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〜ランク別武闘大会・神速〜

〜ランク別武闘大会・神速〜

 

 夢時雨さんとシュプリムさんはひとしきり笑った後、互いに肩を組んで健闘いを讃えあいながら退場して行った。

 なぜかさっきの戦いで通じ合うところがあったらしい。

 

 肩を組んで仲良く退場する二人を、立ち上がった観客たちが盛大な拍手で送っていた。 素晴らしい、スタンディングオベーションだ!

 しかし悔しい事に、結果は紙一重で夢時雨さんの破損率がひどかったらしく、セリナ組は一敗してしまった。

 能力的にも前半の攻防でも、少し不利だった夢時雨さんは、間一髪の所で負けてしまったようだ。

 

 しかしかなりハイレベルな戦いを目の当たりにした観客たちは、踊り出しそうな勢いで騒ぎ回っている。

 しかも次はとうとう無傷、無敗の絶対強者、ぬらぬらさんが登場するのだ。

 盛り上がりすぎて、ぺんぺんさんたちと話していても声が聞こえてこない。

 

 ぺんぺんさんが険しい顔のまま私の耳元で大声で何か言うが、どうしても聞こえない。

 

 私もぺんぺんさんの耳元で腹から叫ぶ「なんですか? 聞こえません!」

 しかし首を傾げて再度私の耳元に顔を持ってきて何か言う。

 ………全く聞こえない。

 

 何を言っているのかは気になるが、ついに入場口にぬらぬらさんの姿が現れる。

 余計に騒ぐ観客たち、このままでは私の鼓膜破れたりしないだろうか?

 と疑いたくなるほどの騒音だ。

 審判はたまらず拡声器を口元に寄せ、叫ぶ。

 

 「静かにしろぉオラァァァァァ!」

 キーン、と拡声器が嫌な音を発している。

 全員が耳を押さえてようやく静かになった。

 そしてようやくぺんぺんさんがなんて言ってたか分かった。

 

 「審判がかなり怒っているようだが、放っておいていいのか?」

 ………だそうだ。

 うん、時すでに遅し。

 こうして銀ランク代表戦が始まった。

 

 

 

 相手は殴るヒーラーと呼ばれる神怒狼夢シンドロームさん。

 桃色の髪をした兎科の獣人だ。 男なのが非常に残念だが、私がショタ好きならテンション上がっていただろう。

 両手に訓練用の小さな鎌を持っている。

 

 「ぬらぬら、僕は悲しいよ。 僕は前回の敗北の味を思い出して、悲しんでいるんだよ」

 「ご安心を、残念ながらあなたは今日も悲しい思いを重ねます、遠慮せずにかかってきて下さい」

 

 眉ひとつ動かさず、二本の槍を舞うように振り回すぬらぬらさん。

 その瞬間、ひときわ熱烈な応援の声が聞こえてくる。

 小太りの男集団がキレッキレの踊りをしながら何かを歌っている。

 野太い声で、息をぴったり合わせながら………

 

 もしかしてあれって、私がいた国によくいたアイドルオタクのオタ芸的な感じなのか?

 ぬらぬらさんは舞うように振り回していた槍をビシッと止めてかっこよく槍を構えると、踊っている男たちに視線を送りながら笑顔で小さく頭を下げる。

 その瞬間、観客席に血飛沫が上がった。

 

 「鼻血を出して倒れたやつがいるぞ!」

 「担架だ! 早く担架を!」

 「脈を測れ! 意識はあるか!」

 などと騒ぎが聞こえてくる。

 ぬらぬらさんといい、とーてむすっぽーんさんといい————

 

 頼むから怪我人を増やさないでくれよ?

 私が顔を引きらせていると、神怒狼夢さんはおでこに手を添えながら体を反り返して何かを語り出す。

 

 「あぁ、悲しい! 悲しいぞぬらぬらよ! こんなにも人気のある君を、今日僕は打ち倒してしまおうというのだ! 失望の目を向けられる君を想像すると………あぁ、なんて悲しいんだ!」

 あぁ、あの人韻星巫流さんと同類の予感がする………

 

 第二世代はキャラが濃すぎる上に残念すぎる!

 しかも兎の可愛い耳を生やしてるのに男だし!

 口上がうざいとなると残念通り越して無念だ!

 神怒狼夢さんの口上が終わると同時に、現在も不機嫌な顔の審判は開始の合図をする。

 すると神怒狼夢さんは二本の鎌を構えた。

 

 「ぬらぬらよ、この鎌はな? この大会のため本部に特注した訓練用の鎖鎌だ悲しいかなこの二本の鎌は、これよりお前の伝説に傷をつける事になる」

 「御宅は結構、かかってきなさい。 全力でお相手させていただきます」

 ぬらぬらさんの一言で、邪悪に口元を歪ませる神怒狼夢さん。

 

 「では早速、秘技!命刈取地獄鎖鎌ヴァンピュオシール・ラ・ビェ

 なんか無駄にかっこいい技名と共に、ワイヤーで繋がれた鎌を振り回す。

 ものすごい速さで乱れ撃たれた二本の鎖鎌は、神怒狼夢さんを中心に前後左右の足元を削っていく。

 

 どうやらただ振り回しているだけではなく、絶対に間合いに踏み込めないよう計算して振り回しているのだろう。

 早すぎて鎌もワイヤーも残像しか見えない。

 

 「あれは! 近づけんぞ!」

 ぺんぺんさんの言う通り、ぬらぬらさんですら近づけないのだろうか?

 槍を構えたまま動かない、しかし何故か表情には余裕があるように見える。

 

 「どうした! ぬらぬら! 怖くて一歩も踏み出せんのか? はっ、ははは! 悲しい! 僕は悲しいぞ! おまえを倒すためだけにこの技を生み出した! この三週間この技を磨き続けたのだ! せっかく血の滲むような努力をしてこの技を生み出したんだ! 泣き叫びながら僕の鎌の餌食に………」

 「血の滲むような努力? ———そうですか」

 神怒狼夢さんの言葉を遮り、ぬらぬらさんのどこか申し訳なさそうな、憐れむような声が聞こえてくる。

 先程まで騒いでいた観客たちも、静かに二人の会話を聞いている。

 

 「申し訳ありません、神怒狼夢さん。 血の滲むような努力を蔑むわけではありませんが、あなたはどうやら勘違いをしているようです」

 そう言いながらぬらぬらさんはゆっくりと歩き出す。

 

 神怒狼夢さんは自信満々の表情で、鎌を振り回す速度をさらに早くする。

 もはや彼の間合いには、上下左右前後どこからも入り込む余地がないと思われた、にも関わらずゆっくりと近づいていくぬらぬらさん。

 

 「私はあなたのその技に恐れている訳ではありません、動きを見て観察していたのです。 しかし………」

 「ぬらぬらの嬢さん! いったい何をする気でやんすか!」

 後ろから鬼羅姫螺星さんも身を乗り出してくる。

 

 ぬらぬらさんが、とうとう神怒狼夢さんの鎖に触れる。

 と思った瞬間に、残像を残してぬらぬらさんの姿がブレて、視界から消えた。

 次の瞬間、木製鎧が破壊された音が響き、何が起きたか理解できていない表情の神怒狼夢さんが宙を舞っていた。

 

 「愚かな神怒狼夢さん。 あなたのその必殺奥義、私から見れば………隙だらけでしたよ?」

 驚く事にぬらぬらさんは、あの乱れ打ちを正面から破ったのだ。

 

 彼女の身体強化魔法は全身の筋肉に電流を流し、視覚から入る状況に合わせて反射的に必要な筋肉に電気刺激を与え、無意識に体を動かす。

 これは彼女の戦闘センスがなければ成り立たない技で、その早さは時には音速をも超える。

 つまり彼女はあの乱れ打ちを正面から普通に避けて肉薄し、神怒狼夢を切り上げたのだ。

 文字通り、目にも留まらぬ速さで。

 

 「あの攻撃ですら………かわしちまうのか?」

 唖然とるするパイナポたち。

 

 胴鎧を粉々に破壊されていた神怒狼夢さんが背中から力なく落ちてくる。

 そして着地をする直前に、ぬらぬらさんの横薙ぎが背を襲う。

 すると神怒狼夢さんは、回転しながら場外に吹き飛ばされていった。

 

 「哀れです。 私はこの数日間、あなたよりも何倍も早く、格段に強い御仁と何度も何度も手合わせしていたのです。 なので私には、あなたの攻撃は少し観察しただけで見切れてしまいました。 血の滲むような努力を無駄にしてしまった事を、心から謝罪いたします」

 次の瞬間、会場に地響きが走るほどの歓声が湧き上がった。

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