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〜最終決戦・傲慢な秀才〜

〜最終決戦・傲慢な秀才〜

 

 物心ついた時には、私は自分が秀才なのだと気がついた。

 三年以内に読んだ本の内容は一言一句(たが)わずに覚えている。 面白いと思ったり、すごいなと思った話はいつ読んだ話でもすべて記憶している。

 

 生まれた時から、圧倒的な記憶力が私には兼ね備えられていた。 この才能は真似しようとしてできることではない。

 なぜそう思ったか、それは周りの人間たちが私をすごいと褒め称えてくれたからだ。 私は将来の就職先に、冒険者協会の受付場を選択した。

 

 いつも本ばかり読んでいた私は、この世界に伝わる偉人たちが大冒険をしたという伝記などを読むのが大好きだったからだ。 私も歴史に名を残すような偉人に関われる仕事がしたい。

 それが最も可能だと思ったのは受付嬢だったからだ。

 

 受付嬢の仕事は大変過酷で、収入も高い。 誰もがなろうとしてなれるような仕事ではない。

 モンスターの知識以外にも冒険者たちを指揮するカリスマ性や問題に即時対応できる対応力、冒険者たちに好かれる社交性。 必要とされるスキルが非常に多く、この世界の女性たちが憧れる職業、それが受付嬢だ。

 

 けれど、秀才である私にとって、受付嬢に必要なスキルはほとんど持ち合わせていた。 しかし、秀才であるからこそぶち当たる困難もあった。

 周囲からの嫉妬。

 

 受付嬢育成学校で、私はその凄すぎる記憶力と知識力が故に孤立させられた。 けれど別に苦ではなかった、当時はそう思っていた。

 私には大好きな本があるし、嫉妬されるのは有り余る才能の弊害(へいがい)。 これは別に苦しむようなことではないと思っていた。

 

 別に、冒険者たちに好かれるよう愛想さえ振りまいておけばいい、そう思っていた。

 ある日私は、冒険者育成学校からの帰り道、一人で街を歩いてる時に不思議な人物に会ってしまう。

 

 名前も知らないし、その一回きりしか会っていない。 けれどその時の出来事は深く脳裏に刻まれている。

 その人物は吟遊詩人を名乗っていた。 見たこともない笛のような楽器を巧みに吹きながら、私の知らない、架空世界の神々の物語を語っていた。

 

 その話はとてもバカバカしく、理不尽でいて……何よりも魅力的だった。

 通りすがっていく通行人たちは吟遊詩人の語りを鼻で笑い、時にはゴミを投擲しながらヤジを飛ばし、私以外は誰一人としてその詩人の話に耳を傾けなかった。

 詩人は語りを終えると、ただ一人ポツリと残っていた私に視線を向けてきた。

 

「面白かったかい?♫」

「すごく馬鹿馬鹿しい話だと思いました」

「その割には目をキラキラさせてるじゃないか♪」

 

 詩人は小馬鹿にするように笛を鳴らしながらそう告げてくる。 私は視線を下に下ろしながら気になることを聞いてみた。

 

「その笛、なんですか? 初めてみました」

「オカリナって言うんだ♪ とっても魅力的な楽器だろ?♬」

 

 初めて聞く楽器の名前だった。 気がつくと私は、詩人が持っているそのオカリナという楽器を興味深く見つめてしまっていた。

 

「欲しいかい?♩ まだ使っていない予備が残ってるけど?♫」

「いや別に」

「しょうがないなあ、そこまでいうならプレゼントしよう!♬ 私はティータンのプロメテオスのように慈悲深いからね!♪」

「ティータン? プロメテオス?」

「気になるかい?♫ ならば今日は、特別サービスでもうひと語りさせてもらうとしよう!♬」

 

 詩人は頼んでもいないのに語りを再開した。 周りからの罵詈雑言(ばりぞうごん)など気にもせず、うるさいとか失せろとか言われてもちっとも気にした様子もなく、ただただ私のために語り始めた。

 初めて、かっこいい人物だと思った。 この人のように、自分の好きなものを誇れるような人間になりたいと、いつの間にか思ってしまっていた。

 

 次の日から私は育成学校から帰る道すがら、娯楽本を漁るようになった。 今まで知識を得るためだけに伝記本や研究者の論文等しか読んでこなかったから、娯楽本に書いてあった内容は新鮮だった。

 当時はまったく人気のなかった娯楽本に、取りかれるように読みふけった。

 

 こうして私は秀才から変人になったと周りから揶揄やゆされるようになり、自然と嫉妬の目はなくなり、あわれむような視線を受けるようになった。

 孤独であることは変わらなかったが、嫉妬の視線よりも憐れみの視線の方が気持ちは楽だった。

 

 私は初めて気がついた。 孤独であることがこんなにも苦しいことだったのかと。 今まで私は、孤独であることを認めようとしていなかっただけなのだと。

 受付嬢育成学校を卒業してからは、私は冒険者たちに覚えてもらうために常にオカリナを持ち、会話の最後にその心地よい音色を吹かせることにした。

 

 こうすれば冒険者たちは私のことを奇妙に思うかもしれないが、記憶に深く刻んでくれる。

 そして冒険者たちは、私の指導が他の受付嬢よりも優れているということに気がつくのだ。 そのおかげで私は、自然と孤独ではなくなった。

 

 私の受付嬢生活は順調だった。 私が担当する地域にモンスターの群れはほとんど出現しない。 大型モンスターが現れても私が持ち合わせる数々の知恵で一方的になぶり倒す。

 知性の低いモンスターなど、所詮私に狩られるだけの有象無象(うぞうむぞう)でしかないのだ。

 

 そもそも、私の記憶力があれば群の出現も危険モンスターの出現も、発生する前に阻止することができる。

 そして私の才能に周りが気がついたとしても、オカリナを吹きながら娯楽本に書かれているようなワードで比喩表現ばかりする、私のような奇人を嫉妬するものは一人もいない。

 

 私の人生に、もはや挫折などという言葉は不釣り合いなほどに、受付嬢としての成功を収めていた。

 カリスマ性がなくとも、モンスターの脅威は退(しりぞ)けられる。 最前線で指示を出さなくとも、私の知恵があれば冒険者たちは無敵になれる。

 

 ランキングが一位でなかったとしても、私が誰よりも優れていることは疑いようがない。

 つい最近まではそう思っていた。

 

 けれど、あの子がこの冒険者協会にやってきた。

 あの子は、私が思いつかないような奇策を駆使し、モンスターたちの弱点を次々と発見していった。

 

 本には書いてない、私の知らない知識をいくつも使って数々のモンスターたちを、効率よく倒せるよう()いて回っていた。

 とても興味深いと思った。 その反面、きっとあの子の才能は疎まれ、孤立させられてしまうと思った。

 

 けれど、そうはならなかった。

 あの子はよく笑い、他人を(うやま)い、周囲のひねくれた人物たちすら黙らせてしまうほどの結果を見せた。

 

 私の知らない知識を持っていながら、目に見えないところで努力を重ねていく姿は、隠していたとしても周知されるほどだった。

 あの子はその努力をひけらかそうとも自慢しようともしていない。 なのに周囲の人間たちはあの子の努力をなぜか察している。

 

 私との違いはなんなのだろうか? あの時私は、なぜ孤立してしまったのか。

 不思議に思い、あの子に近づくことに決めた。 そうすることでいくつもの違いが発見できた。

 

 あの子は、決して相手を見下さない。 自分を天才だなんて思って(おご)らない。 そして何より、何度も挫折を経験している。

 

 

 初めての失態だった。 私の指揮する戦闘において、これほどまでの負傷をさせてしまう冒険者が出てしまうなんて。

 完全に出し抜かれた。 たかがモンスターと油断し、勝手に私の思い通りに戦いが進んでいると錯覚していた。

 

 敗北感を、味わった。 私は自分が優れていると思い込んでいただけで、今目の前で必死に冒険者たちに指示を送るあの子よりも、大きく劣っていたのだ。

 

 この私が、たかがモンスターごときに出し抜かれるなんてこと、あってはならないはずだった。

 私もあの子のように、自分の才能に傲らず努力を重ねていけば、あの子のように強くなれるのか?

 

 いいや、違う。

 秀才である私が、他人の真似事なんてふさわしくない。

 

 私はあの吟遊詩人の語りを聞いた時、自らの心に誓ったんだ。

 

 ——自らの信じた道を、周りから卑下(ひげ)されようと貫き通すと。

 

 天上天下唯我独尊、それこそが私を表すのにふさわしい言葉。

 努力なんて言葉は私に似合わない。 努力などしなくても、私には圧倒的な才能があるのだから。

 

 ならば、落胆するなんて時間の無駄だ。 氷帝鯱(テンペラルグラス)の思わぬ攻撃に確かに一度はしてやられてしまったかも知れない。

 その失敗を踏まえ、インプットし直す。

 

 相手の思惑、思考の癖、攻撃パターン、体の作り、残存魔力、そしてこちらに残っている勝利へのピース。

 全てを今一度見直し、作戦を構築し直す。

 

 私は秀才だ、才能の高みに鎮座する、神に選ばれた子。 知性が少し高い程度の獣ごときでは、私の才能の足元にも及ばない。

 失敗から学ばない自己陶酔の権化(ごんげ)? それで結構。

 

 私には何人(なんぴと)にも真似できない豊富な知恵と、そこ知れぬ探究心がある。 これからもこの事実は決して変わらない。

 故に、私が指揮する戦闘において討伐対象となるモンスターどもは……狩人に追われる獲物でしかないのだ。

 

 負けてたまるか、私と真逆の道を突き進んでいくあの子に。

 置いていかれてたまるか、私が初めて実力を認めたあの子に。

 

 度肝を抜かせてやる、初めて好敵手(ライバル)と認めたあの子を——セリナを!

 

 そうと決まれば、この戦いの結末は一つしか許されない。

 

 ——徹底的な、滅殺めっさつだ。

 

 

 

 ☆

 氷で生成された板が幾層いくそうにも重なった鏡海きょうかいの中、あぶらあげは落ち着いた様子で瞳を閉じた。

 耳元でこの鏡海の中に取り残された冒険者たちの悲鳴が重なり合う中、希望に満ちた声が響き渡る。

 

「オラオラ! 身動きひとつ取らずに板をぶち破ることなんて、うちにとっては朝飯前なんだからね!」

「はっはっは! 喜べお前たち! みんなの頼りになる銀河(ギャラクシー)さんが戦場に戻ってきたぞ! 俺が操る七つの宝珠がこの鏡だらけの水塊の中を照らすだろう! がーはっはっは!」

 

 水塊の中に戻ってきた重傷人の銀河とすいかくろみどが、その能力を駆使して周囲の鏡をものすごい勢いで破壊していく。

 

「ぬらぬらさん! 今どこにいますか? あぶらあげさんに装備してもらってください!」

「ですから! わたくしは装飾品ではないと、何度言ったらわかってくれるのですか!」

 

 苛立ったようなぬらぬらの声を聞き、あぶらあげはゆっくりと瞳を開ける。

 

「ぬらぬら様。 今はご自分の身を案じてください。 これより私には、誰一人として近づかないようお願いいたします」

 

 あぶらあげはそれだけ告げると、両手に持っていたチャクラムを振り回しながら、優雅に舞い始める。

 

「揺るがぬ覚悟に火を放て、挫けぬ心に炎を灯せ!」

 

 静かに、それでいて力強い声音で、ゆっくりと語り始める。

 

 「燃やせ! 燃やせ! 燃やせ! 燃やせっ!」

 

 自らを鼓舞するかのように、徐々に言葉尻を強め、全身に魔力をみなぎらせていく。

 

 「炎舞・終幕 紅蓮の愛炎あいえんで、あらゆる苦境をも焼き払わん!」

 

 大量の気泡があぶらあげから噴出する。 それと同時に、ぷぷるんの腰につけられていた水温計の針がありえない速さで揺れ始める。

 

「は? 水温が、急上昇してる?」

 

 戸惑うようなぷぷるんの声が共振石を揺らす。 それと同時に、鏡で視認できていなかった氷槍が自らに射出されていることに気がついた。

 ぷぷるんは慌てて超音波砲を放とうとするが、氷槍はぷぷるんの元に届く前に消え失せる。

 

『ちょ! ちょっと! 水塊が蒸発してるわよ! 潜水服の中には炎纏猪フラムサングリエの皮が使われてるんだから、その温度じゃみんな火傷するじゃない!』

 

 潜水服の外側には断熱布が使われているため、周囲の水温を感じさせないような作りになっている。 しかし氷帝鯱の冷気は、それすらも無効にするほどの冷気をこの水の中で放っていた。

 

 にも関わらず、華嘉亜天火(かかあてんか)の持ち上げた水塊の中は、現在蒸発するほどに熱くなっている。

 氷帝鯱との戦闘において、およそありえない現象が発生している。 冒険者たちの額に、大粒の汗が伝い始めた。

 

「ちょ! あちい! あちいんですけど!」

「あぶらあげ! お前、魔力持つのか?」

 

 戻ったばかりの銀河やすいかくろみどから戸惑いの声が上がる中、水塊内部でありえないほどの気泡を噴射しているあぶらあげを視界に捉える。

 

「あ、れ? 鏡がほとんど、溶けてる?」

 

 ぷぷるんの素っ頓狂な声が共振石を揺らすと同時に、氷帝鯱も負けじと冷気を放ち始めた。

 水塊内の水温は急激に下がり、沸騰しかけていた水の温度が急激に冷やされていく。

 

「まずいです! 氷帝鯱は冷気を発することに全神経を注ぎ始めました! 水温がまた下げられてます!」

 

 水温が上がったかと思えばすぐさま下げられる。 このままではイタチごっこになってしまう。

 だが、あぶらあげは冒険者たちの魂を燃やすほど、力強い咆哮を上げた。

 

 「愛の大炎は、何者にも消せはしない! 私の愛を妨げると言うのなら、立ちはだかるものが絶望の壁だとしても、一切を灰燼(かいじん)にして見せましょう!」

 

 途端、下がり始めていた水温がまたも上昇する。

 氷帝鯱は水温を下げるのに必死で周りの冒険者たちになど目もくれていない。

 

「私の真実の愛は、紅蓮ぐれんほむらとなりて、恋の炎を大火たいかへとしましょう。 灼熱しゃくねつの恋を、劫火ごうかの愛を、その身をもって味わいなさい!」

 

 ぶくぶくと大量の気泡が水塊の中を右往左往する。 巨大な水塊は急激に上昇した水温のせいで、歪に変形しながら蒸気を上げ始める。

 もはやこの水塊の中に、氷で生成した物質は存在できない。 だからこそ、あぶらあげの愛の力は自称最強の冒険者たちを輝かせる。

 

「ぬおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 耳が痛くなるほどの怒声が響くと、氷帝鯱の尾鰭の付け根から大量の血液が噴射される。

 

「クソ! 筋肉が硬すぎて、両断できない!」

 

 すいかくろみどの苦しそうな声が響くと同時に、水温を下げることに必死になっていた氷帝鯱は、慌てるように身を暴れさせ始めた。

 氷帝鯱が暴れることで、尾鰭の付け根に剣をめり込ませていたすいかくろみどは引っ張られるように振り回される。

 

「剣がぁ、折れちゃうよぉ!」

 

 涙ぐんだ声ですいかくろみどがつぶやいたその瞬間、

 

『物理的に筋肉を切るのはぺろぺろめろんさん並みの腕力がいるだろう。 なら、ぷぷるんさんの超音波で刀を振動させて切れ味をあげよう』

 

「けどレイトさん! 私の能力じゃ、物質を振動させるのは少し難しいです!」

 

『君が振動を伝えるのが難しいと考えるのは、陸上での話だろう? ここは水中、空気よりも音が弱まりにくく、遠くまで伝えてくれる液体の中だ! その位置からでも、君の超音波に共鳴させて金属を振動させることができるはずだ!』

 

 オカリナも吹かず、必死に声を上げて指示を出してくるレイト。 冒険者たちは学者ではない、その言葉の意味など分かりはしないだろう。

 けれどぷぷるんは、目に涙を浮かべながらもゴクリと喉を鳴らし、杖の先を暴れ回る氷帝鯱に向ける。

 

「やってみますけど、できなかったらすみません!」

 

『できなくてもやるんだ。 安心するといい、伝播音(でんぱおん)は物質の密度が高いほど伝わりやすい。 気合いで最適な振動数を見つけ出し、すいかくろみどさんを援護しなさい!』

 

「え? レイトさんがまさかの根性論? いつも理論的な話ししかしてないのに!」

 

 戸惑いながら杖に魔力を込めるぷぷるん。 水の波動が氷帝鯱に衝突し、氷帝鯱は苛立たしげに大きな口を開く。

 水温はいまだ上昇を続けている。 氷を生成して反撃など不可能。

 あぶらあげが急上昇させた水温を下げない限り、氷帝鯱に反撃手段はないかと思われた。

 

『現在は水温が高いから氷による攻撃は気にしなくていい、気をつけなければいけないのは風魔法を使用した音波攻撃! 氷帝鯱は今まで温存していたが、奴はぷぷるんさんのように音波による攻撃も可能と予測する。 これはぷぷるんさんの超音波でしか防げない!』

 

「え? 風魔法? 使うの? 氷帝鯱が?」

 

『詳しいことは後だ、君が氷帝鯱に音波を飛ばしている限り気にしなくていい!』

 

 戸惑うぷぷるんを強制的に黙らせるレイト。 ぷぷるんが氷帝鯱に杖を向けてから数秒、すいかくろみどの刀が僅かに氷帝鯱の尾鰭に食い込んだ。

 

「ふんぬわぁぁぁぁぁ! 切ーれーろー! 切ーれーろー!」

 

 全身汗だくになって歯を食いしばるすいかくろみどの野太い声が、全員の共振石に響き渡る。

 しかし硬い筋肉で守られた尾鰭を両断することはできない。 レイトはイラただしげにブツブツと何かを呟き始める。

 すると、

 

『ならば、切るのではなく溶かしましょう!』

 

 セリナの声が冒険者たちの共振石を揺らす。

 

『華嘉亜天火さん! あぶらあげさんをすいかくろみどさんの方へ流せますか?』

『無論よ! けど、大丈夫なの?』

『すいかくろみどさん、ぬらぬらさんを装備してください! お二人とも、あぶらあげさんが近づくと周囲は超高温になります! けど、刀を離したら氷帝鯱に逃げられるので、一瞬超高温に耐えてもらうことになるんですが、大丈夫でしょうか!』

 

「ちょっとセリナさんまで! 私を装飾品のように扱わないでください!」

「なんでもいいからやったらぁ! ぬらちょんカモーン!」

 

 すいかくろみどの叫び声を聞き、むすっとした表情ですぐさま駆けつけるぬらぬら。 彼女の背中にぬらぬらがガッチリと捕まった瞬間。

 大量の気泡を噴出しているあぶらあげは華嘉亜天火の水流に流されてすいかくろみどの方まで進んでいく。 すると、

 

「俺が刀の中間地点に持ち手を作る、そこを掴めあぶらあげ! 二人のすぐ近くに寄るのは危険だろう?」

 

『ナイスですぎんがさん! それで行きましょう!』

 

「おいこら! 俺はぎんがじゃない! セリナさんまで俺をおちょくるのはやめろ! 全く、これだからモテる男は辛いぜ」

 

 妄言もうげんを吐きながらも、すいかくろみどが氷帝鯱の尾鰭に食い込ませている刀の中間地点に宝珠を集中させる銀河ギャラクシー

 現在、すいかくろみどの刀の長さは三メートル。 すいかくろみどは巧みな間合い操作によって刀が食い込んでいる部分以外を柔らかくし、刀が折られないようコントロールしている。 その中間地点に分厚い金属の塊が出来上がった。

 

 銀河が操作する炎溶鉱石の宝珠は、特定温度を一定時間保つ事でしか液体化しない。 現在の水音ではその特定温度から大きく外れているため、あぶらあげが触れても液体化しない。

 あぶらあげが素早く接近し、銀河が作り出した持ち手に両手をつける。 すると至近距離に近づいていたすいかくろみどとぬらぬらから悲鳴が響きわたる。

 

「「あぁあぁぁぁぁぁああつい熱い熱い熱い!」」

「大丈夫です! お二方、離れてください!」

 

 悲鳴を上げながらも二人はあぶらあげが持ち手に触れたのを確認し、ぬらぬらの高速遊泳によってすぐさまその場を離れる。

 

「これこそが愛の共同作業! 氷帝鯱、入刀!」

 

 本来、刃物に熱を加えれば刃がなまり、切れ味が落ちてしまう。 しかしそれは、温度が下がった時の話。

 刃の温度が千度近くなり、真っ赤に染まった金属は、どんなに硬い筋肉でも大した力を加えずに切り裂く。

 

 あぶらあげが刀に触れた瞬間、彼女中心に放たれている熱によって刀が徐々に真っ赤に染まっていく。

 そして、氷帝鯱の尾鰭に食い込んでいる刃が真っ赤になった瞬間、するりと刃が振り抜かれる。

 

 焼き切られた氷帝鯱の切断面は真っ黒に染まり、苦しげな表情で声にならない悲鳴をあげる氷帝鯱。

 見事両断された氷帝鯱の尾鰭は、ぷかぷかと水塊の中を(ただよ)った。

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