第33話 謝罪と断罪ー①
《──という事で、結果何も分からないという事が分かりました》
まじかぁ、神様たちも知らない存在って何なんだよ!?
俺はシスからの報告を受けてうなだれる。キャロルが心配して寄り添ってくれるが大丈夫だと言って、皆に大まかに説明する。
「じゃあ、イリス様達も分からないって事か…」
「そんな存在って…」
シェリーとセリスは二人なりに考え込み、黙ってテーブルを見つめる。
「まぁ、今ここで俺達がうんうん考えていても仕方がない。先ずは領都を目指そう。そして王都。メンドクサイ事山盛りだけど、進めば何かが変わるかもしれないじゃん」
努めて明るい感じで俺が言うと、皆も分かってくれたようで一旦保留にする事にした。
「で、そっちは結局受け入れるという事で行くのかの?」
セリスが、テーブルに置かれた手紙を顎で示しながら聞いて来る。
テーブルの上に置かれた手紙には、辺境伯様からの挨拶と共に、色々な情報が書き込まれていた。
国家案件となった聖女の件、それにまつわる国家間の動きや牽制。特に聖教会からの間諜が執拗だと書かれていた。俺の事に関しては、まだ噂の域を出ない事が多いので、遠回しに探りが入っている程度との事。まぁこれに関しては表面上の事で、実際には色々な国が動いていると言っていた。
そこで、牽制の意味も含めてのマルクスさんの同行依頼だった。彼はこの領内での武力的実行勢力としては申し分なく、彼がいるだけでどの検閲にも引っ掛かる事は無いと言う。
これから向かうカデクスでもその名は通っているので、犯罪を犯さなければ、咎められること無くスムーズな移動が出来るとの事だった。
「…そうだなぁ、俺の事もある程度は事情を知っているみたいだし、魔導車の改造もすぐ出来るしなぁ。彼から情報を貰うってのもありだと思うから」
「お主…改造を簡単って。まぁ、シスが監視するなら問題ないじゃろ」
「私は、ノートさんにお任せします」
「私も異議なし」
《既にマーカーを設置済みですので、問題は有りません》
「じゃあ、受け入れるって事に決定だな。それではこれにて解散おやすみなさい」
◇ ◇ ◇
翌日部屋で朝食を取り、メイドさんに言伝を頼んで昼までゆっくりしていた。シェリーと魔導書を読んだり、セリスさんやキャロルと魔道具の事で話をしていると、子爵から迎えが来たとメイドさんが呼びに来た。
階下に降りると受付に使いの者が居たので、先導されて馬車に乗り込む。
「ほえ~、豪華な馬車だなぁ」
二頭立てのその馬車は、貴族然とした立派な装飾が施され、ドアには紋章がでかでかと設えてあった。室内も広く作られていて、前後向かい合わせの席には六人は座れそうなほどの座席が備わっていた。
「おお! さすがは貴族の馬車、椅子がふかふかじゃん」
「ふむ。魔道具も使われておる様じゃの、ノートの魔導車には劣るが、なかなかいい物じゃ」
御者の『では出発します!』の声と共に馬車が動き出し、外の景色も動き出す。
体感時間で十分程立った頃、中央街区に到着した馬車は門を抜けて貴族街へと入って行く。石畳も幾分変わったのか、車輪の音も静かになり、馬の蹄鉄の小気味よいカポカポと言う音が子守歌になり始めた時、シェリーに不意に声を掛けられる。
「着いたみたいよ。大丈夫?」
「んぁ?! ああ、ちょっと眠くなっただけだから大丈夫」
いつの間にか馬車は子爵邸の門を抜け、玄関前の車止めに停車していた。
侍従がすぐに近づき、踏み台を置き扉に手を掛ける。
車止めから玄関口までは二十メートル程、その両脇にはメイドや侍従が総出で並んでいる。
「ようこそおいで下さいました。お足もとにお気を付け下さいませ」
扉を開いた侍従が、頭を下げて挨拶をして来る。
最初に俺が馬車を降り、キャロル、シェリーと順に手を取り、馬車から降ろす。
最後に残ったセリスがゆっくりと扉に近づき、俺の手を取って降車する。
「…ご苦労様」
セリスは侍従に一言そう告げ、前を見据える。
一斉に首を垂れるメイドや侍従たち。此処までの一連の動作は、決まりだそうだ。
貴人は最も最後に降車し、準備が整ったと言う合図によって、前を見る。迎えの者達はそれまで一切動かない。…何ともはやもうメンドクサイ。
玄関前には子爵本人と家人が見えているが、皆頭を下げたまま。声を出さずに待っている。俺達が傍に行くまで声を出さない。これも決まりだ。
俺達も、セリスが歩き出すまで動けない。
そうなのだ。現在この場で最も優先されるのはセリス。彼女が全てを決めるのだ。
たっぷりと溜め、場が静寂に包まれる。そうして周りを見回した後、セリスはゆっくり歩き出す。こちらは謝罪を受ける側。その為わざと鷹揚に嫌味にならない程度に横柄にしなければいけない。セリスを先頭にシェリー、キャロルと続き、最後尾には俺と侍従が歩き始める。
セリスの横にはメイドが付き、半歩後ろで歩いて行く。玄関までは目と鼻の距離。
そこを時間をかけて歩いて行く。因みに今日は皆正装をしている。驚いた事に俺以外は全員持っていた。なので俺だけは宿に借りた礼装の服。まぁ、スーツの様な感じなので違和感はなかったが。フォーマルドレスを着た三人は別人かと思うほど綺麗だった。スタイルが良いのは勿論だし顔なんかも小さいので、華美でもないのにビックリするほど輝いて見える。
キャロルは赤のフォーマルドレス。スカートはロングだがレースの刺繍が施され、やや広がったデザインの物。シェリーは紺色のタイトなドレス。ロング丈に股近くまでの深いスリットが凄く官能的。胸元は縦に大きく開き、動く度にこぼれそうになって居る。
そしてセリス。彼女の物はいわゆるロココスタイルを踏襲しているのだが、アレンジが凄まじい。フレア調に開いたスカートなのに、スイングスタイルなのだ。前開きしている。故に中にミニスカートの様な物を履き、膝上までの編み上げブーツ。羽織は総レースで見た事もないような刺繍。そして銀髪。
まじで見た目だけなら、ファッションショーのトップモデルも霞むような存在感と美貌だった。やっぱり、エルフは伊達じゃないなぁと思ってしまったよ。
そんな事を思いながらゆっくり歩いていると、やがて子爵の前に辿り着く。
セリスが立ち止まり、キャロルとシェリーが、半歩後ろに横に並ぶ。
俺が最後にセリスの真横に立つと、初めて子爵が顔を上げて言葉を発する。
「ようこそおいで下さいました。わざわざ足をお運び頂き、誠に恐悦至極。私、この家の主メスタ・オルソンと申します。我がエルデン・フリージア王国、国王より子爵を賜っております。この度セリス様ご一同に対する無礼千万の至り、ご迷惑をおかけいたしまして、恐縮の体でございます。つきましては謝罪の場をと思い、お招きさせて頂きました。」
そう言って、子爵家一同が今一度頭を下げる。
「うむ。我はセレス・フィリアを祖にする孫娘セリスと申す。そちらの申し出承った。よしなに頼む」
「は! 有り難きお言葉、誠に恐悦の極み。ご案内いたします故、ごゆるりとご逗留くださいませ」
子爵がそう言った瞬間に、一斉にメイドや侍従たちが音もなく動き始める。
先導には家令のアレフさんが付き、俺達の後ろにはメイドが二人付く。
玄関を入ると、上階までが全て吹き抜けになって居て圧巻のシャンデリアがぶら下がっていた。壁には絨毯が掛かり、美術品の数々が並ぶ。そのまま広い廊下を進むと豪華な両開きのドアが見えてくる。メイドさん達が回り込み、音もなくそのドアを開いてアレフさんが先に入って行く。
案内されたのは大きな応接間。恐らくは賓客用だろう。大きなソファが囲むように置かれ、中央には背の低い楕円型の大理石の様な物で出来たテーブル。壁の装飾には絨毯や、花が活けて在り一面は大きな窓が並んでいた。
「こちらで、ごゆるりと」
それだけ言うとアレフさんは部屋を出て行く。
即座にメイドさん達が給仕をして、お茶やお菓子を並べて行く。
「ふぅ。やっと玄関かぁ。今日は一日肩がこるんだろうなぁ」
ソファに腰掛けた瞬間、ついぽろっと本音を言ってしまう。
「お主も徐々に慣れて行かんとな。嫌でもこれから経験するからの」
「そうね、公式の場は幾つも有るでしょうし、国王様とも会わなきゃいけないんだから」
シェリーとセリスがそんな事を言ってくる。
「うはぁ~面倒くさいの嫌いだぁ~」
「ふふふ。じゃあ、私が後でよしよししますから、今は頑張りましょう」
わっさわっさとスカートごと尻尾を揺らしながらキャロがそんな事を言ってくれる。
「…わかった! 俺頑張るよ!」
──…何だかんだで俺もちょろかった。
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