〜モンスターの大群掃討戦・努力の天才〜
〜モンスターの大群掃討戦・努力の天才〜
くりんこんさんの話によると、フェアエルデさんはかなり頭がいいらしい。 いや、私も絶対嘘だと思ったがこれが結構ガチな話のようで。
王都でもかなり有名な農業の街ベジリアン出身のようで、彼は土や地形などの専門家のようだ。
何せパッと景色を見ただけで最適な行軍ルートや待ち伏せにふさわしい場所、使われている土の成分なんかを把握しているとか。
つまり彼が大地に触れるだけでその形を自由自在に変形できるのはそう言った専門知識があるからで、他の冒険者は絶対に真似できない正真正銘の麒麟児だそうだ。
ちなみにくりんこんさんもベジリアン出身で、彼とは長い付き合いらしい。
「もう、先輩は昔からよくふざけていて、自分の家で丹精込めて育てていたライムの木の苗をこの果ての荒野にまで持ってきて自家栽培してるんです」
「ライムの木を育ててラップでライムを練っていると? そんなつまんないダジャレとツンデレ娘ぶったのろけ話はいいですからこの辺りの地形がおかしいという話について詳しく!」
私がため息をつきながらそんなことを言った瞬間、左頬がカッと熱くなりものすごい衝撃を感じた。
ひどい! 親にもブたれたことないのに!
私は渾身のビンタを食らった左頬をさすりながら口を尖らせる。
「言っておきますが、私は元冒険者だから普通の受付嬢より頑丈なんです。 他の受付嬢に銀ランクのあなたがビンタなんてしたら、脳天が昇天だ」
「言っておきますがこんなに冒険者と一緒になってふざける受付嬢はあなた以外いませんからね? 後ちゃっかりラップ口調でふざけた分は右で」
くりんこんさんが右手を上げたので私は急いで頭を抱えて縮こまる。
「やめてこれ以上ブたないで! 私の可愛い顔がブルドックになっちゃいます!」
呆れたようにため息をついたくりんこんさんは、紅焔さんが大暴れしている最前線に視線を送る。
「セリナさん。 あなたも頭がいいと仮定して話させていただきまずが、あの大群を見て気づいたことはないですか?」
私は真剣な表情のくりんこんさんの顔色を横目で伺いながらモンスターの大群をよく観察しようとした。
しかしその瞬間、またドーム状の爆炎が上がる。
「カッハハハハハハ! 一人残らず焼却よ! アッハッハッハッハッ!」
楽しそうな声も響いてきて、思わず口をつぐむ私とくりんこんさん。
「あ、あの状況じゃ今頃観察しても分からないですよね。 では、質問を変えます。 初めに放たれたおらんげさんの酸の雨。 あれって地上にいるモンスターにしか効果ないと思いませんか?」
私はくりんこんさんのその一言でハッとする。
「気づきました? いないですよね地堀虫。 だからおらんげさんの攻撃を許可したんですよね? あいつらがいたら今頃酸の雨をかい潜り、この本陣まで突っ込んでくるはずですから。 でも、おかしくないですか? あの大群が来る前は、あんなにたくさんいたのに」
私はこの拠点に来る前に人型モンスターの群れが争う現場、大量の地堀虫を相手にしていた朧三日月さんを見た。
つまり地堀虫も操られていておかしくない。
なのにあの大群には一体も地堀虫がいない、五千体も中級モンスターが集まっているのに一体もいない。
私はその瞬間一つの仮説を立てた、しかしそれと同時にレミスさんに呼ばれてしまう。
「セリナさん! 双子くんが大量の地堀虫に襲われてる!」
気がつくのが一歩遅かった! フェアエルデさんの言葉をもっと真剣に聞いておくべきだった。
穴がたくさん開いている、おかしな地形。
パッと見ただけで地形の状態を把握するという性質をもっと早く知って入ればこんな後手に回ることはなかったのに!
「っち! 俺も後を追うぞ? ありゃ三百はいる! フェアエルデと姉貴はここでセリナちゃんの護衛だ! フェアエルデ、地堀虫の奇襲に最新の注意を払えよ!」
凪燕さんは早口で指示を出して飛ぶように去っていった。
「ったく、最初から警戒しながら徘徊してるっつうの! 最初から俺が正解」
「あのクソガキ、私まで顎で使って………後で水塊に放り込んでやろうかしら?」
不服そうな顔をしながらこの場に残ってくれる二人、なんだかんだでこの二人も勘付いているのだろう。
私はすぐに拡声器を口元に寄せた。
「敵は地下に潜んでます! 双子さん、朧三日月さん! 地下に行くための穴がどこかに開いているはずです! レミスさんと私で探しますが少し時間がかかりそうです! なんとか持ち堪え………」
「必要ない 風に聞けば すぐわかる あとは僕に 任せなさい」
指示を出している最中に私の背後に優しい風が吹く、驚いて振り向くと王消寅さんが立っていた。
「王消寅さん! 助かります! 双子さんたちの援護を手伝っていただけますか!」
突然現れた王消寅さんに勢いよく頭を下げると、私の頭に優しく手が添えられた。
「見せましょう 宝石ランクの 超本気」
途端、ものすごい風圧と共に王消寅さんがその場から姿を消す、慌てて双子さんたちが戦う平原の方に視線を送ると、猛スピードで駆けていく凪燕さんを余裕で追い抜かしている王消寅さんが見えた。
「彼は風のスペシャリストよ?」
度肝を抜かれている私に、華嘉亜天火さんが優しく語りかける。
「風とは空気の流れ、彼を中心にして一定空間の酸素や窒素を自在に操り、自らも強力な風の目となりうる存在。 彼は言うなれば台風そのもの。 本気を出せば、天気すら変えてしまうでしょうね?」
☆
うじゃうじゃと湧き出てくる地堀虫を次々と両断していく双子と朧三日月。
「本命はこっちであったか! まんまと乗せられたのう?」
「おいジジイ!」「腰は大丈夫か?」
剣を振り続けながらにやけ顔で朧三日月に声をかける双子、朧三日月は呆れ顔で刀を鞘に収めた。
「抜かせ青二才ども! 同じ第一世代とはいえ、実力の差を見せつけてくれるわ!」
朧三日月を中心に薄い霧が立ち込み始め、ゆっくりと目を瞑り抜刀術の構えで完全に静止する朧三日月。
好機とばかりに何十体もの地堀虫が朧三日月に飛びかかろうとしたその瞬間、朧三日月は恐ろしい殺気を放ちながらカッと目を開く。
「新技じゃ! 無情の水圧!」
朧三日月の目にも留まらぬ速さの抜刀術、朧三日月に襲い掛かってきていた地堀虫の頭が同時に吹き飛んだ。
斬撃の速さが音を置き去りにし、辺り一体に強力な衝撃波を放つ。
あまりの勢いに顔を腕で覆う双子。
朧三日月と双子の元に集まっていた三十体以上の地堀虫の首が一瞬で吹き飛び、朧三日月の間合いと推測される直径十二メーターの円の中には何も残っていなかった。
「これが実力の差じゃ。 思い知ったかのう? 青二才ども」
ごくりと喉を鳴らし、目を爛々と輝かせる双子。
「おもしれえ!」「金ランクになるには」「「そのくらい余裕でやってやるよ!」」
二人は同時に叫び、剣に炎を纏わせる。
蒼炎と黒炎、二色の炎が轟々と燃え上がり双子が背中合わせで同時に剣を振る。 すると半円状に広がって行く二色の炎が、辺り一体を焼き尽くした。
ニヤニヤと笑いながら遠目にその戦いぶりを見守る朧三日月。
「ほう、なかなかやるではないか? 鋼ランクにしておくには惜しいのぅ」
顎から短く伸びている髭をさすりながら楽しそうに笑う朧三日月、すると二人の間に強力な風が吹く。
「待たせたね 潜伏場所は 見つけたよ 僕が案内 承るよ」
重力を感じさせないほど優雅に、ふよふよと宙に浮く王消寅。
風の強さに驚き尻餅をついていた双子は慌てて立ち上がり、臀部についた泥を払う。
「小童が来おったか、お主は敵の所在を知っておるのか?」
先ほどの強風でも微動だにしない朧三日月は、体の周りを漂う砂煙を軽く手で払いながら王消寅に視線を向けた。
「無論だよ 僕にかかれば 余裕です」
「そうかそうか、なら双子は任せていいかの? わしがここの地堀虫を請け負う。 お主一人いれば相手がどんなモンスターだろうと問題あるまい? それにそこの青二才………いや、閻魔鴉と極楽鳶も相当の手練れじゃからなぁ?」
愉快そうに笑う朧三日月を見て、驚いたような表情を見せる王消寅。
「驚いた あんたが他人を 褒めるとは! ならばこいつら 相当できる」
王消寅がニヤリと笑いながら双子に指揮棒を向ける、すると双子の体の周りに風が吹き始める。
「うおおお!」「なんだこりゃあ!」「兄! 俺空飛んでるよ!」「弟! これは飛んでるのではない、浮いているのだ!」
王消寅ははしゃぎ出す双子と共に空に飛んでいった。
「さて、このわしの刀のサビになれるのじゃ、名誉に思うがいいいぞ? 虫ケラども」
「あっ! おじいちゃん! カッコつけてるとこわるいけど、俺もあいつら追っかけていいかな! あいつら速すぎてぜんっぜん追いつけないけどさ、俺が一緒にいないと相手の能力とか看破できなそうじゃん? あいつら絶対頭悪いもん!」
無言で刀に手を添える朧三日月。
「ここは、わしに任せて先に行け」
「おじいちゃんめっちゃ嬉しそうじゃん! もしかしてそれ言いたかったセリフ? ねえねえねえ! こいつらそんなてこづるような相手じゃないのにわざわざカッコつける必要ないよね! ねえねえねえ!」
朧三日月は眉をひくつかせながら、無言でゆっくりと息を吸った。
「はよ! いかんか! この道化小僧ォォォぉぉぉぉぉぉォォォ!」
とうとう怒り出した朧三日月を背に、凪燕は満面の笑みで走り出した。
☆
「レミスさん! 地下に敵がいるとなると狙撃は厳しいです、すみませんが朧三日月さんの援護を………」
「必要ねぇ! 見てろここから見る光景。 俺が狙撃ルートを確保して強制終了!」
私の言葉に即座に反応したフェアエルデさんが、遠見の水晶板で王消寅さんが向かう先を視認する。
ある程度行く先が推測できたのだろう、水晶版をポッケにつっこみ地面を思い切り踏みつける。
すると突然、王消寅さん周辺の大地に大きな穴が空いた。
「ほうほう、とうとうラスボスとご対面。 無論殺処分だがあいつは流石に初対面」
唖然とする私たちの目に映ったのは、純白な繭のような物だった。
大きさは全長百〜二百、ドーム状になっている巨大な繭は来るものを全て拒もうと言わんばかりに無数の糸が絡まってできている。
中にいるモンスターはここからはよく見えない、しかし瞳孔を開きながらレミスさんがボソリと呟いた。
「——————女の………蜘蛛?」
突然開いた大地を見て、呆れたような顔で本陣の方をチラリと見る王消寅。
「あの男 余計なお世話だ でしゃばりめ」
「おい王消寅!」「あれは全部魔力の糸なのか?」
双子は王消寅の能力でぷかぷかと浮いた状態で巨大な繭を見下ろしていた。
すると地上から大声で呼びかけてくる声が聞こえてくる。
「ありゃ〜魔力の糸だぁ〜! 死体操ってたのは間違いなくこいつだぞぉ〜!」
ものすごいスピードで駆けながら三人に大声で呼びかけてくる凪燕。
「おそらくこの魔力の糸を目に見えないくらい細くして、死体の魔力経路に張り巡らせてたんだ! あとは死体の魔力を活性化させて簡単な指示を出す! ちなみに申し訳ないが、この規模になるとこの能力は禁止できな〜〜〜い!」
全く息切れした様子もない凪燕は軽い口調で語りかけてくる。
すると突然王消寅の顔色が変わる。
前置きなく急旋回して巨大な繭から距離を取った。
いきなりの出来事に驚いて顔を青ざめさせる双子、しかし彼らの服の一部が鋭利な何かに引き裂かれたように無くなっていた
「危ないな 一歩遅れたら 俺たちは ミンチになってた 命拾い」
「うっそだろ?」「まじで怖え!」「つーかお前、命の危険だった割には」「冷静すぎないか?」
王消寅は顔色ひとつ変えずに双子を凪燕の方に放り投げ、縦横無尽に空を飛び回った。
突然放り投げられた双子はギャアギャア怒っていたが、凪燕は飛び回る王消寅を真剣な瞳で観察する。
すると双子もつられるように黙り込み、飛び回る王消寅をじっと凝視し始めた。
「兄、あいつは間合い図ってんのか」「弟、それだけじゃねえ、飛んで来る糸の速さや硬さも見てるな」
二人の呟きを聞いて口笛を鳴らす凪燕。
「へぇ〜? 鋼ランクのくせに鋭いね。 もしかしてランクアップ興味ない系の冒険者?」
「ここに来る前までは」「全く興味なかったな」「けど今はちげえ」「俺たちはもっと強くなりてえ」
双子の真剣な顔をじっと見つめる凪燕。
すると飛び回っていた王消寅が凪燕の元に降りてくる。
「わかったよ 糸の速さは 普通だよ 脅威なのは 見えないところ」
「間合いは二百メーターくらいで、射出速度は時速百六十キロくらいかな? それに糸はかなり硬いね、金剛獅子ほどじゃないにしても、月光熊の皮膚くらいの硬さか。 速さと硬さ的に武器や防具は一瞬でスライスされるかな?」
凪燕と王消寅は平然とした顔で何やら相談を始める。
双子は特に騒がずに相談の内容に耳を傾けていた。
「ねぇ王消寅、酸素濃度はどの距離まで操れる?」
「すまないな せいぜい二十が 限度です」
「じゃ近づいてあいつの周りを無酸素にするまで、俺がひたすら時間稼ぎは無理だね〜。 となると、遠距離攻撃か………」
凪燕はちらりと本陣を一瞥した後、双子をじっと見た。
「ねえ君たち、これからどうする? 君たちが予想以上に弱かったら足手まといだから逃げてもらうか大人しく死んでもらうことになるけど………指咥えて見ててもいいよ?」
凪燕は何食わぬ顔で挑発的な質問をし始めた。
それを聞いた双子は、一瞬にして全身から闘気をみなぎらせる。
「勘違いすんなよ」「いけすかねえもやし男!」
「俺らは強者が集う、セリナさんの担当冒険者だ」
「そして、誰もが危険というこの果ての荒野への護衛として選ばれた」
ほとばしる闘気を直接向けられ、徐々に口角を上げていく凪燕。
「そんな俺達が逃げるだと?」「なめんのもいい加減にしろ」
「「お前らこそ、足引っ張んじゃねえぞ!」」
凪燕は双子に睨まれ、頬が裂けそうなほど口角を釣り上げた。
「面白い! 君たち最高に面白いよ! この俺が足を引っ張るだって? 君たちの戦いぶりがものすごく楽しみだ! 最高すぎるよ! その闘気、眼、みなぎる魔力! 僕自身が君たちと戦うことができないのが残念なほどの上物だ!」
心から楽しそうに、不気味な笑みを作る凪燕。
そんな彼を横目に見て、王消寅も小さくため息をついた後控えめに頬を緩ませる。
「双子くん 援護するから 暴れなさい せいぜい僕も 頑張ります」
王消寅が指揮棒を構えて空に飛び立った、それを確認した凪燕は肩を回しながら双子に背を向ける。
「そういえば白髪君、さっきの素晴らしい闘気に免じて聞いときたいことがある。 この世界に黒い炎は存在しない、さっきも言ったね? 兄の黒髪君は君のいう通り天才だよ。 意識しないで地獄狼のあの厄介な炎を出せるんだからね? 流石の俺も黒い炎は禁止できない」
閻魔鴉は隣にいる極楽鳶を気まずそうな目でちらりと見た。
しかし極楽鳶は凪燕の言葉を当然だと言わんばかりに頷き、続きを促した。
「君はさっき言ってたね? 兄は天才だが僕は平凡だって、本当にそう思っているかい?」
凪燕の問いかけに対し、数瞬の沈黙が走る。 しかし極楽鳶はニヤリと笑いながら驚きの答えをした。
「いいや? 俺も天才だ」
驚いた顔で極楽鳶の横顔を凝視する閻魔鴉。
「俺も天才だぜ凪燕。 圧倒的な才能の差を根性で無理やり埋めた。 諦めが悪いんだ俺は、言い方を変えるなら俺は
——————努力の天才だ」




