第8話 始まりの街エクス
手渡されたカードを確認すると、先程鑑定したモノと同じ内容が書かれていた。表や裏を確認するが特におかしい点は見当たらない。
「ふむ。間違いないようだな。コレは返す。で?この街には何用だ?」
俺の渡したカードを、見ていた衛兵さんは、丁寧に両面を確認すると、そのまま返してくれる。やっぱ、カードって信用高いんだなぁ。
「えぇと、観光?移住目的?みたいな感じで?」
「──要領を得ないんだが?聞いてるのはこちらだ。俺に聴いてどうする」
「ですよねぇ。あはは…。ぶっちゃけ田舎に飽きたんです。だから都会に行って一旗揚げよう!なんて思ってみたり、見なかったりな感じで」
どう?この優柔不断的思考の答え!惑わされて!
田舎か。集落からでも出てきたのか?まぁ、だとしたらここは最初の街になるからな…。見た目も特段変わった所はなさそうだし……。
「そうか。しかし、あの様に紛らわしい行動をされると非常に困るんだがな。今後スキルは時と場所を選んでくれ。お!そう言えば名乗っていなかったな。俺はカークマン。この街の衛兵隊長を任されている」
うはぁ!なんだよ、いきなり隊長クラスかよ!やべぇ、いきなり目を付けられるとか御免被りたいです!
「はい。了解しました隊長殿!ご迷惑をお掛けしたこと平にご容赦を」
「お前…いきなり急変したな。本当に唯の平民か?やけに目上への謝り方が上手いな。まぁ、判ってくれたなら良い。では入街するんだな、一緒に行こう」
「は!恐縮であります!お供させていただきます!」
俺がピシッと直立敬礼すると、苦笑しながら彼は前を歩き出した
カークマンに連れられて、街の入口近くまで来ると徐に彼は振り返って話しかけてくる。
「ノート。この先で魔導器ゲートのチェックが必要だからカードの準備をして、順番に並んでくれ」
そう言われて、最後尾へと先導されていく。
「はい。有難う御座います。後ほど、また宜しくです」
俺が元気よく返事をすると、手をひらひらさせながら、カークマンは門の方へと戻って行った。
──ふぅ。面倒にならなくてよかったぁ。てかこの身体、ヤベェな。どんなスペックになってるんだ?チェックしないと、後々不味い事になりそうだぞ…。そんな事を考えていると、事の成り行きを見ていた俺の前に並んだオジサンがこちらに振り向いて声を掛けてきた。
「兄ちゃん、何かしたのか?」
「いえいえ違いますよ。ちょっと大袈裟に走ってきちゃったので、衛兵さんが気を利かせてくれたんです」
当たり障りのないことを言って誤魔化す。
「あぁ。さっきの土埃のやつか。もしかして…コケた?」
「えへへ。はい」
「ははは。気をつけねぇとな」
「はぁい」
良い感じに勘違いしてくれたので、適当に合わせる事にした。そんな会話の間にも列は進んで行く。
ノートを入門待ちの列に並ばせ、緊張していた首をこきりと鳴らしながら、魔導器の設置してある場所に戻ると、何人かの隊員たちが待ち構えていた。
「た、隊長どう動けばいいんですか?」
最初に異変に気付いて俺に報告してきたハミルが、足を震わせながら聞いて来る。
「ん、あぁ。アレはただのヒュームの青年だった。問題ない。」
俺がそう言うと、ハミルはポカンとし、半開きに口を開けて目を見開く。
「大丈夫だ。恐らく、スキルを使って走ってきたんだろう。カードも確認している。それに……もうすぐ順番でここに来る」
「──カード?え、あれ人だったんですか?」
「そうだ」
「いやいやいや、おかしいでしょ。あんなスピードで走るヒュームなんて見て事ないですよ!」
唾を飛ばす勢いで喚くハミルに、呼ばれて武装した応援の者も、困惑している。
「そう言いたい気持ちも分かるがな…でもほれ、アイツだ」
俺がそう言いながら顎をしゃくると、一斉に隊員たちはそいつを見やる。
お!そろそろ順番だ。カード出して準備を…ん?なんだ?一瞬にしてミニマップに黄色反応?!入口に3人?あぁ、衛兵さん達か。まぁそうよね、さっきのことで疑ってるんだな。しゃあないわな。俺は作り笑顔を顔に張り付け、魔導器の前へ進んでいく。
「こんちゃ~っす。先程はご迷惑をおかけしましたぁ」
入口横に建つ腰ほどの高さの直方体。色は黒く、つるりとしたボディを見ていると、【モノリス】を彷彿とさせる。へぇ、コレが魔導器かぁ。よく見ると、その上部にはスリットのような部分があり、そこにカードをさせる様になっていた。
魔導器にカードを挿す。シュッとカードを呑み込んだそれは、一瞬の間を置き、んべって感じにカードを戻してきた。何故かそれを隊員たちは固唾を飲んで見守っていた。
「──いい……ですかね?」
「あぁ。問題ないぞ、ようこそエクスへ」
「あざあっす!」
よし!心の中でガッツポーズを決めて、元気よく返事をして門をくぐった
後ろで、ほ、ほんとにヒュームだ。すっげぇスピードだったんだよ 等、色んな声が聞こえたが、マップは青に変わったので良し!
──ここがエクスの街かぁ。
門をくぐった俺は、感慨深く、首を回して、街を見る。建ち並ぶ家々は木材と石材が使われ、所々レンガやコンクリートの様な物も見える。一見すると中世期か、現代初期の感じ。足元は石とコンクリの様な物で舗装されている。街路に歩道と車道の区別は無いが、道幅が広くとられているようで、さほど不便は感じそうにない。門を出た場所は広間の様に半円状に拡がっていて、何本かの路と繋がっていた。
そんな情景を、ぼ~っと眺めていると、突然背後から声を掛けられた。
「お兄さん!この街は初めてかい?」
突然かけられた声に振り返ると、そこにはぼっさぼさの髪の毛が居た。って、ただの頭部じゃん!改めて視線を下げるとそこに居たのはちびっこだった。
その子をよく見ると小学生低学年ほどのこぎたな…ゲフン、ゲフン、女児が居た。あれか?所謂、案内するから金寄越せ的な…。
「なにかな?」
俺は少し警戒しながらも、彼女の目を見て話をする。
「ん?さっきからキョロキョロ周りを見てるからさ。この街は初めてなのかなぁって」
「あ、あぁ。そうだよ」
ぶっちゃけ案内は不要なんだけど、ミニマップが有るし。だがしかし!フラグだ!フラグのニホヒがするのじゃ!
「やっぱり!んじゃあさ、宿ってもう決まってるの?」
フフフ。やはりそう来たかね。…アレだな、付いていくともれなく綺麗な優しい彼女の若い母の経営する寂れたお宿がって…グフッ。
「うん。まだ決まってないね」
「皆~~!決まって無いって!」
──ん?みんな?
ちびっ子の声を聞いた途端、いきなり人がそこら中から集まってきた。
「お宿がまだのようで」
「おう!兄さん、ここらでうちの飯が1番うめぇ!」
「何言ってんだ!うちのが旨い!」
ワイワイとむさいオッサン連中が集まって営業合戦が始まった。
あれ?なんか、おもてたんと、チガウヨ…。
ふと、ちびっこを見ると、オッサン連中から何かを貰っているようだった。何ということでしょう。ポン引きちびっこは俺に向かって、ニパッ!と笑い、そそくさと、その場を去って行きました。
──何か、おかしい。
なんでこうも予想が外れるんだ?テンプレは無いのか?ウハウハモードは?…度し難い。
いつの間にやら、俺を中心として行われていた営業合戦が、オッサンたちの罵り合いとなり、輪の中からはじかれ始めた頃。
「おい!往来の真ん中で何を騒いでいる!ん?なんだ、お前か。今度は何の騒ぎだ?!」
なんか聞き覚えのある声が聞こえた。
「え?違いますよ!俺は関係ないです!この方達が勝手に」
そう!俺じゃない!このムサイ連中は断じて俺とは無関係!
「ん?…あ!宿屋の親父連中か。まぁたここで客引きしてたのか」
カークマン隊長は呆れ声でそう言う。
「た、たいちょうさん。そんな人聞きの悪い俺たちゃ普通に勧誘してただけっすよぉ。ね。お兄さん」
ムサイ連合の親玉みたいのが俺に変な笑顔で言ってくる。
「まぁ。最初はそうでしたけど。揉めてからは俺関係ないですよ」
「はぁ。もういい、散った散った」
シッシッと野良を追い払うように、隊長が手を振ると皆はすごすごと退散していった。
「んんっ。すまんな、アイツラも悪気はないんだ。ただ、この街は辺境で最も大きい。だから商隊や旅人、お前のような上京者などが昔から多かった。それで、この辺りには宿屋が密集していてな。…つまり暇になると、ああやって取り合いになるんだ」
なるほどなぁ。…そう言えば、昔の日本の温泉街の駅前も集客合戦で幟だらけだったって聞いたなぁ。宿泊客より番頭のほうが多く居たって…。などと、ノスタルジックに浸っていると。
「だから、あまりこの街を嫌わないでくれ」
苦笑しながらカークマンは言ってきた。あぁ、この人…いい人なんだな。
「えぇ。そんなくらいでは──」
返事をしながら、視界に先程の様な、しかし明らかに躊躇しながらこっちを見る、中学生程の女子が居た。
「あ、あの。お、お宿はもうおきまりゅでしか?」
「「………。」」
──噛んだね。
「はぅぅ…」
彼女は真っ赤になって頭を抱える。キタコレ!…ドジっ子キマシタワー!!
「隊長。この子の所ってどうでしょう?」
「ん?あ、あぁ。サラの宿か。…少し街の奥になるが、親父さんの飯は旨いな。」
「そうですか。では、宜しくおねがいします」
俺はそう言いながら、彼女に向けて会釈する。
「ふぇ?は、はい!で、ではこっちらにぃ!」
”ドテン”
「みぎゃ!痛いですぅ!」
「サラ、落ち着け。ユックリ案内すればいい。ノート。頼むな」
隊長。みなまで言うな。委細承知!
「はい。了解です!」
「で、では行きます」
苦笑いの隊長と別れ、俺と彼女は歩き出した──。
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