〜武闘大会決勝・破壊の化身〜
〜武闘大会決勝・破壊の化身〜
「ぬぁ〜〜〜! ちょっ! あぁ! やばいやばいヤバい!」
「なっななななな! 何をしてるんだ子猫ちゃん!」
「でた! ぺろりんの大技! 地盤どっこいしょ!」
彼女はなんと、闘技場をどっこいしょ!っと、ひっくり返した。
全員、顎が外れてしまったかのように大口を開け、半分捲れ上がった闘技場を傍観する。
直角に反り上がってしまった闘技場の上で、バランスを崩す貂鳳さん。
「強制場外? ありなんですか? あれ!」
よりどりどり〜みんさんが思わず声を上げる
直角に捲れ上がった闘技場にたまらず剣を突き刺し、ぶら下がる貂鳳さん。
容赦なくぺろぺろめろんさんは捲った闘技場の真上に飛ぶ。
大斧を振りかぶり、空から落下して貂鳳さんに襲い掛かる。
貂鳳さんはそれを確認し、両足をふらふらと振ってぶら下がりながら勢いをつけて飛び上がる。
そしてものすごい速さでぺろぺろめろんさんの方に飛んでいく。
「空中だよ? 貂鳳君は素手で戦うつもりかな?」
動揺するぴりからさん、しかし二人が空中でぶつかろうとした瞬間!
ぺろぺろめろんさんは大斧で反り立った闘技場を叩きつけた。
瓦礫が観客席に流星群のように降り落ち、観客たちは慌てて逃げ惑う。
反りたった闘技場の上部は砂煙のせいで何も見えなくなってしまっている。 慌ただしく騒ぎ出す観客席。
砂煙が強すぎて何が起きてるか全然見えない! 息を飲みながら二人が出てくるのを待つ。
砂煙の中から鎧が壊れる音が響き、無事だった観客たちがざわめき出した。
しかし数瞬後、人型の何かが地面に叩きつけられるように落ちた。
「場外! 一体どっちが!」
私は思わず身を乗り出してどちらが落ちたのかを確認しようとしていた。
しかし反り立った闘技場の上から声が聞こえてくる。
「一手、足りなかったね? ぺろりんちゃん!」
反り立った闘技場に手をかけて、場外に叩き落とされたぺろぺろめろんさんを見下ろしていたのは貂鳳さんだった。
「はっはー、鎧壊すんじゃなくて………捕まえて投げればよかったのか〜。」
場外で、地面にめり込み大の字に寝転んで苦笑いするぺろぺろめろんさん。
貂鳳さんの鎧は半壊状態になっていたが、場外に叩き落とされたぺろぺろめろんさんは………苦しくも敗北となってしまった。
ぺろぺろめろんさんが破壊した闘技場の目の前で表彰式が行われた。
大会はいろいろなことがあったにもかかわらず、表彰式はあっけなく終わった。
表彰台の上で代表の五人と一緒に人差し指を天に向けて『私たちが、ナンバーワン!』などと恥ずかしい事を叫び、会場を沈黙させたくらいしかおかしな事は起きなかった。
笑っていたのはシュプリムさんだけだった、ちなみにナンバーワン宣言の発案者はパイナポ。
三位のメル先輩がドン引き顔で私たちを見てたからマジで心が痛い。
キャリーム先輩は悔しそうな目でそんな私たちを見ていたが………
切羽詰まったような苦しそうな表情はしていなかった。
またも闘技場をはちゃめちゃにしてしまった誰かさんは、本部の人にこっぴどく叱られていた。
決勝戦に至っては観客席に瓦礫の流星群をお見舞いしたが、当たった人たちはほぼ擦り傷で済んだようで、重症人は出なかった。
エキシビジョンマッチはまた三日後になり、戦っていない受付嬢同士が戦うことになるが、私は王者として全力で挑むつもりだ。
そんな事より大事なイベントがあるのだ。
冒険者協会がお休みになる四日後、緊急クエストの受付だけをするこの日、受付嬢は交代で残り番だけが協会に行く。
冒険者たちも緊急クエスト目当てで数人しか訪れない、ちなみに今回の残り番はレイトだからこの日がチャンス!
表彰式の後、闘技場の裏でキャリーム先輩に呼ばれた私は堂々とした足取りで呼び出しに応じる。 今度は転ばずにかっこよく歩けた。
そんな私を見たキャリーム先輩は、後ろで手を組み、体をゆさゆさと揺らしながら何かを言おうとしてる。 その仕草、かわいいねぇ! 後五分続けようか!
「セリナ………その、ありがとう」
頬を朱に染めて、明後日の方向を見ながらモジモジしつつも開口一番お礼を言われた。 え? なんで?
「えっと、あの〜、その〜。 ———なんでお礼を? 私キャリーム先輩に勝っちゃったんですよ?」
「うっ、うるさいわよ! どろぱっくさんの事よ! あなたの冒険者と戦ってから、闘技場ではブーイングも無くなったし、むしろ一般の人たちが彼を讃えていたわ。 あなたと戦わなければ………こんな事にはならなかった」
なんだ、そんな事だったのか。
私はいまだにモジモジしているキャリーム先輩を目に焼き付けながらも、試合前のどるべるうぉんさんとのやりとりを伝える。
あの時彼はこう言っていた。
「私も以前、魔族の方々に少しだけ偏見を持っていました。 しかし、街で魔族の方が暴力を振るわれそうになった際………私は理不尽すぎると思い、助けようとしましたが足が動きませんでした。 だって偏見を持たれている魔族を助けたりなんかしたら何を言われるかわからないでしょう? だけどその時、その魔族を一切の躊躇なく体を張って救ったのは、あなたとキャリームさんだったんです」
あの時の事件は覚えている。
休みの日にキャリーム先輩を追跡調査している時、魔族の男の子が一般男性とぶつかってしまった。
ただそれだけなのに、魔族の子は必死に謝っていたのに、ぶつかられた人は彼に暴力を振るった。
キャリーム先輩はその瞬間に飛び出していき、殴られた頬を真っ赤にした魔族の男の子を抱き抱えてうずくまった。
そんな事お構いなしにキャリーム先輩ごと殴ろうとしているのを見た私は『衛兵さ〜ん! でっかい男がかわいい美少女に暴力振るってま〜す! 悪即斬! 悪は成敗! かわいい美少女に何しようとしてくれてんだゴラァ! 衛兵が来るまで私が相手してやっからかかってこいやぁ!』って大声で叫びながら駆けつけて、キャリーム先輩を殴ろうとした奴の胸ぐらを掴んで怒鳴り散らしてしまった。
その後取っ組み合いになりそうになったが、周囲の人たちに私と一般男子は羽交締めにされ、私とその人は駐屯所に連行された。
私を迎えにきたクルルちゃんが、呆れながらも褒めてくれた事を覚えている。
「私はあの時震えました、そこからあなた方の事を調べて回ったら、冒険者協会の優秀な受付嬢である事を知り冒険者育成学校に入りました。 特にやりたいことも決まらずにふらふらしていた私に、冒険者になりたい! 冒険者になってあなた方のように困ってる人を救いたいと思ったんです。 そして気づいたんです、本当に優秀な人は、人を生まれや見た目で決めつけない。 自分の信じた道を突き進む人なんだと。 私のこの持論は冒険者になって立証されてるんですよ。 だって………あなたやキャリームさんの周りは、誰一人として魔族の方々に偏見など持っていなかったのですから」
笑顔でそう告げて、試合に向かったどるべるうぉんさんの後ろで私は膝から崩れて泣いてしまい、どるべるうぉんさんをものすごく困らせたのだ。
その事をキャリーム先輩に伝える。
「だからお礼を言うならどるべるうぉんさんですよ? でもどるべるうぉんさんがあんな真っ直ぐな人になったのも、キャリーム先輩のおかげだから………誰にお礼言えばいいんですかね?」
顎に指を当てながら、素でそう答える。
すると、私から目を逸らさずに鼻水を垂らしながら、子供のように泣いてしまっているキャリーム先輩が目についた。
「あの、どぎわ………ひっく。 あなだもだすげでぐれだじゃない! ぐすっ」
急に泣き出してしまったキャリーム先輩。
私はあたふたするけど………
泣いてるキャリーム先輩も、たまらん! 違うそうじゃない!
「そ! そんな事より! 私が勝ったんだから言う事を聞いてくれるんですよね! 次のお休みの日に中央広場の噴水前に、朝十時集合です! それでは私はこれで!」
ずびずびと鼻を啜るキャリーム先輩に早口で伝え、くるりと反転してその場から逃げるように駆け出した。
嗚咽を漏らすキャリーム先輩を背に、ふと………ある事を思い出す。
そう言えばあの時キャリーム先輩が助けた魔族の子、ツノが生えてて癖っ毛の男の子だった。
誰かに似ている気がする、そう思った瞬間。
どろぱっくさんの顔が頭に浮かび、そんな素敵な偶然があってもいいなと思いながら、私は控室で全力で悔しがっているぺろぺろめろんさんを励ましに向かった。




