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ナンパなんてしてないでクエスト行ってこい!  作者: 星願大聖
果ての荒野での異常現象
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〜緊急クエスト・担当冒険者の暗躍を防げ〜

〜緊急クエスト・担当冒険者の暗躍を防げ〜

 

 冒険者協会会議室。 この場所は申請を出せば冒険者たちが使用することもできる。

 そのため今回、とある冒険者たちがこの会議室で、怪しげな話し合いを行っていた。

 

 「諸君、よくぞ集まってくれたな。 今回企画担当を任せられた鋼ランク冒険者、パイナポだ」

 

 全員の視線を集める中、口火を切ったのは鋼ランク冒険者のパイナポ。 オレンジ色の髪をツンツンと跳ねさせた好青年である。

 

 「今回集まってもらったのは他でもねえ。 三日後の作戦当日に向けて、最終打ち合わせだ」

 「ねえねえ、そういう面倒な言い回しはいいからさ〜、早く本題入ろ〜よ〜」

 「……ぺろりんの言うとおりだな。 とりあえずそれぞれ、ぱぱっと状況を伝えてくれ」

 

 真剣な表情だったパイナポの表情がピンク髪のツインテールをした少女、ぺろぺろめろんの一言で綻ぶと、先ほどまでとはまるで違った軽い声音で一番近くに座る小柄な冒険者に視線を送る。

 

 「え〜こちらは情報班でやんす。 ターゲットは当日にこれといった予定は今の所なし、おそらく誘おうとすれば誰でも誘えるでやんす」

 「いいや油断はよくねえ」「ターゲットのガードは硬い」「より優れた人選を」「誘導班にするべきだ!」

 

 情報班と言われて声を上げた三人の冒険者が、集まった冒険者たちを総覧する。 情報班のリーダーと思われる小柄な冒険者は背後で熱く語っていた双子冒険者、閻魔鴉と極楽鳶の言葉を聞き、やれやれと肩をすくめた。

 「ガードが硬いのは相手が男の時だけでやんす」

 「そうとは限らねえ!」「俺は知っているぞ鬼羅姫螺星(きらきらぼし)!」「お前はターゲットと」「休みの日に二人で会っていた事があるな!」

 

 双子は親の仇に向けるような視線を小柄な冒険者、鬼羅姫螺星に向ける。

 

 「パイナポも二人で会っていた経験があるでやんすよ?」

 「「なんだと?」」

 「おい、話をややこしくすんな」

 

 双子はパイナポに掴みかかるような勢いで詰め寄っていくが、迷惑そうな顔で遮られる。

 

 「誘導班はうちに任せてちょうだい! 見事に誘導するセリフをゆうどー(言うどー)! な、なんちゃって」

 「レミスちゃんつまんな〜い」

 

 ぺろぺろめろんにズバッと切り伏せられた黒髪の冒険者、レミスはしょんぼりと肩を落としていた。

 

 「うち、セリナちゃんと休みの日に遊ぶ事多いし、誘うのはうちとかレミスちゃんでいいんじゃーん?」

 「ちょっとぺろりん、一応ここではセリナさんのことはターゲットって呼ばなきゃ」

 「あ、そーだった。 うち、ターゲットのセリナちゃんとはよく遊ぶから明日誘ってみるね〜」

 

 隣に座る水色髪の冒険者に耳打ちされたのだが、もはや治す気がないのだろう。 ため息と共に全員が諦めていた。

 

 「じゃあ誘導班はぺろりんたちとレミスに任せるとして、兵糧班はどうする?」

 「と言うかパイナポ、お前企画をするとか言って息巻いていたくせに、なんで情報班以外の人員を決めてなかったんだ? キャステリーゼ二世もドン引きだぞ」

 「ぺんぺん、こう言うのはな、ノリと勢いが大事なんだ」

 

 パイナポの隣に座っていた癖毛の冒険者、ぺんぺんからの痛い指摘に対しパイナポはなぜかニッと歯を見せながら親指を立てる。

 

 「もうグダグダじゃないか、本当に大丈夫なのかな?」

 「時雨、もう過ぎてしまったことは仕方がない、俺らでどうにかカバーしよう。 俺たちにはキャステリーゼ二世もついてるんだ」

 

 ぼやいていた獣人の少年、夢時雨の肩を叩きながら眉を顰めるぺんぺん。

 

 「兵糧班ならボクがやろう。 こう見えて料理は得意なんだ」

 「え? ぴりからって料理もできんのか?」

 「失敬だなオレンジ髪の坊や、ボクは割と万能なんだ」

 「はい! いつも旅先の料理はぴりからに作ってもらっています! (わたくし)の体調や気分に合わせて味付けも変えてくれるので、星付きシェフにだって見劣りしない料理を作ってくれるでしょう!」

 「ぬらぬらが言うなら間違いねえな。 よし、兵糧班はお前たちに任せる」

 

 金髪の美少女、ぬらぬらが祈るように両手を組みながら、隣に座る全身ピンクのロリータ衣装を纏う冒険者、ぴりからの料理の腕を我が物顔で自慢すると、ぴりからは鼻を鳴らしながらスッと手をあげる。

 

 「とは言っても今回はこの人数の料理……失敬、兵糧を作るわけだからねぇ。 アシスタントしてくれる人があと二人くらい欲しいかな?」

 「どり〜みん先輩とぷらんくるとんでいいんじゃないですか? 彼女たちの料理も中々ですよ?」

 「どるべるうぉんさ……金髪の坊やが推薦するなら間違いないねぇ。 では、君たちに頼もう」

 「え? ぴりからさん今どるべりんの事様付けで呼ぼうとしてた気がするのです」

 「しっ、ぷらんくるとんちゃん、変なところに気がついちゃダメよ」

 

 青灰色の髪を頭頂部で括った冒険者、よりどりどり〜みんが、隣に座っていた緑のマッシュヘアーの少女、ぷらんくるとんをすかさず黙らせる。

 

 「となればあまりは迎撃班でいいな。 適当に火薬とか小道具集めて迎撃準備してもらうってことで」

 「迎撃班ですか! 是非ともお任せくださいませ! どんな困難なミッションですら完遂して見せましょう! 何せこの私、不可能を可能にする男が……」

 「あ、えーっと韻星巫流(インポッシブル)さんと俺とどるべりんが迎撃班ですね、はいけってーパチパチ!」

 「とってぃさん、韻星巫流さんの口上(さえぎ)るの下手くそすぎでしょ」

 「うるさいなどるべりん! お前ってすぐ僕に対して文句ばっかり言うよな、僕一応先輩だからな!」

 

 ガヤガヤと喧嘩を始める二人の青少年、とーてむすっぽーんさんとどるべるうぉんだったが、それぞれの役割とこれからの行動が決まったことで、パイナポはパンと手を打って立ち上がる。

 口上が長いと言われていた冒険者、韻星巫流はみんなに無視されてしまい、立ち上がった体制のまま固まっていた。

 

 「よーし、とりあえずはそれぞれ任されたことを完遂してくれ、とりあえずは誘導班の女子四人。 お前たちは当日、ターゲットを目標地点に誘導するって大役があるんだ。 くれぐれもしくじらないように!」

 「「あいあいさー!」」「まかせろし」「任せときなさい!」

 

 

 

 ☆

 本日のクエストも大量だった。 みんなが多めにクエストを受注してくれたから助かったものの、そろそろ人員を増やさなければ大変なことになる。

 次の休みあたりはグータラするだけではなく冒険者育成学校に赴いて後釜育成のためにために活動をしなければまずいだろう。

 

 そもそも私は今月ナンバーワンになったのだ、キャリームちゃんを見習って休みの日も何かためになる活動をするべきだ。 よし決めた、次の休みは冒険者育成学校にOBとして赴き、今後有能になるであろう冒険者たちに唾をつけておこう。

 となれば受付嬢育成学校にも赴いて、来年配属されるであろう初めての後輩とコミュニケーションをとっておくのもいいかもしれない。

 

 怒涛の忙しさに疲れは溜まっているが、行動しなければ何も変わらないのだ!

 硬い決意を胸に、私は最後に残った三枚のクエスト用紙と睨めっこ。 そろそろ頼りになる冒険者が来てくれるはずだ、今日のクエストはあの人なら問題ないだろう。

 

 「セーリーナーさ〜ん! 今日はどんなめんどくさいクエストが残ってますか?」

 「レミスさん! 待ってましたよ! 今日はいつも通り人気のないクエストばかりですが、汚泥蛞蝓(ヴォウリマス)五体討伐と、深海魔鬼(オルフォンドゥール)三体討伐、溶岩鱓(ラーブミューレン)三体討伐です! 今回は流石に場所が離れてるので、一度に三つは流石に厳しいかと思います。 ですので、楽なやつだけでいいですよ!」

 「ふっふっふ、何を言うんですセリナさん。 私とあなたの仲じゃあないですか、全部受けちゃいますよ? それにしても深海魔鬼にはうんざりですね、()()帰ってほ()()()()()? ご、ごめんなさい」

 

 ギャグは寒かったが、今日のレミスさんはなぜかご機嫌だった。 この人はご機嫌じゃなくてもこうやって面倒なクエストを嫌な顔せず受けてくれる。

 

 汚泥蛞蝓、流水体で打撃が通らないため、体の中心部にある核を貫通力の強い攻撃で破壊しないと倒せない。 核を壊すと汚泥になってしまうため素材にならないし、何より超下水道臭い。

 

 深海魔鬼、無駄に強いくせに人型モンスターだから素材のバックは少ないし、異常に討伐依頼が多い。 まじ迷惑。

 

 溶岩鱓、その名の通り溶岩の中にいる(うつぼ)だが、溶岩の中にいるため倒す準備が面倒。 その上素材も大した価値にならない。

 

 レミスさんがどんだけ優しいかわかるだろうか、ダジャレが寒くなければ天使にも等しい救世主である。 いつもお世話になってるから恩返しをしたいところだ。

 

 「とっとととと、ところでセセセリナさんん! 次のお休みってひひひ暇ですかね〜? もももし暇だったら、その〜なんと言うか〜。 一緒に買い物に付き合って欲しいな〜、なんちゃって〜」

 

 どうしたのだろうか? いつもだったら気軽に誘ってくるショッピングのお誘いだが、今回は妙に緊張しているというか、なんだか様子が変だ。

 そもそも私は次の休みは冒険者育成学校と受付嬢育成学校に顔を出すとさっき決めたばかり、恩を返したいと思っておきながら白状かもしれないが、一度決めたことを曲げてしまえばなーなーになってしまう。

 恩を返すのは休みの日じゃなくてもいろんな方法でできるだろう、ここは丁重にお断りするしかない。

 

 「ごめんなさいレミスさん。 私その日は冒険者育成学校と受付嬢育成学校に行く予定でして、ショッピングは次の休みでもいいですか?」

 

 お誘いを断るときは代案を提案する。 こうすることで感じ悪い印象をなくせるし、あなたと一緒に遊びたいと言う意志も示せる。

 心苦しいがナンバーワン受付嬢としての矜持を曲げるわけにはいかないのだ!

 

 「ひょえ? あ、そうだったんですね〜。 冒険者育成学校に、ははは。 ちなみにそっちの予定を来週にするってことは〜」

 「ごめんなさいレミスさん。 私、ナンバーワン受付嬢として恥ずかしくない行いをするため、こうして休みの日も活動していこうって決めたんです!」

 「あ、あははー。 そ、そそそそれはとっても素敵でかっこいいですセリナさん。 すっごくかっこいいんだけど、できれば来週に予定を変えてもらうことは〜」

 「レミスさん、こんな言葉を知っていますか? 明日やろうは馬鹿野郎、やると決めたら即行動が、成功者への秘訣なんです」

 「で〜す〜よ〜ね〜。 はは〜。 ま、とりあえず私クエスト行ってくるんで、気が変わったらまた声かけてくださ〜い」

 

 レミスさんはヨボヨボした足取りでクエストに向かってしまった、私は心を痛めながらその後ろ姿をただ眺めた。

 ……けれどショッピングこそいつでも行けるんだし、来週でもいいんじゃないか? なんであんなに次の休みにこだわっていたのだろうか?

 

 

 ☆

 昼過ぎ、クエストを終えた冒険者たちが続々と帰ってくる時間に差し掛かる頃、ぺろぺろめろんさんたちが帰ってきた。

 

 「セリナちゃ〜んクエスト終わったピーナーッツ!」

 「ぺろぺろめろんさん、今日も三つ同時受注ありがとうございました!」

 

 感謝の気持ちを込めて頭を下げる私。 すると、

 

 「いいのいいの〜気にしないで〜! ところでセリナちゃん、次の休み暇っしょ〜? うちらとショッピングいこーよ! 朝起きたら噴水広場集合ね〜、じゃーこれ、決定事項だから〜! そんじゃ、クエスト受注手続きよろ〜」

 

 誘ってもらえるのは嬉しいが、先ほどレミスさんのお誘いを断ってしまっているため、せっかくだがぺろぺろめろんさんのお誘いも丁重に断らなければならない。

 流れるようにスキップしながら立ち去ろうとするぺろぺろめろんさんの背に、慌てて声を掛ける。

 

 「ごめんなさいぺろぺろめろんさん、先ほどレミスさんからのお誘いも断ってしまったので、来週の休みに変更することは……」

 「え〜まじ? じゃあレミスちゃんも誘っとくから! そーゆーことでよろ〜」

 「あ、いや。 私次の休みは予定があるんです」

 

 レミスさんのためにも、ここは申し訳ないが断るしかない。

 

 「え? 予定? ……あるの?」

 

 ぐぬぬ、どうして捨てられたチワワのようなうるうるした瞳を向けてくるのだ、罪悪感が増してしまうではないか!

 

 「ごめんなさいぺろぺろめろんさん、私はナンバーワン受付嬢としてやるべきことを見つけたので、ショッピングは来週でも……」

 「うぐ、……ひっく」

 

 え? マジ泣き? ちょ……

 

 「うう、いつもセリナちゃん休みの日はぐーたら豚さんみたいに寝っ転がってるってこの前言ってたじゃん」

 「豚さんとは失敬な」

 「どうしてこんなタイミングで……うわーん! セリナさんの豚さん! カバさん! ビックマウス〜〜〜!」

 「ちょ、ぺろぺろめろんさん?」

 

 ビックマウスは流石に意味わからんし、第五世代はビックマウスとか言われているせいでなんか一番ショックなんだが?

 慌てて止めようとする私の手は空を切り、ぺろぺろめろんさんは大泣きしながら冒険者協会から出て行ってしまった。

 

 

 ☆

 そうして本日の仕事が終わり、食堂でパエリアを目の前にガチ凹みする私。

 なんだか二人には申し訳ないことをしてしまった。 それにしてもどうして今日はこんなに遊びに誘われるのだろうか?

 

 鼻腔をくすぐる香辛料の香りに負け、私はスプーンに手を伸ばすが、ぺろぺろめろんさんに豚さんと言われた出来事が脳裏をよぎる。 そういえば最近体重測ってなかったな〜

 

 「お隣いいかな? お嬢さん」

 

 そんなどうでもいいことを考えていたら、いつの間にか隣に立ってたぴりからさんが声をかけてきた。 断る理由もないので席を開ける。

 

 「突然で申し訳ないが、ボクとぬらぬらと一緒にデートしないかい? 次のお休みに」

 

 ぴりからさんの奥でぬらぬらさんが頬を膨らませている、言い回しに気をつけろこのボクっ子め。

 

 「なんだか今日はたくさんの人から遊びに誘われているんですが、私次の休みは予定入れちゃってるんです」

 「まあまあそう言わずに、後輩の育成に奔走したい気持ちもわかるけど、たまにはこうしてボクたちと時を共にするのも悪くないだろう?」

 

 はて、私の予定を知っているかのような言い回し。 明らかにおかしい。

 もしかするとこの人たちは何かを企んでいるのでは?

 

 「あの、ぴりからさん。 どうして私の休みの予定知ってて誘ってくるんです? あなたたちもしかして、何か企んでません?」

 

 流石にここまでお誘いが被ると怪しい以外の何者でもない。 もしや日頃の恨みを晴らすために嫌がらせをしようとしてるのでは?

 

 「ぴ、ぴりから! 怪しまれちゃってますよ! さすがに三連続はまずかったのでは?」

 「ちょっと静かにしているんだぬらぬら! 場所は押さえちゃったんだから、こうなったらどうにかして誘い出さないと……」

 

 小声でヒソヒソ話しているのがまる聞こえだ。 これで確定した。 レミスさんたちはグルだったと言うことが!

 

 「なるほど、みんな揃って何やら悪巧みをしているんですね?」

 

 カマをかけるつもりでそう聞いてみたが、ぴりからさんとぬらぬらさんはわかりやすく渋面を浮かべた。 ふ、私は騙されんぞ!

 

 「何を企んでいるのか話してもらいましょうか?」

 「企むだなんてとんでもありません! 私たちはパイナポさんの提案であなたをサプ、っはわぁ!」

 

 ぴりからさん、突然ぬらぬらさんの口を塞いで鳩尾をかました。 ぴりからさんは物理攻撃の方がセンスあるんじゃないか?

 

 「はっはっはー。 邪魔したねぇお嬢さん。 とりあえず今日はお(いとま)させてもらうとするよ! それでは、アデュー?」

 

 そそくさとぬらぬらさんを担いで走り去っていくぴりからさん。 どうやら私は、次の休みの日が来る前に担当冒険者たちの暗躍を阻止しなければならないようだ。

 

 

 

 ☆

 「まさか、女性陣が全滅するとはな」

 「いやいや、どり〜みん先生やぷらんくるとんはまだ挑戦してないぞ? それにキャステリーゼ二世もまだ挑戦していない!」

 「あの状況じゃいけないですよ」

 「面目のしようもありません」

 「もう、セリナちゃんなんて知らないもん」

 「ぺろりん……そろそろ元気だせし」

 

 真夜中、冒険者協会の裏にコソコソと集まっていた冒険者たちは、何やら浮かない顔で話し合いを進めている。

 

 「こうなったら男陣も行くしかねえ!」

 「む、無理だよ! セリナさんは怒ると怖いんだ」

 「安心しろ夢時雨」「俺たちがなんとかしてやる!」

 「不可能を可能にする私になら、できないことなどありはしませんぞ! ついこの間も……」

 「仕方がないですね、私も人肌脱ぐしかないですか?」

 

 長々と話し始める韻星巫流の口上を切り、どるべるうぉんがぐっと拳を握る。 すると、

 

 「坊や! 君は絶対にナンパなんてしてはダメだ!」

 「そうだよどるべるうぉん君! そんな羨ま……間違えた、けしからんことしちゃあだめ!」

 

 すいかくろみどとぴりからがものすごい形相でどるべるうぉんに迫っていく。 突然迫られてしどろもどろになっているどるべるうぉんを横目に、とーてむすっぽーんは盛大なため息をついていた。

 

 「全く、これだからイケメンは……」

 「腐ってもしょうがないでやんす。 そういうあんさんだってブートキャンプでは黄色い声援浴びてるじゃないでやんすか」

 「あれって茶化されてるだけじゃないんですか?」

 

 それぞれが自分勝手に話し始めてしまったため、パイナポはパンと手を叩いて全員の注目を集める。

 

 「とりあえずだ! ここでごちゃごちゃ言い合っててもしょうがねえ。 何班だろうと関係ねえ、全員がかりでセリ嬢を連れ出すぞ!」

 

 パイナポの声かけに、冒険者たちはこくりと頷き帰路に着いた。

 

 

 

 ☆

 私の担当冒険者たちがよからぬことを暗躍している。 昨日の晩ご飯の時、ぬらぬらさんがほんの少しだけ口を割った。

 どうやらこの暗躍の主はパイナポらしい。 午前中のラッシュが片付いたらパイナポを問い詰める必要がある。

 と、思っていたのだが、どうやら向こうから仕掛けてきてくれるようだ。

 

 「へいへいセリナさん!」「よーよーセリナさん!」

 

 見た目に似合わずチャラついた言葉遣いで現れたのは双子冒険者の閻魔鴉さんと極楽鳶さん。

 

 「次の休みの日」「俺たちとデートしようぜ?」

 「ナンパなんてしてないで何企んでるか吐いてください!」

 「企むだなんて」「とんでもない」「俺たちはただ」「魅力的なセニョリータを」

 「「デートに誘っているだけさ!」」

 「では今日のクエストはこちらの三つをお願いします」

 

 流れるような動作で面倒なクエストを押し付けてやった。

 

 数分後。

 

 「おいセリ嬢!」

 「出たな黒幕! 何企んでるか吐かんかい!」

 「企むとは人聞きが悪いな。 いい加減意地になんなよ。 次の休み、俺についてきてくれたらオムライス奢ってやるぜ? もちろん、高級なやつだ」

 

 カッコつけてウインクなんてしてきたもんだから勢い余って殴ってしまった。 大好物のオムライスで私を釣ろうだなんて甘いわ!

 

 そしてその直後。

 

 「セリナさん! 今回私は大切な仲間たちから重要な依頼を受けてここに参りました! このミッションは非常にインポッシブル! そう、不可能を可能に変えるような力を持った私にしかできないこと、つきましてはセリナさん。 積雪月(せきせつのつき)も半ばに差し掛かり、寒くなってきたことですがいかがお過ごしでしょうか? 朝日に照らされ目を覚ましても、ぬくぬくと暖かい布団はさぞ悪魔的で……」

 「長いわ! 後ろつっかえてるんでとっととクエスト持っていかんかい!」

 

 韻星巫流さんに関しては口上が長すぎて何が言いたいのかわからなかったからクエスト用紙を叩き付けてご退場願った。

 

 そして真打登場。

 

 「セ、セリナさん! 僕は鋼ランクになって毎日奮闘しています! ですので、どうか、どうかご褒美と言ってはなんですが、僕と一緒にデデデデデデートの許可を!」

 

 勢いよくお辞儀しながら右手を差し出してくるとーてむすっぽーんさん。 プロポーズか!

 仕方がない、奴らの暗躍を事前に防ぐためには内通者を作らなくてはならない、とっておきの秘策を使ってやろう。

 

 「別に、何企んでるのか教えてくれるんだったら一回ぐらいは行ってもいいですけど?」

 「ですよね〜、だめですよね〜。 ……って、え? 今、今なんて言いました?」

 「だから、あなた方が何を企んでるのか正直に吐いてくれるなら、一回くらいはデートに行ってあげてもいいって言ったんです」

 

 明らかに動揺するとーてむすっぽーんさん。 挙動不審に背後に視線を送ると、視線の先にはぺんぺんさんや夢時雨さんなどが物陰に隠れているのが見えた。

 どうやら隠れていた冒険者たち、必死すぎて私に見られていることに気づいていない。

 

 必死にとーてむすっぽーんさんへバツとジェスチャーを送っている。

 背後に視線を送ったとーてむすっぽーんさんがゆっくりと振り返る。 すると清々しい表情で、

 

 「実は次のお休みの日、セリナさんがナンバーワ……プシュ!」

 「うふふ、とーてむくん♡ おいたはダメよ?」

 

 言葉の途中でドタッと、ドミノのように倒れるとーてむすっぽーんさん。 背後には鬼顔のよりどりどり〜みんさんが右手を手刀のような形にして立っていた。 ただひたすらに怖かった。

 

 それでなくてもクエストの数が多いと言うのにこう言った茶番のせいで今日はいつもよりも疲れた気がした。 まあ、お陰様で残り物になりそうだったクエストを半ば強引に叩きつける口実にもなったからよかったと言えばよかったが。

 

 それにしても本当に、私の担当冒険者たちは何を企んでいるのだろうか?

 午前中のラッシュが終わったため、いつもの定位置で日向ぼっこしながら紅茶を飲んでいると、音もなく隣に現れる冒険者が一人。

 

 「セリナさん、ちょっといいでやんすか?」

 「今度は鬼羅姫螺星さんですか? 一体何が目的なんです?」

 「まあまあ、そう怖い顔しないでほしいでやんす。 本当はセリナさんには内緒にするよう言われてたんでやすがね、もうこの際しょうがないでやんすよ。 実は俺たち、とあるクエストを秘密裏にこなそうとしてるんでやんす」

 「クエスト? なんで秘密裏に?」

 「未発見のモンスターだからでやんすよ」

 「理由になってない気がするんですが? どこで発見したのか早めに報告してくれます? 早々に処置しないと後々面倒になるんで」

 「まあまあ、落ち着くでやんす」

 

 鬼羅姫螺星さんの話が本当なら、これは由々しき事態である。 新種モンスターならすぐに生態を調べて対策を練らないとならない。

 

 「秘密裏に討伐したい理由なんでやんすがね、どうやらクエストを発注しようとしてるのがパイナポの親御さんでしてね。 普通に冒険者協会に依頼できない理由としては、王家の秘密に関わるから、と言うことらしいでやんす」

 

 王家の秘密? だと? 確かにパイナポの親御さんは公爵家の人間だ、それくらいの秘密に携わっていてもおかしくはない。

 

 「だから公にはできない上に口が硬くて信用できる冒険者にしか依頼が出せないでやんす。 そこで、俺たちに声がかかったわけでやんす」

 

 なるほどと言って顎をさする私。 私の表情をチラリと横目で確認しながら鬼羅姫螺星さんはさらに続けた。

 

 「しかし、相手は新種のモンスター。 冒険者だけで行っても統率が取れず、連携不足で遅れを取る可能性があるでやんす。 信頼できる仲間とは言っても、普段は別々でクエストをこなしているわけでやんすからね」

 「なるほど、だから私に協力を願ったわけですか。 しかも王家の秘密ということで、公に理由の説明もできなかったと……」

 「そう言うことでやんす」

 

 話が早くて助かるでやんすね、などと言ってホッと胸を撫で下ろす鬼羅姫螺星さん。 なんだ、そう言う重要なことならもっと早く言ってくれればよかったのに。

 

 「仕方ないですね、育成学校を回るのは来週にして、とりあえず次の休みはあなた方の話を聞きましょう」

 

 こうして私は、昨日から誘われ続けていた集まりに行く事になった。

 

 

 

 ☆

 約束の日当日。 案内されたのは小洒落た定食屋だった。

 最初は詳しい話を聞くために呼ばれただけだろう、そう思いながら私は恐る恐る扉を開ける。 すると、ドアを開けた瞬間パーンと風船が割れるような音と共に、火薬の匂いが鼻腔をくすぐった。

 

 ……これは、銃声か? もしかして王家の秘密が知られたと言うことで暗殺者に狙われたのでは!

 私は緊急回避をしながら物陰に隠れると、少し遅れて部屋の灯がついた。 恐る恐る物陰から顔を覗かせると——

 

 「「「「「セリナさん! ナンバーワン就任おめでとうございまーす!」」」」」

 

 ぽかんと口が開いてしまう私。 クラッカーのような筒からはキラキラとした紙や布が飛び出し、店の中に散乱している。

 

 「ほへ? 暗殺者は?」

 「暗殺者は俺でやんす」

 「え? なんですかこれ」

 

 鬼羅姫螺星さんの気の抜けたような言葉を聞き、改めて部屋を見渡すと、拙い飾り付けで装飾された店内と、店の奥に横断幕が吊り下げられ『セリナさんナンバーワン就任記念パーティー』と書かれていたことがわかった。

 

 「あれ? 王家の秘密は?」

 「すまんセリ嬢、あれは鬼羅姫螺星がアドリブで考えた嘘だ!」

 

 嘘の割にはクオリティ高かったが? 意外なところで才能を見せる鬼羅姫螺星さん、ドヤ顔で腕を組んでいた彼は次の瞬間胴上げされていた。

 どうやら(はか)られたらしい。

 

 「すげーぜ鬼羅姫螺星! あのガードが硬いセリ嬢をこうも簡単に誘い出すとは!」

 「今回ばっかりは」「褒めてやってもいい」

 「でもセリナちゃん、あたしの誘いは断ったくせに、きらりんの誘いは素直に聞くんだ」

 

 いまだに()ねている様子のぺろぺろめろんさん、どうやら彼女にはとても申し訳ないことをしてしまったようだ。

 

 「ふっふっふっふ。 初めはどうなることかとヒヤヒヤしましたが、無事に開催できてよかったですよ。 ()()会で、()()でもしましょうか! あの、なかった事にしてください」

 「ちょっと水臭いじゃないですか! こう言う事なら普通に誘ってくれればよかったのに!」

 

 頬を真っ赤に染めながら、私は破顔してみんなの前に出ていく。

 

 「普通に誘ったのにお嬢さんは断ったじゃないか」

 「本当ですよ、僕はあのままだったらみんなの裏切り者にされる恐れがあったんですからね」

 「とーてむくんはちょろすぎるんでしょ!」

 「本当っすよとってぃさん。 俺めっちゃヒヤヒヤしましたからね」

 

 みんながわいわいとこの歓迎会を上げるまでの大変さを語っていく。

 

 「サプライズにしたのは、セリナさんに日頃の感謝を込めて、少しでも喜んでもらいたかったからなんですからね! それなのにセリナさんったら、癇癪(かんしゃく)持ちみたいに途中からプンスカ起こり出しちゃって、感謝だけに…… あの、その、私もう黙ります」

 

 レミスさんのギャグは寒かったのだが、感謝したいのは私の方だ。 いつも無理をお願いして二個も三個もクエストを押し付けているにも関わらず、嫌な顔ひとつせず快く受けてくれるこの人たち。

 私から感謝の気持ちを伝えたかったのに、先にやるのはずるいでしょ……

 

 「ちょちょちょちょちょ! おい待てセリ嬢! らしくねーぞどうした!」

 「な、泣いちゃいました! セリナさんが泣いちゃったのです!」

 「主よ、どうかお許しください。 私はセリナさんに喜んで欲しかっただけなのに、ああなんて罪なことを!」

 

 ついつい目頭が熱くなり、慌て出す冒険者たちの声を聞いて私は袖で乱暴に目元を擦った。

 

 「みなざん! 今日はこんなずばらじいパーチーに、パパ、パーチーにお呼びいだだぎ! ありがどーごじゃいましゅ! ごれは、ごれは汗です! 汗なのでどうかお気になさらじゅ!」

 

 割にもないことを言ってしまったが、これは流石に嬉しすぎてどうしようもなかった。

 

 

 

 数日後、久々に冒険者協会に帰ってきた羅虞那録(ラグナロク)さん一向が、唯一面識のあるレミスさんや双子さんたちに掴みかかり、「どうして(わたくし)たちも誘ってくれませんでしたの! 仲間はずれなんてひどくはありませんこと?」と怒鳴りつけ、その怒鳴り声が聞こえてしまった私が苦笑いする羽目になってしまったのは、また別の話である。

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