第24話 短慮の果て
「キャロル! この芋買っておいてくれ!」
セリスは試食に貰ったふかし芋をほふほふと齧りながら、ねだる。『フハー、芋最高じゃぁ!』と、喚きながら。
「はいはい。すみません、このお芋一袋お願いします…熱っ」
同じように芋を齧りながら、キャロルは麻袋一杯の袋を指差して店員に話す。
「はいよ! この芋は日陰で風通しよく保管したら長持ちするからね。旅にはちょいと重いが、腹持ちも良くていいもんだよ」
そう言いながら、店員は袋を縛って渡してくる。
「ありがとうございます…っしょっと」
キャロルは手持ちの異界鞄にそれを入れる。
「はぁ~、やっぱり魔導具ってのは凄いねぇ。重さも関係ないってか」
「ええ、でもそのせいで中身を忘れて腐らせたり、余分に買っちゃったり
失敗も多いです」
「ははは! そりゃ贅沢な悩みだな。ほれ、おまけ!」
「あ! ありがとうございますぅ! セリスさん! おまけ貰っちゃいましたよ!」
「おお! ふかし芋最高じゃぁ!」
二人でほふほふ言いながら、めぼしい食材や生活雑貨を眺めて行く。
「…キャロよ、この先は倉庫街じゃ。路地に気を付けろ」
「はい…でも来ますかね?」
「さあの? じゃが屋根の御仁は分からんがな」
屋根の男に気付いたのはキャロル。彼女は眷属の権限を利用して早速ミニマップの利用を行った。本来固有は使えないのだが、そこはセリスのゴーレムを経由すると言う、裏技を利用したのだ。お蔭で魔術の行使が出来なくとも、セリスの補助でゴーレム使用が出来ていた。
「それにしても、このゴーレム…凄いですね。頭に映像が来るなんて未だに意味が分かりません」
「…儂も聞いたんじゃがの、なにやら脳にある視覚を司っている部分に、直接、情報として送って来てそれを儂らが映像と認識しているそうじゃ。幻惑系の術の応用じゃと言うとった」
「え? じゃあノートさん闇系も使えるんですか」
「あ奴は総ての魔術と魔法が使えるの」
「はぇ~~。もう魔神様と同じですね」
「ある意味では以上かもな」
そんな事をぼそぼそ言い合いながら、二人は倉庫が並ぶ地区へと入っていく。
「おい、どうする? あの先は突き当りの路地が多いぜ。人もほとんど居ない今なら俺達でも武器さえありゃあどうにか出来んじゃねぇか?」
「な、何言ってんだよ。そんなの無理に決まってるって!」
「武器が欲しいんですか?」
「「うぎゃぁぁあ!」」
突然の声に腰を抜かし、その場にへたり込む二人。
「な、な、何だアンタ! いきなり耳元でそんなぶぶぶ、物騒な事を」
「な、な、な、なんんんだぁよぉぉ」
「おやおや、これは失礼しました。私はグリスナーさんの知り合いでしてね。貴方達が困っているなら助けてやって欲しいと頼まれたんですよ。そしたら、武器が欲しいと聞こえましたから。違いました?」
突然現れた男はそう言って、にこりと微笑む。
「は? え? な、何で掃除屋が?」
「──…?」
「ん? さぁ、私もただそう頼まれただけですので。で、どうします? あの二人、そろそろ倉庫街ですが」
言われて振り向くと、彼女たちは最初の倉庫を抜ける辺りにまで進んでいた。
「で、でも武器ってどんな物が」
「これですね」
すらりとした刀身。柄にはグリップし易い様に何かの皮が巻かれている。刃渡りは三十センチ程の大型のナイフの様な刃物。
「それとこの魔道具です」
手のひらに収まる程の香炉の様な物。一見何に使うか分からない。
「これは幻惑香です、これを相手の顔に近づけるとそれだけで昏倒させられます。あとはそのまま、路地裏にでも連れ込めば…お好きなように」
そう言って男は中肉中背の男にナイフを、がりがりに痩せた男に魔道具を渡す。
「さあ! 今がチャンスの時ですよ。上手く行けば、彼女らの持ち物まで手に入る!」
男はそう言って笑いかけ、二人は現実が見えにくくなって行く。
「このナイフが有れば…」
「お、俺でもこの魔道具なら…」
「さあ、舞台はそこです。貴方達は役者です…踊ってください。幕は今上がりました」
二人の男はフラフラと立ち上がって、倉庫の方へと進みだす。
「フフフ。今度はどんな風に魅せて、くれるんでしょうねぇ」
「…下種な男ですね」
「虫唾が走るとはこの事じゃな」
「結界アクセ、使います?」
「要らんじゃろ。面倒じゃし、そこの路地でよかろう」
──セリスとキャロルはそう言いながら、倉庫の間に進んでいく。
********************************
「よし! ボディ完成っと、ふ~。…中々いい見た目じゃね?」
《ダマスカス魔鋼と言ったところですか。硬度は…アダマンタイトに匹敵しますね》
「おお! いいじゃん。後はこの展開ギミックを組み込んで…術式転写…と」
《…マスター、そろそろお二人が襲撃されそうですが》
「ん? あぁ、こっちにずっと連絡来てるよ。どうやらもう一人の伏兵に踊らされてるみたいだな。スラムの二人にあの二人をどうにか出来ると思う?」
《いえ、あの魔道具が欲しいなと思いまして》
「は? なんで?」
《魔石に興味が有ります。どうやら、人工魔石の様です》
「え?! そんなの在るの?!」
《だから、私も欲しいのですが…》
「分かった、伝える………よし、OK貰ったよ。しかし人工魔石かぁ。解析出来たら面白くなるな」
《そうですね。一度失敗しましたから》
「失敗した?」
《はい。前回召喚時に》
「あぁ、勇者時代か…それならリベンジだな…さて、続きを始めますか」
◇ ◇ ◇
「…この魔導書でも次元なんて文言すらないわね…ふぅ。」
シェリーは三冊目の魔導書を閉じ目頭を揉む。ノートに有った固有スキル。…メニュー、創造、空間(次元)全てが理解の範疇外。
メニューと言うスキルの内容を聞いた時点でもう訳が分からなかった。創造なんて神の領域だし。
唯一分かったのは空間だけ。でもそれも普通じゃない。次元をも扱う空間魔術。もうそんなの地上に降りた現人神じゃない。
──…だけど、彼は優しくて脆い人間だった。傷つき心を壊しかけた。
支えたい。そう強く想った。だから追いつきたい。何か一つでも良いから。…まだ今は全然だけど、いつか必ず。
「…そこで獣神化と獣王化かぁ。キャロ…引かれないように頑張ろうね」
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「エリシア村のギルドマスターが行方不明?!」
「はぁ、魔導通信によりますと、どうやら一昨日の夜から行方が分からないそうで」
「それで、何故ここに通信が来るんだ? 本部か村の役場だろ」
「…それが」
「ん? なんだ?」
「その一昨日の夕刻前にこの町に来たパーティが居まして」
「…誰だ?」
「スレイヤーズの方達です。その村から来ています」
レストリアのギルドマスターの執務室。受付嬢から妙な報告が来たと言われ、話を聞くと、ギルドマスターが行方不明になったらしいが、その日のうちにその村から高ランクパーティがこの町に来たと言う。そこでまだ町に滞在しているなら、話を聞いてくれないか、との事だった。
「スレイヤーズと言えばエクスの受付嬢コンビと、災厄様の居るあのパーティだろ? リーダーも、本部でミスリルに上がる予定の。…なぁテレジア君。君、宿に行ってちょちょっと聞いて来てくれない?」
「…そうですか。マスターは私に、今日死ねと仰るんですね。分かりました。…私、テレジアは本日、現時点を持ちまして職を辞する──」
「わーわーわーわー! 分かった、分かったから! もう言いません! だから辞めないで下さい! お願いします!」
「じゃあ、この件どうします? ぐしゃっとしときます?」
「ファ? ぐしゃって何? あ! 握り潰すって事!? いやぁ~流石にそれはマズイでしょ」
「じゃ、マスター貴方に丸投げします! 後の事は気にせず逝って下さいね」
「なんか違う字だよね! その言い方!! もうテレジアさん、マジパネェっすわ」
「あの…」
「「何だ!?」」
「ひぅっ!」
「あ、あぁごめんよ。マックス君。彼女が絡むといっつも話がこんがらがるから。君はもういいから、通信室に戻って」
「はい! 失礼します!」
そう言って彼はそそくさと退散していった。
「…ねぇテレジアさん、この芝居必要?」
「何を言ってるんですか、始めたのはマスターですよ。何を今更」
「…はぁ~、なんかもうメンド臭くなってきちゃってさ。なんで俺達がゲールみたいな基地外の尻拭いまでしなきゃいけないの?」
「さあ? 本部が一体何を考えているのか、見当もつきませんから。それにここのマスターも、今は貴方がマスターなんですからね。前のは今頃魔獣のお腹の中ですから」
「はぁ~。で、宿に使いを送ってどうするんだ?」
「子爵の所のバカ息子。アレをどうにか使えないかしら?」
「どうやって?」
「う~ん。今考え中」
「何だよそれ」
『深謀とは、深く考えて立てたはかりごと。深謀遠慮とは 深く考えを巡らし、のちのちの遠い先のことまで見通した周到綿密な計画を立てること。また、その計画』
『短慮とは。一つ、考えがあさはかなこと。思慮の足りないこと。二つ、気の短いこと。短気。せっかち』
『浅見短慮とは。一つ、考えや見識が狭く、思慮が足りない。二つ、物事を深く考えたり本質を捉えられない己を謙っていう言葉』
「これらを踏まえて例えるとしたら、深謀短慮になっちゃうのかな。あははは! 矛盾も良い所だね…ホント、バカバカしい…」
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