表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第3章 深謀短慮、豈図らんや。
74/266

第12話 記録の記憶



「…に、にじゅ…へ?」

《二十年です》


 何言ってんだコイツ…俺の記憶が二十年も消えてる? いやいや、そんな事ある訳ないじゃん!


《…マスター。高校三年生頃から、卒業式や成人式、大学や就職試験などを覚えていますか》


「──…え? あれ? 覚えてない…と言うか知らない…なんで?」


「ノートさん…」

「…二十年だなんて…」

 キャロルとシェリーが絶句する。


「どういう事だ? 此処に居たのは十二年程度のはず…」


 エギルが疑問を口にする。他の神は黙ったままで俺をずっと見ている。


 ……なぜ? どうして俺は覚えていないんだ。不安が急に押し寄せる。


《ご安心ください。全てはセーブデータが()()します。今、ここでは閲覧する事が出来ませんが、現世に戻れば可能です》


 いや聞きたいのはそこじゃない。そんな事じゃない──。


「…どういう意味だ?」


《ここでは私の()()()が確立しません。スタンドアローン状態では、アカシックレコードを、開示できません》


「…違う!! エギルに聞いたんだ! 何だその十二年っていうのは?!」


 不安が疑念と共に膨れ上がる。…嫌だ…まさか、どうして?!


 エギルがしまったと言う表情を見せ、皆が沈黙する中シスがさも当然

と言わんばかりに、俺に答えを突き付ける。


《マスターが、このイリステリアに、前回召喚されていた期間の事です。

高校三年生の時に召喚され、十二年掛けてこの世界を巡って、邪神アナディエルとその配下達を討伐しました…結果は、()()()な物でしたが》


「…不本意?」


《…はい。邪神たちは最後の足掻きに、次元の扉を開きました。その扉にマスターを巻き込み、自分たちは時間遡行を図ったのです。遡行は失敗し、彼らは次元の歪みに捕らわれ、塵となりましたが。マスターは自身の()()()()()()とし、()()()()()の地球へと帰還を果たしたのです》



「………ちょ、ちょっと待て」



 それだけ何とか言葉に出来た。……頭が全く追いつかない。え? 俺が勇者だったって?


 俺が世界を救ったって? いやいやいや。ハハハハ…何の冗談だよ。


 俺は()()()()だぞ? そうだ!


「俺は()()()()なんて名前じゃないぞ」


《…その後の八年間、マスターはどう()()()()か想像出来ますか?》

「…え? 想像って?」


《自我も、記憶も持たない人間が、西暦二千xx年の地球の日本で発見されるのです。発見者は、山に山菜取りに来ていた、老夫婦でした…》


 ──そこから八年の空白を、シスは説明し始めた。


 発見者は最初、死体を見つけたと思ったらしい。そこですぐに警察を呼んだ。駆け付けた警官は、俺が息をして気絶しているだけなのに気付くと、遭難事案に切り替え、保護され救急搬送された。


 発見された山の所在は某県の太田市。時間はお昼時だった。


 病院で目覚めた俺は、言語障害を起こしていた。厳密には喋れなかった。その為記憶の確認もできず、勿論知り合いなど分からない。


 結果、病院をたらい回しにされ、約三年間、赤子の様なまま過ごした。


 その際の仮名が【太田(市で発見)(時刻)零士】だった。


 そうして最後に辿り着いたのが、とある警察病院だった。そこで俺は人としての再訓練を受けた。何故その記憶がないのか。そこもシスは知っている。だがそれは今言えないと言う。


 とにかくそこで五年間、地球で従順な日本人として、再教育を施されて就職したらしい。


 ──…俺の記憶が鮮明なのは、その後からだそうだ。


《これが、マスターの記録としての記憶です。アカシックレコードにリンクできれば全てが記憶として、再構築されるでしょう》


 シスはそう言って締めくくった。


 ──これが世界イリステリアを救った勇者の後日談…救いようのない現実。



 ──…はは。何だそれ、結局は只死ななかっただけだ。



 異界の神に頼まれて世界を救ったのに…全てを掛けて戦って、最後の最後でそんなオチかよ。



「…はは、そう、か。……それが真実なんだな…相馬健二…それが俺の本当の名か…なぁ神様、あんた達はこの事知ってたの? 俺が相馬健二だって判ってて、あんな長ったらしい小芝居うってまで俺をこの世界に送ったの?」


 なぜか突然エリオスが眼前に来る。


「…全てではないがな。我らに地球の事は見る事が出来なかったか──」


 ”ドゴンッ!”


「…グクッ…怒りは、視野を狭くする…おちつくのー」


 ”バキャァァァア!”

「ヘブァア!」


 おそらく、こうなると思って彼は自身を俺に差し出したのだろう。


 俺自身も、頭が真っ白になっていた。怒りと慟哭、激情が胸を焦がすほど燃え盛り、何も考えられなかった。全身が総毛立ち衝動のままに彼をブチのめした。



「ぐぅぅぅううををおおおああああああ!!!!」



 絶望と虚無感…慟哭の後に来たのはそれだった。


 人生の半分を無駄にした。それは、本来起こらなかった事のはず。


 後悔と痛惜(つうせき)…涙が溢れてとまらなかった。


 なんだよ! なんでだよ! どうして俺なんだよ?! 一体俺が何をしたってんだよ! 俺は一体何なんだよ! 誰なんだよ! 太田零士じゃない?! 相馬健二なんて知らねぇよ! 頭の中がぐちゃぐちゃになって行く。…全部が嘘だったように思えて来て、自分の生きた意味すらも分からなくなる。…五十年だぞ! 五十年も無駄にしたって事なのか!?



 ──…声にならず、言葉に出来ず…唯々泣き喚いて叫んだ。


 

 感情が収まらず、どうして良いかも解らなくなりかけた時、ふと背中に誰かが触れる…反射的に払い除けようとして、留まった。


「ノートさん…これからを()()()()()()。私とシェリーはずっと()()()()()から」

「…誓った言葉に()()()()わ…私達はずっと一緒に居る…だから…もう()()()()()で」


 いつの間にか傍に来ていたキャロルとシェリーが、二人で俺を抱きしめてくれる。


 熱を感じる事はない。ここは精神だけの世界。でも彼女達の顔を見た瞬間に想いは充分伝わって来た。二人も涙で顔がグシャグシャになっている。


 ──…そうか、前回の俺は仲間はいたが、恋人は作らなかった。この世界に生き続ける気が無かったから。あくまでここは()()()だった。


 

「──…ありがとう…おかげで落ち着いたよ。二人共、大好きだよ。」

「「はい、私達も大好きです」」


 二人から一旦離れ、シスを見やる。


「シス。俺が気絶した時に見た明晰夢。あれはお前だな。なぜ、あのタイミングだったんだ?」


《…あの時見せた情報は、マスターの意識に反応したからです。記憶の内容は覚えていらっしゃいますか?》


「…あぁ、もちろんだ」

《では、その直前に考えた事も?》


 あぁ…コイツは()()()()に反応したのか。あの時考えた事…神様の()()()だ。


 俺が()()()な人生を送ったのに…それを忘れた原因を作った彼らに……。


「…お前、健二が()()()だったんだな。それで許せなかったのか」

《な、何を言うんですかマスター。健二とはあなた自身では有りませんか。それに私に()()は有りません》


「あぁ。確かに()()なんだろう…だけど()()()()でも、()()()でもあるんだよ、今はさ」



《…そうですか》



「あぁ。…そうだ、戻ったらお前のボディ創らないとな」

《…では、あのファン〇ルタイプをお願いします》

「へ? 球体型ゴーレムでいいの?」

《はい》


「…あ…あの、ノートさん…」


 ふと、声を掛けられて気付くと神様たちがじっとこちらを見ていた。エリオスは、ぶっ倒れたままだった。


「あぁ。色んな事が起きたんで、忘れてた…どうやら、()()()が全ての()()なんですよね」


 俺はシスを指しながら、神様たちに話しかける。

 

「あ、あぁ、恐らくは()()が【特異点】だ。だがそれは、只の結果だ。()()()()()()()とも言える」


 エギルが真摯に答えて来る。


「お主にはただただ、辛い人生を()()()()()()()。そのうえ、騙すような形で送ってしまった。弁解の余地はない。儂があ奴を討伐して居れば、お主を()()()()()()もなかったのだから」


 グスノフが、心底申し訳ないと言った顔で言ってくる。


「…ノートよ、我等は等しく世界の子らを()()()()()()()()。儂はその時、この世界にはまだ顕現していなかった。だが皆の思いは解るのだ。エリオスもそうだ。コイツは不器用だから、お前の()()()()()()()()()で我等を護ってくれた。そこを()()してやって欲しい」


 ノードが、エリオスを支えて言ってくる。


「ノート君…私は何も言わないわ。アナタの()()()()()も…全ては私達が押し付けた()()だもの」

「いいえ! 違います! 全ては私一人の責任です! 健二…いえノートさん! 彼らに非は有りません! だから! 私を…()()()()()()()下さい!」


 泣きはらし、乱れた髪をそのままに、管理者イリスは俺に懇願する。


 ──…()()は自分の責任だと。罰は自分が受け入れると…。

 

「…イリス様。やっぱり、貴女は優しいお方です。今すぐ全てを許す。なんて俺には無理です。でもね、それは貴女やここに居る神にじゃないです」


 俺の宣言に、その場にいる皆がきょとんとする。


「…まずは、実害を寄こした邪神とその配下…残ってるんでしょ? ()()の残滓かなにかが」


 それを聞いた神が目を剝く。


「…そして。一番の()()()()()()()()! ですよ。忘れたんですかイリス様。アレに貰った本で俺を呼んだんでしょ? ()()()()()にも顔出して無さそうだし」


「…あ…あなた、それを覚えているんですか?」

「ん? あぁ、その部分は情報開示でね。イリス様の可愛い、おねがい顔思い出しましたよ」


 ”ポン!” 

 ”キュー” 

「きゃぁあイリス様ぁああ!」


 俺の言葉に、イリス様の顔が沸騰し昏倒する。周りの女神やキャロ達が慌てて抱き留める。




 ──…とりあえず今は、このくらいのお返しにしとこうかな。





最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、


ブックマークなどしていただければ喜びます!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!


ランキングタグを設定しています。

良かったらポチって下さい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ