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オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第3章 深謀短慮、豈図らんや。
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第28話 世界



「ふぅ。今日はまた一段と豪華だったなぁ」

「ステーキ最高でしたぁ!!」

「私は、あの前菜の魚が良かったわ」

「デザートじゃろ! あの冷たいの、絶品じゃった」


 レストランで夕食を貰い、いい気分のまま部屋へ向かう。


《マスター、サーチに反応が有ります》

「…マジか。はぁ~、いい気分が台無しだぁ」

「…で? 何が来たんじゃ?」

《…どうやら影移動の様ですから、クラウンかと》



 それを聞いて急いで外に出る事にした。宿で面倒は起こしたくなかったからだ。



「今、奴は何処だ?」

《現在、大通りをこちらに向かって直進中…七十、五十》

「皆、人目を避けたい。移動しよう」


「「「了解」」」


 皆と一緒に夜の町を駆ける。展開したミニマップには俺達を確実に追ってくるマーカーが黄色から赤へと変わっていた。


《マスター、反応が増えました。人数は五》


(皆、向こうは完全に敵対したみたいだ。人数も増えたようだし、一度バラけよう! 集合はこのまま念話で行う! 散開!)


 念話で伝えてから俺は通りをそのまま直進する。キャロルは東へ、シェリーとセリスは北へと向かった。




◇  ◇  ◇




「ふむ、バラバラに分かれましたか。…皆さんは女たちを追ってください。私は彼を追います。あぁ、くれぐれも注意してくださいね。彼女らは全員()()()()()()()の冒険者です。死んでも回収はしませんので」


 ゲールは散開した俺達を眺めながら、集まった部下たちにそう告げると二人組に分けて北と東へ向かわせる。


「さてさて。ドラゴンスレイヤーの()()、いや世界の()()の力どの様な物なんでしょうねぇ。楽しみです」



 ──…そう言ってゲールは嗤い、影に沈んでいく。



 走る二人組の一組、東へ進路を取ったのはテレジアとマーカス。


「マーカス! 本当に上手く行くんでしょうね?!」

「任せろ! 相手は一人で今は夜だ。余程の事でもなきゃ()()()()さ」


「…それにしても、何でこんなに時間が早まったのかしら? もっと遅い時間のはずだったのに」


「どうやら監視がばれたらしいぞ、スラムの奴らがしくじったんだと」

「何よそれ、馬鹿らしい! そんなのアイツの尻拭いじゃない!」

「声がでかいぞ…おっと、この先はスラム街じゃねえか」


 キャロルが向かった先はスラムの広がる町の外れだった。人気などなく、暗い道。路地に入ればどこから誰が襲って来るかも分からない。


「テレジア、俺は一旦隠れるから手筈通りに頼むぜ」


 そう言ってマーカスは、路地へと身を隠す。


「…ふぅ、しょうがないわね。…あの()()()、今度は絶対魅了してやる」



◇  ◇  ◇



「セリスさん、この先に人気の無い所ってあるんですか?」

「あるぞ、今日の昼来たばかりの倉庫街じゃ! ゴーレムでも確認済みじゃ」


 セリスはそう言いながら、上空を指さす。既にゴーレムは展開していた。


「なるほど。では私は補助に回ればいいですね」


 一瞬空を見上げてセリスにそう告げるシェリー。


「じゃな。儂は土系統が弱いから路地を壁で潰してくれ。場所を限定したい」

「了解です」

 

 そして走る事数分、倉庫街に到着した二人はその一つの道へと入って行く。


「フッ…倉庫街か。おい、お前は向こうに回り込め。挟撃する」

「…あぁ、了解した。合図は?」

「俺のスキルで奇襲をかける。そのまま押し込め」

「分かった」


 後を追って来た二人の黒ずくめはそう言って二手に分かれた。


 その男は、倉庫の前で立ち止まり、壁から向こうを覗き込む。その先に居た二人は案の定こちらを向き迎撃準備を整えていた。


「バカが…わざわざ、行き止まりの路地なんかを選びやがって、何がミスリルだ。たっぷりと苦しんでから死ね」


 そう言って男は懐から、拳大の石の様な物を取り出す。それには術式が彫って在り男が念じると輝き始める。


「さあ、俺のスキル炸裂術式が込められた炸裂弾、ご賞味あれ」



◇  ◇  ◇



《マスター。シェリーさんとセリスさんが交戦開始しました》

(了解。こっちもそろそろいいかな)


 目の前には大きな壁が(そび)え、夜空には見覚えのない星空が輝いて見えていた。町の灯りはここからは遠く、人の気配は見当たらない。


「おや、鬼ごっこはもうお終いですか」


 振り返った俺の前に影から立ち上ってくる真っ赤な服。


 ──…ゲールが一人で其処に居た。


「…アンタが()()()()か。…この世界にも道化師なんて()()があるんだな」


 俺は正直不可解だった。道化師と言う言葉や概念が。


 ──この世界の常識には無いはずだ。


 歌劇や歌は存在していたし記憶にもある。だが目の前に居る奴はどう考えてもおかしい。

 

 ジョー〇ーだ。真っ赤な服にハットを被り、緑のシャツに白粉に口紅まで。現代地球の映画で見たまんまの恰好。何故知っている? 偶然なんてあり得ない。


 

 ──…ある種の不安が頭をよぎる。



 ………神の知らない、俺以外の転生者…。



 目の前に居る奴がそうかは判らない。

 

 でも確かめないと始まらない。

 

 この問いかけは一種の賭けだ。



「……はて? 何と仰いました? 世界の概念? 私は語り部。唯の駒ですよ。そう言う貴方は何者ですか? この世界の異物であり別の世界からの来訪者。異界の存在……迷い人。それは秩序を乱すものです。例え神が許そうとも、我ら【世界】が許しません。この世界はこの()()()()です」



 ──…なんだ? コイツ一体何を言って──!


《マスター! 来ます!》


 ”ドコォォォォオオンッ!!”

「ガァァアッ!?」


 突然の衝撃に受け身も取れず、後ろへ弾き飛ばされる。そのまま町の外壁へと叩きつけられた。


《マスター! 保護プログラム始動、結界構築。迎撃を開始します》


 シスが俺にそう言い放つと、ステルス状態を解除して異界庫から武装を換装し、攻撃を始める。


「ん? 何やら()()()()が出てきましたねぇ。…()()()()()、イージス展開」


 ”キィィィィン” ”バシュン!” ”バチィィィ”


 シスが放ったビーム砲がゲールの展開した結界で弾かれる。


「な、に! アレを弾くのか!?」

《マスター。あの結界はこちらと同等の物の様です。物理無効化されています》

(はぁ?! 物理無効化ぁ? クソったれ…シス! ステルス結界!)

《了解。次元融合結界、ステルス発動》


「…む?! 世界から隔絶? いや、次元移動? やれやれ、流石は異界の者。コレは想定外ですね」


 ゲールはそう言いながらイージス結界を球体化させる。

「これでどうでしょうか、全天型になった結界を破れますか?」


「ふぅ、ヤバかった。これで少しは時間が稼げる。…それにしても、いきなり気になるワードがてんこ盛りだな。なんだよ()()って。俺が異物? 神とは違う何かが居るって事なのか? もう何が何やら訳分らん! シス、イリス様にメールしておいてくれ! 【世界】って何か教えてくれって」


《了解です。…送信しました、次は何をしましょう》


「そうだな物理無効…か。次元空間は干渉できないのか……あ! 魔銃だ!」


《魔銃?》


「あぁ、この魔銃は、弾が魔力で構成されているからな。奴に直接、次元結界融合させた弾を撃つ」


《直接撃たないのですか?》


「そんな事をしたら()()()で俺の腕が消し飛ぶよ。魔銃はそれを回避できるように、元々多重次元結界が仕込んであるんだ。俺の思い付きって役立つねぇ」


《…まずその発想に至りませんが。まるで転移陣を発射…転移弾ですか!》

「おお! さすがは元俺、大正解。幸い相手は見えてるからな。指定も簡単!」


 そう言って俺は早速、弾を創造し始める。




◇  ◇  ◇




 グリスナーは未だ、スラムの中に居た。別に未練があったわけじゃない。ただ何となくそこに戻っただけだった。自分の元居たねぐらを見渡して溜息を零す。


「…これでおさらばだ。もうここには戻らない。……じゃあな」


 そう呟いてねぐらを出ようとした時だった。視界の端に何かが映った。


「…おいおい、俺は()()()()()大事に持ってたのかよ」


 それは錆びて古ぼけたひと振りのナイフ。掃除屋になった始まりの品。とっくに捨てたと思っていたそれは、何故か部屋の隅に埋もれて在った。


「…やっぱコイツもちゃんと捨てないとな」


 そう言ってナイフを拾い、ねぐらを後に出て行った。




 マーカスはテレジアと別れ、路地に入って外套を脱ぐ。中に着込んでいたのはノートと同じ様な軽装鎧。そして何やら文言を話す「****擬態」


 ”グキッ、メキィ”と嫌な音と共に、みるみるその姿を変じて行く。


「あ、あぁ、うー。ふぅ、いてぇ。良し、これで後はあの女を見つければいい」


 ──そこには、見た目は完全にノートとなった男が居た。



 なんで、こんなスラムにあの男が居る!?


 グリスナーはそう思いながら身構える。自分が出て来たねぐらの先、路地の通りに見つけた人影。


 ノートだった。夕方までずっと監視していた男。見間違えるわけがない。ソイツが今、何故か路地から外を窺っている。……こちらに全く気付かずに。


 ──瞬間握ったナイフに力が籠る。


 頭の中は真っ白だった。胸に沸き上がった怒りと憤りだけが、グリスナーを支配していた。……憎かった。唯々、コイツ(ノート)が憎かった。


 ”どんっ”

「ぐあっ、な、何だテメ…」

 ”グサッグサッグサッ!”

「がぁぁぁっ、やめ…て」


「はぁはぁはぁ………はは、なにが高ランク冒険者だ。こんな錆びたナイフ一本で()れるじゃねぇか。ははは、あははははは! アーハハハハハ!」




 ──…路地裏でグリスナーの笑い声が響き渡っていた。






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