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〜緊急クエスト・月光熊討伐〜

〜緊急クエスト・月光熊討伐〜

 

 「————ク……さん!」

 

 ここは森林エリアの拠点内。

 

 「ギャ……クシーさん!」

 

 必死に声を上げているのはよりどりどり〜みん。

 

 「起きてください! ギャラクシーさん!」

 

 「な、なんだここは?」

 

 朦朧もうろうとした意識の中、銀河ギャラクシーは自分を呼びかけている声に反応する。

 

 眼球運動であたりを確認し、拠点で寝ていることに気がついた。

 

 「ギャラクシーさん! 無事で本当によかったです!」

 

 「む、小娘か。 何度も言わせるな、私はギャラクシーではない、ぎんがだと言って……おい! なんで俺はここに寝ている?」

 

 ようやく意識を覚醒させた銀河は勢いよく状態を起こす!

 

 「ちょっ! しっかりして下さい! あなたはぎんがさんじゃなくてギャラクシーさんですからね! お怪我は大丈夫ですか?」

 

 「……そうだ、私はギャラクシーだ。 そう、ギャラクシーだ……」

 

 銀河は思考が追いついていないのか、小声で自分の名前を連呼する。

 

 「大変よ! ギャラクシーさんの頭がおかしくなってしまいました! 再度回復魔法を!」

 

 「お……おい! ちょっと待て! 私の頭はおかしくなっていない!」

 

 倒れていた銀河を看病し続けていたよりどりどり〜みんは、血相を変えながら大声で叫びだす。

 

 慌てて叫ぶ彼女を黙らせようとするが、すでに複数の足音が近寄ってくる。

 

 「ぎんが殿の頭がおかしくなっただと!」

 

 「どり〜みん先生! ぎんがが目を覚ましたのか!」

 

 部屋に駆け込んできたのはガルシアと香芳美若、遅れて彼らのパーティーメンバーもなだれ込んでくる。

 

 「大丈夫か()()()!」「()()()が頭おかしいのは前からだ!」「皆さん! ()()()()()()さんは目を覚ましたばかりです! お静かに!」「()()()()()()さん! 無事でよかった!」「無事ではないかもしれんぞ! ()()()の頭がおかしくなっているらしい! 頭を打って脳に障害があるのかもしれん!」

 

 呆然とする銀河に、集まってきた全員が各々彼の名前を呼びかけ続ける。

 

 するとベッドで状態を起こした銀河の肩がふるふると震え出し、顔を真っ赤にした。

 

 「ぬわぁぁぁぁ! 貴様らわざとか! わざとなのか! 私を呼ぶならギャラクシーなのか、ぎんがなのか! 全員統一して呼ばんかぁぁぁぁぁ!」

 

 銀河は……とうとうキレた。

 

 

 ☆

 数分前、銀河が月光熊(リュヌウルス)を連れて森の奥に行った直後。

 

 「ギャラクシーを追うべきだ! あいつの強さは知っている、だがそれでも月光熊相手では!」

 

 「馬鹿か時雨! このまま追えばここにいるカマキリ共もついて来る! そうなれば月光熊の注意がこちらに向いてしまうかもしれない! ギャラクシーが月光熊を連れていった意味がなくなる!」

 

 ぺんぺんと夢時雨が戦闘中に口論を始めてしまい、残り少なくなった両断蟷螂コプマットに優位をとっていた戦線は混乱しかけていた。

 

 口論する二人に両断蟷螂が切り掛かる、その危機に即座に反応したレミスは、咄嗟に二人をカバー。

 

 「こいつらをとっとと倒して体制を立て直してから追えばいいでしょ! こんな時に何してんのよ!」

 

 間一髪で切り掛かっていた両断蟷螂の頭を打ち抜いたレミスは、二人に対して怒鳴りかける。

 

 レミスの指摘のおかげで正気を取り戻した二人は小さく頷き戦線に戻った。

 

 残りの両断蟷螂はすでに一桁に減ってはいたが、乱戦になってしまっている状況では弓での援護も難しい。

 

 標的への射線に、仲間が重なってしまう。

 

 狙いを定めた瞬間他の両断蟷螂に斬りかかられて、回避に専念させられる。

 

 ぺんぺんはどうにかして体制を整えようと、よりどりどり〜みんに視線を送るが、彼女もまた両断蟷螂に襲われていて、会話ができる状況ではない。

 

 手詰まり……そう思った瞬間、空から可愛らしい少女の声が響いてくる。

 

 「は〜い! 喧嘩はやめて状況説明してちょ〜ん!」

 

 頭上から突然響いた声に、全員が視線を集める。

 

 空から降ってきた可愛らしい女性冒険者は巨大な斧を地面に叩きつけ、両断蟷螂をペシャンコにしていた。

 

 桃色の髪を二つに括った可愛らしい女の子は自らの体よりも大きな斧を軽々と持ち上げ、斧を肩に担ぎながら人懐っこそうな顔でウインクをしつつ、満面の笑みでピースサインをしていた。

 

 「うち! ぺろぺろめろん! 鋼ランク冒険者なんすけど〜、セリナちゃんのお願いで援軍に来ちゃいました〜………てきなか〜んじ?」

 

 両断蟷螂が一撃でペシャンコになった上に、明らかに自分よりも大きな斧を軽々しく持ち上げる少女の姿に、全員驚愕し、口をあんぐり開けたまま凝視する。

 

 皆の驚きの視線に対し、徐々に困ったような顔をし始めたぺろぺろめろん。

 

 気を取り直して残っている両断蟷螂の方に体の向きを変え、襲ってくる両断蟷螂と対峙する。

 

 そして、肩に担いだ斧を目にも止まらぬ速さで振り抜いた。

 

 斧の大きさからは想像もできないほどの速さで軽々と振り回し続け、瞬きしてる間に次々と両断蟷螂は胴から真っ二つになっていく。

 

 だが両断蟷螂は生存能力が高い、足を失った胴体だけでも生き続ける。

 

 まだ生きている両断蟷螂が、地を這いながらぺろぺろめろんに攻撃を仕掛けようとすと、わずかな風切り音が鳴り、足を失った両断蟷螂の首は何の前触れもなく吹き飛んだ。

 

 「ちょ〜、ぺろり〜ん。 こいつら頭潰さんと死なんから。 さよならスラッシュは使わないでよ〜」

 

 気だるげに歩いてくるのは二刀流の少女。

 

 サラサラした長い水色の長髪をなびかせ、眠そうな瞳で文句を言う。

 

 歩くたびに頭頂部に巻いた細い黒リボンがゆらゆらと揺れていた。

 

 「くろみっち! 後処理サンキュー! じゃーこのキモキモな虫ピたち、片付けちゃうね〜!」

 

 一言声をかけた後、ぺろぺろめろんは巨大な斧を振り抜き、次々と両断蟷螂を真っ二つにして行く。

 

 くろみっちと呼ばれた少女は、ぺろぺろめろんの攻撃に合わせ、めんどくさそうにその場で数回剣を振る。

 

 すると、明らかに斬撃が届いていない距離にもかかわわず、真っ二つになった両断蟷螂の首が次々と飛んで行った。

 

 「嘘……だろ? あれで、鋼ランクなのか?」

 

 ぼそりとつぶやいたぺんぺんの隣に、また一人、背の低い少女が小走りで寄ってくる。

 

 フードを深くかぶり、薄桃色のローブを着た少女は、ペコリと頭を下げてから全員に呼びかけた。

 

 「わっ、私は! べりっちょべりーだし! 鋼ランク冒険者なんだし! き、傷がある人がいたら、直してあげちゃうんだし! 回復魔法、得意なんだし!」

 

 大きな杖を両手で抱きしめ恥ずかしそうにしながら、大きな声で全員の注目を集める。

 

 「ぺろぺろめろんさんに、べりっちょべりーさん……って事はあの二刀流の方は!」

 

 ベリっちょべりーの名前を聞き、とーてむすっぽーんは二刀流の少女に恐る恐る声をかける。

 

 上半身だけになった両断蟷螂の首を全て跳ね飛ばした少女は、腰につけられた鞘に刀を納めながらとーてむすっぽーんに眠そうな瞳を向けた。

 

 「あ、紹介遅れました〜。 あたし、すいかくろみどっす〜。 名前長いんで……くろみっちでよろ〜」

 

 眠そうな目でピースサインをして見せるすいかくろみど。

 

 「あなた方の噂は耳にしています! お会いできて光栄です! 僕は、とーてむすっぽーんっていいます!」

 

 とーてむすっぽーんは目を輝かせながら自己紹介をする。

 

 「お? その独特なセンスの名前、もしかして同期? ま、名前長いから『とってぃ』って呼ぶね〜。 よろ〜」

 

 「よ、よろしくお願いします……」

 

 ぺろぺろめろんたちの独特な話し方に萎縮するとーてむすっぽーん。

 

 両断蟷螂の群れが、ぺろぺろめろんとすいかくろみどの手により一瞬で片付けられた。

 

 すると拠点の方角から五人の人影が近づいてくる。

 

 「遅れてすみません! 先遣隊のみなさん。 約束通り、とんでもない冒険者の方々をお連れしました!」

 

 セリナを先頭にして歩いてくるのは、援軍に来た冒険者四人であった。

 

 「ちょっと! ぺろりんちゃんたち! 何勝手に突撃しちゃってんの?」

 

 「もうすでに両断蟷螂は殲滅しちゃったか〜。 道中暇だったし、肩慣らししたかったんだけどなぁ」

 

 「さすがだな、ぺろぺろめろんにすいかくろみど、しかし、私の分も残してくれてよかったのだぞ?」

 

 三人組の冒険者が各々口を開く。

 

 「はっはっはっはっは! 気持ちのいい蹂躙劇! このように豪華なメンバーが集まるのは初めてである! だが安心したまえ諸君! この私、不可能を可能にする男! 韻星巫流インポッシブルが来たからには、いかなる敵が現れようと——」

 

 「ぺんぺんさん! 早速で申し訳ありませんが、現在の状況を簡潔に教えていただけますか!」

 

 韻星巫流インポッシブルと名乗った冒険者のクソ長い自己紹介を無理やり遮ったセリナは、ぺんぺんに状況を確認する。

 

 援軍に来た冒険者たちの顔ぶれを見たぺんぺんは、一瞬だけ安心したような顔をしたが、すぐに真剣な表情に切り替わり、セリナの元に駆け寄った。

 

 「月光熊が出ました! 今ギャラクシーが囮になってくれていて……」

 

 月光熊というワードを聞いた瞬間、援軍に来た冒険者たちの顔が一瞬で引き締まった。

 

 

 ☆

 時は昨日にさかのぼる。

 

 ぺんぺんさんたちが街道のモンスター討伐に向かった直後。

 

 私は、クエストを終えて帰ってくる冒険者たちに声をかけ続けた。

 

 声をかけようとしているのは四人、街道のモンスターはぺんぺんさんたちが一掃してくれているはずなので、移動速度が速い竜車で向かうつもりだ。

 

 定員は五人の為、移動中の安全も考えると 最大でも二台までしか手配できない。

 

 余裕を持って四人に声をかけ、後は私が担当していない有名冒険者に頭を下げるしかない!

 

 まず最初に帰って来たのは、声をかける予定だったぺろぺろめろんさんたち。

 

 今かなり有名になっている、三人の女性冒険者パーティー。

 

 帰ってきた彼女たちが私にクエスト達成報告をしにやって来る。 そこで私が森林で大量発生した両断蟷螂の群れの事を簡単に説明すると彼女は……「虫ピか〜。 あいつらきしょいけど、セリナちゃんが困ってんなら助けるに決まってんじゃ〜ん!」と二つ返事で了承してくれた。

 

 彼女たちは現在鋼ランク、しかし前衛二人の実力はすでに金ランク級と言われている。

 

 その前衛二人は冒険者育成学校時代からかなり注目されていた。

 

 並外れた身体能力と戦闘センスを併せ持つすいかくろみどさん。 本名、チャイカ。

 

 小柄で華奢な体躯からは想像もつかない圧倒的なパワーを持つぺろぺろめろんさん。 本名、ペローネ。

 

 そして育成学校で二人と仲良くなった、回復魔法を得意とするべりっちょべりーさん。 本名、リズベリー。

 

 彼女は回復魔法のエキスパート。

 

 この世界の回復魔法は一瞬で傷が治るような便利魔法ではない。

 

 自己治癒力を活性化させて傷の治りを早くする治癒タイプと、感覚神経を刺激して痛みを緩和させる麻酔タイプ。

 

 べりっちょべりーさんは両方のタイプを使える、しかもかなり高い精度で使うのだ。

 

 前衛二人の凶悪っぷりが目立っていたせいで育成学校で目立ちはしなかったが、二種類の回復魔法が使える彼女はかなり優秀である。

 

 全冒険者の中でも両方を使えるのは片手で数えられる程度しかいない、その上彼女のすごいところは他にある。

 

 一度魔法をかければ、傷が完全に治癒するまで魔法が解けない。

 

 つまり術者である彼女がその場にいなくても、治癒は継続されるのだ。 怪我人が多数いようが関係ない。

 

 一度魔法をかけてしまえば、彼女が昼寝していようが関係なしに治癒は継続されるのだ。 それも複数人同時に。

 

 そしてこの子たちは私が初めてニックネームを名付け、同時に黒歴史を作ることになった元凶である三人。

 

 ちなみに、彼女たちが鋼ランクなのには少々変わった理由がある。

 

 その理由に、ぺろぺろめろんさんはこうコメントしている……「私たち! ズッ友だから! べりちょんが銀に上がんないとうちらも銀にはならないし! これ、決定事項だから! そう言うことでよろ!」

 

 と、言うわけで彼女たちは鋼ランクなのだ。

 

 この件は少し複雑で、私も冒険者協会本部と少し揉めた。 今はそんなことどうでもいいのだが……

 

 彼女たちは『お金なんかより楽しく冒険!』と言うコンセプトのもと、モンスターたちを惨殺…… もとい討伐して回っている。

 

 ぺろぺろめろんさんたちを捕まえた私は、お目当てであるもう一人の冒険者を探す。

 

 次に声をかける人もすでに決まっているのだ。

 

 先に向かってくれている皆さんたちのために、ものすごい冒険者を連れて行くんだ!

 

 そう心に決めて協会内をうろついていると、キャリーム先輩が急に声をかけてきた。

 

 「……セリナ。 この三人は私が担当する冒険者さんの中でもトップクラスの強さを誇る三人よ」

 

 そう言って連れて来たのはかなり有名な三人組だった。

 

 龍雅りゅうがさん、貂鳳てんほうさん、虎宝こほうさんという全員が金ランク、第一世代で構成されたパーティーだ。

 

 その実力は冒険者協会だけに収まらず、王都中に知れ渡っている。

 

 弓の達人である虎宝さん、本名はエジリス。

 

 黒髪ポニーテールで超美形男子、クールな見た目に反して口調はちょっとチャラ男っぽい。

 

 風魔法で生成した長弓と弓矢を使う。

 

 彼が放った矢は、風の力を使って標的に当たるまで追跡し続ける。 追跡性能を無くせばその威力はとんでもなくなるらしい。

 

 龍雅さんは槍の達人、本名はミューラ。

 

 若干癖っ毛で髪は短めの女の子。 この三人パーティーのリーダーでもある。

 

 白髪で目つきが鋭い上に堅苦しい口調のせいで男に間違えられやすいらしい。

 

 彼女は雷魔法を駆使して全身に電流を流し、人間離れした反射神経を発揮するとか。 噂では五メーターくらいの間合いなら、銃弾を素手で掴めるらしい。

 

 特殊な装備をつけていることで、動けば動くほど魔力は溜まっていき、魔力切れも起こさない。

 

 その上全身から強力な静電気を発生させて、静電気の反動を利用すれば空中でもある程度動けるとかいう話だ……

 

 最後に貂鳳さん、本名はシュバルツ。

 

 紺色の髪でかなりの美人さん。 長い髪を二つのお団子にまとめていて、装備はチャイナ服に似ている。

 

 神秘的なオーラが出てると錯覚するほどの美人さん、しかし見た目に反して口調は柔らかくおっとりしている。

 

 この人は接近戦の達人、彼女に戦いを挑むと精神的に崩壊するとか……相手の力を利用して戦うため、勝てそうなのに勝てない錯覚に陥るらしい。

 

 実はサディスティックで腹黒いのかもしれない。

 

 「皆さんに事情は説明してあるわ、あんたのクエストに連れて行きなさいよ」

 

 「キャ! キャリーム先輩! その方々はかなりの手練れで……」

 

 私は大物すぎる人を紹介されて流石に慌てる。

 

 「手練れだからこそ紹介してるんじゃない、知ってるわよ? 上級モンスターが発見されたって言う噂が出てるんでしょ?」

 

 そう、この両断蟷螂蹂躙戦が決まる前に、私は森林エリアで上級モンスター目撃の噂を耳にした。

 

 その噂を調べ、ここ最近の森林エリアで出ているクエストに少し違和感を感じた私は、担当している冒険者の中から信用できる五人に声をかけて調査依頼に行ってもらったのだ。

 

 「噂なのに大袈裟って思うかもしれないけど……備えておいて損はないはずよ?」

 

 キャリーム先輩はモジモジしながら私に金ランクの大物三人を紹介してくれた。

 

 モジモジしてるキャリーム先輩……ぬふふ。

 

 「ちょっと! 何よその目は! なんかちょっと……身の危険を感じるからやめてちょうだい」

 

 しまった! キャリーム先輩の魅了攻撃を受けていた! しかし怯えるキャリーム先輩もたまらん!

 

 私は紹介していただいた三人と軽く自己紹介を済ませ、最初に声をかけることを決めていた冒険者の元に行く。

 

 韻星巫流さん、第二世代の銀ランク冒険者。 本名はムゲンさん。

 

 顔に小皺が目立つが、年は三十くらいの男性でいつもきっちりした格好をしている。

 

 ニックネームに違和感を感じた人もいるだろう。 一応言っておくが、このニックネームの命名はレイトだ。

 

 以前私は彼女に聞いてみた、韻星巫流さんの名前の由来はなんですか? と。

 

 彼女は言った「彼の本名をもじったのさ♪」

 

 だから私はこう言った「ムゲンの英語はインフィニティですよ? ちなみにインポッシブルは不可能とかありえないって意味です」

 

 その瞬間、レイトが吹いていたオカリナにヒビが入ってた。 その時、私は笑いをこらえるの大変だった。

 

 話は戻るが韻星巫流さんも変わり者で、すぐ自分の世界に入ってしまい話がとても長い。 だが第二世代だしその辺はしょうがない。

 

 実力は確かなので声をかけることは決めていた、それに彼の目標のために私は全力でサポートしたい。

 

 今日のクエストを終えて帰ってきた韻星巫流さんに、事情を話すと……

 

 「おお! セリナさん! あなたのためならばこの韻星巫流、どんな困難なクエストでもこなして見せましょう! 何せこの私、不可能を可能にする男! 韻星巫流なのですから! 大船に乗ったつもりでおまかせを! しかし、両断蟷螂の蹂躙戦ですか、懐かしいですなぁ、そう! あれは私が銅ランクだった一年前の時……」

 

 話が長いので以下略。

 

 彼の戦い方は中距離だし超カッコいいのに、本当に残念な人だ。

 

 キャリーム先輩の助力もあり、七人もの実力者が集まった。

 

 両断蟷螂の群れ相手にこのメンバーは豪華すぎる気もするが、すごい冒険者を連れて行くと約束したのだ、少しでも恩返しになれば嬉しい。

 

 私はその日の内に竜車二台を手配し、翌日の朝一で出発することになった。

 

 竜車の速さは小型のバイク並み、実際に乗ってみるとかなり早く感じる。

 

 そのため竜車は準備が大変なのだ、朝一とは言っても発車は九時頃。 到着はお昼前になってしまうだろう……。

 

 予定通り、先遣隊のおかげで街道にモンスターはほぼいなかった。

 

 そして今、拠点に到着しても銅ランク冒険者たちがいないことを不審に思い、拠点で監視をしていた岩ランク冒険者たちに状況を聞いてすぐに森に入った。

 

 彼らが到着したのは朝八時だという、中継拠点から夜明けと共に出発してくれたのだろう、本当に感謝の思いが溢れてくる。

 

 すぐに皆さんを連れて森に入る、だが入ってすぐにぺろぺろめろんさんたちが「あ! あっちあっち! ヤバイヤバイ!」とか騒ぎながらどこかに走っていってしまったため、後を追ってみれば……

 

 そこに立ってたのは真っ青な返り血を全身に浴びながらも、満面の笑みをしているぺろぺろめろんさんだった。

 

 ……怖いよほんと。

 

 

 ☆

 そして今に至る。

 

 「月光熊相手に一人で? なぜ止めなかった!」

 

 ぺんぺんさんの簡易的な説明を聞いて龍雅さんはかなり怒っていた。

 

 私はすぐに、予想よりも状況が悪くなっている事に焦りを感じる。

 

 月光熊の情報はある程度把握している、しかし実際に討伐したパーティーは知らない。 そのため今知っているのは基本的な情報のみ……

 

 月光熊は宝石ランクの上級モンスターだ。

 

 ここで私が判断を謝れば、ここに来てくれたみんなの命を危険に晒すことになる凶悪な敵。

 

 「地図ありますか?」

 

 私は思考を切り替える。

 

 いかに早く、いかに効率よく、銀河さんを救出することだけに思考を回す。 地図を確認しつつ銀河さんの思考を予測すること数秒。

 

 「湖! 鋼ランク以上の皆さんはすぐに向かって下さい。 銅ランク以下は撤退して休息を。 鬼羅姫螺星(きらきらぼし)さん! 重要な事をお願いしたいのですが構いませんね?」

 

 私の背後に音もなく鬼羅姫螺星さんが現れる。

 

 「お安い御用でやんす」

 

 私は小さく頷き、他の高ランク冒険者たちに銀河さんの救出を最優先とした指示を出す。

 

 銀河さんが月光熊と戦うならきっと考えるはず……

 

 遠距離攻撃手段が少ない月光熊を相手にするのだ、武器を変形させて浮遊できる彼なら湖の中心付近からの遠距離攻撃で時間を稼ごうと……

 

 すぐに助けにいかなければ、絶対に殺させない!

 

 「先遣隊の皆さん、両断蟷螂への迅速な対応、ありがとうございます。 依頼したのがあなた方で本当によかった! 私が来た以上……誰も死なせません。 そしてこの戦いは勝ったも同然です」

 

 私の言葉に、全員がほぼ同時に安心したような笑みを浮かべ、闘気をみなぎらせた。

 

  

 ☆   

 湖のほとりに横たわる銀河の目の前には、腕を振り上げた月光熊が見える。

 

 「……間に合ったね」

 

 虎宝のその一言にレミスは顔をしかめた。

 

 長弓が主武器の二人は遠距離に陣取ってのカバーを命じられたが、まだ肝心の戦場に到着してはいない。

 

 月光熊までの距離はかなり離れている。 視力がいいレミスと虎宝だけが確認できる長距離。

 

 しかし虎宝は何も持っていない右腕を胸の高さに上げる。

 

 すると魔力で生み出したと思われる長弓が虎宝の右手に具現化された。

 

 そして弓をつがえるようなポーズで左の指先で弦を弾くような仕草をする。

 

 「……飛べ」

 

 たった一言。

 

 死の宣告を下すかのような、冷え切った口調で告げる虎宝。

 

 隣を走っていたレミスは、その冷たい声音に背筋が凍った。

 

 横目に虎宝を一瞥したが、すでに虎宝は弓を構えていなかった。

 

 レミスは再度月光熊を確認すると……

 

 彼女の目に映った月光熊は右腕が大きく歪んでいた、そして次の瞬間二人の元に突風が吹き荒れる。

 

 月光熊に攻撃が当たった際の余波が、離れた距離にいた二人の元まで届いたのだ。

 

 (今の一瞬で? ……この人は目にも留まらぬ速さで矢を撃ち放っていたって事?)

 

 ありえない射出速度、そしてその圧倒的な威力を隣で見たレミスは唖然としていた。

 

 「速すぎて見えないっしょ? 連射速度には自信あるよ?」

 

 「これが、金ランク冒険者!」

 

 一秒間に八射、これが虎宝の自己最速の射出速度。 この記録はあくまで矢を放つだけの場合。

 

 追跡する矢を放つ場合は、その矢が命中するか、本人が能力を解除するまで次の矢は放てない。

 

 しかし単純に威力のみを追求するならば、左手にあらかじめ魔力を込め続けていればすぐに高火力の矢が放てる。

 

 彼が魔力を溜め始めたのは湖に向かい始めた瞬間、そこから約三分間貯め続けた魔力は……

 

 銀河を襲う直前だった月光熊を吹き飛ばし、湖の中心に巨大な飛沫を巻き上げるほどだった。

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