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〜鋼ランククエスト・首刈蟹討伐〜

 〜鋼ランククエスト・首刈蟹討伐〜

 

 木枯月こがらしのつきもずいぶんの日和が経過した今日この頃。

 

 積雪月せきせつのつきが近くなり、少し肌寒い日の朝。

 

 私の目の前ではぬらぬらさんとぴりからさんが、受けるクエストに悩んでいた。

 

「今日残ってるのはこの三個だけですか?」

 

「申し訳ないですが、他のものは既に受注されてしまいました……」

 

 ぬらぬらさん達が見ているクエストは三つ。

 

 鉄ランククエスト・小鬼《 ルガティット》十体討伐

 鉄ランククエスト・角兎ラピコルヌ十体討伐

 鋼ランククエスト・首刈蟹リケピションクラブ五体討伐

 

 恐らく鉄ランククエストなど受けてもたいした報酬にならないため、選択肢は首刈蟹一択、しかしこれに悩む理由があったのだ。

 

「なぁぬらぬら、ボクが彼らをどうにかして撃ち抜くからこれでいいじゃあないか?」

 

「しかし、私は皮膚や甲羅が厚いモンスターが苦手で……」

 

 そう、ぬらぬらさんは装甲が硬い相手が苦手なのだ。

 

 首刈蟹は鋼鉄兵器程ではないがかなり硬い。

 

 武闘大会で無敵とまで言われたぬらぬらさんでも弱点があるのだ。

 

「私の槍では火力不足です、盾となることもできません。 これではぴりから一人に負担が……」

 

 そう、ぬらぬらさんの弱点は火力不足。

 

 銀ランクの中でもかなりの非力なのだ、それを補うぴりからさんも、装甲が硬い相手では決定打に欠ける。

 

 二人はクエストの受注を諦めようとしていたその時だった。

 

「姉さん、鋼ランク冒険者の前衛が必要ですか?」

 

 ぬらぬらさんの背後に急に現れたのは、武闘大会でコテンパにされていた鈴雷さん。 ぬらぬらさんは鈴雷さんの声を聞いた瞬間、姿がぶれて……

 

「……何やってるんですかぬらぬらさん。 冒険者が受付カウンターに入っちゃダメですよ?」

 

 ぬらぬらさんはいつの間にか、カウンター越しに話を聞いていた私の足元に、震えながらしゃがみこんでいた。

 

 

 ☆

 朝のクエスト受注ラッシュが終わったので、カフェエリアに移動して三人の話を聞くことにした。

 

 丸テーブルにも関わらず、ぬらぬらさんは私の真横に椅子をぴったりくっつけて、腕にしがみつきながら怯えている。

 

 私たちの真正面に満面の笑みを作った鈴雷さん、左側で呆れた表情のぴりからさんが座っていた。

 

 なんでもぬらぬらさんがこんなに怯えているのには理由があるらしい。

 

 それは、ぬらぬらさんたちが夕食の買い出しに行った際、トマトがたくさん入ったカゴの中から突然!

 

「姉さん! 私をクエストに連れて行って下さい!」

 

 それは、休日にぴりからさんと買い物をしていた際、噴水広場のベンチで休憩していると、背後の噴水の中から突然!

 

「姉さん! 今日はお休みですよね! 明日は私もクエストに連れて行って下さい!」

 

 それは、クエスト先の森林エリアに行った際、ひと段落ついて休憩していた時、後ろの茂みの中から突然!

 

「姉さん! 今日は両断蟷螂コプマット三体討伐ですよね! お手伝いしましょうか!」

 

 そんなことがここ最近、ほぼ毎日のように続いているとか。

 

 最近はぬらぬらさんが家で一人でいる時も、物音一つで怯えてしまう始末だとか……

 

「鈴雷さん、ストーカーはダメですよ? ぬらぬらさんが怯えてるじゃないですか」

 

 なぜだろう、自分で言っててなんだけど……自分の言葉がブーメランのように跳ね返ってきた気がする。

 

「ストーカーって何っすか? 私の二つ名っすか?」

 

 目をキラキラさせてる鈴雷さん、この人……普通に目がヤバイ。

 

「ニュアンス的には二つ名というより、付き纏う迷惑な人につけられる呼称じゃないかい?」

 

 ぴりからさんが貧乏ゆすりしながら答える。

 

「め、迷惑? 迷惑だったんですか姉さん! 本当に申し訳ございません、つきましてはお礼にクエストの協力を!」

 

 どうしよう、この人はまったく人の話を聞かないタイプだ。

 

「ぬらぬら、もういいんじゃないかい? 首刈蟹討伐ならこの子猫ちゃんはかなり強いだろう? もういっそ一回きりと約束して連れて行ってしまおう」

 

「え、えっと……今日一日だけご助力いただいたら、もう追っかけはやめていただけますか?」

 

 ぬらぬらさんはしがみついている私の腕にぎゅと力を入れながら、ぴりからさんと鈴雷さんを交互に見る。

 

 ……痛いよぬらぬらさん。

 

「いっ! いいんですか! ご助力させていただけるのですか姉さん!」

 

「一度だけ! ……一度だけですよ?」

 

 恐らく大事なことだから二回言ったのだろう。

 

「本当に、一度だけ……ですからね?」

 

 身を乗り出して、顔をずいと近づけてくる鈴雷さんに怯えながら……ぬらぬらさんはしっかりと三回も念を押されていました。

 

 

 ☆

 海辺エリアにて……

 

 ぴりからの隣から離れずに歩くぬらぬら。

 

 そしてその真後ろをキラキラした瞳の鈴雷が歩いている。

 

「ぬらぬら、くっつきすぎると歩きづらいんだけど……それにもうそろそろモンスターも出てくるから前衛に出てくれないかい?」

 

 頬をひくつかせたぴりからがチラリと後ろを歩く鈴雷にも視線を送る。

 

「最前線はこの私にお任せを! 姉さんには指一本触れさせないっす!」

 

 海辺エリアの強い潮風で、前髪をぐちゃぐちゃにしながらも元気な声で応じる鈴雷。

 

 この世界の海は、夏以外は濃い緑〜灰色になる。

 

 プランクトンや塩分がおおいため、この色になってしまい、さらに波もかなり荒い。

 

 夏になると海は綺麗な蒼色になり、波も穏やかになるのだが……

 

「今日は風がかなり強いなぁ」

 

 ぴりからは風で揺れる前髪を抑えながら、荒れている海を訝しげな顔で眺めた。

 

「この強い風に、いつも以上に荒れた海。 それに、首刈蟹が浜辺にこんなにたくさん現れたということは……」

 

「恐らく大物が海に現れてる可能性があるね。 まあ、今日ボク達が依頼を受けたのは首刈蟹五体の討伐さ、クエストから帰ったらお嬢さんにも海の様子を伝えよう。 もっとも、優秀なお嬢さんならすでに気がついてると思うがね?」

 

 少し前を歩き出した鈴雷さんは、話してる二人の方に視線を向けて首を傾げた。

 

「キャリームさんのクエストに、宝石ランクの水神龍レアウディーユ討伐がありましたよ? 多分今日私たちが受けたのは水神龍との戦いをスムーズにするための準備をするためのクエストだと思います!」

 

 水神龍は上級モンスターで、討伐ランクは金ランクより上の宝石ランク。

 

 月光熊と同じレベルのモンスターという事になる。

 

 海の中に生息しているため、水上戦線用のサーフボードでの戦闘になる。

 

 海での戦いは自由に身動きがとりずらいため、かなり危険な相手である。

 

 水神龍は全長五メーターを超える巨大な竜で、常に水を纏い自由自在に操る。 水の塊を弾丸のように飛ばしてきたり、渦潮や竜巻も起こせる。

 

 さらには高水圧のブレスを放ち、船を両断された事もあるとか。 その上動きも非常に早く、腕のいい狙撃手が何人も必要になる。

 

 鱗も非常に硬く、攻撃を当てることも一苦労だ。

 

 海辺エリアの敵は待ち伏せしていることも多く、倒すのが面倒臭い傾向にあり、多くの冒険者は敬遠しがちなのだ。

 

「さすがに龍系のモンスターとの戦闘は、考えただけでも肝が冷えます……」

 

 ぬらぬらさんは水神龍の名前を聞いて少し青ざめていた。

 

 首刈蟹は海中や浜辺に現れるのだが、浜辺に五体も現れることは珍しい。

 

 水神龍も出現しているとなると、あまり長居するわけにもいかないため、早めに討伐をしなければならない。

 

「砦で監視をされている岩ランクの方々の話だと、首刈蟹の発見報告があったのはこの辺りですね?」

 

 話をしている間に目的の場所に到着していた。

 

「姉さん! 首刈蟹は多分砂浜の中に隠れてると思うっす! 水神龍から逃げてるからここに来たと思うっすからね!」

 

 鈴雷さんはキラキラした目で自慢げに二人に告げる。

 

 しかし首刈蟹が浜辺にいるとなれば、砂浜の中を注意するのは当たり前のことだ。

 

 それでも一応、二人は顔を引き攣らせながらお礼を言う。

 

 首刈蟹は身長約二メーターから三メーター前後で目の前に立つと二階建ての巨大な建築物のようだ。

 

 それに装甲がかなり硬い、軽い攻撃ではびくともせず、巨大なギロチンのような二本のハサミはかなり切れ味がいい。

 

 挟まれたらもうおしまいだと思った方がいいだろう。

 

 挟まれなくとも巨大な鋏の背で殴られただけでもかなりの威力が出るため近づくのは難しい。

 

 動きはそんなに早くはないが、その硬さと攻撃力が非常に厄介だ。 武器が弾かれた隙に殴られて大怪我といったケースが多い。

 

 ぬらぬらは銀ランクの中でも非力なため、首刈蟹の装甲を破るのは難しいのだ。

 

「さて、ボクは砂が山盛りになっているところを撃つから、子猫ちゃんは前衛で奴らの動きを止めてくれ。 火力重視で装甲をぶち破ってみせるさ?」

 

「ぴりから! 装甲を破ったら納品値が下がるっすよ! 私が関節を切るっす! 恐らく関節なら姉さんでも切れるはずっすからね!」

 

 キャリームの担当である鈴雷は、奇行は多いが実はかなり優秀なのだ。

 

 モンスターを綺麗な状態で納品することも多く、取引値を気にせず無慈悲に蹂躙するセリナ担当の脳筋冒険者たちとは違うのだ。

 

「なぁ、子猫ちゃん……君って実は優秀なのかい?」

 

「何を言いますか! 私なんかより姉さんの方が優秀っすよ! でもまぁ、さっきの指示聞いた感じだと……私はぴりからよりも優秀かもしれないっすね! だーはっはっは!」

 

 豪快に笑う鈴雷に、今まで見たことのないような満面の笑みを向けるぴりから。

 

「子猫ちゃん、クエストが終わったらゆっくりお話ししようか、冒険者協会の裏に……一人で来てくれるかな?」

 

「ちょっ、ぴりから! 笑顔が逆に怖いですよ? 一応これから共に討伐任務に当たるのです! 仲良く……仲良くお願いします!」

 

 ぴりからの満面すぎる笑みに恐れを感じたぬらぬらは、非常に焦っていた。

 

 

 ☆

 多少ゴタゴタはあったが……

 

 当初の作戦通り、ぴりからが余裕のある距離から怪しい砂山を打ち、撃たれた首刈蟹が飛び出す。

 

 そのまま飛び出してきた一体をおびきよせて、戦闘が始まっていた。

 

「私、このクエストが終わったら……姉さんに弟子入りするんだ」

 

「子猫ちゃん、このクエスト中に何かハプニングが起きそうになる不安な発言はよしてくれ」

 

 鈴雷のフラグ発言に、呆れながら声をかけるぴりから。

 

 話しながらも彼女の跳弾が首刈蟹の右鋏の付け根を直撃し、首刈蟹が悲鳴のような音を上げる。

 

 そしてその付け根にぬらぬらが追撃を仕掛け、右の鋏が切断される。

 

「なんて美しい手際! さすが姉さん!」

 

 二人の連携を見てさらに目を輝かせる鈴雷。

 

「よそ見しないで下さい! 鈴雷さん、左! 来ますよ!」

 

 ぬらぬらの注意を聞き、刀身二メーターを超える長刀で首刈蟹の反撃を防ぐ。

 

 鋏が長刀に触れた瞬間、バチッと物々しい音が響き、首刈蟹の動きが止まった。

 

 鈴雷の雷を纏った防御。

 

 闘技大会では武器に雷を纏わせていなかったが、実戦では武器にも高圧電流を纏わせている。

 

 盾役では珍しい、盾を持たない攻撃的な盾役なのだ。

 

 本人は、「盾役なのに攻撃的って、なんかウケるっすよね!」と言っており、矛盾してる感じが気に入っているらしい。

 

 実際に能力はかなり優秀なのだ。

 

 雷魔法を身体強化にしか使えないぬらぬらと違い、一点に集中させて強力な電撃波を打つこともできる。

 

 さらには微弱な電波を周囲に放てば、レーダーのように範囲内にいるモンスターやぬらぬらの位置が分かるようになるらしい。

 

「ぴりから! 首刈蟹はみぞおちの辺りにきつい一撃をかませば綺麗な状態で仕留められるっす! ほら今のうちに、狙って狙って!」

 

「貴重な情報をありがとう子猫ちゃん、しかし一応上のランクのボクを敬ってくれてもいいんだよ?」

 

 皮肉を言いつつ首刈蟹の腹の下に向けて向けて発砲し、跳弾させて真下からみぞおちを貫く。

 

 すると首刈蟹は身動きひとつ取らずにその場に倒れた。

 

「首刈蟹は関節とお腹は他の装甲より柔らかいんで、ひっくり返してみぞおちを一突きするのが定石っす! でも、鋏はかなり危険だし体重が重いんで、ひっくり返すのはすごく大変なんすよ……そう考えるとなかなかやりますねぴりから! まぁ、姉さんほどじゃないっすけどね! だーはっはっはっは!」

 

「子猫ちゃん、女性ならもっと慎みを持った笑い方をした方がいい……それと、これ以上ボクをおちょくるとクエストから帰ったら楽しいパーティーを開かないといけなくなるよ?」

 

 ぴりからは、怒れば怒るほど、笑顔が素敵になっていくようだ。

 

「す、鈴雷さんもぴりからも、喧嘩はやめて下さい……」

 

「「喧嘩なんてしてないよ?(ないっす!)」」

 

 驚くほどに二人の息は、ピッタリだった。 ぬらぬらは困り顔で頬をかく。

 

 それと同時に、ぬらぬらの背後で砂飛沫が上がり、砂から急に首刈蟹が現れた。

 

 どうやら戦闘に集中していたため、近くにもう一体いたことに気づかなかったらしい。

 

 砂飛沫を上げながら鋭い鋏をぬらぬらに向ける首刈蟹。

 

 それを見たぬらぬらは、いつもの超反射で普通に反応していたのだが……

 

「姉さん! あっぶなーい!」

 

 ぬらぬらは奇襲を普通にかわしたのだが、なぜか必死な形相で頭から飛び込んでくる鈴雷。

 

 余計な行動に動揺しながらも、ぴりからは慌てて銃を構える。

 

「ちょ! 子猫ちゃん?」

 

 ぴりからは鈴雷の奇行を見てから慌てて銃を連射した。

 

 飛び込んできた鈴雷を襲う鋏の付け根に、連射された銃弾は命中した。

 

 鋏の付け根に銃弾を大量に浴びた首刈蟹は、鈴雷を捕らえようとした鋏をぼとりと落とす。

 

 間一髪、ぴりからの起点がなければ鈴雷は無意味に胴体から両断されていただろう。

 

 顔面から砂浜に突っ込み「ぶへぇ!」などと間抜けな声を上げている鈴雷に対し、ぴりからは胸をなでおろしながらも怒り心頭といった様子で、

 

「何をしてるんだ君は! ぬらぬらは反応して避けていたのに飛び込んでくるなんて馬鹿じゃないのか?」

 

「あっ、姉さんが危ないと思ったら体が勝手に! すみませんぴりから! いえ……ぴりからの兄貴!」

 

「あっ……にき?」

 

 ぴりからは鈴雷の不思議発言の連発に、思考が追いつかなくなってしまったのか、ピクリとも動かなくなる。

 

「ちょっと! ぴりから?」

 

 ぬらぬらが慌てて名前を呼びつつも首刈蟹の残った鋏の関節を槍で突く。

 

 鈴雷も頭からダイブしたせいで砂浜に顔を突っ込んでいたが、すぐに立ち上がり首刈蟹の追撃に備える。

 

「ぴりからの兄貴! もう一方の鋏もお願いします!」

 

「あのねぇ子猫ちゃん、確かにボクの一人称は男っぽいけどね、そう言うキャラなだけでボクは可愛い女の子なんだよ? ……自分で言っといて何だが。 ああまったく、少しこの発言は恥ずかしいなあ」

 

 ぴりからは頬を紅潮させながらも発砲。

 

 ぬらぬらが突き刺した鋏の付け根を打ち抜き、首刈蟹を無力化した。

 

「ささ! 兄貴! お得意の銃さばきで、みぞおちをちょちょいっ! とやっちゃって下さい!」

 

「なあ、君の喋り方の方が漢気があるじゃないか。 さては君、実は男なのかい?」

 

「女に決まってるじゃないですか! こんなに可愛いんですから!」

 

 ぴりからはため息をつきながら首刈蟹のみぞおちを撃ち抜いた。

 

 その後、特に変わったこともなく三人は順調に狩りを続けた。

 

 最後の二体に関しては「みぞおちを一突きすればいいのですよね? 私もやってみて構いませんか?」

 

 などと言い出したぬらぬらが、会敵と同時にスライディングで首刈蟹の腹部に滑り込んで、みぞおちを貫くと言う神技を完成させていた。

 

 出会って三秒で首刈蟹を倒してしまったぬらぬらをみた鈴雷は、それはもう大はしゃぎ。

 

 クエストから帰る馬車の中で、三人は今回のクエストを振り返っていた。

 

「首刈蟹は苦手意識がありましたが、鈴雷さんのご指導のおかげで苦手意識が薄れました。 ありがとうございます」

 

 座りながらも深く頭を下げるぬらぬら。

 

「なっ、えっ? あ、姉さん! 頭を上げてください! あなたの貴重な頭は、私なんかに下げていいものではありません!」

 

「貴重な頭って……子猫ちゃんは奇妙な言葉を使うねぇ?」

 

 やれやれと首を振るぴりからは、なにかを思い出したのか、真剣な顔で鈴雷に視線を向けた。

 

「子猫ちゃん、それにしても二体目が出てきた時のダイブは本当に危険だったよ? 久々に肝が冷えてしまったじゃあないか」

 

「いやぁ、姉さんが怪我しちゃうと思ったら……いつの間にかダイブしてたっす。 ダイブした瞬間姉さんがすでに反応してたのが見えて、私バカだなぁと思ったっすよ。 走馬灯も見えたので、結構ガチで反省してるっす……」

 

 しょぼんと肩を窄める鈴雷。

 

「私を助けるためにしていただいたのですよね? 私は嬉しいですよ? あなたは怖い人だと思っていましたが、お優しい方だったのですね? また一緒にクエストを受ける機会があれば、よろしくお願いしますね?」

 

 優しく微笑むぬらぬらの顔を見た瞬間、人が変わったように元気になる鈴雷。

 

「ほ、本当っすか! いいんすか! また一緒にクエストに行ってくれるってことっすよね?」

 

 瞳を発光させてるのではないかと思うほどに輝かせる鈴雷の言葉を聞き、困り顔でぴりからへとちらちら視線を送るぬらぬら。

 

 どうやら助けてほしいらしい。

 

「子猫ちゃん、社交辞令って……知ってるかい?」

 

 呆れたようなぴりからの声が、馬車の中に虚しく響いた。

 

 

 ☆

 その後、セリナにクエスト達成報告に行ったぬらぬらとぴりからは、報酬の額を見て驚愕していた。

 

「納品された首刈蟹は、全て関節部分のみを切断。 なおかつみぞおちを一突きと言うほぼ完璧とも言える状態でしたから、この報酬で間違えてませんよ?」

 

 飛びでんばかりに目を見開いて固まる二人を前に困った顔で説明するセリナ。

 

「なぁ、ぬらぬら……」

 

「ぴりから、私は一つ言っておきたいことがあります」

 

 「奇遇だねぇ?」と、言いながらぴりからは、呆れ顔のキャリームの前で……それはもう嬉しそうに体をくねくねさせている鈴雷に視線を向ける。

 

「あの子猫ちゃん、機会があればまた連れていかないかい?」

 

「ええ、相手が中級モンスターで、冒険者たちに人気の素材だった時は声をかけるべきですね! 百足武者の討伐なんか、ものすごい報酬額になるかもしれません!」

 

 そんな事を言いながら二人は、鈴雷にご飯を奢ると声をかけに行った。

 

 声をかけられた鈴雷は、奢ってもらったご飯を泣きながら貪ったらしい。

 

 なんだかんだであの三人、かなり仲良くなっていた。

ここまでのご拝読ありがとうございます!

最近はナンクエを楽しんでいただけている方が増えてとても嬉しく思ってます♪( ´▽`)


武闘大会編はできるだけ3000字前後で投稿していったのですが、個人的に3,000字だと焦ったいような気がして、早く続き読みたいのになんで減らしたんだと言われてしまい、次からはいつものボリュームに戻そうと思いましたw (^_^;)


公募用の原稿も執筆していますが、今後も更新ペースを落とさずに頑張っていきたいと思います!

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