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〜武闘大会決勝・好敵手との出会い〜

 〜武闘大会決勝・好敵手との出会い〜

 

 景色に溶け込む彼を注意深く見ながらも、どるべるうぉんさんは満足そうな顔をして、ぎこちなく構えを変える。

 

 数瞬後、どるべるうぉんさんは急に体を反転させてバックステップする。

 

「今の動き! 蜜柑頭君がよく使う、攻撃誘導じゃないかな?」

 

 さっきまで鼻を啜って俯いていたぴりからさんが驚きの声を上げる。

 

 そしてどるべるうぉんさんは、後ろに下がりながらも数回体を捻らせる。

 

 何も見えない私からすると、謎の行動にしか見えないが……

 

「少し動きはぎこちないけど、あれはパイナポ氏の攻撃誘導に近いね。 多分訓練中に何度も見てたから真似してるのかな?」

 

 ハンカチで鼻をかみながらすいかくろみどさんが目を見開いている。

 

 ……ていうかそれ、私のハンカチなんですけど。

 

「姿が見えないからと言って、簡単に攻撃を当てられると思うな!」

 

 度重なるパイナポとの訓練で、見よう見まねで覚えていたのだろう。

 

 見えない攻撃を回避しつつ剣を振る。

 

 しかし彼の攻撃も空を切る、攻撃してくる場所は分かるようだが、当てるのは困難を極める。

 

「どるべりん、なんで普通に当てないんだろ?」

 

「何か狙っているね。 しかし、攻撃はかわせているが当てられなければ一方的に体力を削られる。 これじゃあじり貧だよ?」

 

 そしてとうとうどるべるうぉんさんの肩鎧が弾け飛ぶ。

 

 どるべるうぉんさんはすかさず背後に剣を振る、しかしこれも当たらない。

 

「ふむ、読めてきました。 次は当てますよ?」

 

 ヒビの入った肩鎧を見てから呟くどるべるうぉんさん。

 

 次の瞬間、剣を天高く投げ飛ばす。

 

 突然の奇行に観客は全員目を疑うが、これはメル先輩との戦いで見せた技。

 

 手品を応用した独特の戦法。

 

 剣を投げた直後、即座に真後ろに手を伸ばし、何かをがっしりと掴んだ。

 

「捕まえましたよどろぱっく殿! ……さて、この辺りですかね?」

 

 そう言いながら空いている手を天に掲げると、吸い寄せられるように投げた剣が落ちてくる。

 

 そして絶妙なタイミングでそれを掴むと同時に勢いよく振り下ろした。

 

 鎧が破壊される音が響き渡り、どるべるうぉんさんがニヤリと笑うと、振り下ろした剣を流れるように横薙ぎに振った。

 

 二度目の破壊音。

 

 そして場外に一本の剣が飛んでいく。

 

 闘技場の上で戦っている彼らの足元には、少し遅れて籠手のような鎧も二つ転がり落ちた。

 

「見えない相手の鎧をピンポイントで狙うのは、止まっていてくれないと難しいですからね。 やっと攻撃を当てられたみたいです。 武器を失ってしまったようですが、まだ続けますか?」

 

 一瞬、会場が静まり返る。

 

 何が起きたかわからない私は、思わずすいかくろみどさんの顔を覗き込む。

 

「あれって前やってたやつとおんなじ原理? どろぴーはきっと、投げた剣に気を取られて動きが鈍ったんかな? がっしり捕まっちゃったみたいだね!」

 

「それに、どうやら金髪の彼はわざわざ見えない相手の鎧を狙おうとしていたんだろうね。 鎧以外でも当てるだけなら出来たはずなのだけど……それにしても武器を弾き飛ばして降伏勧告とは、随分と紳士的なんだねぇ?」

 

 ぴりからさんが肩をすくめながらどるべるうぉんさんに視線を送る。

 

「あそこまで僕を挑発しておきながら、手を抜いていたのですか?」

 

「断じて手を抜いてはいません。 確かルールでは鎧以外の部位に攻撃を当てたら、私は失格になってしまいますからね。 どろぱっく殿は反則勝ちなど望んでいないでしょう? さぁ、もう武器は場外に弾き飛ばしたのです、降伏して下さい」

 

 ニヤリと笑い、目の前にいるであろうどろぱっくさんに笑いかけるどるべるうぉんさん。

 

 そして何かをがっしりと掴んだまま、再度剣を振りかぶったどるべるうぉんさんの手も……何かにおさえつけられたかのように止まる。

 

「降伏などしません、ルールでは素手での戦闘も認められているのですから! それに僕は、キャリーム先輩に選んでいただいた鉄ランクの代表なんです! これ以上の失態は見せられない!」

 

 何もない空間から、どろぱっくさんの気合の入った叫びが聞こえてくる。

 

 同時にどるべるうぉんさんの腰鎧が弾け飛ぶ。

 

「剣取られちゃったから蹴りかましたんだろうね、しかもどるべりんも腕おさえられちゃったんじゃね?」

 

 二人の話から考察すると、初めに投げられた剣に気を取られ、動きを鈍らせたどろぱっくさんは腕を掴まれた。。

 

 一息に繰り出した連続斬撃で両腕の籠手を破壊され、同時に剣を弾き飛ばされてしまったのだろう。

 

 しかし負けじとどるべるうぉんさんの腕をおさえ返し、反撃とばかりに腰鎧に蹴りを入れたようだ。

 

 現在はお互いがつかみ合いになっているような形。

 

 どるべるうぉんさんは何もないところで踏ん張っているように見える。

 

 パントマイムしているようにしか見えない不思議な光景だ。

 

 しかし、急にどるべるうぉんさんが銅鎧を破損させながら尻餅をつき、状況は悪くなる。

 

 何かに押さえつけられたかのように両腕を横に投げ出したまま足をバタバタともがかせる。

 

 必死に立ち上がろうともがいてはいるが、何かに押さえつけられているかのように動けない。

 

「やっば〜、マウント取られちゃったじゃん!」

 

 そして次々と上半身の鎧が破壊されていく。

 

 するとどるべるうぉんさんの頬に血が垂れる。

 

「どるべるうぉんさん! 血がっ!」

 

 私は思わず止めようとするが、すいかくろみどさんが肩に手を置いてくる。

 

「あれ、どるべりんの血じゃないよ?」

 

 よく見てみるとどるべるうぉんさんはどこも怪我をしているようには見えない。

 

「どろぱっく君もさっきの二連撃で両手の籠手を破壊されていたんだ。 剣を弾き飛ばされるほどの攻撃だ、十中八九籠手も無事じゃあないさ。 今はおそらく素手で鎧を壊しているんじゃないかな? 木製でもかなり硬いからね、素手で殴れば血も出るさ」

 

 不可視可しているため、どの部位の鎧が破壊されたかは分からないが、籠手は両方破壊されているらしい。 二人の足元に落ちていたそれが篭手だろう。

 

 体制的にはおそらく両膝で腕を押さえつけられて、馬乗りの状態で鎧を殴り壊されていると言ったところか?

 

 すると、おさえつけられていたどるべるうぉんさんが、勢いよく上半身を起こした。

 

 何かの破壊音が鳴り、彼の額からは血が流れる。

 

「うっわー。 いまの頭突き、さすがに銅鎧辺りにヒビ入ったんじゃない? 脳しんとうとか大丈夫なん? セリナさん、どるべりん目が血走ってるけど止めたほうがいいかな?」

 

 すいかくろみどさんが若干引きながらも訪ねてくる。

 

 立ち上がったどるべるうぉんさんの足元に鎧の破片が散らばる。

 

「今の頭突きで、どろぱっく君の銅鎧も無事じゃあないだろうね?」

 

 頭突きの衝撃でどろぱっくさんをノックバックさせたのだろう。 すかさず立ち上がったどるべるうぉんさんは、額の血を拭きながら声を張り上げる。

 

「私は負けるわけにはいかない! セリナさんの代表に相応しい戦いをしなければならないのですから! 黙ってやられると思うなよ!」

 

「僕だって! 僕だって! せっかくキャリームさんに選んでいただいたんだ! あの時助けてもらった恩を……返したいんだ!」

 

 お互い叫び合う。

 

 どるべるうぉんさんの上半身の鎧はほぼ破壊されている、残っているのは腰鎧半分と膝、脛当て程度。

 

 しかし彼は臆さずに地を蹴り、剣を振り抜く。

 

 鎧の破壊音が響いてきたが、どるべるうぉんさんの脛当ても同時に壊れる。

 

 残っていた鎧で剣を受け、同時に蹴りを放って痛み分けにしているのだろうか。

 

 どるべるうぉんさんは脛当てが破壊されても構うことなく剣を振り続ける。

 

 もはや駆け引きなし、防御を捨てた殴り合い。

 

 お互い最後の足掻き。

 

 二人の鎧が次々と壊れていく中、どるべるうぉんさんの鎧は、残すところ腰鎧半分となってしまったところで終了の鐘が鳴った。

 

 

 ☆

「負けてしまいました。 大口を叩いておきながら不甲斐ない結果にしてしまった事、深く謝罪いたします」

 

 控室でべりっちょべりーさんに包帯を巻いてもらいながら、私に頭を下げるどるべるうぉんさん。

 

 結果的には負けてしまったが、試合を終えた後、二人は拍手喝采の中を退場する名勝負となった。

 

 鉄ランク代表戦とは思えないほどの激アツな戦い。

 

 試合が始まる前では想像もつかないほどの声援で、二人の戦いは幕を下ろしたのだ。

 

「試合の結果なんてどうでもいいんですよ、ただ一つ言えるのは……私が選んだ冒険者が、あなたでよかった。 本当にありがとうございます」

 

 私の言葉に、驚いてポカンとするどるべるうぉんさん。

 

「あなたに選ばれた代表として、当然のことをしたまで! お礼を言っていただけるなんて! これ以上の喜びはありません!」

 

 興奮しながら目を輝かせて立ち上がるどるべるうぉんさんを、治癒に来ていたべりっちょべりーさんは慌てて落ち着かせていた。

 

 

 ☆

「後輩にあんなかっこいいところを見せられたんです! いくらあなたが銀ランクだったとしても、僕は一歩も譲りませんよ!」

 

 銅ランク代表の二人が入場し、早々に大剣を向け宣戦布告するとーてむすっぽーんさん。

 

「なぁ〜に、そんなに固くならないでくださいよぅ! ぼかぁ〜肉弾戦は得意じゃないですからさぁ」

 

 頭を掻きながら困った表情の樽飯庵ダルメシアンさん。

 

 銀ランクである樽飯庵さんは、前衛の中でも稀な能力を使う冒険者。

 

 水魔法を操る彼は無数の泡を作り出し、それを操りながら戦うスタイルだ。

 

 無論、泡とは言っても簡単に割れたりしない。

 

 言うなれば水の牢獄だ、それをモンスターの口に付着させて呼吸を止めさせる。

 

 キャリーム先輩の納品するモンスターは傷が少ない状態のものが多いが、彼が倒すモンスターはほぼ全部無傷で納品される。

 

 呼吸ができず、苦しみのあまり自害をしようとするモンスターの爪も泡で包み、それすらも防いでしまうのだ。

 

 しかし彼は対モンスターなら無類の強さを誇るのだが、こう言った対人戦には向かない。

 

 そのため参加できるランクが特例で銅まで下がっているのだ。

 

 しかし接近戦が得意ではないとはいえ、現役銀ランクの冒険者。

 

 とーてむすっぽーんさんは緊張した面持ちの中試合開始の合図と共に地を蹴った。

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