〜氷帝鯱討伐・シャボン玉作戦〜
〜氷帝鯱討伐・シャボン玉作戦〜
現在、ぴりからさんが無双状態に入っている。
今までのぴりからさんの弱点は破壊力だったが、氷帝鯱の氷壁を軽々と貫いている以上、その弱点は払拭されたと考えて相違ない。
そうなってしまえば、銃弾の弾速といい能力発動の速さといい、ぴりからさん本人の頭の良さも加味すれば、もはや向かう所敵なし。
「ちょっと! 何よあの子! あの子本当に銀ランクなの?」
船底の水中窓から戦いを見守っていた私の隣から、唖然とした声が響く。
「はい、今は銀ランクですよ? 今は……」
「ランク詐欺じゃない。 あんなの、金ランク以上……下手したら、宝石ランクも顔負けよ?」
ぴりからさんの戦闘を見て呆然としているのは、金ランクである華嘉亜天火さん。 金ランクですらドン引きするほどの能力だ、あれは普通に反則。 レッドカードですね。
『とっておきのサービスだ、鯱君。 さらに次の次元に至ったぼくの奥義をご覧に入れよう』
ぴりからさんは古式銃をクロスに構え、回転式弾倉を外しながら物騒なことを言い出した。
「じょ、冗談だろう?♩ あれのさらに上があるのかい?♫」
「……意味がわからないわ」
隣で観戦していたレイトと華嘉亜天火さんがチラリと私の方に視線を向けるのだが……
「いや、私も見たことないですけど?」
「あなた、本当にあの子の担当なの?」
「ぐうの音もでませぬ」
ここにくるまでの戦闘で、ぴりからさんたちの出番を奪ったぺろぺろめろんさんたちを本気で恨みたい。
そんなことを思っていると、ぴりからさんが得意げな顔で何かを唱え始めた。
『融合魔弾——光線跳弾』
「「「は?(♪)」」」
三人揃ってすっとぼけた声を上げてしまう。 え? 何? まさかそんなわけ……
ぴりからさんが光線を放つと、氷帝鯱はまたしてもひらりとかわす。 ——が
「おいおいおいおい♩」
「はは、これは笑うしかないわね」
氷帝鯱が避けた方向に、光線が直角に方向転換した。 あれは今までぴりからさんが使っていた跳弾の軌道と同じ。 つまり……
「二つの弾丸の特性を、融合させたんですか?」
レーザーを放つ光線弾と、放った弾を方向転換させる跳弾。 二つの特性を融合した弾丸、融合魔弾。
あれは流石に避けられない、どっちに弾丸が跳ね返るかを知ってるのは、ぴりからさんしかいないんだから。
方向転換した光線は両サイドから氷帝鯱を貫いた。 思わぬ方向からの攻撃に目を見開き、苦しそうに大口を開ける氷帝鯱。
『思い知ったかな? 鯱君。 君が今までボクの存在を大した脅威だと思っていなかったことが、どれだけ愚かだったかということが』
ぴりからさんがサディスティックな笑みを浮かべながら再度回転式弾倉を外す。
『融合魔弾——炸裂跳弾』
回転式弾倉を戻した瞬間、氷帝鯱は氷柱がいくつも重なったような巨大な氷を作り出し、それをぴりからさんに向けて放つ。
ぴりからさんと氷帝鯱の間にあった海水が次々と凍っていき、折り重なった氷柱がぴりからさんを捉えようとするのだが、
『遅いよ鯱君。 その程度の攻撃速度じゃあ弾丸を越えられない!』
巨大な氷柱の集合体が次々と爆散していく。 それだけでなく、氷柱の横から抜けていった弾丸が方向転換し、氷帝鯱の腹部に張り付いた。
続いて発生する爆破。 氷帝鯱の腹部に張り付いた三つの炸裂弾が連鎖的に爆破を起こした。
跳弾する炸裂弾の連射。
口をあんぐり開けたままその様を伺っている私たち。
「うわー♩」
「やばいわね」
「とんでもないですね」
爆発によって発生した泡が海面へ引っ張られるように上昇していき、横たわっている氷帝鯱の姿が徐々にあらわになる。
『やったか?』
『それは一番言っちゃいけないセリフだよ? 小煩い坊や?』
銀河さんがNGワードを呟いた瞬間、氷帝鯱中心に全方位に向けて巨大な氷柱が生成された。
どうやら氷帝鯱さん、ブチギレてしまったようだ。
『ちょ、ぴりりん! 鯱公めっちゃ怒ってんじゃん!』
『氷柱が大きすぎてあれを貫通させるのは難しそうですね』
『おやおや、もしかしてボクがとっておきを見せたから、鯱君もとっておきを見せてくれたのかな?』
『ぴりから先輩! そんな流暢なこと言ってる場合じゃないべさ!』
冒険者たちから動揺の声が上がる。 氷帝鯱は奥の手とも言える技を使ってきたのだろう。
現在氷帝鯱は、巨大な氷柱が幾重にも重なった巨大な氷の中に閉じこもっている状態。 その大きさはこの中型船を丸々凍らせてしまいそうな大きさだ。 ちょっとやそっとの爆発では砕けそうにもない。
まさに氷の城だ。
さらに厄介なのは……
「あの状態から氷の槍で遠距離攻撃かい♪」
レイトが呟いた通り、巨大な氷塊の中にいても氷の槍による雨のような攻撃が降り注ぎ始めた。
銀河さんやすいかくろみどさん、ぷぷるんさんぴりからさんは自力でこの槍の雨を防ぎきっているが、攻撃の動作が重いこめっとめんこさんは銀河さんの槍に必死に捕まって逃げ回っている。
『銀河先輩! 申し訳ないべ! こんな大量の攻撃、あたしの反射神経じゃどうすることもできねえべ!』
『ったく! お前は一旦船に戻ってろ!』
銀河さんは舌打ち混じりにこめっとめんこさんを海上に放り投げる。 こめっとめんこさんの涙ぐんが叫び声が響いた後、一瞬船が少し揺れた。
どうやら無事に緊急回避ができたようだ。
「でもあの状態、氷帝鯱は動けないんですよね?」
「確かに、ってことはようやく私の出番かしら?」
「ぷぷるんさん! 今通信いいですか!」
私はすぐさまぷぷるんさんに連絡を試みる。
『だ、大丈夫ですけど手短にお願いします!』
超音波を駆使して水の波動を生み出し、襲いかかる氷の槍を砕いているぷぷるんさん。 彼女にはこの戦いが始まった当初からお願いしていた事があった。
「氷帝鯱の体の作り、わかりましたか?」
氷帝鯱の弱点看破。 これさえわかれば華嘉亜天火さん中心に成立する私の必勝法が成立する!
『わかったと言えばわかりました! うわぁ!』
槍から逃れるために必死に水の波動を繰り出しているため、少々早口で答えが返ってくる。
『簡潔に説明すると、尾鰭が推進力。 背鰭がバランス。 胸鰭で方向転換ってところですかね! 魔力が集中してるのは額の宝石部分です!』
「ってことは、狙うのは尾鰭で間違いないですね?」
『それで問題ないかと!』
ぷぷるんさんに調べてもらったのは氷帝鯱の骨格から予想できる泳ぎの仕組み。 この仕組みさえどうにかわかってしまえば相手のスピードを封じられる。 推進力となってる尾鰭さえ封じてしまえば動きは封じれるのだ。
あの速度で泳ぐもんだから、てっきり体のどこかから魔力をジェット噴射でもしてるかと思ったが、どうやらそんなことはないらしい。 あの泳ぎの速さは単純に運動神経だった。
「聞こえましたか皆さん! これから必勝法、名付けてシャボン玉作戦を決行します! 戦闘中の皆さんはやつの尾鰭を破壊してください!」
『無茶言うな! あいつは今氷の城に閉じこもっているんだぞ!』
「泣き言なんか聞きたかないわ弱虫ギンガ! それの対策なら今ぬらぬらさんがやってくれてますから!」
『貴様! またちゃっかりギンガとか言ったな! 何回言ったらわかるんだ! 俺はギンガじゃなくてギャラク……』
『銀ちゃんうるさい! けどセリナさん! こめっちさっき銀ちゃんに放り投げられちゃったよ?』
『おいこらすいかくろみど! 俺は銀ちゃんじゃなくてギャラりんだ! ……って、あれ?』
『『『やかましい!』』』
ギンガさんは一人でシュンとしてしまっているが、すいかくろみどさんの心配ならご無用だ。
「すいかくろみどさん?♪ 言ってなかったかな?♫ うちのこめっとめんこさんはね、敵に視認されてない時にこそ猛威を振るうんだ♩」
☆
「キリがないね、これは!」
次々と降り注いでくる氷の槍に、拡散炸裂弾を放ちながらぼやくぴりから。
「あぁあぁぁぁぁぁ! 腕が攣りそう! あいつどんだけ手数多いのさ!」
「おそらくですが、完全に動きを止めてるので魔力による攻撃に全神経を注いでいるのでしょう! 接近戦ではぴりからさんに勝ち目がないと踏んで、手数頼りの乱射です! けど、無差別な攻撃もこう数が多いと……っつぅ!」
ぷぷるんの腕を氷の槍がかすめ、黒々しい血液が海中に漂う。
「おい大丈夫かぷぷるん!」
「あらあらギンガさん! 私のことを心配してくれてるんですね! これはもしや、恋!」
「何あぶらあげのようなことを言っている! それに俺はギンガじゃない……」
「いい加減やかましいんだけど銀ちゃん!」
「なぜ俺だけ説教を喰らわないといけないんだ!」
喧嘩をしながらも槍の雨を防ぎ続ける冒険者たち。 おそらく何かしらの会話をしないと集中力が切れそうなのだろう。
氷帝鯱のもう一つの脅威は、着々と冒険者たちを苦しめている。
「これは、まずいことになったんじゃあないかい?」
「ぴりりん。 気づいちゃった? うち、ぶっちゃけもうやばい」
すいかくろみどが諦め混じりの声を発する。 その瞬間、すいかくろみどの至る所から切り傷が発生した。
「なっ! まさかすいかくろみど! お前……」
「もうぶっちゃけ手足が麻痺してうまく動かないんだわ。 これ多分、凍傷ってやつ?」
すいかくろみどは刀による直接攻撃で氷を破壊し続けていた。 故に刀から伝わる冷気が体に伝わりやすい。
「まずいよこれは! 誰か子猫ちゃんの近くに向かえないか!」
「この攻撃の中では……クソ!」
「ちょ? ギンガさん? 自殺する気?」
銀河は降り注ぐ氷槍を防ごうとせず、武器である宝珠を槍の形に変えて捕まった。 氷槍を防ぐ手数が減ったせいで、足や肩を氷槍が無慈悲に貫き始める。
「ちょっと! 銀ちゃんあんた何してんの?」
「何してるのもクソもあるか! 俺だけ何の役にも立っていない! せめて、仲間を守るために動けなければ、あいつをぶっ倒した後、俺はお前らと一緒に笑って喜べなくなってしまう!」
全身に裂傷を負いながら宝珠を変形させた槍を操作し、すいかくろみどの方へと進んでいく銀河。
「ちょっと待った! 死んじゃうよそんなことしたら!」
「俺を誰だと思っている! 強くて賢くて面白い、みんなに大人気の銀河さんだぞ!」
「……小煩い坊や、ちょっとカッコよかったのに台無しじゃないか」
「ぴりりん! まさかどるべるうぉん様から浮気するの?」
「んなわけないだろう! こんな真面目な時に何を言い出すんだ!」
銀河は全身ズタボロになりながらも、動きが鈍っていくすいかくろみどの元まで辿り着き、彼女を庇うように前に立ち塞がる。
既に二人は全身から大量の出血をしてしまっており、このままでは出血多量で命を落としてしまう。
「バカなの? 言っておくけど銀ちゃん、うちは一途だからどるべるうぉん様から心変わりなんかしないんだからね!」
「意味のわからんことを言うな! 他意はない、ただ共にクエストに向かった仲間を守ろうと奮起する、当然だろ!」
すいかくろみどは、若干頬を赤らめながら銀河の背中を直視する。
「何よあの子! ヒロイン気取りでずるいじゃない! 私もわざと怪我しようかしら!」
「ちょっと、三つ編みの子猫ちゃん。 頼むからそれだけはやめてくれよ?」
銀河がすいかくろみどを庇いに向かったとはいえ、既にその体はボロボロ。 宝珠を見事に操作して無数の氷槍を弾いてはいるが、長くは持たない。
「ぬらぬら! まだなのかい? 早くしてくれないと足止めもできなくなる」
作戦は始まっている。 冒険者たちがこの海域から退避しようものなら、氷帝鯱もそれを追ってこの海域を離れるだろう。
しかし、それをやられては全てが水の泡。 作戦が完遂されるまでの三時間、何があろうとこの海域から離れるわけにはいかないのだ。
そして、この海域で戦闘する冒険者たちは、氷の城に引きこもっている氷帝鯱の尾鰭を破壊しなければならない。
「いつまでこの猛攻撃は続くのだ!」
肩で息をし始める銀河をサポートしようと、すいかくろみども両腕を振ろうとするが……
「やっべぇ、麻痺通り越して感覚全くないわ」
霜が貼り始めた潜水服を虚な瞳で眺めるすいかくろみど。
「ちょー眠いし、なんか目の錯覚で銀ちゃんがキラキラして見えるし、うちちょっとやばいかも」
「おいすいかくろみど! 寝たら死ぬぞ! っていうか、思いっきり心変わりしてるじゃないか! ファンクラブ会長として恥ずかしくないのかこのチョロインめ!」
「ちょっと二人とも! 真面目なのかふざけてるのかぐらいははっきりしてくださいよ!」
ぷぷるんから思わずツッコミが飛ぶ。 しかし、すいかくろみどの体は徐々に海底に引きずられるように落ちていく。
銀河の動きも散漫になり、さらには先ほどから一言も発さなくなっていた。
歯を食いしばりながらぴりからとぷぷるんは二人の方に視線を送るが、残念ながら二人はこの水中で素早く動く術がない。
助けたいと本気で思っていたとしても、どっからどう考えても間に合わない。 だが、この戦いに参加していた冒険者は、彼女たちだけではない。
「皆さん! お待たせいたしました!」
「合体愛人・ぬららあげでございます!」
「ネーミングだっさ!」
ぷぷるんの小言がボソリと響く中、救世主が登場した。
あぶらあげの背中にガッチリと引っ付いたぬらぬらの声が響き、あぶらあげが猛スピードで銀河とすいかくろみどの方へ泳いでいく。
その優雅な泳ぎは、降り注ぐ氷槍を優雅にかわしながら水中を舞う人魚のよう。
圧倒的な手数で攻めたとしても、最速の冒険者にはかすりもしない。
「銀河様、すいかくろみど様! 私、とても素晴らしい愛の形を拝見いたしました! これこそが真実の愛! 相思相愛!」
「あぶらあげさん! 御託はいいので早く二人を助けてください!」
「まあ、ぬらぬら様! あなたのお願いならば! 私、全霊を持って答えましょう!」
ぬらぬらの電気反射に従い優雅に泳ぎながら、背中に背負っていたチャクラムを構えるあぶらあげ。
「炎舞・開演! 尊き恋火で、凍てついた心を溶かしましょう!」
あぶらあげが銀河の前に立ち塞がり、チャクラムを構えた瞬間、大量の気泡が噴射される。 あぶらあげ周辺の水温が一気に上昇し、大量の泡の中で踊るように舞いながら、次々と氷槍を粉砕しているあぶらあげが姿を現す。
「ちょ、熱い。 何これ熱湯?」
「何だこの光景、俺の目の前に、美しい人魚がいるぞ? これは天国なのか?」
すいかくろみどと銀河の声が共振石を揺らし、ぴりからたちはほっと胸を撫で下ろす。 しかし、
「銀河様! 今、私を美しい人魚と比喩したのでしょうか? それはつまり……いえ間違いなく恋! いいえ、まごうことなき愛!」
「お、落ち着くんだあぶらあげ」
「何と言うことでしょう! 申し訳ありませんすいかくろみど様! これは聞くところによる略奪愛! つまり私は、すいかくろみど様から銀河様を奪ってしまったのですね! なんて罪深き愛! ですがそれがまた——とてもいい!」
一人ハイテンションでチャクラムを振りまわし、語っている途中もぶぉんぶぉんと気泡を放ち始めるあぶらあげ。 そのせいで彼女の周囲の水温は熱湯風呂に等しい温度になってしまっている。
「ちょ、あの子何言ってんの? あちいし! 寒いところから急に熱いところに変わったから痛えし!」
「面倒なことになってしまった、これはもしやモテ期か? 困ったことになった、俺は今冒険者として奮闘しているから結婚する気などないと言うのに」
「銀ちゃん、調子乗ってっとぶん殴るぞ?」
すいかくろみどが恐ろしい目つきになって腕を振りかぶる。 が、
「あれ? 手が動く、めっちゃ麻痺してるけど感覚戻ったわ。 すげー!」
すいかくろみどは何気なく腕をさすろうとしていたため、べりっちょべりーの悲鳴が共振石を揺らす。
『くろみっち! さすっちゃだめ! すったりもんだりもしちゃあだめ! あぶちゃん! あんまり熱湯にしすぎちゃだめだし! さっき渡した温度計見ながら炎ぶっぱなって、気合いで四十度保てし!』
負傷者を治療し終えたべりっちょべりーは現在、セリナたちと合流して戦いの様子を見守っている。
凍傷の際の応急処置を耳が痛くなるほど叩き込まれたあぶらあげは、べりっちょべりーに渡された温度計をチラ見して頬を赤くする。
「あらあら、旦那様からの愛のメッセージが届いてしまいましたね。 そういえば、よくよく考えれば私には旦那様がいるのです。 銀河様、申し訳ありません。 あなたの愛は、受け取ることができないのです」
「おい、勝手に俺が告って勝手に振られたみたいな演出をするな」
「銀ちゃんだっせー! 振られてやんの!」
「すいかくろみど、すまないな。 俺はお前の愛を受け取ることはできません(笑)」
「は? ちょっとツラ貸せや!」
「こんな時に何をふざけているのですか!」
銀河が仕返しとばかりにすいかくろみどをおちょくりだし、先ほどまであぶらあげにしがみついていたぬらぬらは二人の周囲で海遊しながらも二人を宥める。
「そんなことよりぬらぬらさん! あなた、落とし物は拾い終わったんですか?」
ぷぷるんは未だなお乱射され続けている氷槍を破壊しながらぬらぬらに問いかける。
「ええ! 遺憾無く完遂しております!」
「じゃあ、例のブツはどこに?」
『あたしが預かってるよー!』
途端、元気のいい声が共振石を揺らす。
「ぺろりん! 腕は大丈夫なの?」
『もちのろんだぜ! 元気百倍うきうきピーナッツ!』
聞いてるだけで元気が出てきそうなぺろぺろめろんの声を聞き、全員の士気が上がり始める。
『つーわけで、こめっちが落としちゃった計二十三発の大玉花火、網に入れてお持ちしましたぁ! はいどーん!』
海面が揺れ、網に一つにまとめられた大玉花火が海中に落ちてくる。
「なっ!」「えっ?」「ちょっ!」
動揺の声がそれぞれから漏れ、物騒な塊に視線を釘付けにする。
『言い忘れてたがもしんねーげども、うちの大玉花火は時限式じゃなくて手動爆発なんだべ! んだから、うちが直々に爆破させない限り、大玉花火はそこらじゅうをころころ転がってんだべ!』
こめっとめんこの大玉花火は彼女の意志で爆発する。 つまり、氷帝鯱を狙って放たれた二十三発分の大玉花火は、今もまだ起爆せずに海中を漂っている。
ぬらぬらはその高速遊泳を駆使し、海中に散らばっていた大玉花火に縄を括って回っていた。 括られた縄をぺろぺろめろんが引き上げ、網の中に突っ込んでいった。
障壁魔法で作られた大玉花火は密封状態になっており、海中を彷徨っていたとしても中の火薬は湿気らない。 故にその爆発力は未だ健在。
こうして完成してしまった脅威の破壊兵器。 それが今、海中に投下された。
「え? これってさ……」
「俺たちも巻き込まれたりしないか?」
「田舎の子猫ちゃ〜ん、そこんとこどうなのかな〜。 早めに応答願うよ」
海中で戦闘中の冒険者たちから不安の声が上がる。
『安心なさい。 何のためにこの私がこの戦場にいると思っているの?』
その声音を聞き、全員がハッとしたような顔をする。
「あ、かかちゃんいたんだ。 忘れてたわ」
「華嘉亜天火さん! そういえば一緒に来てましたね」
「全く、ずっと俺たちだけで戦っていたから忘れていたぞ」
「言われてみれば、金ランクのお嬢ちゃんがまだ船に残ってたね」
口々に散々な文句を言う冒険者たち、何やら華嘉亜天火の後ろで誰か笑っているのか、共振石には僅かにくすくすと鼻で笑う声が漏れている。
『ねえ受付嬢さん。 こいつらここに放置していいかしら?』
『だめに決まっているだろう♩ ほらほら、セリナも笑ってはだめだよ?♫』
どうやら腹を抱えて笑っていたのはセリナだったらしい。
途端、水中で戦闘中だった冒険者たちは突然発生した海流に流される。 海流の流れに身を任せていると、全員がいつの間にか甲板に放り出されていた。
「今よ? 花火の子」
「たーまやーーーーー!」
元気のいいこめっとめんこの声が響き、強力な衝撃波が発生する。 しかし、大玉花火の塊が爆発した割には、船の揺れは思ったより少なかった。
全員がキョトンとした表情で顔を上げる、するとようやく全員が目の前の光景の異常さに気がついた。
「なに? あの巨大な水塊!」
目を見開く冒険者たちの目の前には、オレンジ色に染まる巨大な水塊が浮いていた。 その大きさは、まるで湖の水を持ち上げたような大きさ。
「最初に言ったでしょ? シャボン玉作戦って」
巨大な水塊を眺めていた冒険者たちの前に、腕を組んでドヤ顔をするセリナが立つ。
「もし、あの爆発で氷帝鯱がくたばらなかった場合は、全員あの水塊に戻って氷帝鯱の尾鰭を破壊し、動きを封じてもらいますから! まだ戦いは終わりじゃないですよ!」