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ナンパなんてしてないでクエスト行ってこい!  作者: 星願大聖
激闘! 滅階級モンスター討伐戦
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〜火山龍討伐戦第四陣・空振りの破壊光線〜

〜火山龍討伐戦第四陣・空振りの破壊光線〜

 

 私が立てた火山龍(ヴォルカディーユ)討伐作戦において、とどめを刺しにいく第五陣の次に重要なのがこの第四陣である。

 本当ならば第三陣の後に動いて欲しかったが、火山龍の視力があることは意外と幸いなのかも知れない。

 

 そんな重要なはずの第四陣の主力部隊、雷魔法に適性を持った冒険者たちの半数は、私とキャザリーさんが設計した新兵器の前で暗い顔で立ち尽くしていた。 キョトンとした顔で暗い表情の冒険者達を見る残りの半数。

 こちらが新メンバーのぬらぬらさん、ぴりからさん、鈴雷さん、韻星巫流(インポッシブル)さん、そして設計者であるキャザリーさん。

 

 「どうしたんですかみなさん、久々の顔合わせですよ? そんな暗い顔してないで再開を喜んではどうです?」

 

 チーム電磁砲(レールガン)・改の古株である暗い顔の冒険者たちに、にやけるのを我慢して声をかける。

 

 「本当にこれは必要なんですか? セリナお姉ちゃん………」

 

 ダジャレもクソもないテンションのレミスさんは、少し前から私のことをセリナお姉ちゃんと呼ぶようになっている。

 不快ではない、むしろエルフにお姉ちゃん呼びされるとか少しテンション上がるので特に何も言わなかった。

 

 「必要ですよ? おそらくこの電磁砲で頭を狙っても仕留めきれないので、代わりに違う部分を狙って火山龍の攻撃手段を完封するための一撃なんですから」

 「どうしてこの人たちはこんな顔をしているのかしら? 私の設計した新兵器に不安でもあるの?」

 

 不服そうな顔のキャザリーさんは腰に手を当てて余裕そうな表情だ。

 

 「キャザリーは、未経験だからな。 一度経験した私たちにとってはもう二度と経験したくない悪夢なのだ。 自分で言うのもなんだが、私は華嘉亜天火を救出したし、その活躍に免じて見逃してはくれないだろうか?」

 

 泣きそうな顔の龍雅さん、普段は気高い女性のイメージだが、今は見る影もない。

 

 「それを言うなら俺もシュプリムを援護したんだ、頼む………キャステリーゼ二世を危険な目に合わせたくない」

 「おいおいぺんぺん、俺せっかくこんなに魔力ためたんだから、そんなこと言うなって? 以前よりどでかいのぶっ放そうぜ?」

 

 古株の中で唯一ケロッとしている虎宝さんが、体育座りで人形をいじっているぺんぺんさんの肩に優しく手を置いた。

 

 「みなさん、前線の冒険者さんたちが火山龍の足止めに入りました。 この世の終わりのような顔はやめて魔力溜め始めてください」

 

 そんな彼らに私は無慈悲に指示を出す。

 

 「さあギャラクシーさん! 今回も矢を形成したらその新型電磁砲に装填して、魔力貯めるの手伝ってください!」

 「あ、ああ。 久しぶりに本名で呼ばれたのは嬉しいが、今の状況はとても嬉しくない………」

 

 嫌そうな顔で、渋々特殊金属を矢の形に形成する銀河(ギャラクシー)さん。

 テンションが低い古株たちを、不思議そうな顔で見ながらゴム製コートに袖を通す新米さんたち。

 

 「古株のみなさんは早くコート着てください、いらないって言うなら別に構いませんが………。 さあぬらぬらさんたち! 初めてだとは思いますが手順は簡単ですよ! この兵器に手を添えて魔力を注ぐだけ! ちゃちゃっと溜めて下さい!」

 

 こくりとうなづいて電磁砲に手を置くぬらぬらさんたちを見た古株勢は、慌ててゴム製コートを着て魔力を注ぎ始めた。

 今回の電磁砲、設計にも一流の土木のお兄さんたちが携わっている上に、化学のスペシャリストであり天才的な頭脳を持つキャザリーさんが監修している。 これは威力に最大限の期待ができそうだ。

 あの厚い皮膚に少しでも穴をあけることができれば、こちらの勝ちは確定なのだから。

 

 

 

 火山龍と戦闘する前線の第四部隊、この部隊の役割は動き回る火山流の首をワイヤーで固定する事。 電磁砲を確実に当てるために動き回る首を押さえつけなければならない。

 電磁砲を当てたあとはブレスの対策も待っている。

 

 「朧三日月さん? 準備は整っているかな?♪」

 「無論じゃ、なんなら動きを止めるのに加わっても構わんぞ?」

 

 前線の最重要人物である金ランクの朧三日月に声をかけたレイト。

 後方から火山龍との戦闘を眺める朧三日月には重要な役割があるのだ。

 

 「魔力の温存をしていてほしいからね♫ もう少し待っていてくれ♪」

 「分かっておるわい。 全く、セリナさんとか言ったな? あの小娘はとんでもない策を考えてくれる、このわしも………久々に(たかぶ)ってくるわい」

 

 歪に口角を上げる朧三日月を横目に見ながら、レイトは拡声器を口元に寄せる。

 

 「前線の冒険者の方々? ワイヤーはセットできたのかな? 火山龍は無意識に背中の火口付近を守ろうとしている、早く首を押さえ付けないと後方のセリナから大目玉を食らってしまうよ?♩」

 「「「「分かってまぁぁぁぁぁす」」」」」

 

 前線で動き回りながら火山龍に攻撃の的をしぼらせないようにする冒険者たち。

 ここには雷属性を使わず機動力にたける冒険者が集まっている。

 

 貂鳳、すいかくろみど、夢時雨、閻魔鴉、極楽鳶の五名だ。

 彼らはワイヤーで火山龍の首を固定しなければならない。

 

 「あのゴリラ女みたいに」「地面にめり込ませれば早い気がする!」

 「あっ! こら双子! 後でぺろりんにちくるから!」

 

 動き回りながらそんなことを言い合っているすいかくろみどと双子。 そんな彼らを一瞥しながら貂鳳が声を上げる。

 

 「頭がデカすぎて首の上を通せないよ! この中で一番軽い子は誰!」

 

 動き回る冒険者たちを目で追いながら、狙いを済まして貂鳳に襲い掛かる火山龍。

 貂鳳は流れるような足取りで火山龍の顎の下に潜り込んで、大きく開いた口の下顎を手掌で打ち上げる。

 鈍い音がした後、打ち上げられた衝撃で火山龍は口を勢いよく閉じた。

 

 「俺は多分一番重いぜ? こん中で一番強えからな!」

 

 ちょうど貂鳳の隣に着地した夢時雨がそんなことを言う。

 

 「へえ、夢時雨君はぺろりんちゃんに勝てるのかな? 私、舞踏大会であの子に勝ってるけど?」

 「………ちっ」

 

 余裕の笑みで答える貂鳳の正論に、言い返せない夢時雨は舌打ちをしながらすぐに移動する。

 

 「こらゆめぴー! イケイケモードだからって調子のんな! それとてんてん! ぺろりんに勝てたのは、た・ま・た・まだからね! あんたもスリットからいかがわしい足見せて調子乗んなこの商売女!」

 

 空中を不自然な軌道で動き回るすいかくろみどから野次が飛ぶ。

 

 「はぁ? こ、この戦闘服は動きやすくするためにスリット入れてるだけだから! しょ、商売女とか言わないでよ!」

 

 涙目で反論する貂鳳、しかし頬を染めながら戦闘服のスリット部分を少し摘んで足を隠している。

 

 「思いっきり気にしてんじゃん!」「お茶目さんか!」

 

 そんな貂鳳に双子までもがちゃちゃを入れる。

 バックステップで火山龍から距離をとりながら、貂鳳は茶々を入れてきた双子に視線を向けると、ハッとした顔で双子の方に猛ダッシュする。

 驚いた双子は無意識に逃げようとしたが、極楽鳶が貂鳳に羽交締めされた。

 

 「やめて! 商売女に捕まった! ちゃちゃ入れたの謝るから許して!」

 「おい商売女! 弟はまだ初物(はつもの)なんだ! 心に決めた女もいるから離してやってくれ!」

 

 捕まった弟を心配する兄の閻魔鴉、しかし思いっきり貂鳳から逃げていて助けに行こうとはしていない。

 

 「商売女とか言うな! この子絶対軽いでしょ! 私に作戦があるの!」

 

 涙目で暴れる極楽鳶を押さえつける貂鳳。

 

 「この子にワイヤー持たせてぶん投げるから! 反対側で誰かキャッチしてちょうだい!」

 「「………え?」」

 

 すっとぼけた顔で双子が同時に声を出した。

 

 「ところでからすっち! とんびんが心に決めた女の子について詳しく!」

 

 そんなすっとぼけた顔の閻魔鴉にすかさず声をかけるすいかくろみど。

 

 「そ、それは………弟に直接聞け!」

 「てめえら真面目にやりやがれ!」

 

 夢時雨は八つ当たりのように火山龍の頬を殴る。 しかし硬い皮膚を殴ったせいか、痛そうに手を抑えながら大きく距離を取った。

 貂鳳も極楽鳶を小脇に抱えて大きく距離を取る。

 唯一、一番近くに残ってしまったすいかくろみどに火山龍の巨大な顔が向いてしまう。

 するとすいかくろみどは二本の刀を真横に向け、何かに引っ張られるように不自然な軌道で方向転換する。

 勢いよく噛みつこうとした火山龍は、急にいなくなったすいかくろみどを見失い眼球運動で辺りを見渡す。

 

 すいかくろみどは炎、地属性魔法を合成させて剣の形を自由自在に伸び縮みさせることができる。 その間合いは最長八メートル。

 剣を伸ばして岩に刺した後、勢いよく長さを戻して空中で急な方向転換することもできるのだ。 この移動法を使えば、ある程度重力に逆らった軌道で空中も高速移動できる。

 火山龍の噛みつきを回避したすいかくろみどが、岩から剣を抜きながら声を上げた。

 

 「ヘイ! てんてん! パース!」

 

 反対側の貂鳳に声をかけるすいかくろみど。

 するとニヤリと笑った貂鳳は極楽鳶の腹部にワイヤーを縛り付け、襟首を掴んで大きく振りかぶる。

 そして振りかぶったタイミングで極楽鳶はお腹に巻かれたワイヤーを握りしめながら顔を青ざめさせる。

 

 「あの、商売おん………貂鳳さん。 お腹のワイヤー少しきついんでゆるくしてくれません?」

 「問答無用! 商売女とか言ってくれたんだから覚悟しなさい………ねっ!」

 

 思い切り火山龍の首の上に極楽鳶を投げ飛ばす貂鳳。

 

 「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 投げられた極楽鳶は悲鳴を上げながら涙目で空を飛ぶ。 火山龍は声に気づいて振り向くが、そこにいるのは貂鳳一人。

 

 「あら、ちょうどこっちを向いてくれてよかった」

 

 ぼそりとつぶやく貂鳳。

 火山龍の視線と入れ違うように、首の真上を山なりに飛んでいく極楽鳶。 涙目の彼を空中でキャッチしたすいかくろみどは、再度刀を着地地点に向ける。

 高速で着地地点に移動したすいかくろみどは小脇に抱えた極楽鳶の腹からワイヤーを解いた。 着地地点には巨大な杭が打ち付けられている。

 

 「てんてん! こっちオッケー!」

 

 すいかくろみどはあらかじめ設置されていた杭にワイヤーをくくりつける。 この杭もキャザリーの指示で打ち付けられていた物だ。

 この杭はぺろぺろめろんが打ったため、ちょっとやそっとの力ではびくともしない。 貂鳳は振り向いてきた火山龍の下顎を蹴りあげ、無理矢理口を閉じさせた。

 そして貂鳳のすぐ近くに駆けてくる夢時雨に、朱に染めた頬でスリット部分をつまみ直しながら無言でワイヤーを差し出す。

 

 すかさず貂鳳からワイヤーを受け取った夢時雨。

 スリットをつまんでいる貂鳳をちら見して鼻で笑った後、ワイヤーを巻き取るための巻き取り機の元に走る。

 ワイヤーを絡め取る巻き取り機は雷の魔石で動く仕掛けになっており、巻き取る馬力はかなり強い。

 夢時雨はその巻き取り機にワイヤーを括り付ける。 そしてワイヤーをくくりつけた巻き取り機は勢いよくワイヤーを吸い込み始めた。

 

 「合図出せ、閻魔鴉!」

 

 ギュルギュルと音を立てながら、ワイヤーを巻き取る機械の音が辺りに響いていく。

 火山龍は必死に抵抗しようと口をぱくぱくさせるが、ワイヤーを巻き取る力に抵抗できず首を地面に叩きつけられた。

 その姿を確認した閻魔鴉は、腰のアイテムバックに手を突っ込む。

 

 「俺は弟の無念を無駄にしない!」

 

 夢時雨に指示された閻魔鴉は、青い狼煙を上げた。

 そして一件落着したかと思われた戦場で、巻き取り機の方に視線を向けた貂鳳がつぶやく。

 

 「さっき鼻で笑ったよね夢時雨君………念のため、夢時雨君も投げようか! 予備のワイヤーもう一本あるし!」

 「遠慮しておきます!」

 

 夢時雨は、貂鳳の提案を即座に断った。

 

 

 

 「ねぇさぁぁぁぁぁん! 助けてねぇさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 「お! おおおおお落ち着くんだ子猫ちゃん! これは君のところの縦ロールの子猫ちゃんが設計した物だろう? 大丈夫! 大丈夫なはずだ! 大丈夫であってくれ!」

 「主よ、我々をどうかお救いください………どうか天罰はあの火山龍に!」

 

 どこかで見たことある光景が目の前に広がっている。

 

 「にゅは! ぬはははは! この院星巫流! 不可能を可能にできたとしても! 恐怖はどうすることもできぬ! ましてやこんな………」

 「あっはっはははははは! 私の設計は完璧よ! バッチバチ言っているけど完璧なはずよ! あっはっははははははは………ははは」

 

 例に従って涙目で叫ぶチーム電磁砲・改の新メンバー。

 キャザリーさんに関してはテンションがおかしいが、意外と古株組は諦めたような表情で終始無言だ。

 顔は真っ青だが………

 

 「なぁセリナさん、合図はまだなのか?」

 

 龍雅さんがたまらず私に潤んだ瞳を向ける。

 普段気高い感じの女性が、潤んだ瞳を私に向けている? たまらんなぁ。

 

 「合図がまだなんで、もうちょっといってみましょう!」

 「なんでそんな軽いノリなんだ! キャステリーゼ二世が怒っているぞ!」

 

 空いた片腕でぬいぐるみを抱きしめているぺんぺんさんから野次が飛ぶ。 しかし合図が上がらないものはしょうがない。

 

 「レミスさん、狙う場所はさっき伝えた通りです。 今回もよろしくお願いします!」

 「うぅ、なんでいつも私なんですかぁ!」

 

 今回レミスさんに狙ってもらうのは火山龍の火口付近。 マグマをためている部分だ。

 ぷぷるんさんの話によると、火山龍は魔力をマグマに変換して、背中のあたりにためているらしい。

 この部分が背負っている火山の麓にあたる。

 どうやら噛みつき攻撃は相当怒った時や、火口付近に近づこうとした時に仕掛けてくるようだ。 火口付近は火山龍にとってとても重要な器官なのだろう。

 

 ならばマグマをためているその器官を消し飛ばしてしまえば、しばらく噴火攻撃もできない上に魔力も大量に消費することになる。

 だがあの熱い皮膚はそう簡単に貫通させることはできない。 紅焔さんなら切れるかもしれないが、彼女一人に特攻させるのは危険すぎる。

 そこで、現状最強の火力を出せるこの機械の出番だ。 頭を狙ってとどめを刺すという案も出たが、おそらく不可能だ。

 せいぜいあの厚い皮膚に穴を開けられる程度だろう。 だが、それで十分だ。

 

 「あ、合図上がりました。 レミスさん! 首は押さえつけられてるんで目標丸見えです! ぶっ込んじゃってください!」

 「お嬢さんは、なんでそんなに冷静なんだぁ!」

 

 バチバチと物騒な音を立てながら青白い稲妻を迸らせている新型電磁砲。

 触るのは怖いけど今回の設計は完璧と言ってもいいだろう。

 怖がる必要はないと思うのだが………

 

 「まあ私も怖いですよ? そんなことよりぴりからさん、もう離れてください。 近くにいると打った衝撃で吹っ飛ばされるので」

 

 私の一言でレミスさんまでもがそそくさと離れようとしていたが、遠見の筒で火山龍を監視しながらさっと襟首を捕まえる。

 

 「レミスさんは目がいい上に私が知っている冒険者の中で最高の狙撃手です。 さ? 打ってください?」

 

 筒を覗いたまま優しく語りかける私。

 以前は早く早くと迫ったせいで相当怖い目にあわせてしまったらしいので、今回は優しく促すことにしている。

 

 「セリナお姉ちゃん………そんなこと言われても怖いものは怖いんです!」

 

 逃げようとするレミスさんの襟首を勢いよく引き寄せて、頬をぶにゅっとつまみ、ヌッと顔を近づける。

 

 「二度は言いませんよ? 私の担当冒険者の中で、一番信頼していて私の自慢である狙撃手のレミスさん? 前線の皆さんの働きが無駄になる前に打って下さい、ね?」

 

 私は笑顔で告げたはずなのだが、なぜかプルプルと震えながら照準に手を添えるレミスさん。

 それを確認して勢いよく発射の合図を口にする。

 

 「とぅーた!」

 「やっぱりね! 分かってましたよ!」

 

 泣き事を言いながらも、しっかり電磁砲を発射するレミスさん。

 真横に雷が落ちたような轟音と共に、衝撃波で全員吹き飛ばされる。

 私も吹き飛ばされたが今回は以前のように意識は保っている。

 同じく宙を舞っていた近くのキャザリーさんが、ぼそっとつぶやく声が聞こえた。

 

 「『とぅーた』って………何語よ?」

 

 

 

 轟音と共に放たれた薄黄色の雷閃が、火山龍の背中へと一直線に飛んでいく。 雷閃は、吸い込まれるようにマグマを貯める火口付近に直撃した。

 大地が震え、ばちばちと音が響く中、たまらず叫んだ火山龍の咆哮が耳に突き刺さる。 流石の滅界急モンスター、その皮膚は厚くて硬い。

 

 セリナの予想通り、さすがの電磁砲でも外皮に穴を開けることしかできなかった。 初めはこの電磁砲で直接頭を潰そうとしていたセリナだったが、仕留めるには火力不足だったようだ。

 電磁砲は火山龍の厚い皮膚に穴を開けることしかできなかった。

 貫通することはなかったが、火口付近にはマグマが貯められている。 電磁砲の圧縮された電気がマグマと接触し、次の瞬間大爆発が起こった。

 

 衝撃で要塞全体に突風が巻き起こる。 突風が止んだのを確認した瞬間に、一人の冒険者が即座に駆け出した。

 腰に刀を下げた壮年の男性。 その男性を中心に霧が立ち込める。

 

 「(まどろ)うがよい、火山龍」

 

 ぼそりとつぶやく壮年の男性。

 

 「朧三日月さん! ブレス、およそ三十秒できます!」

 

 要塞の頂上から響いてくるクルルの声に、朧三日月はニヤリと口角を上げる。

 朧三日月はワイヤー巻き取り機に手をかけて、火山龍の拘束を緩めた。

 

 「すでに、火山龍は幻影の中じゃ。 哀れにも最後の魔力で汚い花火を打ち上げてくれよう?」

 

 そしてワイヤーの拘束から逃れた火山龍は勢いよく首をあげて、誰もいるはずのない空を仰いだ。

 

 「ほうれ見たことか、ばっちり幻影に騙されておるわい。 お主にはその方向に要塞が見えておるんじゃな?」

 

 にやけながら呟いた朧三日月は、火山龍に背を向けて要塞へ歩き出した。

 したり顔でゆっくりと歩いている朧三日月の背後で、火山龍は空にブレスを放つ。

 オレンジ色の破壊光線は誰もいるはずのない空へ伸びていく。

 

 「作戦は大成功じゃな? 貯蔵したマグマは消失し、頼みの綱であるブレスも空振り。 電磁砲とマグマが反応して火口付近での大爆発。 自分の溜めたマグマのせいで、自分にも大ダメージじゃ。 怒る気持ちもよくわかるが、お前さんは我々の命を脅かす災厄じゃ。 自分自身の生まれを恨むが良い。 我々の前に立った事は不運に思うしかないのう?」

 

 役目を終えた朧三日月は余裕の表情で要塞へ戻る。 火山龍は火口付近を大きく抉られ、力なく倒れている。

 もうマグマを溜め込む火口は消し飛ばした。

 自分自身が溜めたマグマが原因で、火口を破壊してしまったのだ。

 火口を失った火山龍は溜め込んだマグマを体に纏って傷を癒すことも、噴火攻撃をすることもできない。

 唯一できる火炎操作も凪燕に完封されている。

 後はあの巨体にとどめを刺すだけとなった。 そして砦から拡声器を通したセリナの声が響いてくる。

 

 「お待たせしました第三陣! 出番ですよ! ここからがラストスパートです! 気合い入れていきますよ!」

 

 セリナの合図に答えるように、もう一人の受付嬢が声を上げる。

 

 「聞いていたわね第三陣! さっきはフライングした冒険者もいたけれど、ようやく出番が来ましたよ! この私、キャリームが指揮をとる第三陣の活躍で、勝利を確定させるのです!」

 

 待ってましたとばかりに倒れ伏す火山龍に突撃していく前衛冒険者たち。

 火山龍はそれを確認して、気だるげな動きで首だけを起き上がらせ、臨戦体制に入った。

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