第21話 眷属
リビングでマップを見ながら話していると、ドアがノックされる。
「失礼いたします。ノート様宛にお荷物が届いております。こちらにお持ちしても宜しいでしょうか?」
「はい。お願いします」
部屋に持ち込まれたのは一抱え程の木箱が一つ。受取証にサインをしながら、夕食を部屋に準備してほしいと頼む。
「承りました。準備をしてまいりますので、今しばらくお待ちください」
「じゃあ俺は部屋で作業の準備をするよ。食事が来たら教えて」
皆に伝えて自分の寝室に木箱を運び込んで、早速開梱する。
中からは二本のインゴットと、一枚のプレート板。インゴットは魔鋼鉄。プレートはミスリル銀。それらを並べて鑑定を掛ける。
【魔鋼鉄】
鉄鉱石に長い間魔素が浸透した鉱物を選別後、精製した加工鉱物。
純度は精製時にドワーフの魔技師が魔力を調整することにより、変動する。魔鉄と鋼の混合物。ドワーフ専売品の一つ。純度九十五パーセント。
【ミスリル銀】
ミスリル鉱石より精製抽出された銀。
純度九十パーセント。
よし間違いないな。この二つはどちらもドワーフ国製。流石はノードの加護が効いている。物が良い。
そんな事を思っているとドアがノックされ、食事が来たと呼ばれた。
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「おいお前ら、そっちの様子はどうだ?」
二人の前に、紙袋を持った掃除屋が現れる。
「こっちには、奴ら出て来てないぜ…これは?」
中肉中背の男は、掃除屋に渡された紙袋を見ながら返事をする。
「ん? あぁ、そこの屋台で買って来た晩飯だ。まだ夕時だからな、今夜は夜中まで見張るからそれでも食って頑張ってくれや。俺も裏口に回る、何かあったらすぐに言ってくれ」
掃除屋は、それだけ伝えてまた裏口へと戻っていく。
「おい、見ろよ! 串焼きまで入ってるぜ、今回の仕事は楽だし、いいな」
「お、俺にも分けてくれよ!…あぁ、久しぶりの腐ってない肉だぁ」
掃除屋グリスナーは裏口に戻りながら、ふと考えていた。
荒事を生業にするに当たって、第一に考える事。それは自分が死なない事だ。つまり自分の分を超える仕事は受けない。これが鉄則だ。そうして今まで生き残って来た。大抵のバカは力を過信したり、分不相応な仕事を受けてくたばって行った。この世界では臆病なくらいがちょうどいい。…そんな風に考えて今までやって来ていたのに。
……何故かあの時は、騙す方を選んでしまった。
初めての上客だったから? 金をとれると考えたから? 確かにそれも考えた。でも、今まで受けた仕事は必ず熟した。それは出来る仕事ばかりだったから…。
じゃあ、何故今回は出来もしないのに吹っ掛けて受けた? …分からない。
この仕事を始めたのは偶々だった。スラムの端っこで、錆びたナイフを拾った。いつもの漁り場で縄張り争いで使ったら、ソイツはすぐに死んじまったんだ。
…それが最初の殺し。
後は転がる様に殺しては奪っていった。何時しか掃除屋と呼ばれ、殺しで金が貰える様になった。
──…この腐ったスラムを抜け出したい…。
何時しかそんな事を思うようになった。
その為には纏った金が要る。この町を出て行く金が…。
小さな仕事じゃ無理だと悟った。でかい仕事を受けなきゃ無理だと。
「はは…そうか。俺はここに居たく無かったのか…」
宿の裏口が見える路地に座り込み、残った串焼きを齧りながら一人でボソリと呟いていた。
「どうしたんですか? 何やら良い事でもありましたか?」
路地の陰に潜んだまま、その男は声を掛けて来た。
「うおっ…吃驚するじゃないか…ゲールさん」
「おや、コレは失礼。そんなつもりは無かったのですが。首尾はどうです?」
「あぁ。戻ってから動きはねえな。レストランにも降りて来て居ない様だから、部屋から動いてはいないぜ」
「それは僥倖。こちらの準備も進んでいます。明日の夜には決行出来るでしょう。それまでの監視、お願いしますね」
「あぁ、分かっているさ。でもホントに良いのかい? こっちは監視で殺しはそっち。なのに報酬は折半で良いなんて」
「良いんですよ。イッツァ・ツゥアイム・ゥイズ・マニェー! 時間は有限! 誰にも平等に時は流れる! あなた達にはその貴重な時間を使って頂いていますから」
「──…? は、はぁ。」
「アハハハハ! 大丈夫ですよ。明日の夜には終わります。そうすれば貴方はこの町を出て新天地へ! 私達は仕事が終わってハッピー・エァンドゥ! です」
所々で、意味不明な言葉を喚きながら、ゲールは機嫌よく告げると、口だけを三日月の様に広げ、目を糸の様にして笑いながら闇に沈んでいく。
その様子をグリスナーは身震いしながら見送り、恐ろしい人間だと思うのだった。
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《先程増えた一人の気配が消えました》
「…あぁ。マップからも消えた。死んだのか?」
リビングで食事をしながらマップを見ていたら、シスが別の不審者が監視者に近づいていると言うのでチェックして居たんだが、マーカーごとソイツは消えた。初めは死んだのかとも考えたが、よく見ると色が薄いまま、移動していったのが分かった。
《これは恐らく闇系統の魔術かと。影移動、もしくはそれに類すると推察できます》
「うへぇ、そんな厄介な物が存在するのかよ」
「…ノートよ。お前のステルスの方がおかしいという事は思わんのか?」
「え? そう?」
「「「そう!」」」
「闇系統魔術は影がないと使えない魔術。でも貴方のアレは関係ないじゃない。明るい場所でも、暗い所でも関係なしに見えなくなるって何よ。異常よ」
「え~。ただの次元融合結界だよ?」
「んなもん、この世界の人間に造れるかー!」
「あはは! ノートさん! 凄いけど何言ってるのか全然分かんないですよ」
「…ホント、貴方が魔導書買っているのを見た時は、嫌味? って思ったもの」
「いやいやいや。シェリー何だよ嫌味って。キャロは褒めてるのか投げてるのか分かんないからね。セリス! 頑張ればお前ならワンチャン在るかもしれないぞ!」
「マジか!? じゃ、じゃあ儂に次元魔術教えてくれるのか?」
「──え? あ、あれって、固有だったっけ?」
そこで、自分のスキルがどうだったかを忘れていたことに気付く。
「ちょい待ち。俺自分のステータス忘れてる。確認するから」
~~スキル~~
ベーススキル
身体強化 鑑定(全) 錬金 吸魔素補正 全言語理解
ユニークスキル
全魔術適正 武術見取り 異界庫(制限無し)(時間停止可能)
固有スキル
メニュー 創造 空間(次元)
~~眷属~~
キャロル
シェリー
~~加護~~
イリス神
エリオス神
マリネラ神
ノード神
グスノフ神
エギル神
~~システム~~
独立型並列思考システム
アカシックレコード
思考システム分体
******
********
「…ファ──?! な、何じゃこれぇ!」
「「「うひゃあ!?」」」
突然喚いた俺に皆がビックリする。何事かと怒られて説明を始めた。
「…眷属とな。」
「あぁ、そこにキャロルと、シェリーの名前がある。それと文字化けが幾つか、読めるように変わってる」
「何じゃ? 文字化け?」
「あぁ、最初の頃は読めないスキル群が有ったんだよ。全部じゃないけどシスの事とか、その辺のスキルが読める様になったみたい」
「フム。勇者時代のスキル…という事かの」
「多分そうなのかも。記憶を全て取り戻してないからね。教えて貰っただけだから」
「…お主はそれで良いのか?」
「…少なくとも今は必要を感じない。前にも言ったように、俺はもうノートだよ」
「…そうじゃな。」
「うん、そこはそれでいいんだよ。ねぇキャロ、シェリー、眷属ってどう──」
そこまで話して二人を見ると、二人も虚空を眺めていた。丁度俺のスキルボードの所だ。
「ね、ねぇ、もしかして、二人には俺のスキルボードが見えてるの?」
「「…本当に眷属になってる!」」
「…見えとる様じゃのぉ」
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