表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/130

〜武闘大会決勝・無敗の女王〜

 〜武闘大会決勝・無敗の女王〜

 

 メル先輩との試合が終わり、訓練場でみんなと反省会をした後の事……

 

「セリナさん、少しお時間よろしいでしょうか? 私が次に戦うであろう鈴雷さんの対策なのですが、触れれば私でも流石に感電してしまい身動きが取れなくなってしまいます。 セリナさんなら何かいい策があるかと思い、相談させていただいたのですが……」

 

 ぬらぬらさんが切羽詰まったような顔でそんなことを相談してきた。

 

 確かに鈴雷さんに関しては一番対策が難しいのだ。 鎧を壊さないと勝利は難しい。

 

 にもかかわらず触れれば感電して動けなくなる。 負の連鎖だ。

 

 真正面から戦うつもりだったらの話だが……

 

 私は他の冒険者の対策に、いつも疑問を抱いている。

 

「そうですね! そういえば私、いつも思ってるのですが、鈴雷さんの相手っていつも感電対策全くしないじゃないですか。 なんでなんですかね?」

 

 私が毎回感じているのは、触れたら感電するとわかっているのに、なぜわざわざ正面から戦ってしまうのか?

 

「対策? 闘技場は指定された装備以外は禁止されています。 ゴム製の装備はもちろんですが、感電対策のために魔法で遠距離攻撃など不可能です。 たまに炎魔法や水魔法で武器を作成する方などもいますが、無論それも禁止になってしまいます。 ルールに違反しない魔法だと、やはり身体強化系の魔法や電気や炎を纏うことしかできないと思います。 結局正面から戦う以外方法がないのです」

 

 ぬらぬらさんは私の質問に困り顔で答えるが、装備を指定されていて感電対策の装備ができないのも、魔法で生成した武器も禁止なのはわかっている。

 

 魔法で武器を作成するのは装備の指定に反するし、武器を作るということは攻撃魔法だ。

 

 身体強化や体に纏うのはギリギリセーフなのだろう。

 

 シュプリムさんの振動はただ自分自身に魔法をかけて振動させているだけ、どろぱっくさんの不可視化だって自分自身に魔法をかけている身体強化魔法の分類だ。

 

 まあこの二人に関してはグレーラインではあるが、双子さんのように武器に炎を纏わせたり飛ばしたりして直接的な攻撃をしている訳ではない。

 

 とは言っても武器を風で振動させるのは黙認されているし、鈴雷さんだって電気を纏っている。 炎を纏わせるだけなら許可されるだろうが、私が言いたいのはそういうことじゃない。

 

「ぬらぬらさん、鈴雷さんの試合を私は見ています。 皆さんがする鈴雷さん対策は、闘技場の端で陣取って鈴雷さんを端に誘い込み、鈴雷さんを一撃で外に出そうとする作戦。 後ろから突き飛ばして感電しながらも外に吹っ飛ばそうとする作戦だけなんです。 でも別に、直接触れて攻撃しないとダメなルールってありませんよね?」

 

 ぬらぬらさんは首を傾げている。

 

「私に考えがあるんですが……これは練習が必要なんですよ。 これから三日間、騙されたと思ってある技術を練習してみませんか?」

 

 

 ☆

 ぬらぬらさんが闘技場に入ると同時に聞いたことのないような大歓声が上がる。 歓声がうるさすぎて脳が震えてしまいそうだ。

 

 しかしそれもそのはず、この試合は無敗同士の戦い!

 

 前回ぺろぺろめろんさんがまさかの敗退を期した相手、鈴雷さんなのだから。

 

 当時は鈴雷さんの先制攻撃でぺろぺろめろんさんが感電してしまい、動けなくなったところで鎧を全て破壊されるという結果だった。

 

 あのぺろぺろめろんさんですら手も足も出なかった相手だ。 この試合は武闘大会無敗同士の実質頂上決戦。

 

 観客が興奮しないわけがない、おそらく大半がこの決着を見に来ているのだろう。

 

 ぬらぬらさんはすでに闘技場の上で待っている鈴雷さんに深々と頭を下げ、いつも通り二本の槍を踊るように振り回す。

 

 ルーティーンなのだろうか、風を切りながら槍を捌き、扇風機のように両槍を回した後に風を切りながら槍を相手に向けて静止。 スーッと深呼吸をしてから半身に構える。

 

 歓声がうるさすぎてまともに聞こえないが、先日の応援団も熱い声援を送っているのがチラリと見えた。

 

 もはやこの歓声は静まらないと諦めてしまったのだろう。 審判は耳を塞ぎながら試合開始の鐘を、割れてしまいそうな勢いで思い切り叩く。

 

 開始の合図とともに観客の声援はぴたりと止み、二人の会話が聞き取れるようになった。

 

「鈴雷さん、先に謝っておきます。 あなたは今日から無敗の女王と名乗れなくなってしまうと同時に、この闘技場で無敵という称号も失うことになってしまいます」

 

「おお、言ってくれるっすね! あなたみたいに自信満々の相手と武闘大会で戦うのは久しぶりっすよ? 初戦以来っすかね?」

 

 鈴雷さんは身体中に電流を流し、相手の攻撃を防ぐ。 限りなくルールに反してしまいそうなグレーゾーンの防御魔法。

 

 そう、これは攻撃魔法ではなく防御のために使う魔法なのだ、その上文句を言われないため剣には電気を纏わせていない。

 

 彼女が前回大会に初出場し、強すぎると苦情が殺到したのだが、防御魔法ならルールに反していないということになり、認められはしたが格上である銀ランクからの出場になってしまった。

 

「さあさあ、かかってくるっすぬらぬらちゃん! あなたも私の力で、無様にも身動きが取れなくなって……」

 

 鈴雷さんが挑発している最中に、ぬらぬらさんの右腕がぶれた。

 

 その直後、鈴雷さんの肩鎧が弾け飛ぶ。

 

「……えっ?」

 

 なにが起きたか理解できない鈴雷さんは、弾け飛んだ肩鎧を何度も確認する。

 

 鈴雷さんの後方から、カランッ!と、乾いた音が響いてくる。

 

 観客たちは目が飛び出そうになっており、全員が前のめりになって闘技場に視線を集める。

 

 額を汗でびっしょり濡らした鈴雷さんは、ぬらぬらさんを恐る恐る見ると……

 

「あなた、槍を二本持っていたはずっすよね?」

 

「ええ、練習の成果が出てよかったです。 ちゃんと当たりましたね?」

 

 ぬらぬらさんが持っていた槍は、鈴雷さんの後方に落ちていた。

 

 そう、ぬらぬらさんに私が教えた戦法は至って単純……

 

「先に断っておきますが、ルールには武器を投げてはいけないという項目はありません。 武器が壊れてしまったら素手でも戦う事を許可する項目もあるのですから」

 

 私はいつも疑問に思っていたのだ、なんで誰も武器を投げないのだろうか? ——と。

 

 確かに前衛冒険者の武闘派が集まるこの大会、飛び道具を使うなんて考えない。 しかし雷を纏ってる相手にまで使わない手はない。

 

 まあ、武器を投げてしまったら後半は素手での戦いになってしまう。

 

 そうすると武闘派の皆さんは自然と飛び道具という選択肢は無くなってしまうだろう。 そもそも動きながらじゃ当たらない。

 

 だが、彼女の運動神経は別格だ。

 

 彼女の身体能力なら、投げた槍が一本でも当たれば相手の攻撃を制限時間まで回避することも可能。

 

 さらにはその投擲とうてき精度にも驚いた。

 

 練習し始めて一日で動く的にすら寸分違わず投げた槍が当たるようになっていた。

 

 本人が高速で移動するため動体視力が並外れているのだろう。

 

 残りの二日間は実践訓練、すいかくろみどさんや双子さんたちに協力してもらい、完璧に槍投げをマスターしたのだ。

 

 鈴雷さんは危機を察知し、落ちていた槍を慌てて拾おうとする。 何度も投げられたら防ぎきれない、そう思っての判断だろう。

 

 だが、気づくのが遅い。 ぬらぬらさんの二投目がすでに投げ放たれている。

 

 槍を取ろうと伸ばしていた腕に装備していた籠手を破壊し、鈴雷さんは衝撃でバランスを崩す。

 

 そして一瞬、目を逸らした隙に……拾おうとした槍がなくなってしまう。

 

 鈴雷さんは恐怖の表情を浮かべてぬらぬらさんが立っていた方を見るが、彼女はすでにそこにはいない。

 

 彼女は二頭目に投げた槍もすでに回収し、背後に回って右腕を振りかぶり、槍を投げる体勢になっている。

 

「ちっくしょぉぉぉぉぉぉ!」

 

 鈴雷さんは背後に回られたことに気が付き、慌てて前転する。

 

 慌てていたせいで頭から地面に飛び込むように回避し、間抜けな体制になるが回避には成功。

 

 槍は空を切り、城外まで飛んでいきそうになってしまった。

 

 それを見た彼女はほうと息を吐き、安心しきった顔をするが……

 

「——は?」

 

 私の隣では、すいかくろみどさんが頭を抱えながら闘技場の端を見ている。

 

 そこには投げたはずの槍を、場外に飛んでいく前にキャッチしたぬらぬらさんが立っていた。

 

「……う、うそ? ……ウソっすよね? 自分で投げた槍に………………追いついて。 自分で、キャッチしたっすか?」

 

 鈴雷さんは絶望的な表情で槍を掴んでいるぬらぬらさんを見る。

 

「はい、少し焦りました。 この作戦はデメリットがあるようですね。 万が一外せば武器が無くなりますし、鎧以外のところに当たってしまったら私が失格になってしまいます。 なので、武器を増やしましょう」

 

 ぬらぬらさんはそう言って先程投げた槍を両手で握り、勢いよく自分の膝に叩きつける。

 

「これで三本、もう一方の槍も折ってしまいましょう。 どうせこの槍であなたに直接触れることはないですから」

 

 鈴雷さんは青ざめた顔で、震えながら立ち上がる。

 

「では、改めて。 鈴雷さん。 私が四回外すのが先か、あなたが私に触れて無力化するのが先か。 勝負です」

 

「そんな……無理に決まってるっす。 あの神怒狼夢シンドロームさんの乱れ打ちを、正面からかわし……自分で投げた槍にすら追いついてしまう『神速』を持つあなたに、触るなんて……」

 

 戦意喪失してしまったかのような目で訴えかける鈴雷さん。

 

 しかし、ぬらぬらさんは首を傾げている。

 

「やってみなければわからないと思います。 それともそれは降伏宣言と受け取ってもよろしいのですか? あの無敗の女王が、少し私の動きを見ただけで降伏をしてしまったと?」

 

 ぬらぬらさんの言葉を聞き、鈴雷さんもハッと我にかえり構えを整える。

 

 先程戦意喪失していた顔には、しっかりと闘志を復活させていた。

 

「諦めるわけないじゃないっすか! 最後の最後まで足掻いてみせるっす! それに、あなたの手元が狂って私の鎧以外の部分に槍が当たれば、反則で私の勝ちなんすから!」

 

 鈴雷さんはかなり刀身が長い刀を扱う。

 

 刀身約二メーター強、モンスター討伐の際はこの長刀で相手に触れ、痺れさせたところで首を刈るらしい。

 

 その身長よりも長い太刀を上段に構え、どっしりと腰を落としてぬらぬらさんを睥睨へいげいする。

 

「遠慮はしません。 全力で行かせてもらうっすよ?」

 

 ぬらぬらさんは満足そうににっこりと笑うと、自ら折った四本の槍のうち、一本目を振りかぶった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご拝読ありがとうございます! もしよろしければ、ブックマークの登録やレビュー、感想の記入をお願いしますm(_ _)m
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ