〜エピローグ・未来の英雄たちへ〜
〜エピローグ・未来の英雄たちへ〜
無事に女王蜘蛛を討伐した私たちは、果ての荒野の拠点へと帰還した。
私は早速とばかりに女王蜘蛛の研究を開始したが、なにやら凪燕さん主催で私の歓迎会プラス女王蜘蛛討伐祝いの宴を開くらしい。 私は明日の朝王都へ帰るつもりなので、夜中まで起きていることはできないが、仕方がないので参加することにする。
驚くことに今回討伐に参加した冒険者は全員参加するらしい。 羅虞那録さんあたりはツンデレだから絶対参加しないと思ったのだが、私が驚いた顔をしていると、果物姉妹がニコニコしながら私の元へと駆け寄ってきて、
「ねえねえセリナさん! 昨日ね、羅虞那録ちゃんは今日の朝セリナさんがくるって知って、お部屋でお顔をパッくももももも!」
「だめよおれんちゃん! それは私とおれんちゃんの秘密って約束でしょう?」
あっぽれさんがおらんげさんの口を塞いでしまったのでなんだかよくわからんが、羅虞那録さんは出会って早々『なんでいるんですの?』とか言ってたが、私がくることは知っていたらしい。 面倒くさいかまってちゃんである。
そんなことはさておき、果ての荒野の食堂に顔を出した私は目を疑う。
さすがは果ての荒野の拠点といったところだろうか、王都の冒険者協会の木造テーブルや質素な石壁と違い、物凄い手の込んだ内装になっていた。
アイボリーで染められているテーブルは木造ではない。 私はこういった家具にあまり詳しくないのだが、この素材は一体なんなのだろうか? ツルツルである。
床も赤い絨毯だし、壁もざらざらした石壁ではない。 綺麗で豪奢な壁紙が貼ってある。
もはや高級ホテルのパーティーホールなのではないか? そんなふうに思ってしまうほどに豪華な作りになっていた。
歓迎会だなんて言うから冒険者たちがよくやっているような、木製のジョッキに注がれたビールや形の揃っていない陶器の皿に山盛りに盛られたおつまみが出されるのかと思っていたが、テーブル一面に並んでいたのは規則正しく置かれた銀食器とガラスのグラス。
自分が座るであろう豪華な装飾の椅子の前には、真っ白でまんまるな陶器の皿が置かれていて、その上にはまさかの紙ナプキン。 しかもウサギのような折り方をされている。
私、こんな感じのパーティー会場を前の世界で見たことがある。
そう、結婚式みたいだ!
「お、主役が来たな」
短くそう声をかけてきたのはロリホークさん。 なお、今はロリコン要素まったくない。
「え? あの、なんですかこの豪華な食堂は」
「歓迎会だが?」
「あ、それは聞いたんですけど、ご祝儀とか用意した方がいいですかね?」
「は? なんのご祝儀だ?」
ラオホークさんは口数が少ない。 クールな印象を纏っているため会話が長く続かないのだ。 ロリコンだけど。
とりあえずこっちだ、そういってラオホークさんは私を案内する。 規則正しく並んでいたツルツルテーブルの一席に案内されると、姿勢を正して座っているレミスさんと双子が視界に入ってきた。
ソワソワしている。 場違い感に苛まれ、眼球運動で周囲をチラチラと伺っているようだ。 その気持ち、めっちゃわかる。
「とりあえず、ここで待て」
ラオホークさんはそれだけ言って離れていってしまったため、私はカチカチの挙動で椅子に座った。
すると、なぜか小声で話しかけてくるレミスさん。
「セリナさん! これって歓迎会って聞いたんですけど!」
「私もそう聞いたんですけど、これって貴族とかがよく開いてる夜会っぽくないですか?」
「え? そんな! 私、洋服これか予備の装備しかないんですけど! ドレスなんて持ってきてません!」
「いや、私も制服しか持ってきてないですよ!」
途端に冷や汗が流れ出す。 この雰囲気ではスーツかドレスを着ていないと落ち着かない。 双子さんも同じ気持ちなのだろう、硬直していらっしゃる。
「何をそんなに固くなっているのよ?」
突然背後から声をかけられ、私は驚きながら振り返る。 すると、いつも通り水塊にふんぞり帰って座っている華嘉亜天火さんがいることに気がついた。
華嘉亜天火さんはいつも通りのワンピースを着ている。 しかし私は疑問に思ってしまう、いつものワンピースと言ってもラフすぎる雰囲気では無いからだ。
もしかしてこれは、正装なのか?
緊張して気が動転していたのだろうか、あたふたしていた私を差し置いて、なぜかレミスさんが華嘉亜天火さんの質問に答えてしまう。
「あ、あの! 私、こういうパーティーは初めてで勝手がよくわかりません! ドレスなんて持ってないんですけど、ドレスって、どれっすか? ……あの、その〜」
やめろレミスさん! 華嘉亜天火さんはこう見えて優しい人なんだから、あまり困らせるようなこと言うんじゃない!
なんて思いながらいつものつまらんダジャレにヒヤヒヤしていると、華嘉亜天火さんは思いもよらない反応を見せた。
「ぷ、ふふ。 ドレスはどれっすか……って。 あなた、ふふ、とてもユーモアがあるのね」
まさかの反応。 驚くべきことに、華嘉亜天火さんが腹を抱えて笑い出してしまったのだ。 この反応には流石の双子さんも動揺を隠せなかったようだ。
「あんなつまらんダジャレに」「腹を抱えて笑う猛者がいるとは!」
「は? 何よ、あんたたちのうざい喋り方よりも、この子の方がよっぽど面白いじゃない」
この一言には流石の双子さんもライフポイントを削られたようだ。 ショックのあまり、燃え尽きたように真っ白になっている。 石化してたり灰になったりと、お忙しいこと。
対して初めてダジャレを面白いと言ってもらったレミスさんは、先ほどまでの緊張などどこ吹く風で、目をキラキラと輝かせている。
「布団が吹っ飛んだ! バンダナをつけるのは私の番だな! その水塊は、安いかい?」
「ぷっ、あはは。 やめてちょうだい、お腹が痛いわ」
お腹を抱えて涙まで目元に浮かべてしまう華嘉亜天火さん。 なんの疑いようもない大爆笑である。
念の為強調して言っておこう、この爆笑は演技でも社交辞令でもない。 ガチの爆笑だ。
私は華嘉亜天火さんの思わぬ一面を知り、唖然としながらぽかんと口を開けるしかなかった。
華嘉亜天火さんがお腹を抱えながら自分の席に戻っていった後、私たちは若干緊張がほぐれたのか、ぎこちなく団欒しながら席に座っていた。
しばらくすると会場の明かりが落ち、一番奥にあったステージと思われる一段高い段差に凪燕さんと王消寅さんが現れる。
二人の様子を見てとりあえず安心した。 二人とも普通に冒険に行くときの格好だったからである。
ていうか、この雰囲気でも冒険用の服を着ていると、逆にコスプレにしか見えない。
「はいはーい! みんな席に着いたかーい?」
「待たせたね 歓迎会を 始めるよ」
二人はこの歓迎会の司会進行的な感じなのだろうか? それともお笑い芸人?
なんてことを考えていると、私たちのテーブル以外に座っていた冒険者たちが同時に立ち上がった。 わたしたちも一泊遅れて立ち上がる。
すると、黒いスーツを着た拠点の管理人的な人が数名部屋に入ってきて、テーブルに置かれていたグラスに綺麗なコスモグリーンをした飲み物を注いで回った。 ラベルを天井に向け、優雅に飲み物を注ぐと手に持っていた手拭いで瓶の口元を拭き取る。
え? これ本当に冒険者が開いてるパーティーなの? 上品すぎやしないかな?
「はーいみんなー。 今日はフェアエルデの故郷らしい、農業の街ベジリアンで作ってるスパークリングワインを用意したから、思う存分飲んでねー!」
「飲むときは 悪酔いせずに 楽しくね」
ベジリアンは有名な農業の街で、そこで作ってる野菜や果物は高価なものが多い。 つまり今注がれてるコスモグリーンのスパークリングワインは、目玉が飛び出るほどに高いのだろう。
それを思う存分飲めとは、やはり高ランク冒険者たちは金が有り余っているのだろうな、そんなことを思いながら余計に緊張してしまう。
「それじゃあ乾杯の音頭は〜」
「セリナさん あなたが適任 さあどうぞ?」
突然二人が私に視線を向けてくる。 すると、グラスを片手に持った冒険者たちの視線が私へ集中する。
え? なに? 乾杯の音頭? 聞いてないんですけど!
とか思ってあたふたしてしまうのだが、みんなが今か今かと私の乾杯の音頭を待っている。 これは、意を決するしかない。
「えー、本日はお日柄もよく、お集まりいただいた皆さんには感謝の言葉もございません。 えーっと、僭越ながら本日は私めが乾杯の音頭を承りまして、このような大役をおおせつかったこと、心よりの感謝を……」
「セリナちゃーん、長いよー。 普通にカンパーイとかでいいんじゃなーい?」
焦るあまりモジモジしていたら、凪燕さんからヤジが飛んでしまった。
なるほど、雰囲気は上品だけどノリはいつもの宴会と変わらないらしい。 会場にいた冒険者たちに一笑されながらも、恥ずかしさのあまり目をぐるぐるさせていた私は手に持ったグラスを掲げて声高に唱える。
「かかかかか、キャンピャーい!」
本日一番の大爆笑、いただきました。
☆
高級素材を使ったコース料理やら、お高いワインやらがポンポンと出てくる上流階級のパーティーを終えた私たちは、用意されていた部屋へと戻ってきた。
宴会中はフェアエルデさんがラップバトルを挑んできたり、凪燕さんが戦術討論を持ちかけてきたり、あの紅焔様がお声をかけてくださったりとイベント盛りだくさんだったが、なんだか慣れない宴会スタイルに酔うにも酔えず、逆に疲れた。 黒歴史も増えてしまったし。
来客用の部屋も高級ホテルの一室みたいで、ベットもソファーもふかふかだしライトの色もオレンジがかっていてリラックス効果のある色だった。
私とレミスさんは同じ部屋だったのだが、部屋の壁を汚したりしないように細心の注意を払ってくつろぐ徹底ぶり。 庶民はこういった高級感丸出しな場所に来ると、はしゃぐことができずにたじろいでしまうのである。
ベットで跳ねたり枕投げしたりとか、そんな野蛮な行動ができるのは普通の拠点で借りた部屋でしかできないだろう。 そんなこんなであたふたしていると、いつの間にやら翌日の朝になっていたため私たちは用意してもらった馬車に荷物を積み込んでいる。
すると、女王蜘蛛討伐に参加していた皆さんがお見送りにやってきた。
「セリナちゃん、次はいつ頃来てくれるのかな?」
「あ、その、えーっと、申し訳ございません紅焔閣下。 私めは、次にいつここに来れるのかは存じ上げませぬ!」
「はは、前回一位だったキャリームさんは三十日置きくらいの感覚で来てくれていたからね、次に来てくれるのを楽しみにしているから、いつでも来て欲しいな。 いいかげん私と喋るのにも慣れて欲しいし」
紅焔様は困った顔でこめかみを掻いていた。 大変申し訳ありませぬ!
両手を合わせて頭を下げていると、紅焔さんの背後からちょこんと顔を出す見知った顔が目に入った。
「ちょっと性悪女! もう帰るのかしら? まだ一日しか滞在していないではありませんの。 速やかならんと欲すれば、則ち達せずと言いますわよ?」
「ねえねえお姉ちゃん、今羅虞那録ちゃんなんて言ったの? 早口言葉かな?」
「まあまあおれんちゃん、今のはね、えーっとね、炭や蚊、並ん徒歩すれば? 砂わ血達せず? う〜ん、何が言いたいのかしらね?」
なぜかドヤ顔で胸を張る羅虞那録さん。 どうやら長ったらしいことわざをあえて選んで果物姉妹にバカっぽい反応をさせることを阻止できたらしい。
そんなことはさておき、わざわざお見舞いに来てくれた羅虞那録さんに、私は優しく言葉をかけてあげることにする。
「もしかして羅虞那録さん、寂しいんですか?」
私の優しい問いかけに対し、羅虞那録さんは顔を真っ赤にしてプルプルと肩を震わせながら
「か、勘違いしないでちょうだい性悪女! 私はただね、忠告してあげただけですわ! 私の忠告に耳を貸さないだなんて、馬の耳に念仏ですからね!」
「ねえねえお姉ちゃん! 馬の耳に念仏だって! お馬さんに念仏聞かせてもわかるわけないのにね!」
「違うわよおれんちゃん、今のはね、お馬さんの耳に念仏を聞かせるって意味じゃなくて、馬の耳、二年打つ。 つまりひどいことをした人は、二年間耳を打たれるっていう脅迫なのよ?」
「きゃー! 羅虞那録ちゃんこわーい!」
「違うわよこんの果物姉妹! 今のはですね、あなた方のように人のアドバイスに耳を傾けないお馬鹿さんに使うことわざで……」
結局果物姉妹のアホな解説を聞き流せなかった羅虞那録さんはプンスカしながらことわざの豆知識を長々と語り出してしまった。 果物姉妹は羅虞那録さんに構ってもらって嬉しいのだろう、いつも以上にキャッキャうふふとしている。
アホらしい茶番を済ませ、私はため息混じりに馬車に乗り、騒がしかった果ての荒野の拠点をぼんやりと眺める。
金ランク冒険者や宝石ランク冒険者、伝説と等しい星ランクだけが在籍するというモンスター討伐の最前線。 この拠点には驚くほどに強い冒険者がたくさんいる。
私が担当する金ランク以上の高ランク冒険者はたった三人。 クルルちゃんやキャリームちゃんは高ランク冒険者の担当がたくさんいる。
なんたって、星ランクの紅焔さんや宝石ランクの凪燕さん、王消寅さんはクルルちゃんの担当だ。
シャエムー・グードゥさんやここには在籍していない龍雅さんたちもキャリームちゃんの担当だし、今回私がナンバーワンとしてこの拠点に来れたのは、みんなが火山龍討伐の功績を私に譲ってくれたからだ。
現在王都の冒険者協会でナンバーワンとして君臨しているが、私は担当冒険者が少なすぎて回ってくるクエストを捌き切ることができていない。
幸いにも腕が立つ冒険者さんたちは一度に大量のクエストを受注してくれているが、そんな無理をいつまでも続けてしまっていたら疲労が蓄積し、いつか大怪我をしてしまうかもしれない。
私も早く、一人前の冒険者を大量に育成できるような実力と知識をつけなければ。
この果ての荒野でのクエストは、その意志を固く志すための良い経験となった。 ここに来たことを無駄にしないためにも、一刻も早く羅虞那録さんたちのように強力な冒険者を育成しなければならない。
馬車に揺られ、高ランク冒険者たちに笑顔で手を振られながらそんな事を考えていると、馬車の運転をしていた極楽鳶さんが進行方向に目を向けたまま声をかけてくる。
「なあセリナさん! 俺、金ランク冒険者……いや、星ランク冒険者になりてえんだけど、俺の蒼炎の炎をもっと強くする方法、ないかな」
私の思考を読まれたのだろうか? 突然そんな質問をかけてくる極楽鳶さん。
「ちょっと待ちなさいよ極楽鳶! 先に星ランクになるのは私よ! セリナさんも、私に星ランクになってほしーですよね? ……うう、今のなしで」
レミスさんのダジャレは寒かったが、私はつっこむのも野暮かと思ってスルーする。
「そうですねー、あなた方は確かに他の冒険者には真似できないような特筆したスキルがありますからねー」
レミスさんの狙撃技術、双子さんの炎を駆使した斬撃。 これはうまく応用すれば驚異的な能力になり得る素晴らしい才能である。
それにこの三人、ここにくるまでの道中でも思ったが、全く隙のない布陣だ。
「そうですね、冒険者協会までの道のりは長いですし、私が思いついた提案を聞いてみませんか?」
私がそう呟くと、閻魔鴉さんはニヤリと笑いながら私に視線を送ってきた。
「そうだな、セリナさんにおんぶに抱っこだけされてても俺たちは強くなれはしないだろうから、あんたにはヒントだけ貰うにとどめるぜ?」
「確かに、兄の言う通りだ! 俺たちは冒険者、自分たちの戦闘スタイルは自分自身の発想で磨いていく!」
やる気に満ちた表情で双子さんたちは声を弾ませている。
「くぅ、双子に一本取られちゃったわ! まあいいわ、私だってあんたたちなんかに負けないんだからね! 先に星ランクになって跪かせてあげるわよ!」
レミスさんと双子さんたちは闘志を剥き出しにして張り合っている。 この人たちは果ての荒野という高みを目にしたことで、同じ目標を得ることができたのだろう。
ならば、少し面白そうな提案をしてみることにした。
「あなたたちって、いつも私が担当するクエストのあまりを受けてくださるから、ほぼ毎日同じ時間帯に冒険者協会にいますよね?」
私が口を開いた瞬間、三人は口を閉じて真剣な表情を送ってくる。
「もし、三人とも同じ星ランクを目標にしているというなら、いっそのことパーティー組んじゃえば良いんじゃないでしょうか? そうして互いに弱点を指摘し合ったり、気がついた事を共有したりして高め合っていけば、すぐに高ランク冒険者になれるとおもいます!」
私の提案に、目をまん丸に広げる三人。 何か、よくないことでも言ってしまっただろうか?
取り繕うように次の言葉を考えた私は、早口でペラペラとそれらしい理由を付け加える。
「その、なんというか。 この機会だから先にお礼させて下さい。 いつも本当に助かってます。 本当にありがとうございます! こんな提案をしたのには理由があって、大変なクエストばかり押し付けてるみたいで申し訳ないなって気持ちがいつもありまして、それでも皆さんは余ったクエストを受けてくださるじゃないですか? だから少しでも楽にクエストを達成できた方がいいのかなーなんて思ってまして。 はい、一人よりも二人、二人よりも三人でクエストを受けた方が、お互い気づかないようなことに気がつくのかなーと思ってます……なんちゃって」
苦笑いを浮かべながら三人の表情を窺う。 どうしよう、怒らせてしまったのだろうか?
「なあ兄」「なんだ弟」
「確かに俺たちは火山エリアのモンスターが苦手だ」
「確かにそうだな、接近できない系のモンスターは対処が難しい」
「でもレミスがいれば、苦手を克服できる」
「レミスがいれば、俺たちに倒せないモンスターも討伐できる」
双子さんはお互いを見つめ合いながら何やら話し合いをしていた。 ゴクリと息を飲みながらその様子を見守る。
「つまりセリナさんがいつも余らせるクエストを」「一つ残らずクリアできる!」
二人とも腕を振りかぶり、盛大なハイタッチをしようとしていた。 が、例に従いハイタッチに失敗した二人はお互いの頬をビンタする。
なんだか締まらないな、なんて思うと苦笑いしか浮かばない。
「双子が言う通りね。 逆に私は接近しようとするモンスターが苦手だから、機動力に優れるあんたたち二人が居てくれた方が安心して狙撃できるわ。 むしろ、モンスターに見つからないよう移動しなくていい分効率的に狩りができる!」
黙って双子の話を聞いていたレミスさんが、薄い笑みを浮かべながらそう答えた。
「つまり、効率よくモンスターを狩りまくって、星ランクになることができる! そうなったら、星ランクになった私を前に、セリナお姉ちゃんはメロメロになるのよ!」
……何言ってんだこの変態エルフは?
「ふざけんなレミス!」「先に星ランクになるのは弟だ!」
「は? あんたたちなんかにセリナお姉ちゃんは渡さないわよ?」
「残念だったなレミス!」「弟はな、セリナさん好みの白髪美少年だ!」
「はい? 私だって黒髪ロングの美少女じゃない!」
「お前! 美少女なんて言える」「年齢じゃないだろう!」
「は? まだ百二十六歳ですが文句ありますか〜?」
「「文句しかねえわクソババア!」」
急に喧嘩が始まってしまった。 極楽鳶さんは器用に手綱を引いたままレミスさんに蹴りを入れている。
どうやら私は面倒な事を言ってしまったらしい。 けれど、特に何も言っていないにも関わらず、高ランク冒険者が欲しいと思う私の願いにこの三人は即座に答えてくれた。
なんだかんだでこの三人は私が困った時にすぐ手を差し伸べてくれる優しい冒険者たちなのだ。 この三人がパーティーを組めば、それはそれは頼りになる事間違い無いだろう。
この先の未来のことなんて何もわからないけど、少なくとも王都に帰ってからの楽しみが増えた。
今担当している冒険者たちがこれからどんな冒険譚を聞かせてくれるのか、これから何人の冒険者たちが高ランクになってくれるのだろうか? そんな事を想像するだけでワクワクしてしまう。
私の担当する冒険者たちが、高ランク冒険者になってあの果ての荒野の拠点で活躍する未来を想像し、一人笑みをこぼしてしまった帰り道だった。




