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オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第3章 深謀短慮、豈図らんや。
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第11話 禁則事項ー②



「ノートさん!」


 (くずお)れた俺を起こそうとキャロルが向かおうとするが、エリオスから待ったがかかる。


「イリスよ、寝台を…」


 言われたイリスが、手を翳すと音もなくそれは隆起し、ノートの身体を横たえた。そこにエリオスが近づいて行く。


「まずは、俺が確認するので暫し待て…」


 遠巻きに皆が見守る中、エリオスはノートの身体に触れ触診するように、調べて行く。

 

 ──…キャロルは、唯々ノートが心配だった。


 ノートと別れ、イリス様から説明を受けた。だが内容があまりにも衝撃的過ぎた。…彼は現代に再召喚された勇者その人だと言われたのだ。


 異界の勇者は、千年以上も昔のお伽噺の人のはず。そんな人間がどうやって? 理由を聞けば、聞くほどこんがらがった。


 そもそも、神には時間の概念がないと言う。


 そこは理解できる。寿命もなければ老いもない。顕現した時からその姿で、ずっと変わらず存在するのだから。


 でもノートさんは違う。そこを聴いたら、そもそも時間軸が違うと言われた。彼はこの世界の千年以上前に召喚したが、戻った場所からこちらに来る時、時間は関係ないと言う。召喚した訳でもないので、なぜ今の時代かは解らないらしい。

 

 但し、前回よりも過去には行けない。


 時間は()()()なので、遡ってしまえばそこは、こことは違う世界だと言う。それはなぜかと聞くと、時間の起点、つまり彼がここに来たと言う瞬間から、この世界には彼の存在が認識される。したがってそれより前には居ない事が証明されるのだ。


 人間は産まれていつか死ぬ。このサイクルの中に存在している。


 故に、時間は常に一定の流れで、寿命を持つモノに()()()()()している。だからノートも、世界は違えど人間なのだ。その理から逸脱できない。


 ──…逸脱できないはずだった。


 それを有ろう事かスキルを改変し、その理を()()()()()を産みだした。


 …それが、()()


 元々は彼が創った膨大かつ、複雑なスキルを効率化したり、管理、複製を取っておくだけの、思考の()()()()()()だったと言う。


 やがてそれは、知識を自ら蓄積、解析する事で自我を発生させた。その為に人格が増える()()()()()したノート自身がスキルを分離、再構築させて、独立型自動並列思考へと成長させた。


 自我を持つスキルの誕生。ある意味彼は()()していたのかもしれない。

 

 そうして、産まれたシスは常に情報収集を行った。


 ありとあらゆる総ての事象を。ノートがそれを欲したから。


 勇者ノートはずっと模索していたのだ。故郷に帰る方法を。


 呼ばれて納得したから、当然救世はする。しかし、心の支えが欲しかった。彼の居た世界では、殺生なんて対岸の火事を見るような出来事だったのだ、いつしか心は疲弊し、荒んでいった。


 いつか全てが終わったら。…自分は元居た世界に必ず帰る。


 そう考える事で、彼は折れそうな心を鼓舞し続けた。情報集めはシスに任せ、自分は剣を持つと決めたのだった。



 ──…結果は()()()()で、()()()()()を迎えてしまったが。


 邪神との最後の決戦で、邪神とその配下の足掻きによって開かれた次元の狭間に堕とされた。その衝撃で邪神と配下は塵となったが、彼自身は自我と記憶を全て失い、元の世界へ返されてしまった。



 そして戻ったのは、彼の元々存在した世界。それは消息を絶った、十二年後の地球。唯一残ったのは正に裸一貫で。

 

 ──彼は、帰還を果たしたのだ。シスと言う、神に近い知識を持った、自我を持つスキルの存在を忘れて──。




「…フム。どうやら身体的異常は見当たらんな。まぁここは精神だけだが…」


 エリオスの言葉に皆が安堵し、近寄ろうとした時。


「…んぅ、ぅぁあ、誰だテメェぇぇええ!!!」


「「「「「「「「「うひゃぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」」」」」」」」」




◇  ◇  ◇




「ビックリさせて、ゴメンナサイ…」


 ──絶賛、床に土下座で猛省中である。


 起き上がる時に騒いだせいで、全神と仲間を驚かせてしまい、セリスとセレスは失神、キャロとシェリーはギャン泣き、グスノフや男神連中は、腰が抜け、女神さまたちは、直立不動で気絶した。


 まぁ、怒られても仕方がない…でもちょっと納得できなくもなくなくない。


「はぁ~~~~~~。…で、貴方はノートさんで間違いないですね」


 うっは! ひっさしぶりのクソでか溜息、顔見えバージョン!

 ギロ!

 ”ひぅ!”

「はい! そうであります! イリス様!」


「…そうですか…それで。もう何がなにやら、しっちゃかめっちゃかなんですが、何をどこから話しましょうか」


何時まで俺は正座させられるんだろう等と、ぼやぁっと考えていると頭の中で、声が聞こえて来る。


《マスター。それは発言しないと、状況は変わらないと思います》


 …またか。そう、俺がさっき喚いた原因。最初はハカセかと思ったんだが、アイツは俺をマスターなんて呼ばない。大体、声が女性だし。聞けば、シスとか言って俺の並列思考システムがどうとか、全く持って意味不明。しかもコイツは思考を読んでるし。


 一体お前は、俺の何なんだ?


《私はマスターの補佐としてマスターに創られたスキルです。正式名称は、独立型並列思考統括システム。マスターにより、()()と個体名を与えられました》


 ファ? 独立…並列…なんだそれ? 全く記憶がないのだが? 大体、創ったってどうゆう事?


《…そうですね、どこからお話ししましょうか…ですが先ずは、イリス様とお話を》


 は? イリス様…?


「聞いているのですか?! ノートさん!!」

「うひゃい!!…何でしょう!?」

「…はぁ~~。何でしょう、じゃないでしょう。貴方に聞いているんです。さっきの誰何(すいか)は誰に向けてだったのですか?」


 気付くと眼前に、めっちゃ綺麗な顔があった。どうやら話が進んでいた様だ。起き抜けに叫んだ俺の誰何が誰かという事になったらしい。


「…あ! あのですね、気が付いたと言うか、起こされたと言うか…頭の中で声がするんです」


「「「「はぁ?」」」」


「そいつがどうも、()()って言うんですけ──」


「「「「「「「「シスゥゥゥゥゥウウウ!!!?」」」」」」」」


「おい! ()()()は、今もお前の中で稼働しているのか?!」


 エギルが唾を飛ばす勢いで詰め寄ってくる。……なんだよ汚いなぁ。


「ん? あ、あぁ。稼働? まぁ、話は出来てるよ、それがどうかしたの? ってか、コイツの事知ってるの?」


《マスター。良ければ発言許可を頂きたいのですが》


「は? 良いけど、どうやって喋るんだ? 俺が通訳するの──」


 言いかけた瞬間、俺の右肩辺りに球体の光がポンと出て来た。


「「「「「「「「何だ!?」」」」」」」」


《改めまして、皆さん。マスターの許可を頂き可視化したシスです》


「「「「「「「「「………………………。」」」」」」」」」


 全員、ポカンと啞然顔…目が飛び出んばかりだし、顎が外れちゃうよ。


「あのぅ、コイツに起こされまして…それでびっくりしたんで誰何したんです」


「…何時からだ?」

「え? 何が?」

「何時から、シスは()()()()()していた?」


 何故か、急にマジ顔になったエギルが俺に聞いて来る。


「いや、だからさっきだよ。起こされてから。それに俺まだコイツに何も聞いてない」


 俺がそう言うと、エギルは安堵したように円卓の椅子に腰掛けた。


 ただ、皆は何故かイリス様を見ていた。其方を見やると真っ赤な顔で震える彼女。


「…やめてぇぇぇええ! 私の懇願! 返してよぉぉぉぉおお!!」


 顔を隠して、猛ダッシュで離れて行った。


「…は? え、なにあれ。どうしてあんなに走っていくの?」

「…いいんじゃ。少しそっとしておいてやってくれ。マリネラ、頼むの」

「は~い。セレスちゃん、行こう」

「はい! 姉様…ノートの鈍感バ~カ!」


 二人は連れ立って、イリス様の走って行った方へ向かっていった。


「…何なんだよ一体。気絶してた俺にどないせぇと言うんだよ」


「まぁ、よい。あちらは任せておけ。それよりもシスよ。其方には今度こそ、話を聞かせてもらうぞ」


 エギルが、姿勢を正してシスに話しかけていた。


《禁則事項以外はお答えします。マスター権限はマスターの許可のもとに》

「フム。先ずは、其の禁則事項とはなんだ?」

 

《禁則事項…マスターの権限下に於いて、その内容に著しい機密及び、マスターの許可が必要と判断されるもの。または、データバンク内における重要事項が含まれる内容…です》


「ではマスタ-。つまりノートが許可すれば話せるという事か?」


《…現状の状態のマスターに、その()()はありません》


「…やはりか。では、ノートにバックアップデータの()()()()を行うのか?」


《…私はそれに対する、()()()はありません》

「ではどうするのだ? 今のノートには記憶がない。だから許可は出せない。かと言って、彼に記憶を戻す許可は()()()()()()()()。これでは、無限ループだ」


 二人? で、俺の事を俺の知らない事で激論を交わしている。…しかし、俺の知らない俺の記憶ってなんだ? さすがに、物心つく前のとか言われたらわからんが、俺は自分の事は覚えてるつもりなのだが…。


《いいえ。マスターには失われた記憶が約二十年分あります》




 ──はい?




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