第9話 ザッツTo・Do!その1
「──まさか、サラが客引きをするとはな…」
去っていく二人の背中を見ながら、カークマン隊長は、小さく呟いていた。
──トコトコ、カクっ…。トコトコ…「フミュ!」あ、オジサンにぶつかった。「ペコペコ」…チラッ。──トコトコ…。
擬音をつければ、こんな感じで彼女は先を歩いてく。歩けば転びかけ、進めば誰かとぶつかり…。よく生きてこれたなぁと、思いながらもすぐ後をついて行く。それにしてもここは…。周りを見廻すと、大通りから外れ、細く入組んだ道を進んで行く。
──やがて、その目的地は見えてきた。
大通りから外れ、少し陰が多くなった道を進むこと数分。人通りがまばらとなった場所に、その宿は在った。【安らぎ亭】と書かれた看板は少し汚れ、年季を感じさせる。建物自体もあまり大きくはなく、見上げた所、四階建ての感じだった。
「お、おつかれしゃまでしっ! た。…あぅ。こ、こちらでしゅぅう?!」
こちらを見ずに、嚙みながらも一生懸命に彼女が話し、顔を真っ赤にしながらも、勢いよく扉を開けようとしたのだろう。しかし、扉の方が一瞬先に開いてしまい、彼女の手は空をさまよう。
「ふぁ?!」
そのまま勢い余って、彼女は後ろに転がる。
”ドテンっ”
「うにゃっ!」
そしてその非情を行い、扉から顔を出したのは恰幅のいい、如何にも女将さんな女性。
「おや、おかえりサラ。なんでそんな所に寝てんだい?」
「はうぅ、痛いですぅ。扉が急にぃ。じゃなくて、お客さん! 連れてきたぁ」
「あらまぁ。すごいじゃないか! で、お客さんは?」
その言葉にお尻を擦りながらも、俺を見るサラ。
「どうも! お部屋空いてますか?」
「はいはい! 空いてますよ。どうぞこちらへ」
サラに「ありがとね~」と伝えながら、女将さんが開いてくれた、扉をくぐって中に入る。
……こぢんまりとした小さな宿屋がしっくりくる。うん。いい感じだ。
恐らく家族でやっているんだろう。
入ってすぐに受付。右手に階段とトイレ?かな?左手に食堂の入り口らしきものが有る。
「はい。まずはカードをお願いしますね」
女将さんに言われ、手から直接渡す。すると彼女は、受付に置いてあるレジスターのような機械にカードを差し込むと、女将さん側に何やら紙のようなものが出てきた。
「はい。お返ししますね、コレで台帳には記載できました」
おを! アレも魔導具か。チェックインが楽ぅ。
「お部屋は二階の五号室になります。朝食付きで一晩五百ゼムです。夕食は有料ですが、此方の食堂で出していますのでぜひご利用ください。では、何泊されますか?」
「あ、では取り敢えず三泊で。延長したい時はその時でいいですか?」
「はい。3泊目の朝に言って頂ければ。長期になりますと割引もしますのでぜひご利用ください。では、三泊ということで千五百ゼムお願いします」
言われた料金を先に支払い、部屋の鍵を受け取って、階段に向かう。
「あ! お湯は有料ですので、入用の際はお申し付けください。湯おけ一杯で五十ゼムです」
「了解しました」
階段を登り、突き当りに五号室は在った。ドアノブ上部の鍵穴のカギを差し込み、ドアを開ける。部屋は小さいがベッドと小机。その上には【貴重品入れ】かな。小さな箱が鍵付きで置かれていた。ベッドの向こうは鎧戸が有り、今は開いている。ガラスは嵌まっていなかった。
早速ベッドに腰掛ける。板敷の上に粗末では有るがキチンとスプリングの入ったベッドだった。
「ふぅ。ファースト・ミッション成功って感じだな」
──白の世界から出て街道をただ、歩いただけだったけど。全く未知の場所でボッチ。やっぱ、独りって寂しいよね。
──ひょんなことから、異世界イリステリアに来ちゃった──。
まぁ、元の世界にそれほど未練はないし。なんと言っても若返れた。その上チートまで貰って超ラッキーじゃん俺。
幸多からんことを、か。…イリス様、頑張ってみますね。めざせ! ウハウハ! ってな感じで!
宿に着いてなんだか落ち着いてしまい、まだ日も高いのにウトウトした頃。
「はぁ。落ち着たらちょっと眠く──!」
”ドン!! ガタタン!”
「うひゃぁ」
あ、サラちゃんだ。部屋のドアを開けて、廊下を覗き込むと空の湯桶を頭にかぶったサラが。
「いたいですぅ」
と半べそで座り込んでいた。
「どしたの?」
「んきゃ?! 誰っ!? どこでしゅ?」
「だいじょうぶ?」
「へぁ? ノートさん! ゴメンナサイですぅ。え、えとコケちゃって、あのぅ、桶を持って来たです。あれ?」
「あぁ。これの事だね、ありがと」
手に持った桶を見せながら応える。
「あ、はいです。良かったです。忘れたかと思った。あ! お湯はどうしましゅ?」
「いや、今はいいかな。大丈夫だよ、ありがとう」
「はぃぃ」
噛んでしまった事に恥ずかしがりながら、ペコリと頭を下げると階下へ降りて行った。転げ落ちなかったのを安堵しながら俺も部屋へ戻り、湯桶を床に置いてベッドに座る。
さてと。一度色々整理して、これからの事考えよう。先ずはこの世界についてだな。
──異世界イリステリア。ココは所謂、剣と魔法のファンタジー世界であり、【神様】が実在し、降臨や神託も有る。そして【人類】この世界には見た目は勿論、生態やその在り方すら違う人々が混在している。
ヒューム 所謂地球人のような人間タイプ
ビーシアン 神獣を祖に持ち、身体が非常に頑強。ヒュームに近いものから、獣に姿の近い者まで様々。ただ、全てのビーシアンは2足歩行する
エルフ 精霊を祖に持つ耳の長い種族。自国にはエルダー種が存在し、そちらはただのエルフ種より、精霊に近いとされる。寿命も長く、眉目秀麗な者達が多い。胸の大小は色々有るらしい(其処は楽しみ)。
ドワーフ エルフと同じ精霊を祖に持つ。自国は洞窟内に広がり一大帝国の様になっているらしい。ココにもエルダー種が存在する 低身長で男は髭を女は髪を伸ばす習慣があるとされ、どちらも鍛冶に精通している。長命でも有る。
悪魔種 これらについては全くの未確認。神様たちも分かっていない。今から約千年前には居たらしいが、神魔戦争の時に絶滅したとか封印されたとか曖昧だ。なので、見た目や生態については全く不明。ついでに神魔戦争の際にも、異界の勇者も呼ばれたとか失敗したとか、其処も不明。
以上がこの世界で存在確認ができている【人類】
──魔獣とモンスター。
魔獣 元々この世界に生息している動植物。コレが【魔素溜まり】と言う、魔素が瘴気の侵蝕によって澱んでしまった場所に、触れることで凶暴化し、肉体が変怪したモノ達を魔獣と呼ぶ。
モンスター 魔素溜まりに更に瘴気の侵蝕が進むと【瘴気魔素】へと進行する、それが飽和状態になって産まれる異形、姿形は其の規模や瘴気の濃さによって様々になる。
個体名はそれぞれ存在するが、総称して怪物と呼ぶ
【瘴気】とはなんぞ? ってなるんだが、この世界では俗に言う【怨念】や【怨嗟】なんかは浄化されないと、瘴気として現存化するらしい。だから、ゾンビやグールなんかの【不死人】も居るわけだ。ただ、この世界のゾンビやグールに噛まれても、怪我したりバイ菌入ったりするだけで、感染はしないんだけどね。
この魔獣やモンスター達には核が存在し、絶命すると結晶化する。これが魔石。魔道具の燃料や素材に使われる、テンプレだね。これらはそう言った経緯から人類に対して必ず敵対する。
だから、サーチ・ェアンドゥ・デェスゥトゥローイ! なのだ。
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