〜果ての荒野の異常調査・個性豊かな冒険者たち〜
〜果ての荒野の異常調査・個性豊かな冒険者たち〜
「ひっさしぶりじゃんセリナちゃん! 俺のこと覚えてる?」
などと、街中でナンパしてくるチャラ男のような雰囲気を纏い、私に声をかけてくる凪燕さん。 すると私の前にレミスさんが立ち塞がる。
「私のセリナお姉ちゃんに気安く話しかけないでちょうだい!」
いつ私はレミスさんの姉になったのだろうか?
「え? セリナさんってエルフだったの? それともハーフエルフ?」
ガチトーンで混乱する凪燕さん。
これ以上話がややこしくなると面倒なので、私はレミスさんを引っ叩いて後ろに下がらせる。
「朧三日月さんから調査依頼が来たので駆けつけました。 今月、ナンバーワン受付嬢になったセリナです! 覚えててくれて光栄です凪燕さん。 後、レミスさんは勝手に私のことをお姉ちゃんと言ってますが、血は繋がってないので私は純粋な人間です」
「ああ、手紙出したのはおじいちゃんだったのか。 確かに死体が動きやがるから討伐が面倒なんだよね。 ほら、こいつらも動き出しやがった」
冷静なトーンで私の後ろを指差す凪燕さん。
凪燕さんの足元で突っ伏していたはずの人型モンスター総勢三十六体が、ノソノソと体を起こして虚な瞳でこちらを睨んでいる。
慌てて武器を構える双子さんたちとレミスさん。 しかし凪燕さんはゆっくりとモンスターたちに近づいていく。
「ぶっ倒してもすぐにこんなふうに起きて来やがるからさぁ、バラバラにするか、粉微塵に消し飛ばさないといけないんだよね〜。 こいつらの素材は大した価値にならないから粉微塵でいいよね?」
今からクラブ行こうぜ! 的なノリでそんなことを言い出す凪燕さん。
すると凪燕さんから極彩色の光が滲み出てくる、その光は一点に集まり極太の光線となって立ち上がった人型モンスターたちを薙ぎ払った。
極太光線を受けた部位は、その場から消失している。
顎が外れたかのようにあんぐりと口を開けている私たち。
凪燕さんはそんな私たちに振り返りながらにっこりと笑う。
「今の、原子力っていう力で、うまく制御しないと本当に危ないから俺が戦ってる時は無闇に近づかないでくれよ?」
あの極彩色の光は原子力だったか………
「はぁあぁぁぁ! 原子力? 今原子力っつったのか! 放射線とか出て被爆したらどうするつもりなんだしぃぃぃ!」
さっきの光のヤバさに気がついた私は喉ちんこが吹っ飛ばんばかりに絶叫する。
「ん? セリナちゃん頭いいねぇ。 原子力をよくわかってんじゃん! 安心しなよ、放射線は障壁魔法で作った空間に隔離してるから。 被曝の心配無用だよ?」
軽いトーンで自信満々に宣言する凪燕さん。 その隔離した空間はどうしているのだろうか?
まあいい、色々聞きたいことは多いのだが、目をキラキラさせてるこの人にそれを聞いたら話が長くなりそうだ。
とりあえず思ったことは、宝石ランク………恐ろしすぎる。
☆
馬車に凪燕さんを乗せ、さらに果ての荒野に近づいていく。
この辺りのモンスターはかなり強くなり始めているが、レミスさんの狙撃は見事に相手を貫き続けている。
座りながら感心して拍手を送る凪燕さんに、親の仇のような視線を向けるレミスさん。
なぜだか知らんが、はっきり言って空気が重い。
凪燕さんに話を聞くと、私が来ることは知っていたみたいで暇だから迎えに来たらしい。
ある程度要件を聞いた後は、全員なぜか無言のままだったので黙々と外の景色を眺めていた。
しばらく進むと、砂煙が上がっているのが見えたため、遠見の水晶板で様子を見てみる。
誰かが地堀虫数体と戦闘しているようだ。
奴らは地中に潜るため、正確な数は分からないがかなりの数に囲まれている。 しかし囲まれてる冒険者は一目で分かった。
「お? あれはおじいちゃんじゃん! 芋虫どもに囲まれてらぁ!」
「手伝わなくていいのかしら?」
嫌味ったらしくレミスさんが声をかけると、ニヤリと笑う凪燕さん。
「まあ見てれば分かるさ? 手伝うなんて馬鹿馬鹿しくなっからね!」
凪燕さんの指示で、運転を変わっていた極楽鳶さんは地堀虫の群れへ馬車を走らせた。
地堀虫の群れに近づいて行くと、朧三日月さんの声が聞こえてくる。
同時に薄い霧が辺りを包み込んでいる事に気がついた。
馬車の方に一瞬だけ視線を向けた朧三日月さんは、腰の鞘に収めた刀に手を添える。
「朧流免許皆伝! 朧水月!」
朧三日月さんが抜刀すると、高水圧の水の斬撃が飛んでいく。
斬撃が縦に飛んでいき、ちょうど地中から顔を出した地堀虫を一刀両断する。
なんだ今の! 技名といい太刀筋といい超かっこいい!
目を輝かせる私の顔を横目にチラリと伺う朧三日月さんは、うっすらと口角を上げた。
「朧流! 乱流水!」
高水圧の斬撃が、今度は高速の抜刀と共に飛んでいく。
縦、横、斜め………あれ? さっきと何が違うんだ?
「朧流! 夢幻一閃!」
今度は高水圧の斬撃が横に飛んで………あれ?
「双子さん、あの斬撃って何か違いあります?」
「技の名前が違う以外」「特に変わりないぞ?」
なんだろう、技名がかっこいいのになんか残念な気分になる。 しかし地堀虫は先ほどからバッタバッタと薙ぎ倒されていて、既に死体が山盛りになっている。
朧三日月さんは機嫌良さそうに再度収めた刀で抜刀術を繰り出していく。
「朧流! 三の太刀、蒼影魔斬!」
「あの、確認なんですが凪燕さん。 朧三日月さんって免許皆伝者なんですよね?」
私は楽しそうに抜刀術を繰り返す朧三日月さんを横目に、恐る恐る凪燕さんに聞いてみた。
「ん? セリナちゃん免許皆伝の意味知ってんの? 俺も気になっておじいちゃんに聞いてみたらさ『免許を皆伝していると言うことじゃよ』ってしか教えてくんなくてさ! 免許って何? とか皆伝ってどう言うこと? とか聞いてもなんか話を濁らせちゃうんだよね! しかもこの前三の太刀は『龍翔斬月』って技だったはずなんだけどなぁ?」
などと首を傾げている凪燕さん。
———なるほど、おそらく朧三日月さんはかっこいい技名を適当に言いながら高水圧の斬撃を飛ばしているだけなのか。
なんだか夢を壊された子供の気持ちが痛いほど分かった今日この頃でした。
朧三日月さんはその後も無駄にかっこいい技名を叫びながらあらぬ方向に攻撃しようとしている地堀虫を十二体前後切り払った。
辺りに広がる薄い霧が、地堀虫に幻影を見せていたらしい。
地堀虫の攻撃は朧三日月さんのいないところにばかり繰り出されていた。
地面から出てきた地堀虫を朧三日月さんが両断する。
半分流れ作業に近い討伐だった。
技名の下りではどんだけかぶいたおじいちゃんなんだよとか思ったが、この数の地堀虫を弄ぶように討伐するあたり、かなり強いことは痛いほど伝わった。
楽しそうに拍手しながら朧三日月さんに近づいていく凪燕さん。
「おじいちゃ〜ん! お疲れ〜! セリナちゃんたちが到着したみたいだよ! 案内してあげようよ〜!」
「おやおやセリナ殿。 もういらっしゃっていたか。 この度はワシの呼び出しに答えていただきありがたく思いますぞ? それとナンバーワン就任おめでたく存じ上げる」
さっきから私の方チラチラ見ながら『朧水月!』だの『乱流水!』など叫んでいたくせに、「もういらっしゃっていたか」とはよく言ったものだ。
とか思いながら私も軽く挨拶を交わすと、私達の馬車に朧三日月さんも同乗し、果ての荒野の拠点へ向かう事になった。
☆
果ての荒野の拠点に着く、この拠点には金ランク以上のヤバい冒険者がわんさかいる。
私の担当する金ランク冒険者三人組、羅虞那録さんももちろんこの拠点にいる。
この人たちは果ての荒野に行ったっきり、手紙だけ寄越して全然帰ってこない家出した息子みたいな人たちだ。
正確には性別的に娘たちになるのだろう。
そんなことを思いながら拠点の扉を開くと、入り口付近に紅髪の冒険者が歩み寄ってきた。
とても美しい容姿。 そう、この人は私が岩ランク冒険者時代に死にかけたところを助けてくれた冒険者。
そして私に受付嬢を目指すよう諭した人物でもある。
「おやおや! 君は金剛獅子に襲われていた岩ランクの少女じゃないか! もしかして今月は君がナンバーワンになったのかな?」
とっても美しい佇まいで、ニコニコしながら私に声をかける紅焔さん。
全冒険者の中で最も最強である星ランクを付けられた、伝説とも言っていいほどの実力者だ。
「べ! 紅焔様! またお会いできて光栄の至り! つきましてわこの私、セリナめは果ての荒野より書状をいただいて駆けつけた所存!」
緊張して声を裏返しながら謎の言葉遣いをしてしまう私。
隣に立っていたレミスさんはそんな私を見て驚いていた。
「またまた、君はいつもかしこまってしまうんだね? セリナちゃん、今回のことよろしく頼むよ? せっかく会えたのに申し訳ないが、私は今から当直番なんだ! また機会があったらゆっくり話をしよう!」
紅焔さんはそういうと、風のようにその場を去って行ってしまう。
うっとりとした目で紅焔さんの後ろ姿を目で追っていると、レミスさんがブツブツと呟き出す。
「私も宝石ランクとかになれば、セリナお姉ちゃんにああ言う視線で見てもらえる? よし、このクエストから帰ったら上級モンスターを射殺そう」
何やら物騒なことを呟いているレミスさんはさておき、私は拠点の中に入って行く。
拠点内は王都にある木製の冒険者協会よりかなり豪華な作りだった。
大理石の床にキラキラの装飾がわんさか使われている。
貴族のお屋敷と言っても疑わないほどの作りだった。
果ての荒野にいる冒険者たちはその実力の高さから、多額の報酬金を支払われてかなり贅沢な毎日を送っている。
無論拠点も豪華だし、出される食事も豪華なのだろう。 しかし果ての荒野に現れる魔物は強力な魔物が多い。
王都周辺の様にエリアによって出てくるモンスターが違うなどといった事はなく。
エリア関係なしに厄介モンスターがたくさん出てくる。
先ほども山間エリアでよく目にするはずの地堀虫や蜥蜴兵、それから牛闘士と、平原エリアに出現する鬼人が現れていた。
この辺りは厄介なモンスターが数多く出現する魔境なのだ。
上級モンスターも二週間に一体のペースで現れるらしいし、新種モンスターもたくさん発見される。 まさに命懸けの最前線。
しかしこの最前線でモンスターが王都周辺に来るのを抑えておかなければ、今頃この国はモンスターの大量発生で滅んでいるのだろう。
毎年大量のモンスターがこの果ての荒野で討伐されるが、それでも王都周辺までやってきてしまうモンスターがいるほど、この世界はモンスターが大量にいるのだ。
大理石の床をかつかつと鳴らしながら中に進む私に、一人の冒険者が近づいてきた。
長い髪の毛は黒と金の縞々。 文字通り縞々だ、黒髪に金メッシュとかではない。
一体どうやって染めたらあんな縞々ヘアーになるのだろうか?
そんなことを考えていると、縞々ヘアーの冒険者は私に恭しく頭を下げてきた。
「こんにちは 宝石ランクの 王消寅 以後お見知り置き お願いします」
なんだかリズミカルな口調、このリズムはどこかで聞き覚えがあるような………
「おじいちゃん 怪奇現象の 説明は 終わったのかな この道中」
———分かった、このリズム………俳句とか短歌でよく聞く五・七・五・七・七だ。
それが分かった私も挨拶をする事にした。
「ありがとう お会いできたこと 光栄です 私の名前は セリナといいます」
私の返事に、キラキラドキドキした! とばかりに目を輝かせる王消寅さん。
「セリナさん! あなたは博識! 素晴らしい!」
やばい、ものすごくキラキラした目でずずいと寄ってくる王消寅さん。
隣にいた朧三日月さんや凪燕さん、レミスさんや双子さんたちは意味がわからず口をぽかんと開けている。
まずい、こんな目をキラキラさせた王消寅さんの前で普通に話すなんて無理だ。
私は頭をフル回転させて俳句や短歌のリズムに合わせて話をしようと熟考していると、今度は別の冒険者が歩み寄ってくる。
「おうおうおうおう! お前が今月ナンバーワンのセリナさんか《♩ ♩ ♩ 》? 既にマッハ《♩♩♩》で声かける俺様はフェアエルデ! レファレンスで!」
おやおや? 私はこのノリを知っている。 転生前、とあるアニメにハマった。
そのアニメはイケメンたちがラップバトルを繰り広げるアニメで、私はそのイケメンたちに夢中だった。
ハマりすぎて百円ショップで買ったノートに思い付いたリリックを書いて溜めておくほどにハマっていた。
そんな私にラップ口調で話をかけるとは、いい度胸じゃあないか。
私は手元にあった拡声器を颯爽と取り、カッコイイポーズをとって静止する。
何やらただならぬ雰囲気を感じ取ったのだろう、なぜか王消寅さんが急にヒューマンビートボックスを奏でだす。
動揺するフェアエルデさん………いや、_M__C_フェアエルデ!
王消寅さんが奏でるビートに私の血肉が疼き出す。
気のせいだろうか、私の背後には巨大なスピーカーの錯覚が見える。
私は大きく息を吸い、拡声器(スイッチオフの状態)を口元に持ってくる。
「笑わせてくれるねフェアエルデ(さん)!
黙って聞いてりゃ目も当てられねぇ!
子供騙し な問題児 適当なラップじゃ大惨事!
魂 に響ないお粗末なラップで 調子乗ってんならおととい来い!
私_M__C_セリナの華麗なリリックの前に 実力の差を思い知れ!
もう一度よくライムを練りな!
刻むライムが牙剥くエリア
尻尾巻いて逃げれば英断
自分の弱さ思い知ったなら 黙ってとっととおうちに帰りな!」
私のキレキレのリリックが炸裂し、騒然とする拠点内。
王消寅さんは目を輝かせながら頭上で大きな拍手を送り、レミスさんは「よくわからないけど、セリナさん超かっこいい!」などと言って乙女チックな拍手をしている。
ドヤ顔の私に対し、口をぱくぱくさせながら、喉から死にかけたカラスのような声を絞り出すフェアエルデさん。
私が拡声器を下げ、お次はどうぞとばかりに手を差し出すと、フェアエルデさんは膝から崩れ落ちた。
「き、金ランクラッパー(冒険者)のこの俺が………手も足もでないだなんて! この女………一体何者なんだ!」
四つ手で地面と睨めっこしているフェアエルデさんに、私は髪をファサっとひらつかせながら名乗りを上げる。
「私が_M__C_セリナ! 今月ナンバーワンの受付嬢! 有名無名も関係ないけど
わかんじゃん簡単じゃんラップ勝負なら即ワンぱんじゃん!
つまり私が最強のラッパー」
追撃を仕掛ける私、何かに撃たれたように後ろに飛んで倒れ込むフェアエルデさん。
「じ、次元がチげぇ! こいつが本物のラッパーなのか!」
「ちょっと先輩! それからそこの受付嬢さん! 二人揃って悪ふざけしないでください! 真面目に仕事してくださいよほんと!」
調子に乗ってふざけていた私とフェアエルデさん、なぜか王消寅さんまでもが即座に正座して突然現れた女性冒険者に頭を下げる。
彼女はくりんこんさん、フェアエルデさんとパーティーを組んでいる銀ランク冒険者だ。
「セリナさんでしたっけ? そんな地べたに正座してないでこちらにいらして下さい。 状況を詳しくお話しします!」
小さな体に似合わず姉御肌をかもしだすくりんこんさんに、私たちは逆らえずにトボトボと着いて行った。




