第15話 立つ鳥跡を濁さず
「そう言えばお主、戦斧を取り返したんじゃなかったか?」
セリスに言われてふと思い出す。変異種の奴からドントの戦斧を取り返したんだった。
「まぁ、戦利品は、返却の必要はないですけどね」
「ん~。でも俺、戦斧なんて使わないし。ドントも喜ぶなら返すよ」
「そうね。ノート君は今のところ、拳闘しか使ってないし、剣を使うならショートソードや、ナイフなんかの方がいいんじゃない?」
「あぁ、仕込みナイフなら使っているからな。俺は前衛だから動き回れる方がいいし」
「そうですね。中衛がシェリー、後衛がセリスさん。私が斥候と前衛ですから、バランス的にはいいですね」
「後は、盾役が欲しいぐらいね」
今は、俺達バラバラで戦ってるけど、パーティで考えると、攻撃主体だからな。バランスは良いが守備が甘いよな。まぁ、ほぼ瞬殺しているから意味はないけど。
「お! こっちに、旨そうな串焼きが有るぞ!」
「ノートさん、食料はどんなものを、買っておきます?」
屋台と店が混在する通りで、皆とあれこれ言いながら食料を買っていく。
「後は素材が欲しいな。鉱物関係は何処だろう?」
俺がそう言って周りを見回していると、セリスが声を掛けて来る。
「ノート、ここではお前の欲しい素材は見つからんと思うぞ」
「え? どうして?」
「ここはまだ町にもなっていない村じゃろ。ならば生活に必要な物以外は恐らく全て、エクスか他の街に送る方が現実的じゃからな」
その話を聞いて、なるほどと納得する。
この村は未だ成長過程だ。高価な素材をここで消費するより、売って拡張に廻す方が村の為になる。
「そうだな。食料を買ったら戦斧をドントに返して、出発しよう」
◇ ◇ ◇
「おお! 正に俺の戦斧! じゃ、じゃぁもうオーク達は」
「あぁ。討伐したよ。…魔石見る?」
破砕の戦斧のリーダー、ドントはまだ治癒院に居た。
彼は仲間を逃がすときに、戦斧にありったけの魔力を込めて変異種に、投げつけた。そのせいで両腕の筋が断裂したそうだ。ヒールでは治り切らずに、現在もリハビリ入院中らしい。
「で、でっか…こ、これがあの変異種の魔石。」
「そう。でこっちがキングオーク。」
二つを同時に並べて見せると、破砕の戦斧の面々は口をあんぐり開けて、声を失った。
「うははは。その変異種はノートがほぼ瞬殺じゃったぞ。なにせ、殴り倒しておったしの」
それを聞いたメンバーは、同じ表情のまま俺から距離を取る。
「いやいや、アンタ達にそんな事しないからね。引かないでね」
引き攣った笑い顔で、コクコク頷く戦斧の面々。
≪仕方無いでしょう。彼らは実際の変異種と対戦しているのです。そして負傷してまで、逃げたのですから。それを単独で撲殺したなどと聞けば、こうなります≫
シスが念話で微妙に傷つくことを言ってくる。ちくせう。
「ま、まぁ、そういう事でオークはもう居ないから、早いとこ怪我治してこの村の事頼むよ。俺達はもう出て行くからさ」
「え? そうなのか?」
ドントがどうして? と言う顔で聞いて来る。
「あぁ。元々ここで依頼とかする気は無かったんだよ。領都の辺境伯様に呼ばれててさ。ここは道中の補給で寄っただけだったんだ。」
「そうだったのか、申し訳ない。俺達が不甲斐無かったせいで…」
「ばあか! そんなの関係ない。それに、丁度欲しかった魔石も手に入ったしね」
その後、幾つか話をして、治癒院を出る。
「あら、今日もお祈りですか?」
教会の入り口には、エリーが立っていた。
「こんにちわ。いえ、今日はお見舞いです」
「おや、そうでしたか。祈りの方はしないのですか」
「はい。今から出発ですから」
「…そうですか、それは残念です。…ではごきげんよう」
そう言ってエリーは、そのまま教会の中へと入って行った。
「意外とあっさりしてますね。次は何処へ? とか聞いて来るかと思いました」
キャロの質問に、そうだなぁと思っていると。
「彼女は、別に深くかかわっている訳じゃないんじゃない? ただの、
動向を探っていただけとか。」
「フム。現地調査員じゃな。自分の管轄だけで行動するって奴じゃろ」
シェリーと、セリスがそんな風にキャロに話していた。
現地調査員…いわゆる草って奴か。相手国に移住し生活をして、その地になじみ、場合によっては結婚したりまでして、現地人になり切る。
ずっと国の為に働き、場合によっては全てを欺き、裏切ってまで。死んでも帰れず。ただただ、国の為に。
俺には出来ない事だな。ブラックどころの話しじゃない。
──…何気なく教会を見あげると、尖塔にいた大きな鳥が羽ばたいて飛び去って行く──。
鳥囚われて飛ぶことを忘れず と言う諺を思い出していた。
…誰でも自由を求めぬものはない。籠の中の鳥でもいつかは出て、広い自由の天地に飛び立とうとしている。
──…彼女もいつか、飛べればいいな。
「ノートよ。何を黄昏れておるんじゃ」
「へぁ? いや、別に」
「そう? 何か、空を見上げて何か考えていたわよ」
「何か飛んでたんですか?」
「あぁ、あの尖塔からさっき、大きな鳥が一羽……」
俺の言葉に皆が空を見上げるが、もうそこに鳥の姿はなかった。
「ん~どこじゃぁ? 見当たらんぞ」
「あぁ、もう見えないな。……それじゃ、そろそろ行こうか」
「そうですね。今度はノートさんの運転で、お願いします!!」
「はいはい。あ、どうせなら二人も練習すればいいじゃんーー」
──ワイワイと四人で話しながら、駐車場へと向かった。
*********************************
「おや、もうこの村を出て行くようですね。次の行き先は聞いておられます?」
「いや。何も聞いてはいない。…もういいだろう、これ以上巻き込まないでくれ」
「そうですか…困りました…いえ、構わないのですよ。ええ、私は構わないのです。ただ、上はどう判断するのか。それは私には分かりませんので」
村にある総合会館の小さな会議室の一つで、二つの影がそんなやり取りを交わしている。一方は外套にフードを目深に被り、その姿は判別できない。もう一人は冒険者ギルドのギルドマスターだった。
「な! それは話しが違うじゃないか! アンタたちの指示通りに危ない橋を渡ったんだぞ! 行き先まで調べろなんて聞いてない!」
「フフフ。これは失礼しました。ですが今申したように、私に権限はないのですよ」
「…クッ、き、貴様、騙したのか? この俺を!!」
「これは異なことを。私はこれでも正直者ですよ。騙すだなんてとんでもない」
「もういい! この事は報告する。本部ではなく直接辺境伯様に──!」
最後まで言い切る事なく、ギルドマスターはその場に頽れる。
「グゥ…ガァ、き、きざ、ま…」
胸を刺し貫かれ、息も絶え絶えになりながら、それを行った相手を睨む。
「いけませんねぇ、とてもいけません。…貴方は只の駒なのですよ。それが勝手に動いては盤面が変わってしまうじゃないですか。…やれやれ、これでは次のギルドマスターは、苦労しますねぇ。…この村は、大丈夫でしょうかねぇ」
倒れた彼を見下ろしながら、そんな事を言いソイツは徐に袋を取り出す。
「ふぅ。掃除する身にもなってほしいものです」
”シュボン”と言う音と共に袋に吸い込まれる遺体。床に流れた血溜りさえも消えて行く。
「よし。奇麗になりましたね。…ふぅ、それにしてもスレイヤーズですか。…怖い名前です。お近づきにはなりたくないですね」
そう言って、外套の者は、教会の尖塔を眺めていた。
「あちらの報告は飛んだみたいですね。では私も行くとしましょうね」
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
ブックマークなどしていただければ喜びます!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!
ランキングタグを設定しています。
良かったらポチって下さい。