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〜最終決戦・理不尽な耐久力〜

〜最終決戦・理不尽な耐久力〜

 

「どうですかぷぷるんさん!」

 

 現在、ぷぷるんさんが超音波を飛ばして水塊の中で生死不明になっている氷帝鯱テンペラルグラスの様子を確認してくれている。

 

「良い知らせと悪い知らせがあります」

「……悪い知らせからで」

「氷帝鯱さん、生きております」

 

 やはりと言わんばかりに冒険者たちからため息が漏れる。 やはり、爆発エンドは駄作と相場は決まっていたか。

 

「じゃあいい知らせも聞こうかな?♪」

「氷帝鯱さんの魔力が最初に遭遇した時と比べると、半分くらいになってます」

「はい? あんなに痛めつけて、奥の手を使う機会まであげたというのに半分しか減ってないのかい? 冗談はよしてくれよ三つ編みの子猫ちゃん。 あの氷の槍はありえないほど大量に発射していたよ?」

「大マジです。 半分と言いましたが、正確に言えば氷帝鯱の残存魔力は六割ってところでしょうか」

 

 淡々とした口調で告げるぷぷるんさん。 あれだけ戦って、魔力の半分も使っていないのか。

 というか私、気がついてしまったのでツッコミを入れようと思います。

 

「全然いい知らせじゃないと思うんですが?」

「……考えようによっては、ギリギリいい知らせかな? と思いまして」

「所感で勝手に私たちの心を弄ぶんじゃない!」

 

 どうやら悪い知らせは二つだったらしい。

 

「ちなみに、今は氷帝鯱さんぷかぷか脱力して水塊の中心に浮いているので、魔力が徐々に回復しています」

「悪い知らせが増えてしまいましたね」

 

 ぬらぬらさんが悲しそうに呟き、私たちは顔を引き攣らせながら再戦の準備を進めることになった。

 再戦するにあたり、冒険者たちは潜水服の中にセットしていた風の魔石の交換を行う。 風の魔石は酸素を供給してくれる役割を果たしているため、この魔石の交換は重要。

 

 これを交換すれば全力で戦ったとしても三時間は持つだろう。

 他にも氷帝鯱の氷槍乱射で潜水服が傷ついた冒険者たちはお着替えタイム。 と、お色気チックに言ったのだが、潜水服の中にはいつもの洋服を着ているのでただ脱いで着るだけである。

 

 ぷぷるんさんやぴりからさんもところどころに切り傷がついていたため、べりっちょべりーさんが魔力を凝縮して作った治癒テープを患部に貼り、新しい潜水服を着ようと準備する中、二人の隣に素知らぬ顔で並んでいる重症人がいることに気がついた。

 

「何してんですかすいかくろみどさん?」 

「いよっしゃ! 気合いいれてリベンジしに行くぞ!」

「くろみっち! 何でその怪我で立ててんだし! 寝てろし! べりちょんストップだし!」

 

 何だそのドクターストップのような新ワードは、なんて思いながらむくれるすいかくろみどさんをチラ見すると、

 

「わかったよべりちょん。 ちゃんと寝てるから落ち着いて。 安心してよみんな。 うち、突っ立ってるだけで強いって言ったじゃん。 つまりさ、寝てても戦えるってことだよ!」

「「「アホか!」」」

 

 私とべりっちょべりーさんのツッコミにぴりからさんも合わせてくる。 遠くの方で腹を抱えて笑い始めるぺろぺろめろんさん。 頼むからあなたも止めてください。

 やっとのことですいかくろみどさんを組み伏せ、ぼーっと空を眺めながら大の字に寝ている銀河さんの隣に移動させる。

 

 すいかくろみどさんと銀河さんは言うまでもなく傷が治るまで絶対安静だ。

 これからの戦い、華嘉亜天火(かかあてんか)さんが浮かせている水塊の中での戦闘になるわけだが、勝利条件は尾鰭または額の宝石の破壊、もしくはそれ以外の方法で無力化する。

 

 おそらく氷帝鯱は水塊に閉じ込められていることを察している。 だが、舐め腐っているのか大ダメージで動けないのか、いまだあの水塊の中心でピクリとも動かないらしい。

 

「氷壁の修復に全神経を注ぎつつ、魔力の回復をしているんだろうね♪ 今の弱った状態で必死に逃げようとして、そこを私たちに襲われるのを恐れているに違いない♫ 自分が捕まっていると知っているからこそ、万全な状態に近づけて私たちが水塊に入った瞬間に全力で逃げようとするだろうさ♩ もしくは、私たちが戻った時、確実に逃げるための下準備でもしてるんだろうね?♬」

 

 流石の推察だ。 レイトはいつもアホっぽいけど王都の受付嬢の中で一番頭がキレると思う。 私は奇策を思いつくのは得意だが、流石にモンスターの分布や生態、習性なんかはそこまで詳しくない。

 元いた世界での動物に関する素人まがいの知恵は、この世界では当てにならないと言うことは今までの戦いで痛いほど察している。 動物とモンスターは似て非なる存在なのだ

 

 レイトはこの世界で生まれ育っているため、余計な知識がない分モンスターの生態にかなり詳しい。

 必勝パターンを考え出してそれに基づいてみんなを指揮する私に対し、レイトは相手の出方をじっくり伺い、少しずつ弱体化させていく。

 彼女の担当する冒険者たちはモンスターを弱体化させることに特化した能力が非常に多い。

 

 特にぷぷるんさんなんかはその筆頭だろう。

 ぶっちゃけた話、最初に氷帝鯱の資料を見た時点で何となく嫌な予感はしていた。 本来、氷帝鯱は討伐に五日以上かかるモンスターだ。

 これはつまり攻撃が通じ辛い、または並外れた耐久力を兼ね備えていると想定していい。

 

 ここにきて私は確信する、氷帝鯱はそのどちらも兼ね備えているモンスターだ。

 そもそも条件が悪すぎる。 水中での戦闘になる時点で冒険者たちは攻撃を当て辛いだけでなく身動きが取り辛くなり、相手の攻撃を回避するのが困難になる。

 おそらく氷帝鯱は、水中では冒険者が不利になると知った上で水中で戦闘をしている。 性格悪すぎだ。

 

 他の宝石ランクモンスターと比べると、氷帝鯱の魔法による攻撃は大して痛手になったりしない。 なんせ地獄狼(ルルアンフェール)水神龍(レアウディーユ)、つい先日戦った女王蜘蛛(レヌアレニエ)も、一撃でも喰らえば即死級の危険な攻撃を持っていた。

 それに比べれば氷帝鯱の氷柱飛ばしは、むしろ防ぎやすい方だろう。

 

 厄介すぎるのは触れただけで体温を急激に奪う特性と、体を覆っている分厚い氷壁だ。

 戦いを見ていて思ったが、氷帝鯱は直接体当たりしたり噛み付いた方が冒険者に大ダメージを与えられるだろうが、それを進んでしようとしていなかった。

 おそらく接近することで反撃を喰らう可能性を消すためだ。 水中でのアドバンテージを最大限活かそうとしている。

 

 最初から耐久戦を想定して戦っているのだ。 冒険者たちが討伐に苦戦すればするほど氷帝鯱は有利になる。

 下がり続ける体温と、そこ知れぬ魔力量、打たれ強い体質。 ぴりからさんのレーザーが貫通しても少し苦しそうな顔をするだけで普通に動いていたところを見るに、あれは心臓を直接潰すか、呼吸を止めたりでもしない限り息絶えないだろう。

 

 とは言ったものの、ここまで約三十分ほど戦っていたが、不思議なことに息継ぎをしているような様子は見られなかった。

 シャチは哺乳類だったはずだから息継ぎが必要だとばかり思っていたが、やはり元の世界での固定概念は捨てるべきだろう。

 これはジリ貧な耐久戦になる。 戦いが長引けば必然的に冒険者たちは集中力を失い、判断ミスを生じやすくなる。

 

 その上さっきぷぷるんさんからまだ魔力を半分も使っていないという事実を聞かされた。

 士気が低下してしまうだろう。 こう言った時こそ我々受付嬢の出番である。

 

 冒険者たちの士気を維持し、集中力を維持させる。 こう言った時に重要になってくるのが気の利いた声かけだ。

 冒険者たちの士気を上げるのはキャリームちゃんやクルルちゃんが非常にうまい。 私もクルルちゃんのように気合いのこもった号令をして冒険者たちの士気を上げなければいけないだろう。

 深呼吸し、意を決して気を落としているであろう冒険者たちに視線を配った。 ……のだが、

 

「さてみなさん。 ぬらぬらさんは誰に装備させますか?」

「考えがあるんだ三つ編みの子猫ちゃん。 ここはひとつ、またピンク髪の子猫ちゃんに装備させてくれないか?」

「よしきた! 合体超人ぬらぬらめろん、第二陣だよ!」

「ちょっとみなさん! わたくしを装飾品扱いするのはひどいです!」

 

 思わず吹き出してしまった。 いつの間にかぬらぬらさんが最強の装備品になっている件。 ウケる。

 

「んだけども、さっきぺろぺろめろん先輩は腕がカッチコチに凍っちまったべよ。 そんなのにまぁたおんなじことすんのは、あんまいい作戦には思えねえんだけどなぁ」

「こめっちの喋り方親父くさーい! もっと可愛く喋りなよ!」

「今はんなごどどーでもいいべぇ! あたしだって、本当はおめーさんみたいにめんこい喋りがたしでぇんだわ!」

「あのさこめっち、わかる言葉で喋ってくんない? めんこいって何? 明太子? お腹空いてきちゃったじゃん!」

「何で急に明太子の話になっちまうんだっぺか! あーほんと、いじやけっちゃーなー!」

「まあまあ落ち着くんだ子猫ちゃんたち。 策ならあるよ?」

 

 ぴりからさんは口角を歪めながらぺろぺろめろんさんとこめっとめんこさんに秘策を伝授しているようだ。

 後でこめっとめんこさんには公用語をびっしり学んでもらいたい。 なまりがひどすぎてマジで何言ってるかわからない。

 

 冒険者たちの顔を見ていると、どうやら私の心配は杞憂だったと言うことがわかった。 みんな仲良さそうに、楽しそうに作戦会議をしている。

 冷静に考えれば当然だろう。 ここにいるのは私とレイトが選抜した精鋭たち。 この程度の苦境を前にめげてしまうようなお豆腐メンタルな冒険者はいない。

 

 となれば、気が利いた言葉をかけようと思考を回すより、私もその作戦会議に加わっていくべきであろう。 

 と言うわけで、私が思うこの戦いのキーパーソンをご紹介。

 

「あぶらあげさん! この先の戦いにおいて、あなたの活躍がかなり大切になってきます! ……あ、大切って言うのはあなた自身のことではなく、この作戦においてとても重要な役割って意味で——」

「あらあら? 何を取り乱しているのですかセリナ様。 (わたくし)には旦那様がいるのです。 ですのであなたのような素敵な方に迫られたとしても……私、ちっともなびきません!」

 

 ……ついさっきまで愛だの何だの言ってたくせに、気がつくとこれだよ。 なんか腹たつなこの女、引っ叩いてやろうか?

 

 ぺろぺろめろんさんの背中に隠れてプルプル震えているべりっちょべりーさんのためにも、ここは私の神の右手を振り下ろしてやろう! 

 

「ああ、セリナの怒りし右腕よ♫ 鎮まりたまえ!♩」

 

 後ろから火に油を注ぐレイトのオカリナが響き、私は震えさせていた右腕で流れるようにあぶらあげさん、ではなく……レイトをヘッドロックしてやった(一応先輩)

 

「あはは、あは♪ 痛いよセリナ〜♬ やめてくれよ〜♩」

 

 なぜ、この変態は嬉しそうな顔でオカリナを吹いているのだろうか。 真面目に作戦会議したかったのに、いつの間にか漫才のようになってしまっていた。

 全く、どうしてこう、目の前にかなりの強敵がいると言うのにビシッと締まらないのだろうか?

 

 

 

 ☆

 冒険者たちの戦闘準備が整った。 みんながずらりと船の淵で一列に横並びし、宙に浮かんでいる水塊を睨みつける。

 ここで私、気になることができてしまったので、みんなの代わりに聞いてみようと思います。

 

 「どうやってあの中に入るんですか?」

 

 私の気の利いた質問に、同じことを思っていたであろう冒険者たちは同時に華嘉亜天火さんに視線を送った。

 ちなみに、現在は華嘉亜天火さん以外全員同じ方向を見ている。 つまり何が言いたいかというと、みんな華嘉亜天火さんを観ている。

 

 「視線がうるわいわよ。 ほら、準備できたんでしょ? 行ってきなさい」

 

 華嘉亜天火さんは気だるそうにそう告げると、水塊の表面からふよふよと、数本の紐状になった水がこちらに向かってくる。

 

 「え? ジャンプしていくんじゃないの?」

 

 ぺろぺろめろんさんが言うように、頑張れば届きそうな位置に水塊はある。 海面から約三メーター程度しか浮いていないからだ。

 船をギリギリまで寄せてジャンプすれば届かないこともない。

 

 「あなた、バカなの?」

 「ちょっとかかちゃん! いいこと教えてあげようか? バカって言った人はね、とってもバカなんだよ?」

 「じゃああなたはものすごくバカなのね?」

 

 ぺろぺろめろんさんはムキー! なんて言いながら華嘉亜天火さんに掴みかかろうとしていたが、慌ててぬらぬらさんが止めに入っている。

 そんなことをしてるうちに、水塊から伸びてきた水の紐が最終決戦に向かう冒険者たちに巻き付いた。

 すると、紐は掃除機のコードのようにものすごい勢いで引き寄せられていく。

 

 「「「「「ぎゃあああぁぁぁああぁぁぁぁぁ」」」」」

 「ひゃっほぉぉぉぉぉっぉぉぉぉぉ!」

 

 ものすごい悲鳴の中に、何だか奇声が混ざっていた気がしたが、あの状況で喜びそうな変態は一人しかいないだろう。

 突撃していったのは怪我で療養中の銀河さん、すいかくろみどさんを抜いて六人。

 

 ぺろぺろめろんさん、ぬらぬらさん、ぴりからさん、ぷぷるんさん、あぶらあげさん、こめっとめんこさん。

 華嘉亜天火さんは水塊の外から水塊を維持しつつ、中で戦う冒険者たちのサポート。 べりっちょべりーさんはもしもの時のため、戦線離脱してきた冒険者に治癒をかけるため私たちと待機。

 水塊の中に吸い込まれていった冒険者たちを見上げ、しばし無言で立ち尽くす待機組の私たち。

 

 「ねえ、あなたたちはおかしいと思わないの?」

 

 初めに口を開いたのは華嘉亜天火さんだった。

 

 「何がだい?♫」

 「これはさっき、戦闘準備してるあの子たちが書いていたスケッチよ?」

 

 華嘉亜天火さんが指差したのは、ぷぷるんさんが書いていたスケッチだ。 私のお願いで最初の戦闘中、氷帝鯱の体の作りをずっと探ってくれていた。

 そうして探った結果、こうしてかなり上手なスケッチで骨格やら筋肉のつき方やら内臓の位置やらをわかりやすく記載してくれている。

 

 弱点がどこにあるか、攻撃する際はどこを中心に攻めるか、このスケッチをみんなが凝視しながら話し合っていたのだ。

 

 「華嘉亜天火さんが妙だと感じたのは、氷帝鯱の体の作りそのものなんじゃないかい?♪」

 「ええ。 私はあの子と一緒に何回かクエストに行っているわ。 水辺エリアでのクエストも何回か一緒にいった。 けれど水辺エリアで相手した水中のモンスターは、こんな体の作りしていなかったわ。 この体の作り、これじゃあまるで……」

 「哺乳類の作りをしているね♩」

 

 レイトは今回初めて開眼する。 空色の瞳を覗かせ、鋭い声音で華嘉亜天火さんに語りかけた。

 

 「哺乳類は基本的に肺呼吸♫ 対して、水中にいる生き物は大体がエラで呼吸をする♪ けれどね華嘉亜天火さん♬ ぷぷるんさんは、弱点は額の宝石部分と尾鰭だと言ったんだ♪ セリナもこの意見には同意していたね?♫」

 

 レイトに視線を送られ、私は無言で首肯をする。

 

 「仮にあの氷帝鯱が肺で呼吸をしているのなら、何時間も水中に入れるはずがないわ? だったら肺を破壊、もしくは呼吸している部分を破壊すればいいんじゃないのかしら? つまり水塊の中に長時間閉じ込めれば……」

 「何度も言わせないでくれよ華嘉亜天火さん♩ 弱点は額の宝石か尾鰭だと言ったんだ♫」

 

 華嘉亜天火さんの口上を強めの口調で遮るレイト。 いつもとは違う雰囲気を醸し出しているレイトの言葉に、華嘉亜天火さんは少々戸惑っていた。

 弱点は額の宝石か尾鰭。 尾鰭はわかるだろう、推進力を奪えば後はやりたい放題だ。

 

 額の魔石に関しては魔力が集中しているから。 氷帝鯱は、私が知っているシャチと同じ哺乳類。 にも関わらず、肺呼吸をしているが弱点には肺や呼吸器が含まれない。

 なるほど、ようやく理解した。

 

 「額の宝石部分には魔力が集中している。 ぷぷるんさんはそう言ってましたね?」

 「え、ええ。 あの宝石部分で氷を生成しているのでしょう?」

 「華嘉亜天火さん、氷属性の魔法なんて聞いたことあります?」

 「は? ないわよ。 基本的に魔法の属性は火、水、風、雷、土でしょう?」

 「じゃあ、どうやって氷を作ってると思います?」

 

 私の質問に、華嘉亜天火さんは数秒沈黙し、やがて目を見開いて水塊を見上げる。

 

 「あなたの担当にいたわね。 初めてのクエストで鬼人(ガルユーマ)を討伐したっていう有名な第五世代が二人。 片方は接近戦特化の剣士。 もう片方は魔法を使ってメンバーを支援する。 確かあだ名は、氷の魔女……だったわね」

 「はい、よりどりどり〜みんさんっていう方です」

 「あの子の適性、水と風だったわね?」

 

 華嘉亜天火さんはチラリと脱ぎ捨てられた潜水服の山に視線を送る。 その潜水服の周辺には、先ほどの戦闘で使われた魔石、使い捨てられた風の魔石が散らばっていた。

 

 「なるほど、そういうカラクリだったわけね? だったらあのモンスター、まだ攻撃手段を隠しているんじゃないかしら?」

 

 華嘉亜天火さんは額から一筋汗を垂らしながら水塊を見上げる。

 

 「さすがセリナだ♩ 説明が上手で助かるよ♫」

 

 潜水服に空気を送るのは風の魔石だ。 風魔法は優秀で、気体の濃度を操ったりできるため、気温を下げたりあげたりする事も可能。

 水と風の魔法を使い、水を冷やして氷を作るという応用技もできる。 つまり氷帝鯱が長時間潜水状態を維持できていた理由は

 

 「額の魔石から、肺へ直接酸素を送っている」

 「つまり酸素濃度を操るほどに風の魔法を使いこなしているんです。 だからぷぷるんさんの超音波索敵にも、即座に対応することができた上に、海中に大量の気泡を生成する事もできていた」

 

 氷帝鯱の生態が次々と顕になっていく。 ここに来るまでには弱点もわからず、ただただ討伐に時間がかかることや凍傷などの対策が必須であることしかわからなかった。

 けれどこうして、私とレイトの戦術眼を駆使していくことで徐々に相手の攻撃パターンや考えが読めてくる。

 

 「じゃあさっきの作戦会議の時、どうしてみんなにそれを言わなかったわけ?」

 「これからの戦いは、あえて無知を演じるために冒険者たちには伝えなかったのさ♩」

 「無知を、演じる?」

 「ああそうさ、あの氷帝鯱は水塊から逃げるために必死になって思考しているだろう♩ けれど先ほどの戦闘で簡単な氷壁では打ち破られるということを知ってしまった、その上ぷぷるんさんの超音波にも気がついている♫ ならば攻撃が集中してくるのは額の宝石と尾鰭だと既に予測されている」

 「それって、まずいんじゃないかしら?」

 

 華嘉亜天火さんは顔を引き攣らせながら問いかけるが、レイトはおかしそうに鼻を鳴らした。

 

 「いいや?♫ 我々は相手の術中にはまってると、思い込ませることができるじゃないか♪」

 

 レイトの一言に、華嘉亜天火さんは不思議そうな顔で眉を顰めていた。

 

 「氷帝鯱が考えてる勝利条件、冒険者たち全員の低体温症、あるいは外傷による戦闘不能だ♪ 全員を行動不能にすれば、いとも簡単に逃げられるんだから♩ つまりね、慌てて逃げようとしなくなるんだよ♫」

 

 華嘉亜天火さんは、ようやく納得がいったような顔で頷いた。

 

 「なるほど、シャボン玉作戦は、まだ続いているということね?」

 「ああ、勘違いしている氷帝鯱に目に物を見せてあげようじゃないか♩ 本当に気をつけないといけない相手は、今戦場に向かっている冒険者たちだけではないってことを♩」

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