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〜最終決戦・打ち返し花火〜

〜最終決戦・打ち返し花火〜

 

 水塊内に侵入した冒険者たちは、水塊中央に浮かぶ氷帝鯱(テンペラルグラス)を発見する。

 

「おうおうおうおう! 余裕ぶっこいでふわふわ浮いてんじゃん? 鯱公しゃちこう!」

「なあなあ、今思ったんだべが……さっきぴりから先輩が言った作戦、銀河先輩いねぇどあたしゃあ早く泳げねえから難しんでねえか?」

「何を言っているんだい田舎の子猫ちゃん。 今回戦う環境は、さっきとは違うんだよ?」

 

 ぴりからの声が共振石を揺らす。 すると、全員の共振石に鼻で笑うような音が響く。

 

『ふふ、わかってるじゃない。 そうよ? さっきまでは忘れられていたかもしれないけど、何のために私が来ていると思っているのよ』

 

華嘉亜天火かかあてんか先輩? って、うわわわわ!」

 

 こめっとめんこの体が、泳いでもいないのに動き始める。 否、こめっとめんこだけではない、全員の体が何もしていないにも関わらず、ひとりでに動き出した。

 突然発生した不自然な海流によって。

 

 『私はこの水塊を浮かせている限り、この場所から動くことはできないけど……水塊の形を変えることはできる。 形を変えるだけじゃなく、海流を作り出して操作する事もね?』

 

 華嘉亜天火の能力では湖と同量の水を持ち上げるのが限界だ。 この量の水量になると浮かせるのに負担がかかり、移動させる事もできなければ、華嘉亜天火本人はその場から動くことができなくなる。

 

 華嘉亜天火が水塊を浮かせた地点、自分から約百メートル地点から水塊は一切動かせない。 しかし、その形を変更することはできる。

 例えば水塊から紐状に変形させた水を伸ばすこと、水塊の中に自らの意志で海流を作り出すこと。

 

『この量の水塊を浮かせることができ、さらにその水塊の形を変形できるなんて……その場から動けなくなるとはいえ、さすがは金ランクですよね』

『ふふ、受付嬢さん? そんなに褒めても何にも出ないから、無理に褒めなくてもいいのよ?』

 

 機嫌良さそうな華嘉亜天火の声に対し、感嘆の声を上げたセリナの苦笑いが共振石を揺らす。

 

『さあこれでわかったでしょう? 冒険者は水中で動きづらくなるっていうあちらのアドバンテージは、この私がいる限り考えなくていいわ。 ああ安心して、一応言っておくけど船に空いた穴はもう治してあるから』

 

「華嘉亜天火先輩って、機嫌いいと饒舌じょうぜつになるんだなぁ」

 

『田舎の子? 何か文句でもあるのかしら?』

 

「ごめんなせぇ、怒らせるつもりはなかったんだっぺさ!」

 

『ふふ、別に怒ってないから安心なさい?』

 

 華嘉亜天火の声に一瞬顔を青ざめさせたこめっとめんこだが、ホッと胸を撫で下ろしながら大砲を担ぐ。

 

「けんども、これでさっきぴりから先輩が言ってた作戦は成立するべ!」

 

 こめっとめんこは移動したい方向に向かって足をバタつかせる。 すると、海流はこめっとめんこが向かいたい方向を予測して流れる方向を変えた。

 

「さすがですね華嘉亜天火様、わたくしもこれで素早く移動することが可能になりました!」

 

 華嘉亜天火が作り出した海流に乗り、あぶらあげは我先にと氷帝鯱に向けて泳ぎ始める。

 水塊の中央で待ち構えていた氷帝鯱はチラリとあぶらあげを見た瞬間、水塊内に侵入した冒険者たちを順繰りに確認する。

 

 すると、突進してくるあぶらあげには目もくれず、後方に待ち構えていたぴりからに鋭い視線を向けた。

 

「おやおや鯱君、そんなにボクのことが恋しかったのかな?」

 

 刺すような視線を受けているにも関わらず、ぴりからはニヤニヤしながら古式銃を構えた。

 氷帝鯱はぴりからに向けて挨拶がわりの氷柱を放つ。

 

「私のことなど眼中にないのですか、旦那様がいるとはいえ、殿方にそっけなくされるのは少々悲しいです!」

「あぶちゃん、あの鯱公がオスって何でわかったの?」

「え? そこ気になるかい? まさかあぶらあげがオスだったらどんな生き物でもオッケーな節操もない子猫ちゃんだったとは思わなかったよ」

 

 散々な言われようだったあぶらあげだが、氷帝鯱がぴりからに向けて放った氷柱を横目に見ながら、腰にぶら下げていた二つのチャクラムを構えた。

 

「炎舞・開演! 魅了の恋火で焦がれなさい!」

 

 水温が上昇する。 あぶらあげ中心に放たれた膨大な火力の炎が蒸発し、大量の気泡が彼女にまとわりついた。

 

「す、すごいあぶらあげさん! 水塊の中だから海と比べれば水量が少なくなったとはいえ、たった一度の炎の波で水温が五度も上がるだなんて!」

 

 ぷぷるんの驚愕の声が共振石を揺らす。 水温の急上昇により、ぴりからに向けて放たれた氷柱がひと回り小さくなり、氷帝鯱は訝しげに目を細めた。

 海の中で膨大な炎を発生させたとしても、水温が変わるのは自身の周囲だけ。 しかし、現在は華嘉亜天火によって宙に浮かされた水塊の中。 海と比べればその比率は比べるまでもない。

 

 氷帝鯱が放った氷柱を、華嘉亜天火が作り出した海流に乗って軽々とかわし、古式銃を放つぴりから。

 

「さてさて鯱君、今の君にとって脅威になるのは、水温すら上昇させるほどの火力を持ってるあぶらあげかな? それとも君が奥の手を使って止めるしかなかったボク? それとも……」

 

 古式銃から放たれた銃弾が氷柱に衝突し、氷柱が爆散する。 するとその爆散に合わせ、氷帝鯱の後方でも爆発による衝撃が発生し、水塊内の水を揺らした。

 

「うちの花火も忘れちゃダメだっぺよぉ!」

 

 氷帝鯱の背後から、大筒を担いだこめっとめんこが花火球を放つ。 しかし、氷帝鯱は後ろ向きだったにも関わらず、攻撃を予測していたかのようにひらりとかわす。

 かわされた花火球は水塊の中を漂うかと思われたが、氷帝鯱は先ほどの攻撃でその脅威を既に学んでいる。

 

 すぐさま魔力を操作し、花火球を分厚い氷で覆ってしまった。 しかし、

 

 「はいはい! たーまーやー!」

 

 分厚い氷に覆われた花火球に回り込むように、高速で泳いでいたぺろぺろめろんが回り込む。 その背中にはガッチリとしがみついているぬらぬらの姿がある。

 

 「今です! ぺろぺろめろんさん!」

 「ぺろぺろめろん先輩! あたしの真似しねーでくれよ!」

 

 ぬらぬらの合図でぺろぺろめろんが大斧を振りかぶり、氷帝鯱が分厚い氷壁で覆った花火球に叩きつける。 大斧の腹部分が氷壁に衝突し、氷の破片を撒き散らす。 そして、水塊の中の水を揺らしながら、氷壁を破壊した花火球は勢いよく飛んでいく。

 

 その先には、先ほど花火球をかわして身をひねらせていた氷帝鯱がいた。

 打ち返された花火球が氷帝鯱に迫った瞬間、こめっとめんこはむすっとした表情で大きく息を吸い、

 

 「かーーーぎーーーやーーー!」

 

 水塊を大きく揺らす爆発が発生し、大量の気泡が氷帝鯱を包み込む。

 

 「ねえねえこめっち、爆発の呪文は『たまや』じゃないの?」

 「別に爆発させっとぎはあたしの魔力操作で発動すっから、掛け声は必要ないんだべ。 ただこれはその、あれだあれ、なんか花火を綺麗に見せるための雰囲気作りだっぺ。 本に書いてあったから真似したんだべさ」

 

 『説明しましょう、たま屋とかぎ屋の違いはですね……』

 

 「お嬢さん! ちょっと静かに!」

 

 セリナが饒舌に語り出そうとした瞬間、ぴりからがすかさず口上を遮る。 理由は単純明快、氷帝鯱が大量の氷槍をこめっとめんこに向けて放ったからだ。

 ぴりからは二丁の古式銃を氷帝鯱に向ける。

 

 「おそらく今が攻めどきだよ子猫ちゃんたち! 今の一撃で治りかけの氷壁も壊れたはずだ!」

 「よっしゃ! こめっち! ぴりりんの打ち返し花火作戦大成功だよ! ジャンジャン行こう! ほらぬらちょん行くよ! いつまで拗ねてるの?」

 「拗ねてなどいません!」

 

 ぴりからの合図を聞き、全員が総攻撃を開始しようとする。 すると、

 

 「え? 魔力の流れが変わった? これ、何をしようとしてるの?」

 

 ぷぷるんの戸惑いの声が、共振石を揺らす。

 

 『ぷぷるんさん! 何を察知したんですか?』

 『妙ね、薄い氷の板が、水塊の中にいくつも作られているわ?』

 

 華嘉亜天火の声にも困惑が混ざり込んでいた。 戦況を直接見ることができないセリナとレイトは、二人の言葉を聞いて必死に思考を回転させる。

 

 『見えない氷で攻撃をしようとしているのでは?』

 

 「いえ、それだとおかしいです! 氷の板は大きすぎるし、それに配置が不自然です!」

 

 『配置が、不自然? ならば大して気にしなくていいんじゃないかい?♩』

 

 戸惑いの声がいくつも上がる中、こめっとめんこは大筒をもう一度構えて氷帝鯱に向ける。

 

 「攻撃の気がねえんなら! こっちからジャンジャン攻めてくしかねえべさ! ぺろぺろめろん先輩、ぬらぬら先輩! もいっちょかますから任せっぞぉ!」

 「よし来た! 一気に畳み掛けよー!」

 

 こめっとめんこが再度氷帝鯱に大筒を向けた。 つもりだった。

 

 「え? こめっとめんこちゃん? どっちに大砲を向けてるの!」

 

 ぷぷるんの声が届くと同時に、こめっとめんこは花火球を放ってしまう。 ぷぷるんの声に全員が首を傾げていたが、ぺろぺろめろんとぬらぬらは迷うことなく花火球の方へと泳いでいく。 はずが……

 

 『え? あなたたち、そっちは逆よ? 何をしているの!』

 

 華嘉亜天火からも焦りの混じった指摘が飛ぶ。 だが、二人はそれぞれ見えている目標から目を逸らしてなどいなかった。

 全員の意思疎通が全く噛み合っていない。 そんな不自然な状況下で、ようやく状況を察したセリナがキュッと息を吸う。

 

 『鏡です! その板状の氷で、鏡を作られたんです! 目に見えている景色に惑わされてはいけません!』

 

 だが、セリナの声は虚しく冒険者たちの共振石を揺らしていた。

 花火球の正面に回り込んだと思っていたぺろぺろめろんの前に突然姿を現したのは、氷槍。

 

 氷帝鯱を狙って打ったはずの花火球が直撃したのは、古式銃を構えたぴりから。

 鈍い打撃音と共に、ぺろぺろめろんとぬらぬらからくぐもったうめき声が響く。

 

 「は? あたしは一体、何を撃っちまったんだべか?」

 「き、気にするんじゃない子猫ちゃん。 随分昔に鬼人(ガルユーマ)の棍棒が直撃した時に比べれば、意識を保てるだけマシさ」

 

 苦しそうなぴりからの声が共振石を揺らす。

 

 「ぺろぺろめろん様! ぬらぬら様! ご無事ですか!」

 「う、うん。 ったた、思いっきり斧振りかぶってたから全く反応できなかった。 ぬらちょんが咄嗟に体捻らせてくれたから、ぎり急所は外せたよ」

 「ぺろぺろめろんさん! 出血が……華嘉亜天火さん! 早くぺろぺろめろんさんを離脱させてください!」

 

 取り乱したぬらぬらの声が響く。 すぐさまぬらぬらはぺろぺろめろんから離れ、周囲に視線を巡らせる。

 

 「そんな、これは一体何が?」

 

 ぬらぬらの視界に映っているのは、全方位から自分を見つめている自分自身の姿。 まるで万華鏡の中に入り込んでしまったかのような、奇妙な光景が広がっている。

 

 「皆さん! 私の音波は板に阻まれて既に意味を成していません! 何が起こるかわかりませんので最大限の警戒を!」

 

 ぷぷるんの必死の呼びかけが響くが既に遅く、こめっとめんこのうめき声が共振石を揺らした。

 

 

 

 ☆

 水塊の中から放り出される形で三人の冒険者が飛び出してくる。

 

 「岩ランクの皆さん! 受け止めて下さい!」

 

 私は必死に岩ランクの方々に呼びかける。 しかし少し遅れて水塊から伸びてきた紐状の水が、飛び出してきた冒険者たちに巻き付いた。

 受け止めようとしていた冒険者たちはおどおどしながら重傷を負った三人の冒険者を救出するために甲板に駆け寄ってくる。

 

 「……何が、何がどうなってんのよ!」

 

 華嘉亜天火さんが下唇を噛みながら、船の手すりに拳を叩きつける。

 ほんの一瞬の出来事だった。 ぷぷるんさんと華嘉亜天火さんは氷帝鯱が氷の板を生成していることは察知していたはずだった。

 

 けれど、そんな目に見えない情報だけでわかるはずがない。 相手は氷の板を使い、鏡を生成していただなんてことは。

 攻撃の意思が見られない謎の行動を前に、戸惑うことしかできなかったんだ。

 

 「私の能力を、あなたが使っていれば……もっと早く気がつけたのに。 中の状況を誰よりも把握できているはずの私が、こんな失態を——」

 

 取り乱しながら拳をキュッと握り、縋るような表情で私に視線を向けてくる華嘉亜天火さん。 優しすぎる彼女は傷ついた仲間を見て取り乱してしまっているのだろう。

 けれど、華嘉亜天火さんが責任を感じる事ではない。 これは指揮側のミスだ。

 

 氷帝鯱の意図を察するのが遅かった、私たちの責任。

 甲板に優しく下ろされた冒険者たちに、べりっちょべりーさんが慌てて駆け寄っていく。 全員かなりの深手だ。

 

 「肋骨複数本の骨折、下腹部の貫通創、側腹部の開放創。 こめっちが一番やばい! 下腹部の内臓に傷がついてる!」

 

 べりっちょべりーさんの速攻診断。 その言葉の一つ一つが重く響く。

 こめっとめんこさんの下腹部には大穴が空いており、ものすごい勢いで血液が流出している。 呼吸も浅くなっており、肌も泥のような色になってしまっていた。

 私の判断ミスが原因で、重症人を出してしまったと言う事実が胸を突き刺す。

 

 「お、お嬢さんたち、暗い顔をしないでくれないかい?」

 「そうだよー。 セリナちゃんもかかちゃんも、何も悪くないっしょ? これは調子に乗ってた私の責任。 むしろ、セリナちゃんが早く気がついてくれたからあたしはぬらちょんに守ってもらえたんだし」

 「そうだよ。 お嬢さんがこの危機に気がつけたのも、金ランクのお嬢さんが異変を感じてすぐに知らせてくれたからだろう?」

 

 二人が苦しそうな表情で、無理やり口角を上げながら語りかけてくる。

 その優しさに胃が締め付けられるような苦しさを感じながら、絶望に苛まれそうな思考をすぐさま切り替える。

 

 「華嘉亜天火さん! 気がつくのが遅れて本当に申し訳ありません! あなたが気づいてくれたのに、私は氷帝鯱の意図に全く気がつけなかった! 叱咤なら後で気が済むまで受けます! ですから今は、まだ水塊の中で戦闘している皆さんのために、思考を回転させて下さい!」

 「あなたが謝ることじゃ……いえ、今はいいわ。 今の私にできるのは、同じ失態を犯さないこと!」

 

 挫けそうになってしまう心を殺し、必死に華嘉亜天火さんに懇願する。 悔しそうに、俯きながら、華嘉亜天火さんは鋭い眼光を水塊に向ける。

 その様子を見て、安心したように眠りについたぺろぺろめろんさんとぴりからさんが横目にうっすらと映った。

 すぐさま対策を練ろうと思考をフルで回す。 だがその瞬間、

 

 「なんだし、その顔。 うちがいる限り、誰一人として死なせねえし。 みんな宝石ランクの化け物相手に戦うと決めた以上、怪我するのは承知で戦場に行ってたんだし!」

 

 べりっちょべりーさんの怒りを交えた声が後方で響く。 自らの不甲斐なさを呪いながら、背後に視線を向けると……目を見開き、怪我をして運ばれてきた冒険者たちの隣で膝をついてしまっていたレイトが目に入った。

 

 血まみれで横になっているこめっとめんこさんの隣で、呆然としている。

 今の言葉は私に向けて放たれた言葉ではなかった。 その証拠に、べりっちょべりーさんの視線の先にはそのレイトがへたり込んでいる。

 べりっちょべりーさんは容赦なくレイトの胸ぐらを掴み上げる。

 

 「うちらはあんたたちの指揮を信じて戦ってんだ! そのクソみたいな面をやめて前を見ろ! セリナさんは今もあいつを倒すために思考を回してんだ! 何のためにあんたはセリナさんと一緒にここに来た?」

 

 見たこともないような表情で、放心状態になってしまっているレイトに、ぐっと顔を寄せながら怒鳴りかけるべりっちょべりーさん。 その怒鳴り声は、私が握っていた共振石を揺らしたのだろう。

 

 『旦那様の愛の叫び、私の心の火を炎炎と燃やしてくれました。 レイトさん、聴こえていますか? 挫折を知らない秀才であるあなたが、初めての重症人を前に取り乱してしまうのも理解できます。 ですが、今一度私に指示をいただけませんか? 私の愛は、あなたを裏切るようなことは致しません』

 

 共振石を揺らしたのは、およそ空気を読んでいるとは思えないあぶらあげさんの声だった。 しかし、誰もその語り掛けを妨げない。

 

 『この戦いが終わるまで、どうか私たちを見捨てないでくださいませ。 あなたが折れた瞬間、犠牲者はそこはかとなく増えてしまうでしょう。 ですからどうか、どうか正しい判断をして下さいませ。 秀才であるあなたならば、今できる最善の策を導くことができるでしょう?』

 

 べりっちょべりーさんに胸ぐらを掴み上げられていたレイトが、キュッと息を吸う。

 

 『あなたがもう一度立ち上がれるまで、私たちは足掻きましょう。 あなたなら私たちを勝利を導いてくれると信じ、命尽き果てるまで戦い抜いて見せましょう。 愛の力は世界を変えるのです。 真実の愛こそが、私をさらに次の次元の強さへと押し上げてくれるのです!』

 

 あぶらあげさんの声を聞き、華嘉亜天火さんは目を見開く。

 

 「水温が、急上昇してる?」

 

 お化けでも見たかのような表情で水塊を見上げる。 だが、その言葉を聞いた瞬間、我らが秀才は空のように美しい瞳に、力を蘇らせる。

 

 「……氷で作った鏡なら、溶かしてしまえばいい」

 

 いつも首からぶら下げているオカリナを吹くことなく、べりっちょべりーさんの腕を優しく掴むレイト。

 

 「およそ頭の悪い作戦だけどね、申し訳ないがこれしか浮かばなかった」

 

 ゆっくりと、脱力していた足に力を入れ。 立ち上がりながらべりっちょべりーさんの視線に応えるレイト。

 

 「この事態に全く気がつけなかった無力を謝罪するのは後だ、頼むべりっちょべりーさん。 この戦場で、誰一人として死者を出さないよう協力してくれ!」

 「うちを誰だと思ってんだし。 うちがいる限り、誰一人として死なねーから! ここにいる全員には、思う存分無茶させろし!」

 

 べりっちょべりーさんの気迫のこもった宣言は、現在戦場にいる冒険者だけではなく、この場にいるすべての人間を奮い立たせる。

 

 「へぇ、べりちょんがそう言うならさ、こんなところで寝てるわけにはいかないじゃん?」

 「まったく、俺がいないだけで戦線が崩壊するとは、心配でゆっくり傷を治している余裕もないな」

 

 べりっちょべりーさんの背後には、全身に包帯を巻いているミイラのような冒険者が二人。

 

 「……切り傷が開かないように、激しく動くのは禁止だし」

 

 べりっちょべりーさんは振り返らず、呆れながらも口角を上げてそう呟く。

 

 「何言ってんのさべりちょん」「はじめの方にも言ったはずだが……」

 

 ミイラのような冒険者たちは、息ぴったりに言葉を繋げていく。

 

 「「突っ立ってても最強な冒険者に、そんな注意勧告は必要ない!」」

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