第20話 浅見短慮
──…レストリアの町をメイドさんの先導で歩いていく。
彼女の名はジゼル。宿に勤めて四年になるそうだ。それまではいろんな職業を転々とし、商会関連に伝手が有るという事で、案内を買って出てくれたらしい。
「のおジゼル、あっちの通りには何が有るんじゃ?」
「はい。あちらには主に生活雑貨を扱う店と、倉庫が何軒か御座います。庶民的な物が多く並んでおります」
セリスが彼女と並行し、俺達はその後ろをついて行く。
「あ、ノートさん、あそこでお菓子を売っています。後で買いに行きたいです」
「…あら、あそこに有るのは本屋かしら?」
ふむ。完全に観光状態だな。まあ別にいいけど。俺は二人に適当に相槌を打ちながら、町の様子を眺めて歩く。ここはメインとなっている大通り。
──…なぁシス、ボディの形状はセリスのゴーレムと同じで良いのか? 大きさとか他に何かリクエストがあるなら、言ってくれ。今なら大抵の事なら出来るぞ。
《形状は球体でお願いします。大きさは、出来るだけ小さめが良いです。出来るなら直径二十センチ以内が良いです。機能は、ステルスと攻撃にはビーム砲を所望します。魔力集積気を出来るだけ最大化できれば。後は全てお任せします》
…いや、それほぼ全ての要求じゃん。……まぁ分かったよ。魔石はキングオークので行くから…うん大丈夫っぽいな。後は素材次第ってところだな。
「ここからが、鉱物関連の商店や問屋が並びます。決まった素材などは御座いますか?」
頭の中で設計図を描いていると、ジゼルさんがそう言って聞いて来る。
「あ、えぇと。出来れば硬度が高い物と、出来るだけ純度の高い物が欲しいです」
「…畏まりました。先ずは商会へ向かいましょう。」
そう言って、彼女はすぐに歩き始める。
歩く事数分。通りの左手に大きな間口の建物が見えて来た。建物の前には荷車が並び、ガタイのいい人達が、荷を持って出入りしていた。そこへ彼女は真っすぐ向かい、誰かと何かを話してから俺達を呼びに来た。
「商会長がお会いになりますので、こちらへどうぞ」
中に入ると、店員が会釈をして奥へと案内される。応接間に案内されて、皆の前にお茶が並んだ頃男性が入って来た。
「どうも初めまして。この度はわざわざ御足労頂き、誠にありがとうございます。私めは当商会の店主、ロブと申します。本日はどうぞよしなにお願い申し上げます」
そう言って慇懃に胸に左腕を寄せて頭を下げる。
それを受けて、ジゼルさんが挨拶をする。
「本日は急な来訪にも拘らず、こうしてもてなして頂き、有難うございます。こちらは当宿の大切なお客様、ノート様、キャロル様、シェリー様。そしてこちらが、セリス様に御座います」
「おお! これは誠に光栄です。どうぞよしなに」
「ふむ。今日は儂の用向きではない。ノートじゃ」
「これは大変失礼を……ノート? は! もしや、エクスに居られた錬金師のノート殿!?」
「うん? エクスには居たけど?」
「おおお!! では、あの魔導車の設計思想や構造改革は貴方ですか!?」
それから、商談そっちのけで魔導車の事について質問攻めに遭う。
「…ンンッ。ロブ様、ノート様は素材を探しに来ておりますので」
「は! そうでした。コレは誠に申し訳ございません!!」
「アハハ…良いですよ。ギルドには、ガントから設計図なんかも廻しているはずです」
「おお! それは朗報。おい、至急使いを出しておけ」
「いやはや、お見苦しい所をお見せしました。それで、本日はどういった物を?」
「ええ実は、ゴーレムの素材を──」
「ゴーレム!!!」
ロブはそう言って立ち上がって、身を乗り出してくる。
「そ、そそっそれは、あ、あの、魔導生物と呼ばれる機構人形の事ですか?」
「え、えぇ、まあ。……それで、それを作るための素材をさが──」
「作るぅう?!!」
いちいち大げさな人だな…。
「ノートさん。もう忘れたんですか? ゴーレムは伝説級遺失魔道具ですよ」
「あ! そうだった」
セリスがいつも当たり前に使っていたから、完全に忘れてた。
その後、あれやこれやと色々聞かれたが、セリスの持ってるアーティファクトを弄るためだと誤魔化した。
「はぁぁ~。やはり、セリス様は凄いですなぁ。その様な物をお持ちとは」
そうして色々な鉱物の状況と入手できるか等を、聞いてみた。
「フム…硬度の高い物は、やはり最高位はヒヒイロカネですが…まず手に入りません。次点でアダマンタイトですが、こちらもドワーフが規制しておりますから、お望みの量は難しいかと。純度に関してはこの二つはドワーフ産のみですので、間違いはありません。後は、魔鉄か魔鋼鉄と言ったところです。こちらは、比較的直ぐに手に入ります。それとミスリル銀も少量であれば融通が出来ます」
魔鋼鉄か…ダマスカスに加工すれば行けるか。ミスリルは術式の導線加工だけだし。
「分かりました。…では魔鋼鉄とミスリル銀をお願いします」
そこから、値段の交渉などを経て商談は成立となった。金額については、正直相場が分からなかったのでシェリーに丸投げした。相当値切ったみたいで、ロブさんは変な汗を大量にかいていたが。
「本日は大変良い取引が出来ました。誠に有難うございます。商品につきましては、本日中にお宿にお届けいたします」
「はい。こちらこそ、助かりました。では今日はこの辺で」
そう言って店を後にする。ロブさんはまだ話したそうだったが、女性陣の笑顔に真っ青になって、奥に下がって行った。
◇ ◇ ◇
「申し訳ございません。あの店はこの町で一番の老舗でしたので、問題ないと判断したのですが、まさかあの様な事態になるとは」
「あぁ。問題ないですよ、別に実害が有ったわけじゃないですから」
「そうじゃ。アレが、ちょっと商売以上に、魔導オタクが分かっただけじゃ」
「フフフ、セリスさんと同じ目をしていました」
「そうね。魔導具関連はセリスさんも止まらなくなるから」
「ふ、ふん! 魔導具は良い物じゃ、生活を豊かにし人の役に立つ!」
そんな風に皆でわいわいしながら、道行を楽しみながら寄り道を挟んだりしてゆっくりと宿へと、向かっている時だった。
《マスター。監視が付いています》
(へ? 監視? なんで?)
《理由は不明ですが、鉱物店の後着かず離れずの者が三名。こちらを窺っています》
寄り道していた本屋の中で、魔導書関係の本を漁っているとシスからそんな報告が来る。聞けば、向かいの通りに二名、更に離れた場所に一人。
『皆、そのまま聞いて。今シスから報告があった。どうやら鉱物店から、尾行されているらしい。目的と理由は不明。マーキングしたけど、名前が出ない。面識がない連中だ。ここを出たら真っすぐ宿に向かおう』
すぐに皆に念話で話して了承の返事を貰い、何冊かの本を買って店を出る。普通に歩きながらセリスが近づき、どこに居ると小声で聞いて来たが、ジゼルさんが居たので、離れているから大丈夫と答えて宿に向かう。
「お疲れさまでした。本日はお楽しみ頂けましたでしょうか」
宿に入った所でジゼルさんがこちらを向いて、話しかけて来た。
「はい。非常に助かりましたし、町巡りも楽しかったです。ありがとう」
「勿体ないお言葉、望外の喜び。お食事にはまだお時間が御座います。お部屋でごゆっくりお寛ぎください。私はこれで失礼致します」
ジゼルさんと別れ、カウンターで部屋のカギを貰って部屋へ戻った。
キャロルとシェリーはお茶の準備を始め、セリスと俺はソファでマップを展開する。
「ほぉ~。これが周辺マップか、光っていて面白いのぉ…この点は何じゃ?」
「これは人だよ。今は限定しているからこの三人しか出てない。こいつ等がさっき話した監視者」
「へぇ、これが…この黄色は何か意味が?」
「ああこれは、敵対度を示すカラー。エネミーは赤。フレンドリーは緑。中立は青。注意は黃。現状こいつ等がどういった者達か分からないからね」
「便利ですねぇ…」
キャロルが、皆にお茶を配りながら、話に参加してくる。
──…現在宿の表側の通りに二人。裏口側に一人が居た。
********************************
「な、なあ。こんな事でホントに金がもらえるのか?」
「掃除屋が言ってきた話だ、間違いねぇ。それに半金はもう貰ったじゃねぇか」
「で、でもよう。あいつ自身はどこに居やがるんだ?」
「裏口に回った…って言うかお前、ビビり過ぎだぞ。ただの監視なのに」
「だって、こんなことするの初めてなんだ。こえぇに決まってる」
「はぁ~。お前はホントに根性がねぇなぁ」
表通りの監視役二人はスラムの住人だった。気の弱い男はがりがりに痩せて背も低い。もう一人は中肉中背だが、眼は鋭いが落ち窪み陰気な雰囲気。二人共別に知り合いではない。昨日の夜、スラムの殺し屋である、【掃除屋】に頼まれ、偶々組んだコンビだ。仕事の内容は尾行と監視。一日当たり、五百セム。ただ後を付けて見ているだけで貰える。
はっきり言っておいしい仕事だ。時間はかかるが掃除屋も一緒の仕事。安易な気持ちで、受けてみた。このまま夜まで見張って出て来なければ、今日は終わりだ。
──痩せた男はもう出て来ませんようにと祈りながら、宿を見つめていた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
ブックマークなどしていただければ喜びます!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!
ランキングタグを設定しています。
良かったらポチって下さい。