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〜武闘大会決勝・優秀な冒険者たち〜

 〜武闘大会決勝・優秀な冒険者たち〜

 

 三日後の朝、私たちは闘技場に向かった。

 

 選手用入口から中に入り、冒険者たちには控室で待ってもらう事にした。

 

 私はキャリーム先輩に挨拶するため、相手側の控室に向かう。

 

 すると同じ事を考えていたのだろうか、向かう途中の道でキャリーム先輩とバッタリ合ってしまう。

 

 浮かない顔のキャリーム先輩に簡単に挨拶を済ませ、私は控室に戻る。

 

 鉄ランクの相手は魔族であるどろぱっくさん。

 

 あの幼い顔立ちをどこかで見た気がするのだが……思い出せない。

 

 彼は二本の角が生えている、黒い髪を伸ばしてわざと天然パーマのような癖をつけているのが特徴的。

 

 おそらく角を少しでも目立たなくしようとしているのだろう。

 

 鉄ランクの魔法剣士で、風と水の合成魔法使い。

 

 体の周りに風と水滴を纏って、気流や光の屈折を利用して体や武器を不可視可する能力。

 

 鬼羅姫羅星きらきらぼしさんは気流を操り見えづらくするが、どろぱっくさんの場合は完全に見えなくなる。

 

 目を凝らせばぼんやりと違和感がある程度だろうか?

 

 しかし、便利に思われる不可視可は思ったほど万能ではない。

 

 透化するわけではないから適当に武器を振れば当たるし、本人も打たれ強いわけではない。

 

 しかし一回戦で、彼は武器だけしか不可視可させていなかった。

 

 武器だけしか不可視可させていないにも関わらず、客席からは野次がたくさん飛んでいて、不快に感じたのを覚えている。

 

 やれ「卑怯者」だの「臆病者」だのと……

 

 『半魔』と言うタブー発言まで聞こえてきていた。

 

 半魔とは、その名の通り半分魔物と言う意味の、絶対に言ってはいけない差別用語。

 

 いくらなんでもこんな野次まで飛ばすなんてあり得ない事だ。

 

 一回戦の光景を思い出し、憤りながらも控室に向かう。

 

 そして対戦するであろうどるべるうぉんさんに声をかける。

 

「セリナさん、何かあったのですか?」

 

 彼を呼ぶとすぐ駆けつけて来てくれて、心配そうな表情で私の顔色を伺ってくる。

 

 私はどう言おうか迷い、少し言葉を濁してしまう。

 

「キャリーム先輩の、鉄ランク代表の事なのですが……」

 

「あぁ、その事ですか。 心配はいりませんよ?」

 

 どるべるうぉんさんは私の言いたい事を察したのか、優しそうな顔で微笑んでくれる。

 

「あまり自分で言うべき事ではありませんが、私はあなたに選んでもらった代表冒険者なのですから……」

 

 私はどるべるうぉんさんの次の言葉を聞き、膝から崩れ落ちた。

 

 

 ☆

 会場は歓声と野次が飛び交い、混沌としていた。

 

 今日の試合解説(暇なので観戦に来てる冒険者)には、すいかくろみどさん、ぴりからさんが来てくれている。

 

 後ろにはよりどりどり〜みんさん、一人挟んでべりっちょべりーさんもいる。

 

「まじなんなんこの野次、ちょー感じ悪いわ〜」

 

 苛立たしげに隣で呟くすいかくろみどさん、しかし私はさっきどるべるうぉんさんと話をしたから分かる。

 

 きっとあの人がこの空気を変えてくれるだろう。

 

 私は真っ赤になった目ですいかくろみどさんの言葉に答えた。

 

「どるべるうぉんさんは、かなり優秀な方ですから……ハンカチ用意しておいた方がいいですよ?」

 

「——?」

 

 首を傾げるすいかくろみどさん。

 

 その直後、会場のブーイングはピークに達した。

 

 どろぱっくさんが入場してきたのだ。

 

 すでにどるべるうぉんさんは、闘技場内で剣を振ってウォーミングアップしている。

 

 二人が対峙すると、審判は気まずそうな顔で開始の合図を入れた。

 

 観客は流石に試合中は静かに見守るらしい、試合が始まっても動かない二人に視線を集める。

 

「どるべるうぉんさん? と言いましたか? あなたは変わった方なのですね」

 

 警戒しながらもどろぱっくさんが口を開く。

 

「変わっている……とは? 何が言いたいのです?」

 

「あなたの視線からは嫌な気配を感じない、畏怖や憎悪、立場の弱いものを蔑むような視線が感じられません」

 

 その一言を聞いたどるべるうぉんさんは構えを解き、やれやれと肩を窄めた。

 

「なんだ、そんな事ですか? 始まる前にもセリナさんに呼ばれましたよ。 まったく……みんな私を信用してくれてないようですね」

 

 そう言いつつ、勢いよく剣をどろぱっくさんに向ける。

 

「貴殿にも教えてあげましょう! セリナさんやキャリームさんのような方々が優秀な冒険者たちから尊敬され、彼女たちの元に優秀な者が集う理由を!」

 

 声を張り上げるどるべるうぉんさん、私は急いで用意したハンカチを握りしめる。

 

「いいですか、真に優秀な人間は、生まれや見た目などで人を評価しない! 自分の目で見た物、自分が信じた存在を疑ったりしない! ありもしない誹謗中傷や他人の意見に流されることなど決してない!」

 

 野次を飛ばしていた観客たちは、不機嫌そうな顔でどるべるうぉんさんを睨む。

 

 しかし、誰一人として何も言い返せない。

 

「あえて言わせて貰いましょう。 私はセリナ組の代表だ! セリナさんの看板を背負い、この場に立っている。 貴殿もそうでしょう、キャリームさんが代表に選んだからこの場に立っている! 代表として選ばれている貴殿に、尊敬の意は持つが、畏怖や差別の目を向ける事は断じてない! そのような愚行、お二人の名に泥を塗るのと同じ事!」

 

 私はチラリと隣を確認する。

 

 どるべるうぉんさんから目を逸らさずに、腕を組んで男泣きしているすいかくろみどさん。

 

 顔を伏せて鼻を啜っているぴりからさん。

 

 とりあえず、こうなるのは分かっていた事なので二人にもハンカチ渡してあげた。

 

「あえて言わせてもらいます! どろぱっく殿、私はセリナさんに選ばれた

 

 

 

 ——————優秀な冒険者だ。

 

 

 

 だから無駄な事は考えず、持てる力全てを使い、私と戦ってもらいますよ?」

 

 どるべるうぉんさんは優しく微笑みながら剣を構える。

 

 会場中に響き渡った彼の声で、そこらじゅうから鼻を啜る音や嗚咽が聞こえてくる。

 

 私もさっき、同じような事を直接言われて膝から崩れてへたり込み、大号泣してしまった。

 

 ……カッコよすぎんだよ! イケメンな上に性格もいいとか反則だ!

 

 会場に盛大な拍手が響き渡る、観客たちは頬を濡らしながらどるべるうぉんさんへ賛美の声を送っている。

 

 どろぱっくさんは驚きながらもあたりの様子を伺う。

 

 すでに彼に向けられた視線には、畏怖や憎悪、蔑みを帯びた視線は一切なかった。

 

 初めての事だったのだろうか、戸惑いながらも嬉しそうに笑うどろぱっくさん。

 

「どるべるうぉんさん、あなたと戦える事を……心から、誇りに思います」

 

 嬉しそうに、満面の笑みで答えるどろぱっくさん。

 

 彼の頬にも大粒の涙が滴り落ちている。

 

 そして臨戦態勢をとる二人、どろぱっくさんが武器だけを不可視可する。

 

 それを見たどるべるうぉんさんは、不服そうな顔をした。

 

「言ったはずですよ? どろぱっく殿、持てる力全てを使ってかかってこいと」

 

 その言葉を聞き、どろぱっくさんはニヤリと笑ってから全身を不可視可した。

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