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〜武闘大会準決勝・重症者を出してしまった〜

〜武闘大会準決勝・重症者を出してしまった〜

 

 闘技場の入場口にはセリナの代表メンバーが集まっていた。

 

 「なっ! ななななな! なんですか今の⁉︎ 夢時雨さんどるべりんにいつの間にあんな技教えたんですか!」


 「あ、あれは昨日僕がしてやられた技だよ……恥ずかしい話あの技で一本取られたんだ。 僕はあんな技教えてないんだけどね?」


 興奮しているとーてむすっぽーんに、夢時雨は申し訳なさそうに答える。

 

 「これは、わたくしたちも負けてはいられません!」


 「なるほど、ああゆう戦法もありなんね〜。 どるべりんすっごいなぁ」


 ぺろぺろめろんは今の戦いを見て、真面目な顔で何かを考え込んでいる。

 

 「もっ! もう僕あいつの後に出たくありません! あいつの方が銅ランクっぽい……ていうかむしろ鋼ランク並みにやばかった気がします!」


 次の試合に出る予定のとーてむすっぽーんは目を回していた。

 

 

 ☆

 初戦で会場を大いに沸かせたどるべるうぉんさんが、こちらに深々と頭を下げている。


 私は興奮しながら手を振ってしまった。

 

 さっきの戦いが凄すぎてテンションがぶち上がっているため、どるべるうぉんさんが有名なアイドルか何かに見える。 もちろん錯覚なのはわかっている。

 

 私が手を振り返すと、満面の笑みで控室に下がっていくどるべるうぉんさん。


 するとすれ違うように浮かない顔のとーてむすっぽーんさんが会場に現れた。 パイナポはそんなとーてむすっぽーんさんを見て、顔をしかめながら合掌する。

 

 「……とってぃ。 俺もあいつと同じ立場だったら、出たくねぇなぁ〜」


 パイナポはとーてむすっぽーんさんを同情するように拝んでいる。


 やめいやめい! とーてむすっぽーんさんがいたたまれないわ!

 

 そして会場の興奮が絶頂のまま、銅ランク戦が始まる。


 相手のぽぽるぽさんは槍使いだ、注意深くとーてむすっぽーんさんの出方を伺っている。


 槍を向けたまま少しずつ距離を詰める。

 

 とーてむすっぽーんさんはパイナポから両手剣の扱いを仕込まれているため、パイナポと同じく下段に構えていた。


 構えをとったとーてむすっぽーんさんはピクリとも動かない。

 

 「おお、とってぃ! 会場の空気に流されずに自分の戦いができてるな、いいぞ!」


 師匠であるパイナポは嬉しそうにしながら勝負の行方を見守っている。

 

 しかし、なかなか勝負を始めない二人に野次が少しずつ飛び始めた。


 野次が飛ぶ中でもとーてむすっぽーんさんの目は真剣だ。


 周りの空気に焦ったのか、ぽぽるぽさんは思い切って踏み出しながら槍を突きだした。

 

 しかしそれを見越していたのか、とーてむすっぽーんさんがものすごい勢いで大剣を振り上げた。


 するとまたしても目を疑う光景が広がり、会場は再度静まる。

 

 ぽぽるぽさんの槍が、真っ二つにされていた。


 口をぱくぱくさせながら槍の切り口を凝視するほぽるぽさん。


 信じられない光景を目にした私は、額に汗を浮かべながらぺんぺんさんに確認を取る。

 

 「あの、あれって木製の剣ですよね?」


 「間違いなく木製だ。 キャステリーゼちゃん、あの人なんで槍が真っ二つに切れちゃってるんだろうね?」


 ぺんぺんさん、もはや思考を停止してぬいぐるみと遊び出すか。

 

 「ぽぽるぽとか言うやつ、野次に耐えらんなくて適当に攻撃したんだろうな。 今のあいつにあんな甘っちょろい突きをしちまったら……ああなって当然だ」


 呆れたような声で詳しく解説を入れてくれるパイナポ。 だがしかし、木製の剣で木製の槍をぶった切ってしまった件についてはノータッチ。


 剣だけにね……

 

 それはともかく、槍を切られたにも関わらず、ぽぽるぽさんはすぐに気を取り直し、慌てて切られた槍の先端を拾いに行こうと走り出した。


 彼はまだ諦めていないのだが、無慈悲なとーてむすっぽーんさんは一息で彼に追いつくと、背中に渾身の一撃を加える。

 

 メキッ、メキメキッ! と嫌な音が響き、ぽぽるぽさんは地面をものすごい勢いで転がりながら飛んでいく。


 数メーターふき飛ばされたあたりで、ぽぽるぽさんは力無く地面をコロコロ転がっていき、ピクリとも動かなくなってしまった。

 

 「今、やばい音がしなかったか?」


 冷や汗を垂らすパイナポ。


 闘技場の上で剣を振り抜いた体制のまま、真っ青な顔で固まるとーてむすっぽーんさん。 不穏な空気が流れる中、大会の運営は素早い判断を下した。

 

 「担架! 担架を持ってこい!」


 「回復士! 回復士を今すぐ呼べ! 早くしろ!」


 闘技場には関係者が数名、飛ぶように走っていく。


 私も顔を青ざめさせながら、全力で叫ぶ。

 

 「べりっちょべりーさぁぁぁぁぁん!」

 

 

 ☆

 重症人が出てしまったため、試合は数分間休止になってしまった。


 控室では部屋の隅で膝を抱え、真っ青な顔でぷるぷると震えているとーてむすっぽーんさん。

 

 何かをぶつぶつ呟いており、周りでは代表のみんなが一生懸命声をかけている。


 私も彼を安心させてあげようとして近づくと、彼のつぶやきが聞こえてきてしまった。

 

 「これはあれだよきっと夢だ僕がこんなところで殺人犯になんてなるわけがないそうさきっと悪い夢なんだよあの人は明日きっと無事にクエストを受けに来る僕は明日あの人と一緒に仲良くクエストに行けるんだあはは……」


 じゅ、呪文を唱えているのか⁉︎

 

 「落ち着いて下さい! とーてむすっぽーんさん! 彼はただの骨折です! 肋を大量に粉砕骨折というかなりの重傷ですが……」


 私は慌ててとーてむすっぽーんさんの肩を揺らす、ちなみに後半は超小声で言った。


 するととーてむすっぽーんさんはゆっくりと顔をあげ、私に死んだ魚のような目を向ける。

 

 「骨折……粉砕? はは、死因は粉砕骨折だったんですね抵抗はしませんよ世の中世知辛いですねぇほんと懲役は一体どのくらい……」


 「死んでないってば! 落ち着けぃ!」

 

 ぽぽるぽさんは肋の骨を数本折って昏倒してしまったらしいが、命に別状はないらしい。


 回復士の治癒を継続的に受けても全治三日というかなりの重症だが。

 

 とーてむすっぽーんさんの攻撃もしっかりと鎧を狙っていたので、反則にもならず……

 

 二連勝なのだが何故だろう、すごく空気が重い。


 私はさっきの戦いでとーてむすっぽーんさんの暗黒面を見てしまった。

 

 気を取り直して鋼ランクの戦いが始まる!


 会場の皆さんもこの戦いを楽しみに待っていたらしい!


 みんなきっと思っている、どっちが勝つのか全く予想ができないと!


 だから私は気にせず騒がずさっさと観客席へと戻ってしまおう! そして見事トンズラをかました私は、なにくわぬ顔でペンペンさん達の元へと戻った。



 ☆

 闘技場の上では、早速お互い睨み合っている夢時雨さんとシュプリムさん。

 

 「夢時雨か、思ったよりもちっちぇな」


 「そういうテメェは思ったより、なよっちいじゃねぇか」


 二人の間で火花が散っているように見える……

 

 そして、開始の合図と共に会場にものすごい音が響き渡る。


 シュプリムさんの渾身の横薙ぎを、右手一本で防ぐ夢時雨さん。


 しかし、シュプリムさんの薙刀が振動し始め、籠手に少しずつヒビが入っていく。

 

 「ちょっ! あれって攻撃魔法じゃ?」


 「あれはただ武器を振動させるだけの支援魔法に近い。そのくらいは俺でもわかるもんねー? キャステリーゼちゃーん」


 私は思わず下唇を噛む、シュプリムさんが厄介だと言われた理由がこれだ。

 

 攻撃をガードしても、高速振動する薙刀が武器や鎧が破壊する以上、彼の攻撃は避けるしかないのだから非常に厄介。


 たまらずバックステップで距離を取った夢時雨さんを、シュプリムさんがすぐに追いながら袈裟がけに切りかかる。

 

 展開が早すぎて見ているこっちは息が止まりそうだ。


 全員が息を呑んで二人の攻防を見守る。


 逃げる夢時雨さんを、離れずに追い回すシュプリムさん。


 そして二人が数十回打ちあった頃に、異変は起きた!

 

 闘技場の方から何かが飛んでいく。


 飛んできた物の近くにいた観客が、それに目を配り首を傾げている。


 それを遠目に見たパイナポが眉を歪ませる。

 

 「時雨の右籠手が壊れたな」


 私も思わず場外に飛んで行った物に視線を向けてみた。

 

 「シュプリムはさっきからずっと同じ籠手の同じ部分を執拗に攻撃していたでやんす、体の周りに纏う風で逃げる方向を察知して追う。 夢時雨の旦那は、防御する際の動きも察知されているから同じ部分に攻撃され続けたでやんす」


 「いっ! いつの間に後ろに!」


 急に現れた鬼羅姫螺星(きらきらぼし)さんに驚く、すると目を細めながら呆れたようにため息をつかれた。

 

 「最初から、後ろに座ってたでやんすが?」


 ……冷静に考えたらそうだった。


 影が薄くて気づかな——これ以上は彼の名誉に関わるから考えてはいけない。

 

 「言うなればあれはシュプリムのハメ技だ、もう時雨は逃げるしか選択肢がねぇだろうな」


 パイナポが悔しそうに闘技場を睨む。

 

 「おいおい! 夢時雨! 獣人のくせに逃げるだけか? 前の二人には驚かされたが、お前は大した事ねぇなぁ! おまえがこの程度だったら、前の二人と戦った方が楽しそうだったぜぇ?」


 闘技場の方からシュプリムさんの煽りが聞こえてくる。

 

 「おい、テメェ……調子乗んなよ?」


 背筋が凍るような声が、かすかに聞こえてきた。


 すると、バックステップで逃げ続けていた夢時雨さんの足が止まる。


 チャンスとばかりに斬りかかろうとしたシュプリムさんは、一瞬顔をこわばらせて攻撃を中断し、慌てて距離を取った。

 

 「キレたな、あいつ」


 ぼそっと隣にいたぺんぺんさんが呟いた。

 

 それと同時に、しっかりと体制を整えたシュプリムさんが再度踏み込む。


 踏み込んだ足元にはビビが入り、今までとは比べ物にならない勢いで薙刀を真横に振り抜いた。

 

 一瞬の静寂。 直後、会場の全員が飛び出んばかりに目を見開く。


 薙刀を振り抜いた姿勢のまま固まるシュプリムさん。 彼は額に汗を光らせながら、呆れたように呟いた。

 

 「バケモンかよ、おまえ?」


 振り抜いた薙刀の先には、猫のようにしがみついている夢時雨さんがいた。

 

 次の瞬間、夢時雨さんが飛びかかる、シュプリムさんの銅鎧が砕け散り宙を舞う。


 数歩のけぞり、再度薙刀を握るが既に懐に入られている夢時雨さんの左ストレートが右肩の鎧を壊す。


 しかしシュプリムさんは、咄嗟に裏拳で反撃。


 すぐに後ろに飛んでそれをかわす夢時雨さん。

 

 「なんてレベルの高い戦いをしているのだ……」


 ぺんぺんさんがぬいぐるみを抱きしめたまま、ごくりと喉を鳴らす。

 

 「い、今なんで夢時雨さんは薙刀の先にひっついていたんですか!」


 夢時雨さんを指差しながら、思わずパイナポを見る。

 

 「理論は簡単だ、斬撃と同じ方向に飛んで、力を逃しながら薙刀に捕まった。 ただそれだけだ」


 パイナポは顔を引き()らせながら解説をしてくれた、しかし……

 

 「ただそれだけって? そんな事普通にできるもんなんですか?」


 「「「できるわけねぇだろ!(でやんす)」」」


 後ろにいた鬼羅姫螺星さんにもツッコまれてしまった。

 

 しかしすでに闘技場の上は駆け引きも何もない殴り合いになってしまっていた。


 残り時間数十秒、ものすごい闘気を振り撒きながらただひたすらにお互いを殴り合う。

 

 次から次へと鎧が宙を舞う、しかし二人は全く引かない。


 すでに夢時雨さんの籠手は両方破壊され、シュプリムさんの薙刀にもヒビが入ってきている。


 お互いが吠えながら、無我夢中で拳を交わし合っていた。

 

 「後十秒を切っている、しかしこれでは……」


 「鎧の破損率がわからんでやんす!」


 会場中が息を飲み、二人の攻防を見守る。

 

 そして、制限時間が来た。


 会場内は静まり返り、二人に視線が集まる。 お互い肩で息をしながら睨み合う。


 まずい雰囲気を感じ取ったのか、喧嘩になった場合に備え、他の代表冒険者たちが入場口付近から駆けつけようとした瞬間。


 闘技場の上で、二人は腹を抱えて笑い出した。

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