第25話 クラウン
──…路地の先では、呆れた様な顔でこちらを見る二人が居た。
「あ? 何でこいつ等こっちを向いてるんだ?」
「……はは、良いじゃねぇか。俺達にはこいつが有るんだぜ」
そう言いながらナイフを見せびらかす、中肉中背の男。
「……あぁ、そうだった。俺もこれを持ってたんだ…」
痩せた男が魔道具を取り出す。
「アレか」
「はい、人工の魔石が使われているそうです」
「ふぅ、ノートも面倒くさい事を言いよるのぉ」
キャロルの言葉に、げんなりした顔で応えるセリス。
「何をごちゃごちゃ言ってやがる! 良いからじっとしてろ!」
痩せた男はそう言って、キャロルに向かって駆け寄って行く。
「お! じゃあソレはキャロに任せたぞ。儂はあのバカをボコるでの」
「仕方ないですね…殺しはダメですよ。」
「へいへい、了解じゃよ…っと、せっかちなやつじゃの」
二人が余りにも余裕を見せながら話すのを見た男は、持ったナイフを
振り回しながら突進してきた。
「っらぁ! この! コイツ! うらぁぁああ!」
”ブンブン、ブゥゥウン!”
ふらつき、腰の入っていないナイフなど常人にでも避けられそうだった。…しかし男は自分に酔っているのか、それとも当たると思っているのか、ナイフを振り回しながら喚き出す。
「何だ!? 何で避けられる?! クソっ…この…うりゃぁぁああ!」
「お前……何か術に掛かっておるな? …こいつ等まさか…」
そう言いながらセリスは男の背後に回り込み、手刀を延髄に当てる。
”グガッ!” ”ドサッ”
その一撃で、男はナイフを手放し白目を剥いて泡を吹きだして昏倒する。
「へへへ。ほら、これを嗅げ。それだけで良いんだ早く、ほら!」
痩せた男の目は血走り、常軌を逸した形相でキャロルに向かって魔道具を持った腕を、付き出す。
「あら、ありがとうございます。」
突き出された魔道具を、彼女はそのまま掠め取る。ポカンと自分の手を見る男。
「…あ? あれ? 魔道具──」
キャロルも、セリス同様に手刀を使い、一瞬で意識を刈り取る。
「えへへ。ノートさんに褒めて貰えますぅ!!」
「はぁ~一体何をさせたかったんじゃ?……お前さんは!!」
そう言って、取り上げたナイフを倉庫の屋根に向かって投げる。
”ギィィィイン!”
「おやおや、大変危ないですねぇ…いきなりのご挨拶、痛み入ります」
ナイフを自身の持つ杖で弾きながら、男が姿を現す。
「何じゃお主は? 気持ちの悪い…その恰好はなんなんじゃ?」
セリスがそう言って話す相手はゲール。しかしながらその姿は、先程までの、商人の出で立ちとは程遠かった。地味な上下の服は真っ赤に変わり、その顔は白粉で塗り固められ、真っ赤な紅が引かれていた。
ノートが居れば、間違いなく叫んだだろう。『ジョー〇ーじゃん!』
「ンフフフ。お気に召しましたか? 私は現在クラウンを拝命しております。役どころ故裏方ですのでお手出し無用に御座います…配役は既に決まっておりますので、今回は顔見世までという事で。…あぁ、その魔道具は小道具ですので回収しておきますね。では失礼いたします」
そう言うと、ゲールは地面の影に溶けるように消えて行く。
「ふん、させると思うて──」
「きゃぁあ!」
セリスが影に踏み込む寸前、キャロルが叫ぶ。慌ててそちらに振り返る。
「どうした!?」
「ま、魔道具が…」
彼女の手に在ったそれは、倉庫の壁から生えた手によって奪われていった。
残ったのは、気絶した二人の男達と憮然としたセリス、気味悪がって周りを見回すキャロルだけだった。
◇ ◇ ◇
「…クラウン? ピエロや道化師じゃなくて?」
「そうじゃ。あれは名ではないのか?」
戻ってきた二人の話しを聞いて、俺は首を傾げていた。名乗った名前は、役名と言った。【クラウン】は道化師の中で唯一言葉を発するキャラクター。ストーリーテラーをしたり、劇中の隙間に意味のないコントを挟んだりと、観客を飽きさせない為の裏方。
──一体そいつはどういう意味の裏方なんだ?
「他に何か言って無かった?」
「うん?…確か、配役は決まったとか、今回は顔見世だなどと、言っていたな」
「う~ん、良く分かんないなぁ…ともかく、何らかの敵対勢力が動き出すって事は、理解できたけど」
「あのぉ、ノートさん」
「ん、どうしたのキャロ?」
「…魔道具、回収出来ませんでした。ゴメンナサイィ」
しゅんとしたキャロがそう言って、謝って来る。ペタンこお耳が超かわいい。
「超かわいいなもう! 良いよそんなのは。無事に帰って来てくれたんだから」
わっさわっさわっさ!!!…あ、やべぇ。
「ノートさん!!」
”ガバァぁあ”
「ああ! 理性が!」
「やめい!」
「「すいません」」
そんな話をしている中、ノックの音が聞こえてくる。シェリーがそれに応答する。
「…ギルドからの手紙?」
「ええ先程、使いの者が届けて来たそうよ。」
そう言って俺に手渡してくれる。確認しろって事か。
封緘を確認してもらい、彼女が頷いてから封を切る。中には二枚の手紙が入っていた。 取り出して中を確認するが、手紙以外は入っていない。封筒を置き、本文に目を通す。一枚目に書かれていたのは遠回しな挨拶だった。
「………え? 行方不明?……」
「ん? どうしたんじゃ?」
「誰かが居なくなったんですか?」
「なんか、エリシア村のギルドマスターが、俺達が出発した日から、行方が分からなくなっているらしい。それで、聞きたい事が有るから、顔を出して欲しいって」
手紙を皆に見える様に差し出して、話をする。シェリーが手紙を受け取り、その内容を確認していく。
「…エリシアのギルマスが…」
「あの冴えないおっさんか」
キャロルとセリスが、考え込むように呟く。シェリーは手紙を見ながら、ポツリとこぼす。
「…時間の指定が無いのね」
手紙には、訪問の日時が指定されていなかった。
「じゃあ、何時でもいいって事?」
「…いや、恐らく、なるべく早くという事じゃろ。下で待っているかもな」
「え? それじゃ、直接言いに来ればいいじゃん、何でそんな回りくどい事を」
「多分返事待ちでしょう。高ランク冒険者には、礼儀に煩い方も居ますから」
「私達が、エクスの受付だったことも承知しているものね」
「え? じゃあ、どうするんだ。今から行くのか?」
「まぁとにかく、返事はしないといかんじゃろ」
そうして意見がまとまった時だった。
《マスター。そろそろ、自己紹介をしたいのですが》
「「「え?!!」」」
三人が同時に俺の方を向く。目線は俺の右肩辺り。ステルスを解いた球体がそこには浮かんでいた。
そのボディは、黒鉄色に、鈍色の放射模様が混じった、ダマスカス独特の色が全体を覆い、本体の中心部には直径7センチ程のレンズが備わっている。メインカメラの横には複眼の様に3センチのレンズが二つあり、本体の周囲を囲むように分割ラインが走っている。そのラインには術式がぼんやりと光っていた。
《皆さま、改めまして。マスターにボディを頂き、正式に顕現致しましたシスです》
「「「おおう!!」」」
「もう出来たんですか!!」
「何ともいかつい色じゃのう」
「…っていうか、消えてましたよね」
《はい。ステルス機能は標準装備です。その他、各種機能も備えております》
「ど、どうやって、そんな小さい筐体に?」
《マスターの異界庫の一部を次元結界にて接合しています》
「転移陣の応用? って言えばいいかな。シスのボディ内と俺の異界庫内を繋いでるんだ」
「…もう、何でもありじゃな…あ! じゃあ、儂のゴーレムもステルス付けてくれ!」
「いいけど、魔石が必要だな。キングオーク並みのが必要なんだ」
「うぬぬ…人工魔石、惜しい事をしたわい」
「…あの、ノートさん。…シスさんは自立したって事ですか?」
「え、あ、そう言えばそう言えるな。別行動しても異界庫で繋がってるから、何時でも呼べるし。ハカセとおんなじだね」
「ハカセ…? あぁ!そう言えば君、精霊とも契約していたわね」
「うん。今はエクスでサラの護衛をしてもらっているよ。念話で何時でも話せるし、呼ぶことも出来るけど、彼はサラに集中したいみたい」
《マスター、階下でギルドの使いが待機していますが、どうします?》
「あ! やっぱりいるんだ。…どうする?」
「…明日は子爵邸に行かねばならんし、今から行くしかないじゃろ」
「ですねぇ」「気になるのも確かだし」
意見がまとまったので、全員で部屋を出て降りて行った。
「ギルドの方ですか?」
階下に降り、受付の途中のソファにその人はいた。
「はい!レストリアギルドの受付をしております、ハモンドと言います。そちらはスレイヤーズの方々でしょうか?」
俺の誰何に立ち上がり、頭を下げて自己紹介してきた。
「はい、俺がリーダーのノートです。手紙を読んで来ました。今からでも良いですか」
「はい! ありがとうございます。よろしくお願いいたします。」
宿に声を掛け、全員でギルドに向かっていった。
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