表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第3章 深謀短慮、豈図らんや。
97/266

第35話 虎視眈眈



「ふう~終わったぁ~。疲れた~」


 宿に戻って、ソファに倒れ込む。


「精神的に疲れますねぇ」

「確かに気分的には疲れるわ」


「まぁな。じゃが、これで少しは貴族とのやり取りの勉強になったじゃろ」


「…超面倒臭いってのと、関わりたくないって事が良く分かったよ」


 セリスの言葉に正直に答えた。時間と労力、それに精神的な物。全部が面倒極まりなかった。体面的な余裕だとか、言葉の応酬、何もかもが回りくどくてややこしい。触らぬ神に祟りなしとはよく言った物だと実感した。


「確かに面倒なのは分かるがの。関わり合いは、否が応でもお構いなしに

やってくるものじゃ。お主は特にな」


 セリスの言葉にげんなりする。

 

 否が応でも関わり合いか…強制イベントって嫌いだったなぁ、オープンワールドで、一人ロールプレイが良かったな。おかげでMMOでボッチだったけど…。


「でもこれでやっと、出発できますね」


 キャロルが明るく言ってくる。


「そうね、この事で足止めになって居たんだもの」

「うむ、ぶっ飛ばしてストレス発散じゃ!!」


「だめですよぉ! もう怖いのは嫌ですぅ!」


 セリスの発言にキャロが反応し、騒ぎ出すとシェリーが怖い笑みを見せる。


「大丈夫よキャロ。無茶や無謀はしないから、慣れれば案外大丈夫」

「シェリーまで何言ってるのお! もうやだこのスピード狂たちぃ!」


 はぁ…移動は移動で頭痛の種が…あ!


「今回からもう一人増えるんだからね、ホントに()()()()()だよ」


「そうですよ! マルクスさんも同乗するんですから、安全運転厳守です!」


「アレは男じゃろう」

「騎士団なら大丈夫です」

「慣れさせてしまえばよいのじゃ!」


 などと、セリスたちは聞く耳持たずにワイワイ盛り上がり、キャロは半べそかきながら抗議していた。


 

 ──はぁ~~。俺の自由な異世界ライフは、何時になったらできるんだろう…。




********************************




「貴族院への届け出は、この書類を提出願います」

「…うむ」


「聖教会の門戸は何時でも開かれております。ですが貴族様の蟄居の場合、女性はシスターとして。男児は神父見習いとしての修練に入っていただきます。故に一切の面会を禁じ、贈り物もお受けできません。文のみは年に三度検閲の上、やり取りが出来ます。これは教会と国で取り決めた正式な条約です。…ご心配は無用です。お二人が正式なシスター、神父となれば、晴れて自由になられます。そうなれば、御目文字叶う事となりましょう」


 セリス様達が去った後、聖教会の神父と打ち合わせを行った。

 

 我がメスタ家は断絶と言う憂き目になる事は無くなった。


 それもすべてはセリス様の思し召し。なれば、必ず遂行せねばならん。


 嫡男の廃嫡と蟄居。正妻に次男の居ない我が家にとって、没落に近い痛手には変わらない。しかし、息子を失う事はしなくて済んだ。


 そして、妻の同時蟄居。確実に折れる妻の心を慮っての配慮と分かる。セリス様には本当に感謝しかない。


 庶子の受け入れと後継者への指名。これほどの醜聞はないであろう。妾を正妻にする事が出来ない以上、形式上でも妻を探さなければならん。

 

 確実に下がる家格。男爵家の出戻り位しか見つからないかもしれん。


 だがやらねばならん。セリス様にあそこまで言わせてしまったのだ!


 かの御方達が帰る際、メイド達が微笑んでいた。此処まで優しい断罪など、経験したことはないのだから。アレフも泣いて喜んでくれた。平凡だった儂に黙ってずっと付いて来てくれた。



 国のために働け…必ずや、やり遂げて見せましょう。



「…委細承知した。妻と息子を頼む。今生の別れとなるやも知れないが、

それこそ天の思し召し。せめて健やかに幸せな余生を望むのみ。アレフ、

貴族院への手配、速やかに頼む」


「…畏まりました」



◇  ◇  ◇




「何故だ! 何故我が教会等に帰依せねばならんのだ! 我は貴き者ぞ!」


 ”バシン!”

「グワァ!」


「お黙りなさい! 本来ならば其方は今頃、首だけとなって晒されていたのです! それを、セリス様の慈悲で生かされていることを、理解なさい!」


「な、は…母上までその様な事を…今までぶった事など無かったのに」


「ええ、そうです。それが()()だったのです。お前と旦那様が逝った後、私も自決するつもりでした。ですがあの御方が目を覚まさせてくれました。これから私達はもうこの家に戻る事は有りません。清貧にして、慎ましく。神の御許で修練するのです」


 ミルラ夫人とデルネス君は、二人一緒に軟禁されていた。裁可が下り、

家主が受け入れた以上、その瞬間から彼らはもうこの家の者としては扱えない。


 デルネスは憤懣やるかたないと叫び、喚き散らす。それを夫人が平手を打って叱り飛ばす。何度もそれを繰り返していた。


 彼女は感謝していた。ずっと甘やかしてしまった後悔を、やっとやり直せると。自身で教育する事は出来ないが、それでも息子は生き残ったのだ。


 ふと思い返せば自身もずっと、分かっていなかった。貴族に産まれ、何不自由なく過保護に育ち、世間など知らぬまま結婚した。男児に恵まれず初めてそこで、悔しい思いをしたのだった。妾に先を越されてしまった。


 やっとの思いで出来た我が息子。溺愛するのは当然だった。…その結果が今だ。


 貴族の結婚に愛などないと思っていた。実際子爵と出会った当時は、何とも平凡でつまらない人だと思っていたのだ。


 だけど…気づけば彼を愛していた。彼の後を追う覚悟まで、当たり前の様に出来るほどに。


 自嘲の笑みがつい零れる。


「今更、思い知るなんてね…どうか息災でお過ごしください、旦那様…」



 頬が腫れ、ギャアギャア騒ぐ我が愚息を横目に夫人は小さく呟いた。



◇  ◇  ◇



「…では、今日から私がお傍に付きます。末永くよろしくお願いします」


 ハンクはそう言って、庶子であった妾の長男に(かしず)く。


 結局、俺は()()()()()()()侍従かぁ。まぁ、あの()()よりはましだと願おう。


「あ、あの宜しくお願いします」


「…ミハイル様、私にその様な言葉は不要です。これから貴方様は、貴族の跡取りとして正々堂々と胸をお張りください。御母堂は既に屋敷の離れに居を構えられました。第二夫人故、正妻様にはなれませんが、ご家族も貴方様同様この家の者になられたのです。これから貴族としての礼儀作法など多々覚える事は、山積ですが立派にお勤めいただきます事、お願い申し上げます」


「はぁ…頑張ります…」


 う~ん、何とも気弱な後継者だなぁ。ここは一発()()()でもさせておくか。


「ミハイル様、早速ですがこれ──」



 ダメ人間製造機は、そう言って早速彼を懐柔し始める。



********************************



「フム。セリス様はその様に決着なされたのだな」

「は! 無駄な殺生なき見事な采配でした」


「…なるほど。で、あの家に監視は」

「つつがなく。既にメイドと侍従として五人」


「それは重畳。後は()()()()()を任せるぞ」

「は! そちらに関しても既に何人か()()を付けておりますので」


「宜しい、エリクス様には我から文を飛ばしておく。其方らは任の続行を頼む」

「御意! ではこれにて」


 宿の従業員はそう言って、部屋を出て行く。



「今回の貴族は違ったようだな…さてカデクスはどうなる事か」


 窓から通りを眺めつつ、マルクスは(ひと)()ちる。




********************************




「ええ、ですから! マスターが行方不明なんです! はい! え? 受付嬢? …テレジアって誰です? ギルドにそんな人いませんよ」


 魔導通信機を使い、本部に連絡をしている通信部。


 衛兵詰所からの問い合わせを確認しようと、ギルドマスターを探したが、見つからず、結局今日まで全く音沙汰がない。家はもぬけの殻で、ひと月以上は帰った痕跡が無かった。


 不審に思い本部に問い合わせてみたが、テレジア嬢から出張届が来たと言う。


 そんな人間は知らないと聞き返すと、受付嬢のチーフだろ? と逆に聞かれる始末。全く意味が分からない。エリシア村のギルマスもまだ見つかっていないのに、今度はここも()()()()()と思って彼は、うすら寒い感覚になる。


「あ、あのこれって何か関連が有るんじゃないですよね? エリシアのマスターもまだ見つかってないんでしょう?」


『関連? 何を言っているんだ? お前んところのギルマスは出張しているんだろうが?』


「いえ! ですから! そんな話は──」

『ん? なんだ? おい、聴こえないぞ?』


「あぁ、すみません! 思い出しました! そうでしたそうでした。出張届出てました」


『…はぁ? 何だ急に』

「アハハ! いえ、衛兵さんにせっつかれちゃって、ちょっと焦ってたみたいです。どうもすみませんでした」


『はぁ~~。じゃあ、良いんだな』

「はい! こちらは問題ありません! 定時連絡これにて終了です」

『…了解だ。』


 魔石を外し、通信機を切る。


「ふぅ~。いきなり()()()()()()()()もう。あミカエラ、これ喰う?」


 ”バキッ、メシャ、ゴリュッ…” ”ゴクン”

「…なんか、骨ばって食べにくいねぇ…味はまぁまぁだけど」

「なんだよもう喰ってやがる…。まぁいいや、さてと仕事をしますかね」

「はぁ~~だるいなぁ、そう考えたらお腹空いてきちゃったよ」


「……今、喰ったじゃん。少しは我慢してくれよ、じゃねえとまた面倒くせえから」


「はいはい。で、アタシが()()()()で、アンタが()()()()?」


「そうらしいぜ? さてさて何人()()()()()()ねぇ」




 ──…二人はそう言いながら通信室のドアを閉める。






これにて三章は終了です。


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、


ブックマークなどしていただければ喜びます!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!


ランキングタグを設定しています。

良かったらポチって下さい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ