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〜最終決戦・完全無欠の怪物〜

〜最終決戦・完全無欠の怪物〜

 

『あぶらあげさんが、尾鰭の切断に成功しました!』

 

 ぷぷるんさんの声を聞いた瞬間、歓喜の咆哮を上げながら勢いよくガッツポーズを振り回す私と華嘉亜天火(かかあてんか)さん。 なぜだか私たちはそのままの勢いで全力のハイタッチ!

 ここで我に帰る。 めっちゃ手のひらが痛くなってしまった。

 

 二人揃って真っ赤になった手のひらをパタパタさせながら、喜び飛び跳ねていた岩ランク冒険者たちを総覧する。

 全員が勝ちを確定して喜び勇む中、船の手すりに手をかけたまま冷静に微笑んでいたのは一人しかいなかった。

 

「ふふ、本来なら刀に熱を加えるのは愚策。 なぜなら刃が鈍ってしまうからね。 けれどあえてその禁忌の行動を犯し、転機に変える。 やはりセリナの発想力は途轍もないね。 これは私も一本取られたよ」

 

 なぜか嬉しそうな顔で空色の瞳を向けてくるレイト。 ぶっちゃけ理論とかそっちのけで指示した一か八かの賭けだったので、私自身もうまく行った事には驚いている。

 

「あぶらあげさんの火力が物凄かったですからね。 絶対これならいけると確信しましたよ!」

「ふふふ、さすがだよ。 それでこそ、我が永遠の好敵手にふさわしい」

 

 ギラギラした瞳を向けながら歪な笑みを向けてくるレイト。 せっかく氷帝鯱(テンペラルグラス)の尾鰭を切断できたというのになんで喜ぶよりも先に私へライバル心をむき出しにしてくるのだろうか?

 そんなことはともかく、氷帝鯱の尾鰭切断に成功した。 ここからはもはや作業に等しいだろう。

 

 推進力を失った氷帝鯱は、華嘉亜天火さんが持ち上げた水塊の中で身動きが取れなくなるだろう。 つまり捕獲に成功したのだ。

 後は拠点から持ち込んだ数々の武器や道具を使って氷帝鯱が倒れるまで痛みつければいい。 相手は身動きが取れないからこちらの攻撃もかわせないし、水塊の外から遠距離攻撃だってできる。

 

 時間はかかるが確実に討伐できることが確定した。 最低でも平均の五日よりは早く討伐できるだろう。

 今は寝ているぴりからさんのレーザーや、こめっとめんこさんの花火だって、二人が目を覚ましたら打ち放題。 そうと決まれば、ゆっくりみんなの傷を癒しながら氷帝鯱を交代で見張ればいい。

 

『大変です! あぶらあげさんが魔力切れで脱力してしまいました! 華嘉亜天火さん! 今すぐ離脱させてあげてください!』 

 

 すぐに頷いた華嘉亜天火さんが水塊に手のひらを向けると、水塊の中からあぶらあげさんが放り出される。 魔力を使い果たしてしまったようで、ぬいぐるみのように手足をぷらぷらとさせている。

 ここにくるまでの道のりで、あぶらあげさんの魔力量は華嘉亜天火さんよりも上だと聞いていた。 嘉華亜天火さんは湖一つ分の水を持ち上げ、さらにはその量の水を変形させたりすることができるほど魔力量が多い。

 

 そんな莫大な魔力を持っている嘉華亜天火さん以上の魔力があったというのに、それが枯渇するほど魔力を使ったのだ。

 器用に操作できないため紅焔さんのような立ち回りができないにしても、湖一つを沸騰させてしまう程の火力だ。 銀ランクというのは詐欺ではないだろうか?

 

 放り出されたあぶらあげさんをすぐに伸びていった水の紐が受け止めると、ゆっくりと優しく船の甲板へと下ろした。

 するとべりっちょべりーさんが杖を抱えて走り寄ってくる。

 

「あぶちゃん! 大丈夫? うちの言葉分かる?」

「ああ、旦那様。 あなたは健やかなる時も、病める時もわたくしを愛し、敬い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くぐぼぼぼぼぼぼっ!」

「とりあえず脳に障害がありそうだけど、増魔薬ぞうまやくぶっこんどけば大丈夫そうだし!」

 

 あぶらあげさんが仰向けで寝転がりながら両手を祈るように組み合わせ、晴れ晴れとした声音で誓いの言葉を告げていたというのに、言葉の途中でべりっちょべりーさんは増魔薬が入った瓶を口の中へ逆さまにして突っ込んだ。 気管に入って窒息死してしまわないか心配だ。

 

 しかしあぶらあげさんはめげなかった。 増魔薬を一滴残らず飲み干すと、「ああ、これこそが照れ隠しの愛!」などと恍惚とした顔で呟くものだから、べりっちょべりーさんはそそくさとその場を離れてしまった。

 増魔薬の瓶は二百ミリリットル、さらにその味は非常に不味いらしく、例えるならば豚の血を腐らせた液体にオレンジジュースとブラックのコーヒーを混ぜたような味らしい。 ※以前増魔薬を飲んでいた虞離瀬凛グリセリンさんに聞いた話

 

 あぶらあげさんの執念深さに感服してしまう。

 浮かれ気分の私たちだったが、ただ一人、船の手すりに手をかけたままジッと水塊を凝視していたレイトの横顔がふと目についた。

 大騒ぎしているあぶらあげさんたちをシカトし、私はさりげなくレイトの隣へと歩み寄る。

 

「セリナ、君の計画では氷帝鯱討伐に後どのくらいかかりそうかな?」

「そうですね、このまま氷帝鯱を鋼鉄製の網で捕獲して海に戻した後、冒険者の皆さんに交代して見張りしてもらいつつ、爆薬や電撃銛でんげきもり、穴掘杭を直撃させる等で徐々に弱らせていくので、長くても後二日と言ったところでしょうか? まあでも、額の魔石は早めに破壊したいですね」

 

 私の回答を聞き、レイトは空色の瞳を真っ直ぐ私の方へと向けた。

 

「なら、私は後三時間で討伐して見せよう」

 

 正気だろうか? 尾鰭を切断したことで氷帝鯱の推進力を絶った。 もはや遠くへ逃げることもままならない相手だ。

 無理して討伐しようとしてまた怪我人でも出してしまっては本末転倒。 既に意識不明の重症でようやく峠を越えたこめっとめんこさんがいるというのに。

 

「安心してくれセリナ。 もう怪我人は出ないさ。 ちょっとばかり、華嘉亜天火さんには無理をしてもらうけどね?」

 

 鼻を鳴らしながら、後ろで大騒ぎしていた冒険者たちに目を向けるレイト。

 

「さて、もう馬鹿騒ぎは済んだかな?」

 

 真剣味を帯びたレイトの一言で、冒険者たちは口をぴたりとつぐんだ。

 

「先ほどべりっちょべりーさんやあぶらあげさんに諭され、私は自分の未熟さと甘さを思い知ったよ。 先ほどは無様を晒してしまい申し訳なかった。 だから私は、今ここで名誉挽回のチャンスをいただきたい」

 

 誰一人として口を開かず、レイトの次の言葉を待っている。

 

「確かに私たちは氷帝鯱の尾鰭切断に成功し、捕獲する準備は整った。 けれど、それでいいのかな? 私たちに任されたクエストは、氷帝鯱の迅速な討伐だ。 鋼鉄製の網で捕獲し、じわじわとダメージを与えていけば無理なく討伐は可能だろう。 何日かかるかわからないけどね? ……だけどね、私はそれだと満足いかない」

 

 途端、レイトの声音が冷気を帯びたかのように冷酷になる。

 

「この私に恥をさらさせただけでなく、私の大切な冒険者たちに大怪我を与えた。 楽に死なせていいのかな?」

 

 ゴクリと息を飲み、私はその異様な雰囲気に耐えきれずに額から大粒の汗をこぼした。

 

「私は秀才と言われた受付嬢だ。 その私が、これ以上の無様を晒すなど我慢ならない。 討伐にかかるのが平均五日? そんな常識、秀才である私には通用しないという事を、思い知らせてやろうではないか」

 

 殺気にも似た雰囲気を放つレイト。 その雰囲気の中で、華嘉亜天火さんはやれやれと肩をすくめながら問いかける。

 

「水塊を浮かせておくだけなら後半日は持つけれど、無茶振りはやめてちょうだいね?」

「その言葉を聞いて安心したよ。 まずはそうだな、岩ランクの方々、取り舵いっぱいだ」

 

 取り舵、左舷方向いっぱいに舵を取る指示が出た。 しかし、それでは沖から離れてしまう。

 レイトの指示通りに船を動かせば、私たちの船はただここに来るまでの航路を戻るだけなのだから。

 

 

 

 ☆

 レイトの言葉は水塊内にいる冒険者たちの耳にも届いていた。 共振石が伝える言葉を聞きながら、尾鰭を切られて水塊中央で浮遊している氷帝鯱から目を逸らさず全員が瞳に闘士を宿し始める。

 

「レイトさん、キレてるな」

「初めてあんなキレてるレイトさんの声聴きました。 私、なんかミスしちゃったかな?」

「いいねいいね! 鯱公ぶっ飛ばして気持ちよく帰ろう! セリナさん流に、オーバーキルしちゃおう!」

「ええ、私の仲間に怪我を負わせた相手です。 哀れな氷帝鯱さん。 あなたは怒らせてはならない人間の逆鱗に触れたのです」

 

 それぞれが武器を構えながら氷帝鯱に鋭い眼光を向ける。 すると、氷帝鯱は胸鰭むなびれせわしなく動かしながら体を起こし、鋭い瞳をぷぷるんに向けた。

 

『おそらく、最初の狙いはぷぷるんさんになる。 華嘉亜天火さん、彼女を氷帝鯱の背後に流すんだ。 反時計回りにね』

『……反時計回り? まぁ、わかったわよ』

 

 レイトは水塊内の様子など見えていない。 しかしその指示は、まるで水塊内部の様子を予知していたかのようなタイミングだった。

 ぷぷるんの体が水流に流され反時計回りに移動し始める。 ぷぷるんは不思議に思ったのだろうか、自分の右手側に超音波を放つ。

 

「嘘! 最初に使ってきてた見えない氷の刃を飛ばしてきた?」

 

 レイトの指示があった直後、確かに氷帝鯱は氷の刃を飛ばした。 あぶらあげが戦線離脱した以上、この水塊内の温度は最初に戦っていた時の温度と一緒になっている。

 氷による攻撃が復活したのだ。 けれど、その攻撃も予知じみたレイトの一言で全く意味をなさなくなる。

 

『氷帝鯱は尾鰭がないから早く泳げなくなっている。 胸鰭は水中でバランスを取るために使わないといけないからね。 次は音波を飛ばしてくるはずだ、全員氷帝鯱の正面に陣取らないように注意してくれ』

 

「音波のによる攻撃? ぷぷるんの超音波のようなものか?」

 

『似ているようだけど少し違うんじゃないかな? おそらく氷帝鯱の超音波は長時間食らわなければ脅威にはならないだろう。 まあ、直撃すれば体が痺れてしまったり、脳が揺さぶられて平衡感覚を失ったりするだろうけどね。 まあ、正面にいなければ当たらないさ』

 

 レイトの指示を聞き、冒険者たちはすぐさま移動を開始する。 華嘉亜天火が作り出した水流に乗り、全員が反時計回りに氷帝鯱の背後に回ろうと動き出した。

 氷帝鯱はまさにレイトが言った通り、自分の正面に誰かしらの冒険者を捉えようと、小刻みに体を揺らして視線を忙しなく動かしている。

 

『水中生物は目が良くない、だから相手の位置を確かめるために超音波を利用するケースもあるだろう。 先ほどセリナと二人で解明したが、長時間潜水できているのは風魔法が使用可能だからと推察した。 肺に直接酸素を送ることができるから哺乳類にも関わらず長時間潜水できているんだ。 そんな芸当ができるなら、超音波を攻撃に利用することもできると考えてもおかしくないだろう?』

 

 目を見開く冒険者たち。 レイトの指示は先ほどから氷帝鯱が行動を起こす前に出されている。

 今の氷帝鯱の動きは、まるでレイトが言った通りに動く操り人形。

 

『焦ったくなったら氷柱を放ってくるだろう、けれど今の君たちなら、容易くかわせるだろう? 体温が削られるから直接触るのはダメだ。 特に、すいかくろみどさんは回避に専念するように』

 

「りょーかい! おんなじミスするほどうちは馬鹿じゃないよ!」

 

 例に従い氷帝鯱は氷柱を飛ばし始める。 しかし攻撃が来るとわかっている上に、現在は華嘉亜天火の水流によって冒険者たちは自在に移動が可能になっている。

 先ほどまでは回避に苦労した氷柱も軽々と泳いでかわしつつ、氷帝鯱の正面に陣取らないよう素早く移動することも可能。

 

 氷柱を避ける隙を狙おうとしていたのだろう、氷帝鯱は氷柱を飛ばした先にいる冒険者に視線を向けようとしていたが、水中を自由に動き回る冒険者たちを捕捉することができない。

 苛立ちを表すかのように氷柱を連射する氷帝鯱だったが、突然頬のあたりを覆っていた氷壁にヒビがはいる。

 

「ああ、確認し忘れていたな。 レイトさん、直接触れなければ攻撃して構わんのだろう?」

 

『いちいち聞くまでもないよ。 銀河(ギャラクシー)さんの武器なら触れずに攻撃できるのだから』

 

「なら、俺があいつを仕留めて功労者の座をいただいてもいいのだな?」

 

『頼もしい限りだね。 仕留めることが出来なくても、苛立たせるだけで十分さ』

 

 ニヤリと口角を歪めた銀河は、操作していた宝珠を縦横無尽に走らせる。 氷帝鯱の体を覆っていた氷壁は次々とひび割れていき、ひび割れた部位を何度も叩きつけることで宝珠を氷帝鯱本体に叩きつけ始める。

 氷帝鯱は宝珠による不規則な連続攻撃を煙たがるように、胸鰭を必死に動かして体を揺すり始めた。

 

『本格的に逃げ始める頃だ。 尾鰭の切断面周辺に魔力が溜まってるんじゃないかな?』

 

 レイトの声を聞き、ぷぷるんは慌てて杖を氷帝鯱に向けると、仰天しながら声を上げる。

 

「かなりの魔力が集まってます! 何か大規模な攻撃を仕掛けてくるかもしれません!」

 

『華嘉亜天火さん、強い水流で氷帝鯱のバランスを崩そう。 魔力が溜まってる尾鰭の部分を下に向けるよう操作してくれ』

『胸鰭と背鰭だけではバランスがとりづらいでしょうからね、お安い御用よ』

 

 突然発生した水流が、レイトの指示通り氷帝鯱のバランスを崩し、頭部を水塊上部に向けるよう巨体を動かした。 そして次の瞬間。

 

「うわあぁぁぁぁぁ!」

「ちょ! 鯱公今何したん?」

 

 水塊内の水がものすごい衝撃波を受けて揺れ動く。 すると氷帝鯱は飛ぶような勢いで水塊上部へと吹き飛んでいく。

 

『風の魔力を凝縮させて放ったんだろう、水中ならそれで早く動けるかもしれない。 けれど、水塊の上に飛んだところで、行き先は真っ青な空さ』

 

 

 

 ☆

 水塊が大きく揺れた直後、氷帝鯱が水塊の上部に飛び出してきた。

 

「まずいです! 氷帝鯱が水塊から脱出しました!」

「喚かないでちょうだい? この私から逃げられると、本気で思ってるわけ?」

 

 動揺しながら大声を上げてしまった私に細目を向けてくる華嘉亜天火さん。 すると飛び出した氷帝鯱を水塊から伸びた無数の水が縄状に変形して追いかける。 まるで小さな龍のような水の縄は、飛び出していった氷帝鯱を一瞬で絡め取り、ギョッとした瞳で私たちの船を睨みつけていた氷帝鯱を水塊の中に引き戻してしまう。

 

「酸素を直接肺に送るのをやめて、推進力に変えたんだろう。 一瞬でも水塊から出られるなら呼吸もできるだろうからね。 でも、水塊に捕まってると分かっているなら空じゃなくて海に逃げないとダメじゃないか」

 

 さして焦る様子もなくおかしそうに鼻を鳴らし、レイトは淡々と口を開く。

 

「華嘉亜天火さん、さっきのは後何回くらいできるかな?」

「五回以上は補償できないわね。 相手も対策してくるだろうし」

「問題ない、おそらく後二回もすれば諦めるだろう」

 

 レイトの宣言通り、氷帝鯱はその後も二回ほど同じ手で脱出を試みた。 二度目からは自分に絡みついた水を凍らせて逃げようとしたが、華嘉亜天火さんは凍らされた水ごと他の水の縄で覆い、何度も水塊内に引き戻していく。

 そうして、水塊内に無理やり戻された氷帝鯱は、水塊内部で氷柱を冒険者たちに飛ばしたり、水温を下げられるだけ下げたりとできる限りの抵抗を見せた。

 

 しかし、潜水服は元々、氷帝鯱に直接触れさえしなければ三時間は持つ計算だ。 水温を下げられたところで触れられなければ何の意味もない。

 氷帝鯱が自分から体当たりしようにも推進力は尾鰭を切られた際に失っている。

 

 最後の足掻きとばかりに、尾鰭の代わりとなる氷の板を生成して取り付けたりしていたが、ぷぷるんさんの超音波砲と銀河さんの宝珠で破壊されてしまっていた。

 この行動すらレイトは予測していた。

 

 水塊の外に出ないで風魔法の放出で直接体当たりを試みても、見えない氷の刃で死角からの攻撃を図っても、全てはレイトに行動を先読みされている。

 そうこうしている間に、二時間ちょっとが経過した。

 

「さて、そろそろ奥の手、氷の城に引きこもって槍を乱射するのかな? 安直だね」

 

 レイトは嘲笑うかのような口調で告げると、共振石からぷぷるんさんの震えた声が伝わってくる。

 

 『……え、氷帝鯱、先ほど見せた氷塊の中に引きこもり、氷の槍を大量に作ってきました。 レイトさんの……言った通りです』

 

 絶句する。 レイトの未来予知に近い指示出しと、あらかじめ相手の攻撃を完全に無効化してしまう対応力。

 これが秀才の本気。 挫折を味わった秀才が、殻を破りさらなる高みへと登ってしまった瞬間だ。

 

 先ほどから全く指示出しに参加できず、ただただ度肝を抜かれることしかできない私は、冷酷な瞳で水塊を見上げているレイトを恐る恐る凝視した。

 そこに立っているのはいつもふざけて私にうざい絡みをしてくるレイトではない。 完全無欠の怪物。 今日まで有り余る才能を隠してきた道化師だ。

 

「頃合いかな? みんな、正面を見てごらん」

 

 私たちは同時に船の進行方向に視線を送る。 そして全員が感づく。

 レイトが氷帝鯱を三時間で仕留めると宣言した根拠を。

 

「水塊内にいる冒険者たちは全員撤退してもらって構わない。 ここまできたらもう、ほとんど勝負はついているからね」

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