〜銅ランククエスト・鍛治士三名の護衛〜
〜銅ランククエスト・鍛治士三名の護衛〜
私の担当では今話題の冒険者パーティーが三組いる。 もちろん一組目はぺろぺろめろんさんのパーティー。
見た目も可愛いし、実力も金ランク並みだ、話題になって当然だろう。
二組目はぴりからさんのパーティー。 相棒であるぬらぬらさんが舞踏大会で無双したのと、同じく無敗だったはずの鈴雷さんが最近はこの二人と仲良くなり、三人でクエストに行くことが増えた。
今では鈴雷さんがパーティーに入るのでは? などと噂される始末。 違う担当同士でパーティーを組んではいけないなんてルールはないため、冒険者たちもソワソワしながら動向を見守っている。
割と最近はこのぴりからさん達の話題を耳にする事が多い。
もう一組はこの人たち、初の討伐クエストで格上の鬼人を討伐し、今もなお破竹の勢いで強くなっている。 その上舞踏大会では銅ランクとは思えない強さを見せた。
今ではぺろぺろめろんさん並みの天才が再来した! とまで言われている。
「セリナさん! 防具が欲しいです! 重くてもいいのでとにかく硬いやつを!」
そんな話題の人であるとーてむすっぽーんさんは、硬い防具をご所望らしい。
なんでも、最近討伐するモンスターが強くなってきているため怪我が増えて相棒のよりどりどり〜みんさんを心配させているとか。
その為、彼女の心配を少しでも緩和させたいから硬い防具が欲しいと言い出した。 硬い防具といえば相場は決まっている。
「中級モンスターの素材では鋼鉄兵器が一番硬いと思いますよ? 銀ランク以下の盾役は、一部を除いて大体鋼鉄兵器の防具を使います」
そう、よくその名を耳にする鋼鉄兵器。 私が受付嬢になる前は上級モンスターだった程の硬さを持つ山間エリアのモンスター。
鉱山周辺に生息していて、鍛冶の村であるトルキン村では討伐クエストがよく出ている。
トルキン村には武器や防具を作るスペシャリストである鍛治精、いわゆるドワーフが多数生息している為、採掘のために護衛任務なんかがしょっちゅう出るのだ。
そんなわけで、現在は鋼鉄兵器の討伐任務がないのでトルキン村の採掘士三名の護衛任務を斡旋する事になった。 しかしそうなると問題が発生する。
「とーてむ君、護衛任務だと………私たち二人じゃ少し厳しいと思うの? 最低でも四人は必要だわ?」
そう、護衛任務では採掘士が操作する馬車や荷物の護衛も冒険者の仕事となる。 馬車の両脇と後方に一人、少し先を先行する前衛。
最低でも四人はいないとほぼ失敗して馬車に危害を加えてしまったりするのだ。
「安心してくれどりーみんちゃん、僕には考えがある。 まだパーティーメンバーもいない上に腕が立つ鉄ランク冒険者に心当たりがあるんだ」
すかした顔で自信満々にそんな事を言い出すとーてむすっぽーんさん。
………まさかあの人をパーティーに加える気なのか!
よりどりどり〜みんさんにカッコつけながらそう答えた彼は、掲示板の前で冒険者新聞を見ていたとある冒険者の元に颯爽と歩いていく。
「そう言うわけだ、後輩である君に一緒に来てもらおう!」
「あぁ、とってぃさん? 私は今日、どろぱっくさんと買い物に行く予定があるのでパスさせて下さい」
沈黙。
「………なるほど、どろぱっくさんと買い物か。 君は今日、休みだったのか———」
再び沈黙。
とーてむすっぽーんさんはカッコつけて声をかけた後輩冒険者のどるべるうぉんさんに、二つ返事で誘いを断られてしまったのだ。
「………ぷっ!」
「ちょっ! よりどりどり〜みんさん………私、せっかく堪えてたのに………ぷっ、先に噴き出さないでくださいよ、くっひひ」
まずい、よりどりどり〜みんさんが先に吹き出したせいで、折角堪えていた笑いが………
「なぁ、どるべるうぉん………こんな事言うのは虫がいいと思うのだが、買い物は今度でもいいんじゃないか?」
恥ずかしそうにぽりぽりとこめかみを掻くとーてむすっぽーんさん。
「いえいえ、先に約束していたどろぱっくさんを裏切るわけにはいきません、他の冒険者に声をかけていただけませんか?」
律儀などるべるうぉんさんは真顔でそんな事を言う。 すると、とーてむすっぽーんさんは目に涙を浮かべ始め………
「なぁ! 頼むよ! 気軽に声かけられるのはお前しかいないんだ! なんか最近、後輩たちがめちゃくちゃ憧れの眼差し向けてきててさ! すごいのは僕じゃなくて、セリナさんのアドバイスとどり〜みんちゃんの魔法や指示が的確なだけなんだよ! 何で誰もわかってくれないんだよ! 俺なんかそんなすごい冒険者じゃないし! そのせいで他の後輩はなんか話しずらいんだよ! 頼むよほんと! お前しかいないんだぁ!」
プライドなどどこかに捨ててしまったとーてむすっぽーんさんは、涙目でどるべるうぉんさんの腰に縋り付いておりました。
あぁ、朝から腹筋痛い。
「どろぱっくさん………本当に、ほんっとうにありがとうございます!」
「あ、いえいえ気になさらず」
勢いよく頭を下げるとーてむすっぽーんさんを見ながら困った顔をするどろぱっくさん。
「本当にすみません、うちのとーてむ君が………ぷっ!」
「おい! 笑いすぎだぞどり〜みんちゃん! ってセリナさんまで笑わないで下さい!」
どるべるうぉんさんに縋り付くとーてむすっぽーんさんを、一緒にいたよりどりどり〜みんさんと爆笑しながら見守っていた私たちは、いつの間にか後ろにいたどろぱっくさんに気がついた。
状況を理解できずに困り顔で立ち尽くしていたので、笑いを堪えながら事情を説明したところ、護衛任務を快く快諾してくれたのだ。
そんなわけで私たちは、カフェエリアに移動して四人で護衛任務の作戦会議中である。
朝の受注ラッシュもとーてむすっぽーんさんが最後だったので、少しゆっくりできそうだ。
「どり〜みんちゃん、笑ってないで配置を考えてくれ! 君は中衛なんだ、立ち位置を考えるのが少し難しい! いくら攻撃魔法を習得したとは言っても奇襲への対応は難しいはずだ」
銅ランクに上がる前に、よりどりどり〜みんさんは攻撃魔法を取得している。 水と風の複合魔法で氷の刃を作り出し、それを射出すると言うクールでイカした魔法だ。
何でもずっと使っていた支援魔法も水魔法由来だったようで、魔法をかけた相手の、血流促進、それに風魔法を応用して、体内の酸素濃度などを操作していたとか………
今では支援魔法はかなりの腕になり、氷を使った攻撃魔法もなかなかの威力らしい。
「セリナさん、私の考えだとどるべるうぉんさんを前衛にして、とーてむ君は最後尾。 左右を私とどろぱっくさんお願いしたいと思ってます。 左右は確かに奇襲を受ける確率が高いですが、後衛にいるとーてむ君なら視野が広いからすぐ反応できると思います、私も障壁魔法はすぐに発動できるので接近戦でも時間は稼げます!」
「この短時間でそこまで考えたのですか?」
よりどりどり〜みんさんの立てる策戦は日に日に鋭くなっている気がする。 どろぱっくさんは初めてよりどりどり〜みんさんの策を聞いたのだろう、かなり驚いているようだ。
私は特に何も指摘する事がなかったので、そのまま四人はクエストに向かう事になった。
………これ、私がいた意味ある?
私は四人がカフェエリアを出て行こうとしたので立ち上がったのだが………
「ちょっと待つのです! どるべるうぉん! あなたその人たちとクエストに行くなら私も連れて行くのです!」
急に声をかけてくる冒険者がいた。 勝ち気な彼女はぷらんくるとんさん。
以前私がニックネームをつけた冒険者で、風魔法を操る狙撃手だ。
短弓をあやつり、投げナイフも得意な為近距離〜中距離が専門だとか? 他にも変わった戦いをするようだが………担当になってから日が浅く、まだ戦っているところは見た事がない。
「私はぷらんくるとんなのです! 最近鉄ランクになったばかりなのです! そこのどるべるうぉんと同期なのです! 狙撃手で風魔法使い! 空中を自在に移動できるから護衛任務にはうってつけのはずなのです!」
簡単に自己紹介しつつどるべるうぉんさんをじっと睨むぷらんくるとんさん。
同じ日にニックネームをつけたこの子は、どうしてもどるべるうぉんさんをライバル視してるようだ。
「ぷらんくるとんか、私のことをライバル視するのはやめてくれと言ったではないか」
急に声をかけられて困っているどるべるうぉんさん。
「ライバル視してるわけじゃないのです! 鉄ランクに上がるのはあなたに抜かれちゃったから、セリナさんのためにもあなたより先に銅ランクに上がるって私の中で決めたのです! 負けないのです!」
それをライバル視してると世間は言うと思うのだが………
「まぁいい、とってぃさん。 こいつの言う通り、能力はかなり便利です。 一緒に連れて行ってかまいませんか?」
「え? まぁ僕はいいけど、その〜………」
とーてむすっぽーんさんは何かモジモジしているが、なぜだろうか?
「よろしくお願いするのです! とってぃ? だったです? 私はぷらんくるとんなのです! 風魔法で空を飛べるのです! 一日中は無理だけど、今では五〜六時間くらいは持つはずなのです!」
え、もしかしてこの子めっちゃすごい子なの? 五〜六時間も空飛べるとか! 私も空飛んでみたい!
「おいぷらんくるとん、失礼だぞ? この方は先輩のとーてむすっぐもももももも!」
「ぷらんくるとんさんですね! こちらこそよろしくお願いします!」
どるべるうぉんさんの口を塞いで、笑顔で対応し始めるとーてむすっぽーんさん。 そういえばさっき、後輩からの尊敬の眼差しが痛くて話しずらいとか言ってたなぁ。
その事を気にしていたのか。
とーてむすっぽーんさんはどるべるうぉんさんにこしょこしょ耳打ちをすると、どるべるうぉんさんは浮かない顔をしていたが納得したようだ。
こうして集まった五人は鍛治士護衛任務に向かう事になった。
*
五人はトルキンの街に到着した。
村長に挨拶に向かった後、山間エリアの鉱山地区に採掘に向かう鍛治精と接触する。 今回の任務で護衛するのは採掘士二名と鑑定士一名の三人。
配置はよりどりどり〜みんの作戦どおり、どるべるうぉんが先行、左右によりどりどり〜みんとどろぱっく、最後尾はとーてむすっぽーん。
そしてぷらんくるとんは空中から定期的に当たりを見回し、見晴らしの良い場所では馬車のそばに待機する流れになっている。 馬車の操作は護衛対象の三人が交代で行うらしい。
護衛任務は順調に進んでいく。
採掘エリアに到着するまでに三回ほど会敵したが、快適してもどるべるうぉんとよりどりどり〜みんが瞬殺、他はぷらんくるとんの狙撃でほぼ一瞬で片付けてしまっている。
陣形を崩すことなく進むことができたのだ。
「空からの狙撃は強いですね!」
採掘エリア到着後、小休憩をしていた際によりどりどり〜みんがぷらんくるとんに声をかける。
「そうでもないのです。 空を飛べるって言うのは、初めて聞くと強いと感じるかもしれないけど、実際は風を攻撃に活かせないし、私自身まだ弓やナイフの威力が弱いって実感しているのです」
「お前は攻撃魔法が苦手だったからな」
同期であるどるべるうぉんは、ぷらんくるとんの養成学校時代のことを知っているため、一人納得したように呟く。
「ええ、そうなのです! あなたみたいにかっこいい戦い方できないのです! 攻撃が苦手だから支援に全振りして今の形で落ち着いたのです! 結果的に弓も上空から打てれば死界がない上に距離も伸びるし、得意だったナイフ投げだって………前より当たりやすくなったのです!」
「なぁ、どるべりん。 お前いつの間にそんなかっこいい戦闘スタイルになったんだ?」
とーてむすっぽーんは羨ましそな目でどるべるうぉんを見つめる。
「な、なに言ってんですかとってぃさん。 俺のスタイルは見栄えはかっこいいかもしれないですが、人型モンスター相手じゃないと意味ないですし、少ないパワーを活かしながら相手を撹乱する方法で戦ってたら今の形に落ち着いただけです」
そう、どるべるうぉんの手品を応用した戦闘スタイルは見違えるほどカッコ良くなっていたのだ。
三本の片手剣と五本のダガーを使い、ジャグリングするように剣を上空に投げながら戦う。
上空に投げた剣をキャッチしてそのまま斬撃に入ることで重力、遠心力を利用した斬撃と、相手の視野を散らすことで隙を作り出すのだ。 まるで踊るように三本の剣を投げながらモンスターを狩るその姿は最早極芸だ。
上空に一本投げ、落ちてくるまでの間に二本の剣で立ち回り、急に一本地面に刺したかと思えば落ちてきた剣をキャッチして斬撃。
慌てて距離を取ろうとするモンスターには中距離攻撃。
五本のダガーをジャグリングするように上空に飛ばし、飛ばしたダガーを殴ったり蹴ったりして飛ばす。
こうして飛ばすダガーの威力は投げるよりもかなり強く、先ほど会敵した賢猿や、小鬼は殴って飛ばしたダガーが貫通して後ろの岩に深く突き刺さるほどだった。
会敵した敵はほぼどるべるうぉん一人で対処していたと言っても過言ではない。
「俺もお前みたいに変わった戦い方した方がいいのかな?」
「なに言ってるんですかとってぃさん、あなたは普通に戦っても恐ろしく強いでしょう? 基本を固めた武闘家はどんな敵でも対応できますからね。 僕はどうしても本能のままに襲ってくる獣系は苦手です。 小狡い賢猿や小鬼なんかは余裕ですがね」
とーてむすっぽーんは視野が広い上に並外れた動体視力がある。 筋肉の収縮や視線などを見て相手の動きを先読みするという特技を覚えていた。
武闘大会で覚醒してからその先読みはかなり進化しており、たまに訓練場で一緒に稽古するパイナポと一対一でも打ち合えるほどまでに成長していたのだ。
「今だにパイナポさんには勝てないんだけどね。 どうしても俺って地味だからさ、どるべりんとかどろぱっくさんとか、ぷらんんくるとんさんの戦い方には憧れちゃうんだよ」
ため息をつきながら水を飲むとーてむすっぽーん。
「あの、ちょっと待つのです! 銅ランクでパイナポさんと一対一で戦えるって………。 あなたまさか、とーてむすっぽーんさんなのですか!」
目をキラキラさせるぷらんくるとんを見たとーてむすっぽーんは、しまった! と言う顔をする。
隣では呆れたように肩を窄めるよりどりどり〜みん。
「って事はあなたはまさか! 氷の魔女先生!」
「ちょ! なにその変な呼ばれ方! 初耳なんだけど!」
急に視線を向けられ、慌ててコップの水をこぼすよりどりどり〜みん。
「こ、氷の魔女先生って………ぷっ、くっはっはっはっはっは!」
目に涙を浮かべながら、腹を抱えて転がり回るとーてむすっぽーん。
「ちょっと! とーてむ君? 笑いすぎよ! それ以上笑ったら………舌、凍らすからね!」
恐ろしいことを口走るよりどりどり〜みんの言葉を聞き、全員顔を真っ青にして静まり返った。
採掘中は洞窟の入り口での警備にあたる。
移動中と違いこちらは比較的安全だが、洞窟内の壁から鋼鉄兵器や地堀虫が出たと言う話もあるため、とーてむすっぽーんとよりどりどり〜みん、ぷらんくるとんの三人は採掘士のすぐそばで警戒体制をとっている。
「あ、あの〜。 とーてむすっぽーんさん! 私! あなたに憧れてたのです! 先程は失礼な言動を取ってしまって申し訳なかったのです!」
「あ、いえ、できればさっきみたいに普通に話してくれるとありがたいです」
謎の敬語を使うぷらんくるとんからナチュラルに距離を取るとーてむすっぽーん。
こうなることを危惧したため、彼はここにくる間にぷらんくるとん以外の全員に耳打ちして正体を隠していたのだ。 しかしパイナポの話題を出したことで正体がバレてしまった。
セリナの担当冒険者の中で、パイナポたちは面倒見も良く人柄が良いため、かなり人気な上に有名なのだ。 ぷらんくるとんの尊敬の眼差しを意図的に見ないようにしているとーてむすっぽーん。
しかし採掘がある程度進んできた頃、彼は異音を聞き取った。
「静かに! 採掘士の方も一度採掘の手を休めてください!」
真剣な表情のとーてむすっぽーんの顔を見た瞬間、よりどりどり〜みんは支援魔法の詠唱を始める。
ぷらんくるとんや採掘士たちはキョトンとしながら彼らを見ている。
「機械音が聞こえる。 右だ!」
掛け声と同時に横に飛ぶとーてむすっぽーん。
右の壁を破壊しながら現れたのは鋼鉄兵器だった。
「———ウソ、………鋼鉄兵器なのです!」
恐怖の表情を浮かべるぷらんくるとん、それも当然だ。 現在は中級モンスターと指定されているが、元は上級モンスター。
鋼鉄兵器には核が存在するのだが、その場所は特定されていなかったため、昔は動きを止めるまで少しずつダメージを与え続けるしかなかった。
モンスターの中でも最も硬いとされる鋼鉄兵器にダメージを与え続けるのは相当困難だったため、上級モンスターとされていた。
だがセリナが鋼鉄兵器の核の位置を特定する方法を発見し、討伐は比較的簡単になってしまったため、ランクが下げられたのだ。
核の位置を特定方法は簡単。
「右腕が最初に動いた! 右肩か腋の下を狙う! ぷらんくるとんさん! 怖がらなくていいから早く表の二人を呼んで!」
「は、はいなのです!」
ぷらんくるとんは血相を変えて走る、採掘士たちも急いで馬車の中に逃げ込んだ。
「どり〜みんちゃん! 指示を!」
「足元に水をまける?」
阿吽の呼吸で臨戦体制を整える二人。
セリナから核の位置の特定方法を事前に聞いていた二人は即座に核の位置を特定した。
鋼鉄兵器が動くための魔力は核に溜まっている、魔力は鉱山内にある魔力鉱石などから摂取しているため、この核を取ってしまうか、魔力を全て使い切れば討伐ができる。
そのため、臨戦体制に入った鋼鉄兵器が一番初めに動かす部位は核が近い部位になる。
右腕なら右肩か腋の下、足なら股関節、頭部なら胸の中心か後頸部など、核がある箇所も限られるため見分けるのが容易くなるのだ。
とーてむすっぽーんはよりどりどり〜みんから大きめの水筒を受け取る。
この水筒には彼女が魔力で生成した水が入っている、その水筒を鋼鉄兵器の足に投げて距離を取る。
それと同時によりどりどり〜みんは風と水の魔法を融合させた氷点下の風を放った。
鋼鉄兵器の足が凍りつき、動きが鈍くなる。
「早く馬車で外へ! どろぱっくさんとぷらんくるとんちゃんは戻り次第馬車についてもらいます!」
よりどりどり〜みんの声が坑道内でこだまする。
「オッケー! 俺が時間稼ぐからサポートしてくれ!」
鉱山内では崩落の恐れがあるため大規模な攻撃はできない、そのため鉱山の外に誘き出す必要があるのだが、採掘士たちの馬車が外に出るまでは足止めが必要なのだ。
凍らされた足のせいでおぼつかない足元で接近してくる鋼鉄兵器、動きは早くないが並の成人男性ほどの速さはあるため油断は命取りになる。
物理的な攻撃力が高いわけではないが、魔力弾を腕から発砲してきたり炎のレーザーなんかも放ってくる。
こちらの攻撃は喰らえば命に関わる。
とーてむすっぽーんは注意深く相手の出方を伺いつつ、腰につけていたバックからワイヤーを取り出す。
「ワイヤーで腕を拘束するからどり〜みんちゃんは拘束した腕をすぐに凍らせてくれ!」
分かってますよと言いながらつららを飛ばして援護を始めるよりどりどり〜みん。 とーてむすっぽーんは鋼鉄兵器の右拳をギリギリでかわしながらワイヤーを絡める。
それを見た鋼鉄兵器がすぐに左腕を彼に向けたため、よりどりどり〜みんは左の腕に氷柱を連射して的を絞らせない。
「目には目を! 鋼鉄にはワイヤーを! ってセリナさんが言ってたから、ねっ!」
とーてむすっぽーんはすぐに距離をとってワイヤーを思い切り引く。 すると凍った両足のせいでバランスを崩した鋼鉄兵器はその場で倒れ込む。
ドスンと重量のある音を上げながら砂煙を上げた。
「ちょっととーてむ君! 崩落したらどうするのよ!」
ものすごい音を出しながら倒れたため、よりどりどり〜みんは顔を青ざめさせる。 すると遅れてどるべるうぉんたちが駆けつけたため、すぐによりどりどり〜みんが指示を出す。
「どるべりん君! くるとんちゃんと一緒に馬車の護衛を! 外に出たら入り口に穴掘り杭で深めの落とし穴を、鋼鉄兵器を落として爆薬で倒すから狙撃はくるとんちゃんにお願いするわ!」
指示を聞いた二人はこくりと頷き馬車を誘導する。
「どろぱっくさん! 透明化で接敵して左腕にもワイヤーを! 後は定期的に両足にこの水袋を投げてください! 足は私が凍らせて無力化します! 恐らく両腕を封じたら十中八九レーザーが来るから気をつけて!」
「「了解!」(しました!)」
元気よく返事をした二人。
とーてむすっぽーんはワイヤーを引く力を強め、どろぱっくは透明化した。
よりどりどり〜みんの策が完璧にハマり、鋼鉄兵器は鉱山入り口の落とし穴にハマり、爆薬で大ダメージを受け機能停止した。
拠点に素材の回収依頼を出すためにとーてむすっぽーんが狼煙を上げる。
怪我人は一人も出ずに採掘エリアの崩落もなかった、鋼鉄兵器は爆薬の量が多かったため、爆発でかなり歪んでしまっている事以外は完璧な対応だった。
よりどりどり〜みんはみんなが安堵する顔を眺めていた時に、一人浮かない顔の冒険者を見つけて声をかけに行く。
「くるとんちゃん! 見事な狙撃だったよ! 一撃で成功してよかった」
「いえ、私がしたのはただ氷の魔女先生の指示に従っただけだったのです。 鋼鉄兵器がでた時なんか、腰抜かしてしまったのです。 私は自分が思っているより未熟なんだと思い知ったのです」
ポツポツとつぶやくぷらんくるとんに、よりどりどり〜みんは微笑みながら答える。
「自分で反省点を見つけられるのは、いい冒険者になるために大事なことよ? 今日失敗したことは繰り返さなければいい、そして帰ったら反省点をまとめるの。 分からない事とかあったら私がいろいろ教えてあげるから、今は素直に自分の活躍を褒めてあげてね! それと私のことはニックネームで呼んでね? 先生とか氷の魔女とか言ったら口聞かないからね?」
「ごっごめんなさいなのです! こお………よりどりどり〜みんせんせ………様!」
よりどりどり〜みんの雰囲気から危険を察知したぷらんくるとんは、見事な敬礼をしながら謝り出す。
「うん、限りなく危ないところだったけど許してあげるね? ちなみに様づけもやめようね?」
その後は特に危険なモンスターとの遭遇もなく、無事に護衛任務を達成した五人は冒険者協会に帰り、報酬を受け取った。
こうしてとーてむすっぽーんは念願だった鋼鉄兵器の鎧を手に入れた。 しかし手に入れたのは肩鎧と腰鎧だけで、なんでも討伐した鋼鉄兵器は爆薬の量が多過ぎたせいで、鎧にできる部分が少なくなってしまったらしい。
こうしてセリナの担当冒険者はオーバーキルが基本という伝説がまた増えてしまい、セリナは営業時間終了後、資料室で頭を抱えてうめくことになった。




