第26話 捕らぬ狸の皮算用
「ゲールさんは何処に行ったんだよ…このまま、付けて行って良いのか」
宿の前にある店の影でグリスナーは悩んでいた。対象の女二人が戻ってきたが、尾行に行かせた二人は戻らずどうしようかと考えていたら、全員が宿から出てきたのだ。現状一人で動くのはまずいと考えながらも、どんどん離れて行く彼らを見てしびれを切らす。
「クソったれが、アイツら逃げやがったのか…こんな事ならもう少しましなのを連れて来れば、良かったぜ」
ボヤキながらもグリスナーは、周りを気にしながら尾行を開始した。
《どうやらグリスナーは尾行を開始するようです》
(了解。周囲の警戒続行宜しく)
《了解しました。サーチを併用します》
シスに警戒を任せて、俺達は何食わぬ顔で通りを進む。
ギルドまでは十分程の距離。先頭を歩く使いの人は俺達に気遣いながらも、ちらちらとこちらを窺い見ていた。
「どうかしました?」
「えひゃ?! い、いえ、何もないですが?」
「そうですか。何かこちらを見られて居る様でしたので」
「あぁ、申し訳ございません。私、ギルドに入って日が浅いものでして。高ランクの方々を初めて御案内するので緊張してしまって、アハハ…」
「…要するに珍しくて見ていた、という事じゃな」
「いえ! そんな!…はは、申し訳ないです…」
「いや、別に気にはしませんけど。珍しいんですか?」
「はい! 私が見るのは初めてです! プラチナとミスリルなんて! この町の最高位が現在ゴールドですから。それも二人だけです」
そんな話を聞きながら歩いていると、やがてギルドが見えて来た。
中に入ると休憩スペースに案内され、報告するので少し待っていて欲しいとの事で、俺達は纏ってテーブルを囲んで座った。
「ふぅ。冒険者ギルドの内装って大体似通ってるよなぁ。受付が有って、休憩所が有って、掲示板と…って感じ」
「まぁ、行う業務自体が同じですからね。その方が分かりやすいですし」
「そうじゃな。冒険者は一つ所に長居しない者もおるしのぉ」
「ある意味で、型通りが楽なのよね」
「ふぅん。そんなものか」
《マスター。サーチにイエロー反応です。ギルド内に二人確認》
(マジかよ! 皆聞こえた? 警戒してね)
俺の念話に皆が頷き、気を張った所で声が掛かった。
「皆さんどうもお待たせして申し訳ございません。私、冒険者ギルド、
レストリア支部で受付チーフをしています、テレジアと申します。わざわざご足労いただき、ありがとうございます」
金髪碧眼、容姿端麗。どことなく冷たい印象の彼女はそう言って頭を下げる。
《一人目のイエローです》
シスの念話に、鼓動が跳ねる。マジで?! この人ギルドの人だよ? ふと隣を見やると、全員が押し殺したように息を飲んでいた。
「…どうかされましたか?」
「い、いえ、綺麗な人だなぁと思っただけです。あはははは!」
「あら、お上手ですね。でもそう言うのは、お一人の時に言って欲しいものです」
愛想笑いで躱されたが、なんとか誤魔化せたようでマスターの部屋へと案内される。
《マスター、中にもイエローです。鑑定の用意を》
もうドキドキしっぱなしです。シスお願いだから、少し考えて言ってくれ。
”コンコンコン”
「…どうぞ」
──ドアが開かれ、彼女が先導して入って行く。
「マスター。スレイヤーズの方々をお連れしました」
「どうも、わざわざ申し訳ない。さぁ、先ずはお座りください」
そう言って、奥の机から立ち上がりこちらへ進んでくる男性を鑑定する。
名前 キーン・マクドネル(マーカスに偽装中)
種族 ヒューム
年齢 36(66)
賞罰 なし(殺人 恐喝 組織犯罪 etc…全て隠蔽中)
~~スキル~~
身体強化 魔力補正(中)
~~ユニーク~~
魔術適性(土 闇)鑑定偽装
~~固有スキル~~
擬態
(はえ? 擬態? シス、どうゆう意味だ?)
《姿かたちを変化させるスキルでしょう。名前の人物に入れ替わっているのだと思われます》
なんとか平静を装い、皆に念話で共有しながら腰掛ける。
「…どうも初めまして。冒険者ギルド、レストリア支部マスターの【マーカス】と申します」
彼はそう名乗り、執務机に戻るとそのまま話を始める。
「いやはや、申し訳ないですなぁ。私どもも今回の情報は魔導通信で先程知ったばかりでして。…なにぶん、エリシア村のギルドマスターとは何度かお会いして──」
マーカスは、エリシア村のギルドマスターとの事を世間話の様に話し始める。その横でテレジアはお茶をテーブルに並べて行く。そう言えば彼女を鑑定していなかったと思い、彼女に分からない様に鑑定する。
名前 テレジア (テレジア・ドロレス)
種族 ヒューム
年齢 28
賞罰 なし(殺人 恐喝 組織犯罪 etc…全て隠蔽中)
~~スキル~~
身体強化 魔力補正(中)
~~ユニーク~~
魔術適性(水 闇)鑑定偽装
~~固有スキル~~
魅了
(あちゃあ~魅了持ちかぁ。しかも二人共家名持ちじゃん。皆、結界アクセ準備しておいてね)
「──で、結局連絡が付かなくなった様なのですよ。何かお心当たりは有りませんか?」
「…ふむ、儂らはその前日にギルドでマスターと会ったが、別段変わった様子は無かったと思うぞ。受付嬢のセシルも同席して居ったしの」
「ええ、私はエクスのギルド研修で、二人を知っています。特に変わった印象は受けませんでしたよ」
──皆が返事をしているとテレジアの目がぼんやりと光る。
《マスター、魔術の使用を感知》
(アクセ起動)
”バチィ!”
「な!!」
アクセサリーの起動が間に合ったようで、スキルが成功せず自身に返った反応に驚き、テレジアは後退る。
「どうかしました?」
俺が彼女に聞こうとすると、慌ててマーカスが割り込む形で話してくる。
「あぁ、申し訳ない! こう見えてテレジアには持病がありまして。大丈夫かね?」
「え?! …あ、えぇ、すみません。取り乱してしまいました。席を外させていただきます」
そう言いながら、彼女は逃げる様に部屋を出て行く。
「え、あの…テレジアさん…」
何故か、ポカンとしているマーカス。……なんだ?
「ギルドマスター? ……後は何が聞きたいのですか?」
「え!? …あ、あぁそうですね~、皆さんは要するに彼の行方に心当たりは全くないという事ですね」
「そうですね。分かりません」
「…解りました。わざわざありがとう御座いました。ただ現状大事には出来ないので、くれぐれも内密にお願いします」
そのまま警戒しながら話を続けたが、結局その後は世間話に終始して釈然としないままギルドを出た。
《二人の監視は出来ています》
(そう。何か分かったら教えて)
◇ ◇ ◇
「どうゆう事だよ! 何で急に部屋出て行くんだ! 魅了掛けるんじゃなかったのか!?」
俺達が出ていった後に戻って来たテレジアにマーカスは怒鳴りつける。
「掛けたわよ! 掛けたけどその瞬間に弾かれたの!」
「はぁ? 弾かれた? お前の固有がか? あり得ねぇだろ」
「そうよ! あり得ないわよ! でも駄目だった。全く理解できないわよ!」
「…クソ。どうするんだよ、子爵んところの方はもう動いてるんだぞ。ゲールだって、その腹積もりで状況を動かしてる。このままじゃ全部パァじゃねぇか」
「…分かってるわよ! あのクソ犬! なんで効かなかったの? 宮廷魔術師ですら、抗えなかった私の魅了が…どうして」
「クソったれ…ゲールの基地外はもう止められねぇ。子爵のガキは…どうでもいいか」
──マーカスは動き出した作戦と、出来なかった行動の先を考える。
本来ならあのキャロルと言う女に、テレジアの魅了で洗脳するはずだった。彼女を寝返らせ、ゲールの襲撃に合わせて男の寝首をかかせる。そして仲違いを起こさせてパーティが混乱している時に乗じて全員殺す。
子爵の息子を攫って、奴らに私刑を行わせた様に見せかける予定だった。そうすれば、奴らの仲間割れで説明できて一石二鳥のはずだったのに。一番最初であてが外れた。このまま行けば、ゲールは殺られるだろう。
子爵の息子は…攫われて殺されるだけだ。コレはどうでもいい。
本部にはどう説明する? 実行部隊を失う事も地味に痛い。
──…いっそ、俺が擬態してノートに成り代われば…そうだ! 奴の人相はもう分った。そうか! それで、誰か一人でも消せれば…。
「おいテレジア! ちょっと耳を貸せ、これから俺とおま──」
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