第14話 殺戮者たち
「はい? い、今何と?」
──…朝の忙しい時間を過ぎた頃に、冒険者ギルドに顔を出し受付に居たセシルに、声を掛け討伐完了を伝える。
「今回の依頼分のオークは、変異種、キングを含めて殲滅完了したよ」
「はひ? ──…しょ、少々お待ちください。…マスターぁあ!!」
セシルは彼の名を叫びながら、バックヤードに消えていった。
◇ ◇ ◇
「あ、あの。……セシルの話は本当なのでしょうか?」
ギルドマスターの部屋に通され、皆がソファに座ると直ぐに、マスターが聞いて来た。
俺は異界庫から討伐証明を取り出し、テーブルの上に並べる。
「これが、キングオークの魔石と鼻です、こっちは変異種。残りはノーマルとハイオークの分です。」
ゴロゴロと、テーブルの上に出された魔石や討伐部位を見た彼らは、息を呑むようにしてそれらを見つめる。
「こ、これが、キングオーク。…変異種も、こんなに大きいのか」
ギルマスは、魔石の大きさに驚きながら、思わず声をこぼす。……後ろに控えていたセシルも、口を押えて目を見開いていた。
「討伐後周辺の捜索を行いましたが、ウルフ系か小物の魔獣程度しか見当たりませんでした。なので、オークはこれで全てと判断しました」
「は!? そ、そうですか。…それは助かります。あ、あのそれでですね、依頼報酬の方は、問題なくお支払いできるんですが、この……キングと変異種の魔石については、今すぐ現金が用意できません。報告は上げますので、大きな街の方で換金をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、大丈夫です。元々この魔石は売る気はないので」
「そ、そうでしたか。……ふぅ。それにしてもやはりと言うか流石と言うか。…お願いしてまさかその翌日に完遂するとは、お見事としか言葉が有りません」
俺が魔石を売らないと言うと、あからさまに安堵した表情の後、おべんちゃらを言ってくる。まぁ、小さな村だしな。現金にしたってそこまで期待はしてた訳じゃない。
「そう言えば、皆さんはパーティ名が登録されていませんが何故です?」
セシルが、話のついでのように聞いて来た。
「そう言えば、無かったですね」
「そうね」
「フム、パーティ名か」
「考えてみる?」
俺の言葉に、皆が頷き三人でごにょごにょ話し出す。
「べ、別に急ぎませんので、皆さんでごゆっくり決めて下さい」
慌てて、セシルが取り繕うが、三人は無視して話を進めていく。
「あ、アハハ…聞こえてませんねぇ~」
「まぁ、名前にはこだわりが有るんでしょう…二つ名とか…」
「あ、あはは! ごゆっくり~」
セシルは、地雷を踏む前にさっさと、退散していった。
その後、ギルマスと共にカードの更新や、依頼完了の手続きを終えるまで、三人はずっと話し合いを進めていた。
「どう? いい名前、決まった?」
俺もいい加減待っているのに飽きたので、皆に声を掛けて見る。
「やはり、殲滅はいるじゃろ!」
「ノートさんの名前は必須です!」
「…集い…仲間たち、いえ……もっと締まりのある…」
ヤバい…何か、ものすごく香ばしい感じがする。シス! あれ、どうなってるんだ?
《どうやら、各々が好き勝手に文言を入れようとしているみたいですね》
何じゃそら!? 今はどうなってんだ?
《キャロル嬢はマスターの名を。セリス様は殲滅と言う文言。シェリー嬢は、何某の集いとか仲間等…ですね》
「お~い。皆ぁ、ちょっと聞いてくれぇ!」
マズイ、このままではとんでもない事になると思った俺は、すぐさま仲裁に入ることにした。
殲滅に、デストロイ。俺の名前に、仲間たち…あれ? それってただの俺の悪口じゃね?…だめだ! 俺も何か考えないと、ヤバイ名になる可能性が!
「俺も考える! 今出そろってるのは、これだけだよね?!」
そうして皆で、うんうん唸る…いざ考えると出ないものだな。
「そうじゃ! これじゃ!」
セリスの声に、皆が集中すると。
「デストロイヤーズ!!」
「「「却下!!」」」
「何でじゃ!!」
《あの、宜しいですか》
そこで急に、シスが割って入ってくる。
「なに? シスも何か有るの?」
《はい。マスターは、ドラゴンを討伐した件で、登城するのですよね》
「ん? そうだったか? 他にも有ったと思うが」
《表立ってはその様になっています。ですからこのままですとマスターは、ドラゴンスレイヤーとして、名を馳せる事になるでしょう。》
「うわぁ~。やっぱり嫌だなぁ、どうにかならんかなぁ?」
《そこでです。いっそ、パーティ名を【スレイヤーズ】等の大層な名前にしてしまえば、一人だけ浮く事は無くなると思います》
「「「おお!」」」
皆が一斉に納得の声を上げる。しかし、……しかしだ。確かスレイヤーズって、殺戮者達って意味じゃね? まぁ、こっちで意味が同じかどうかは分からんけど。何にしても俺の名前が無いのが良い。そう言えば昔、そんな名前のラノベやアニメが…。
「ところで、スレイヤーズってどういう意味じゃ?」
《殺戮者達です》
──あ! 言っちゃった。
「ちょっと、物騒じゃの。因みにデストロイは?」
《破壊し尽くすと言う意味です》
「あ、あぁ、そうか。確かにあのモードはそう言うモノじゃな」
セリスが引くつきながらも、納得していた。
「あの、討伐者と言うのはどうですか?」
キャロルが、物騒な名を和らげようと、提案してくるが。
《それは、全ての冒険者に当てはまるので意味がないでしょう》
「確かに、それではノート君だけが突出して強いイメージになっちゃうわね。私達の不名誉な二つ名も消せるような名前は、インパクトが必要だもの」
シェリーがここで本音をぶっちゃける。思わずジト目で彼女を見つめてしまった俺は悪くない!
「何かしら? 何か、私に言いたいことが?」
悪びれもせず冷たい笑顔で、にじり寄るシェリー。
「い、いえ! 何でもないです! よし! スレイヤーズ! それで行こう!」
こうして俺達のパーティ名は【スレイヤーズ】に決定し、その場で申請も終わった。
「よし、これでこの村での用事は終わりって事で良いよね。既に日程がずれてるんで、何も無ければ食料だけ調達して出発したいんだけど」
「そうじゃな。ここでの狩りは、もう無さそうじゃしの。儂は異議なし」
セリスは、そう言って露店に視線を持っていく。
「あの、ノートさん。彼女の事は良いんですか?」
「ん? 彼女?」
「エリーさんです。明らかに間諜ですよね」
キャロルが教会のエリーの事を聞いて来る。しかし現状彼女に全く動きはない。マーカーを付けてから、偶に確認していたが俺達に近づくことは一切なかった。
なによりマーカーの色だ。彼女のマーカーはずっと、青の中立なのだ。…これでは用心する意味がない。
「ん~、だからこっちから何もできないってのが現状だね。何か変われば分かるし、今はシスも居る。コイツが常にその辺はサーチしているから今は保留だな」
「そうですか。ノートさんがそう言うなら、私は何も言いません」
「キャロ。…大丈夫よ。シスさんは彼らをも凌ぐ性能なんだから」
キャロにシェリーがフォローを入れてくれる。
《あの、シェリー。私の事はシスと呼び捨てで構いません。私も皆をそう呼びますので》
「え?! あ、そ、そう。分かったわ。宜しくシス」
突然、不可視化状態のシスからそう言われ、一瞬驚いたシェリーが俺の方を向いて返事をしてきた。
「あぁ、そう言えばシスのボディ創らないとな。その辺の素材も探しに行こうか」
──俺の言葉に皆が頷いたのを確認して、村を散策しに出かけた。
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