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〜調査クエスト・不届き者を捜索せよ〜

 〜調査クエスト・不届き者を捜索せよ〜

 

 私は今、頭を抱えている問題がある。

 

 ——それは。

 

「あれが噂の、闘技場の覇者・無慈悲の腹黒セリナさんだろ!」

 

「いやいや違うぞ! 闘技場の支配者・君臨する女帝! 獅子奮迅の腹黒セリナさんだ!」

 

「おいおい、お前らそんな二つ名誰に聞いたんだよ! 正しくはこうだ! 闘技場の絶対王者・大物狩りの腹黒セリナお姉ちゃんだ!」

 

 あいつらの顔は覚えた。 後半二人はレイトの担当だな? 最初のやつはクルルちゃんの担当。

 

 覚えておけよ? 夜道に気をつける事だな。

 

 それにしても私の謎の二つ名がいつの間にか増えている、早く犯人を見つけ出さなければ……

 

 そんな風に思いながら鏡越しにさっきの三人を睨みつけていると、私の二つ名について話している冒険者に見慣れた顔の冒険者が近づいていく。

 

「おいおいお前ら! セリ嬢に聞かれたらどうすんだよ、誰にも言うなって言ったろ?」

 

「確保ぉぉぉぉぉ!」

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」

 

 私は容疑者であるパイナポに、見事な大蛇おろち(がた)めをめた。

 

 

 ☆

 現在、二つ名をつけた容疑者であるパイナポに事情聴取をしている。

 

「いや、あれを考えたのはほんとに俺じゃねえ、ほんとだって! 手をワキワキさせないでくれ! お前の締め技見てさっきの冒険者たちも震え上がってたぞ?」

 

 さっきの三人は顔を真っ青にして、脱兎の如く逃げていった。 鉄ランクのくせに逃げ足がものすごく速い。

 

「じゃあ二つ名を決めたのは誰なんです? 知ってるからあの人たちに教えたんでしょ?」

 

「お、おれは……仲間は売らねぇ。 あっ嘘ですごめんなさい! ぎぶぎぶぎぶ!」

 

 椅子から飛び出し、パイナポに華麗なチョークを極めると、簡単に口を割ってくれた。



 ☆

 続いての容疑者はこの二人。

 

「あ、兄が先に言ってるのを聞きました」

 

「おっ! 弟よ! なぜ嘘をつく! 俺たちは二人で聞いたではないか!」

 

 いつもは交互に話すこの二人、閻魔鴉さんと極楽鳶さん。

 

 この双子はぷるぷると震えながら膝に手を置き、お互いに罪をなすりつけ合っている。

 

「だから、あなたたちを責めているのではなく、誰がその不名誉な二つ名を広めているのか聞いてるんです」

 

 私は優しい口調で問いかける。

 

 すると悪い事をしてしまって反省している子供のように落ち込んでいた双子さんは、私の言葉を聞きほっとした顔で向き合う。

 

「そうなんですよセリナさん!」「俺たちはただ聞いた話を」「パイナポに教えただけで」「言いふらせなんて言ってないです!」

 

「だーかーらー。 その二つ名をあなたたちに教えた人は誰ですか?」

 

 笑顔で、静かな問いかけをする私を見て二人は急に口をつぐむ。

 

「えっと……」「その……」

 

 私が指をコキリと鳴らすと、二人は親切に教えてくれた。


 

 ☆

 次の容疑者は意外な人だった。

 

「いやいや、そんな二つ名を俺がつけるわけないでやんす。 だからその邪悪な微笑みで俺を見つめるのはやめて欲しいでやんす。 あの双子はたまたまクエスト一緒になったから闘技大会の話をしていて、セリナさんの二つ名が増えたらしいと教えただけでやんす」

 

 そう、意外にも双子さんの口から出たのは小人族の暗殺者、鬼羅姫螺星きらきらぼしさんだったのだ。

 

 この人は口調以外はまともだと思っていたのに……

 

「セリナさん、言っておきやすが……その恥ずかしい二つ名を他の冒険者に伝えてるやつに俺は心当たりがあるでやんす。 俺の担当であるセリナさんをこんなにひどい呼び方してるやつを放ってくなんてできないでやんすからねぇ」

 

 悪そうな顔でヒソヒソと耳打ちしてくる鬼羅姫螺星さん。

 

 自分の危機を、咄嗟の起点で好機に変えるとは。

 

「鬼羅姫螺星さん……お主も悪よのぅ」

 

 一度は言ってみたかったあの言葉。

 

「え? あぁ……うん。 えっと、それでは調査いたしやしょうか、セリナさん」

 

 こうして私と鬼羅姫螺星さんの潜伏調査は始まった。



 ☆

「鬼羅姫螺星さん、ターゲット捕捉。 目標十一時の方向!」

 

「了解しやしたおやびん。 潜伏して会話を盗み聞いてくるでやんす」

 

 私たちはカフェエリアの柱の影から怪しい人物を調査している。

 

「ふっふっふ……そんなにも気になるのか! 私の担当、セリナさんの事を! ならば教えてやろうではないか! なんでも聞くがいい、なんせこの私は不可能を可能に変える男! 韻星巫流なのだから! 闘技場の支配者であるセリナお姉ちゃんのことなら、知っている限り全て教えて差し上げましょう! そう、あれは雨の降る夕食の時刻だった……」

 

 長いので以下略。

 

 韻星巫流さんにお姉ちゃん呼びされた事で拳がモヤモヤしているが、調査のため今は我慢。

 

 しばらく長々と話す韻星巫流さんの言葉を聞いた鬼羅姫螺星さんは、戻るなり死んだ魚のような目をしていた。

 

「あいつは黒に近いグレーでやんすね、話を聞きたいのは山々でやすが……」

 

「ちゃんと欲しい情報を簡潔に言ってくれるかが問題ですよねぇ」

 

 韻星巫流さんは半年前キャリーム先輩から私に担当変えをした冒険者。

 

 元々銅ランクだったが、私に担当を変えて半年で銀ランクまで昇り詰めた実力者だ。

 

 この世界での魔法は、全属性持ちは不利とされる。 属性魔法の適正属性が増えれば増えるほど力が弱まるからだ。

 

 対して単一の属性魔法は凄まじい破壊力を生むか、器用な使い方ができるとされ重宝される。

 

 鬼羅姫螺星さんなんかも単一の風属性魔法を操り、体の周りで気流の流れを複雑にして自分の姿を見えづらくしたりする。

 

 そんな全属性持ちの韻星巫流さんはたゆまぬ努力をしたのだろう、全属性の簡単な攻撃魔法をマスターして多彩な攻撃を仕掛ける。

 

 彼が持つハープには色の異なる、それぞれの属性魔法石を粉々にした後調合された弦を張っている為、弾く弦によって攻撃が異なるのだ。

 

 あんな話し方になったのは私に担当変えしてからで、私はその理由も知っているが……

 

「……話長いからあんまり声かけたくないですが、この不名誉な二つ名の犯人を探す為です。 とりあえず話聞いてみますか?」

 

 嫌そうに頷く鬼羅姫螺星さんを連れて、話を聴きに行くことにした。

 

 

 ☆

「私に話があるとは何事かな? まぁ大丈夫です、あなたには多大なる恩がある! その恩に報いる為に私は知っている事はなんでも話す所存! ええ、知らない事でも調べて見せましょう! どんな不可能も可能に変えてしまうこの私!イーンポッシィ巫流ボーゥが、どんな困難な案件でも……」

 

「ええ、私が知りたいのはただ一つ。 私の二つ名をつけている黒幕の情報ですよ? 不可能を可能にする韻星巫流さん。 可能なら調べていただくか、もしあなたがつけていたなら、正直に謝れば慈悲も与えましょう」

 

 長い自己紹介を遮り、口早に用件を伝える。

 

「ふむふむ、なるほど……セリナさんはあの二つ名をお気に召さないと申しますか、しかし申し訳ないが私も命名者めいめいしゃは知らないのです。 しっかーし! 不可能を可能にするこの韻星巫流は、あなたの知りたい情報、知りたい真実を明らかにしてみましょう! なんせこの私はどんな不可能も可能に……」

 

「ええ、じゃあ何かわかればすぐに教えてもらうでやんす、それでは失敬」

 

 またしても言葉を遮る、今度は鬼羅姫螺星さんが。

 

「する……男、韻星巫流なの、ですから——」

 

 立ち去る私たちの背後では、寂しそうに語尾を徐々に小さくしながらも自己紹介を続けていた韻星巫流さん。

 

 なんか可哀想だけど………ごめんね!


 

 ☆

 数日後、韻星巫流さんから新たな情報を得た私たちは、カフェエリアで黒幕疑惑が浮上している人物の前に座っていた。

 

「さぁ、吐いてもらいやしょうかぎんがの旦那! うちのおやびんに変な二つ名をつけているのは旦那でやんすね?」

 

「おい、鬼羅姫螺星! 俺はぎんがではなくギャラクシーだ! 銀河と書いてギャラクシーだ! しばらく会わないうちに忘れたとは言わせんぞ」

 

 黒幕候補、一番臭いのはこの人、銀河《 ギャラクシー》さんだったのだ!

 

「おやびん、この口上は登場する際のお約束みたいなもんでやんす。 しばらく後に旦那はこう言うはずでやんす。 『おれはギャラクシーじゃない! ぎんがだと何回言ったら!』っとわざと間違えて笑いを取ろうとするでやんす」

 

「聞き捨てならん事を言うな! だいたい、貴様らがぎんがぎんがと馬鹿にするから頭がごっちゃになるのだ! 文句があるならしっかりギャラクシーと呼べ!」

 

 銀河さんはそれはもうお怒りで……

 

 昔のことを思い出し恥ずかしそうにしながらも怒っています。

 

「全く、第一世代は変わり者が少ないと言うのに、ぎんがの旦那はほんとに変わり者で……」

「だぁから! 俺は第二世代だし! ぎんがではなくギャラクシーだ! ——おまえ、わざとだろ?」

 

 じとっとした視線を鬼羅姫螺星さんに向ける銀河さん。

 

「わざとに決まってるでやんす、だって面白いんでやすから」

 

 この人……なんでこんなに銀河さんいじりが大好きなんだ?

 

 イキイキした顔で開き直る鬼羅姫螺星さんでした。

 

 鬼羅姫螺星さんのわざといじってます宣言で、銀河さんは掴みかかり始めたが肝心なことを聞き忘れていた。

 

「そんな事より銀河ギャラクシーさん、単刀直入に聞きます。 私の二つ名を考えてるのはあなたですか?」

 

 私の真剣な質問に銀河さんは……

 

「だから! セリナさんまで何を言うか! おれは……そうだ、ギャラクシーであっているぞ」

 

「ぷっ! 今、今絶対間違えかけたでやんす! そら言わんこっちゃないでやす!」

 

 私も笑いそうになってしまったが、盛大に吹き出した鬼羅姫螺星さんにまた掴みかかる銀河さんを見ていたらついつい思ってしまった。

 

 ……話が進まねぇ。



 ☆

 鬼羅姫螺星さんと銀河さんは頭にたんこぶを作り静かに座っている。

 

「で? 銀河さんは命名者を知っているんですか?」

 

「知っているも何も、こんな二つ名付ける御仁は一人しかいないではないか……」

 

 そして銀河さんはその黒幕の名を口にする。

 

 納得がいく答えをもらった私は、ついにラスボスの元へと足を向けた。

 

 それは、美味しいオムライスを食べた昼下がり。 木漏れ日の差す窓際のカフェエリア。

 

 優雅に紅茶を嗜みながら、憂鬱とした表情を浮かべて窓の外に視線を送るのは紺色の長髪をなびかせる、見た目だけは美女な受付嬢。

 

 いつも眠っているようにつぶった瞳をうっすらと開き、小首を傾げながら私に振り向いた。

 

「やぁセリナ♬ 君から声をかけてくるなんて♩ 珍しいこともあるんだねぇ?♫」

 

 一言喋るたびにオカリナを吹くこの人はナンバーツーの受付嬢、レイトである。

 

「レイトさん、お隣座ってもいいですか?」

 

「かまわないさ♬ 君から声をかけてくれるなんて、私はとても嬉しいよ?♪」

 

 嬉しそうに口元を歪めるレイトさん。

 

 さて……この黒幕さんをどうしてくれようか。

 

 そう、銀河さんの供述によると二つ名の名付け親はレイトだったのだ。

 

 自分で自分の二つ名【蹂躙する受付嬢】の名を広めるこの人が犯人となると、自然と納得してしまう自分がいる。

 

「レイトさんに聞きたいことがあるんですよ、なんでも最近私の二つ名が少し増え過ぎていると思っておりまして……正直に二つ名をつけた犯人が名乗り出てくれるのなら、私も優しく許してあげようと思うのですけど?」

 

 レイトは動揺したのか、オカリナから間抜けな高い音が響いてくる。

 

「き、君の二つ名かい? え、ええっと〜。 私はかっこいいと思うのだけど……♪」

 

 オカリナを吹くという事を、セリフの最後の最後で思い出すレイト、めっちゃ動揺している。

 

 そうさ、真実はいつもひとつなんですよ……レ・イ・ト?

 

 私はピクリと麻酔にでも撃たれたかのように体を動かしてから勢いよく椅子に座り、背もたれにぐったりと寄りかかる。

 

「どうやら聞いた話によると、あなたから二つ名の話が出ていると言う供述を耳にしているんですよ? 心当たりはないですか? ナンバーツー受付嬢のレイトさん?」

 

 私は全身の力を抜き、椅子に寄りかかりながら眠ったような格好で証拠を提示していく。

 

 いつもより低い声で……

 

「だ、だだ! 誰がそんなこと言っていたのかなぁ? で、ででででも! 私は君の二つ名はかっこいいと思っているよ!♫」

 

「もう、やめにしませんかぁレイトさん? あなたの口から新たな二つ名を次々と聞いた言う供述は、すでに上がっているんですよ? そうですよねぇ? 蹂躙する受付嬢……レイトさん?」

 

 眠ったように語りかける私の言葉に口をつぐむレイト。

 

 そして私は、ずっと行ってみたかったあの台詞を使う。

 

「犯人は、あなただ!」

 

 私はレイトのオカリナをかっぱらい、こう言う台詞の時よく耳にするメロディーを吹く。

 

 するとレイトは観念したかのように両手の平を肩の前に上げ、やれやれと首を振る。

 

「おてあげだよ、セリナさん。 君はいつ私が犯人だと分かったのかな? それとそのオカリナを返してくれ、後さっきのメロディーは独走的だ。 よければ享受してくれないかい?」

 

「あなた自分で自分の二つ名を命名してしまうほどの二つ名(ちゅう)ですからねぇ。 ぶっちゃけ割と序盤から予想はついていたんですよ」

 

 私は普通に座り直して腕を組む。

 

「かっこいいと思ったのだけど……『闘技場の絶対王者・大物狩りのセリナ』 ねっ? かっこいいだろ?」

 

 私は少し耳を疑う。

 

「あれ? 冒険者たちは『闘技場の絶対王者・大物狩りの腹黒セリナお姉ちゃん』と言ってましたよ?」

 

 私は自分で言うのも恥ずかしいけど、聞いたことをそのまま口にする。

 

 しかしレイトは首を傾げている。

 

「私がつけたのは、『闘技場の絶対王者・大物狩りのセリナ』とか♬ 『闘技場の支配者・獅子奮迅のセリナ』とかだよ?♬ 腹黒セリナお姉ちゃんなんて誰が言ってたんだい?」

 

 ……何かがおかしい

 

「私はかっこよくて♪ セリナにふさわしい二つ名しかつけないよ?♬ 腹黒いのは腹黒いと思うけど……獅子奮迅の腹黒セリナなんて、少しおかしいじゃないか?♫」

 

「え? 今腹黒いのは腹黒いって言いました?」

 

 私はじとーっとレイトを睨む。

 

「い、言ってないよ?♬」

 

 動揺してまた間抜けな音色を奏でるレイト。

 

「セッ、セリナは心優しくて♪ 可憐で♫ とっても美しいじゃないか♬ 腹黒いだなんて……お、思ってもいないよ!♪」

 

 外した音色が正直なレイト。

 

 まぁそれはさておき、腹黒とかセリナお姉ちゃんはレイト以外がつけた二つ名だと言うのなら、一体誰がそんな不名誉な二つ名に変えたのだろうか。

 

 捜査は振り出しに戻るかと思ったその瞬間、真犯人が私たちの近くで新人冒険者に声高々に語っていた。

 

「受付嬢を決めていないの? ならセリナお姉ちゃんにするといいよ! ()()セリナさんは()()いけどね! なーんちゃって!」

 

 新人冒険者たちは苦笑いしながらその冒険者の話を聞いていた。

 

「なんたってセリナお姉ちゃんはね! 無慈悲の腹黒セリナお姉ちゃんとか、獅子奮迅のセリナお姉ちゃんって二つ名がついててね、あっ! ちなみに腹黒とかセリナお姉ちゃんは私が勝手につけちゃったの! 本当は獅子奮迅のセリナさんとか大物狩りのセリナさんって言うんだけど、腹黒セリナお姉ちゃんの方が親しみやすい……で、しょ?」

 

 そんなことを言っている最中に、新人冒険者たちが青ざめながらレミスさんの背後に視線を向けている事に気がついたようだ。

 

 新人冒険者たちの血の気の引いた顔を見て、大方後ろに誰がいるか悟ったのだろう。

 

 レミスさんは……恐る恐る振り返る。

 

「レミスさん? 話があるのでどうぞ訓練場に来て下さい」

 

 私が背後に現れたことに動揺を隠せないレミスさんは、それはそれは大量の汗を流しておられました。

 

「あ、わたし——この後クエストが!」

 

「確保ぉぉぉぉぉ!」

 

 お得意のチョークを華麗に極める私。

 

「ごめんなさいちがうんですこれにはわけが!」

 

 

 ☆

 その後、私はレイトとレミスさんを連れて訓練場に来ている。

 

 レミスさんはシクシクと泣きながら正座をしていて、なぜかその隣で正座しながらオカリナを吹くレイト。

 

「だっでだっで〜、みんなにもっと親しみやすい二つ名にしたいど思っで〜」

 

 などと言いながら嗚咽を漏らすレミスさんは、首には赤く締められた跡と、頭には立派なたんこぶをつけておられました。

 

「セリナは鬼だね♬ 君には銀ランクを力で従える鬼軍曹・般若面のセリナという二つ名を……」

 

「レイトさん? あなたは自分の状況分かっていますか?」

 

 私は笑顔で首と指をぽきりと鳴らす。

 

「はい、もう二つ名を人に言う時は許可をいただく所存です♪」

 

 レイトは冷や汗を垂らしながらオカリナを吹いた。

 

「レミスさんは責任を持ってこの恥ずかしい二つ名を消して回ってもらいますよ?」

 

「そんなぁ、でも安心して下さいセリナさんの()()()は! すぐに()()()くなります。 あらやだこんな時にインスピレーションが降りてきて……言いたくなっちゃったんですほんっとごめんなさ——」

 

 こうして、二つ目のたんこぶを作ったレミスさんは泣きながら私の二つ名を撤回して回りましたとさ。

 

 いい話で終わってよかった本当に。

 

 

 ☆

 それは朝日が眩しい快晴の日。

 

 私は受付で冒険者のクエストを斡旋あっせんしている時のこと……

 

「俺は担当セリナさんにしようかなぁ、ニックネームも付けてもらったし、二つ名がかっこいいじゃん!」

 

 二つ名という言葉に耳ざとく反応する私。

 

 どうやらまだ担当を決めていない新人鉄ランクが、掲示板の前で担当受付場を誰にしようかと話し合っているようだ。

 

「なんだよ? セリナさんの二つ名って?」

 

「知らねぇの? 『不可能を可能にする受付嬢・万里一空ばんりいっくう驚天動地(きょうてんどうち)鬼軍曹おにぐんそうセリナ』さんだぜ?」

 

 ……私の捜査ミッションは、まだ終わっていなかった。

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