相手は新種なんだから二人係で行くの! この前も二人係だったんだから今回も二人係なのよ!」
急に大声で騒ぎ出したところを見ると、一人で行くの怖かったんだろうか、それとも私と一緒にクエストに行きたいだけなのだろうか?
とは言ったものの、相手は山のように大きなモンスターだ、私の意見を素直に言ってしまうと、超怖い。
けど冒険者協会の受付嬢である限り、逃げる事は許されないだろう。
クルルちゃんと一緒なら、なんだか安心するしきっと大丈夫だ。
「パイナポ? ぺんぺんさんたちと一緒にこれる? っていうかぺろぺろめろんさんたちどこ行ったかわかる?」
「ぺんぺんたちなら呼べるぞ? ちなみにぺろぺろめろんたちは消化不良だとか言ってまたクエスト行っちまったわ! 一足遅かったな!」
あの子たちはどうしてこうも落ち着きがないのだろうか………
クルルちゃんは頭を抱える私を連れて、彼女が集めた担当冒険者六名と顔合わせのために応接室に向かった。




